1. 歌詞の概要
「Out of Sight」は、ニュージーランド出身のインディーロック・バンド The Beths（ザ・ベス）が2020年にリリースしたセカンドアルバム『Jump Rope Gazers』に収録された、親密さと不安、そして無償の愛について静かに語りかけるような楽曲である。
この曲の中心にあるのは、「距離」と「愛情」という一見矛盾するテーマの共存だ。誰かが自分から離れていくことが避けられないとき、それでもなお「私はあなたの味方でいる」という意思を、強くも優しく伝えている。「Out of Sight（見えない場所にいても）」というタイトルは、文字通り物理的な距離を表すと同時に、感情的な隔たりにもかかっている。
つまりこれは、愛している相手のそばにいられない苦しさと、それでも“存在を肯定し続けたい”という切なる願いを、ポップなメロディに乗せて繊細に描いた、現代の祈りのようなラブソングなのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Bethsの中心人物であるElizabeth Stokesは、歌詞の中で「不器用な愛」や「自信のなさ」といった感情を隠さず描くことで知られている。「Out of Sight」は、バンドの多忙なツアー生活の中で築かれた人間関係や、長距離恋愛の現実に直面しながら生まれた楽曲である。
この曲には、日々の暮らしや物理的な制約によってすれ違ってしまう感情の機微が織り込まれており、リモートな関係における“思いやりの在り方”を静かに問いかけている。離れていても、言葉を交わさなくても、それでもなお「私はここにいるよ」と伝えたい。そういった純粋で普遍的な気持ちが、丁寧に音楽として紡がれている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Even if I’d seen it coming
たとえこの未来が見えていたとしてもI would never have believed it
それを信じられただろうかI would choose you every time
それでも私は、いつだってあなたを選ぶEven when you’re out of sight
あなたが見えない場所にいてもI will always be your cheerleader
私はずっと、あなたの応援団でいるから
歌詞引用元：Genius Lyrics – Out of Sight
4. 歌詞の考察
この曲が響かせているのは、「そばにいる」ことと「愛する」ことの間には、実は距離が存在してもなお成立する何かがあるという認識である。たとえ物理的には離れていても、あるいは心のタイミングが噛み合わなくても、「あなたの味方であり続けたい」という気持ちは確かにそこにある。
“Even when you’re out of sight, I will always be your cheerleader（あなたが見えなくても、私はいつだってあなたの味方）”という一節には、強い信頼と優しさが込められている。これは依存ではなく、自立した愛のかたち。相手を変えようとするのではなく、ただ「見守る」という選択を肯定している。
また、Stokesのボーカルは終始穏やかでありながらも、言葉のひとつひとつに微細な揺れと確信が宿っている。その感情のグラデーションが、リスナーの心にじんわりと染み込んでいくのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Need You Now by Cut Copy
遠くにいる誰かを思う切なさを、ダンサブルなビートに乗せたエレクトロポップの名曲。 - Clementine by Sarah Jaffe
“私を変えようとしないで”というメッセージと、静かな決意を描いたバラード。 - Grow by Frances
誰かの成長を遠くから願う心を、透き通るようなピアノと声で描く美しいラブソング。 - Mystery of Love by Sufjan Stevens
過ぎ去った恋と永遠に残る想いの矛盾を、美しく詩的に描いた珠玉のバラード。
6. “離れていても、あなたの応援団でいたい”
「Out of Sight」は、恋愛関係における「一緒にいられないこと」そのものを否定せずに描いた、極めて成熟したラブソングである。世の中には、“そばにいないこと＝愛していない”と誤解される瞬間が多い。だがこの曲は、そうではないのだと、やさしく語りかけてくれる。
The Bethsの音楽は、複雑な感情を無理に簡単にしようとはしない。むしろその複雑さを抱きしめながら、笑ったり泣いたりして前に進んでいくことを肯定している。「Out of Sight」もまた、そんな彼らの哲学が息づいた楽曲であり、誰かを遠くから思うすべての人に寄り添う静かな応援歌なのだ。
愛とは、そばにいることだけではない。思い出すこと。信じ続けること。そして、何も言わなくても「私はここにいるよ」と送り続ける眼差し。それこそが、見えない場所から響く本当の愛のかたちなのかもしれない。
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