
発売日: 2020年12月17日
ジャンル: ライブアルバム、インディーロック、パワーポップ、ライブパフォーマンス
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概要
『Live at Auckland Town Hall』は、The Bethsが地元ニュージーランド・オークランドの歴史的ホールで行ったライブを収録した、初のライブ・アルバムであり、スタジオ録音とは異なる“生のBeths”を堪能できる作品である。
このライブは2020年11月、パンデミックにより多くの国でライブが不可能となっていた中で、比較的早期に制限が緩和されたニュージーランドで実現された。その特異なタイミングもあって、ステージ上の喜びや観客の熱気、そして演奏の一体感が非常に濃密に収録されている。
演奏楽曲は主に『Future Me Hates Me』と『Jump Rope Gazers』からセレクトされており、ベスらしいエネルギッシュで誠実なステージがそのまま詰め込まれたライブドキュメントとなっている。
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セットリストと聴きどころ
1. I’m Not Getting Excited
最新アルバムの冒頭曲として披露。ギターのアタック感とリズム隊のグルーヴが生で聴くとさらに躍動し、冒頭から一気に会場を巻き込む。
2. Great No One
コーラスの重なりがより厚みを持ち、ライブならではの立体感が際立つ一曲。バンドのコンビネーションが光る。
3. Whatever
軽快なコード感と裏腹なリリックが、観客のシンガロングを呼ぶ。ライブで聴くと、より皮肉と共感が増すのが面白い。
4. Future Me Hates Me
言わずと知れた代表曲。サビの“Future me hates me for loving you”が会場全体の大合唱となる、感情のピークポイント。
5. Jump Rope Gazers
しっとりと始まり、後半にかけてドラマチックに展開していく構成が美しい。Elizabethのヴォーカルがライブではより柔らかく、説得力を増している。
6. Dying to Believe
アップテンポなナンバーで、一気にテンションを引き上げる。ギターの掛け合いが見事で、ライブバンドとしての地力を実感させる。
7. Out of Sight
明るい曲調に込められた切なさが、ライブ会場での空気と見事に合致。観客の手拍子が自然に加わる。
8. Uptown Girl
初期のキラーチューン。コーラスワークとブレイク部分がライブならではの緊張感を生む。
9. You Wouldn’t Like Me
語り口調のようなリリックと、疾走感ある演奏の対比がライブではより露わに。エリザベスの語尾の“抜き方”が絶妙。
10. Little Death
恋と不安が交錯するダークなポップ。重めのリズムセクションがライブならではの深みを与える。
11. Not Getting Excited(リプライズ)
アンコールに近い位置で再演されることもある。セットリストの流れがよく練られており、観客の高揚感がそのまま反映されている。
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総評
『Live at Auckland Town Hall』は、The Bethsがいかに“ライブ・バンド”であるかを証明するアルバムであり、スタジオ作とはまた違った魅力を放っている。
とくに注目すべきは、Elizabeth Stokesのボーカルの表現力。音源ではやや控えめに聴こえるその声が、ライブでは確かな存在感とエモーションを伴って響く。ギターの切れ味、リズム隊の躍動、そしてコーラスのハーモニーすべてが“今、ここ”の音として鮮明に浮かび上がる。
また、観客の歓声や拍手といったライブの臨場感が、アルバム全体に温かみを与えており、“音楽がその場で生まれ、共有されることの尊さ”をあらためて実感させてくれる作品でもある。
パンデミックという文脈の中での“奇跡的なライブ”という意味合いも相まって、本作はThe Bethsのディスコグラフィの中でも特別な一枚と言える。
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おすすめアルバム(5枚)
- Alvvays『Live at Electric Lady』
ギターポップの瑞々しさとライブの熱量が融合。 - Snail Mail『Valentine Demos』
スタジオ作品とは違った生々しい表現の魅力が共通。 - Phoebe Bridgers『Punisher (Copycat Killer EP)』
感情の密度と静けさのダイナミクスにおけるライブ的な質感。 - Courtney Barnett『MTV Unplugged (Live in Melbourne)』
シンプルなアレンジと声の強さが活きる好例。 - CHVRCHES『Hansa Session EP』
スタジオ録音曲のリアレンジが光る、ライブ的緊張感のある作品。
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ライブ音源としての意義
このアルバムが特に印象深いのは、“録音された音”ではなく、“その場にいた音”として成立している点にある。
The Bethsの音楽は、録音環境でも美しく整っているが、ライブになるとそれが“揺れ”や“ズレ”を含みながらも、より人間的な温度を持つようになる。
“完璧じゃないからこそ伝わる音楽の体温”。それを聴くことができる本作は、ライブに飢えていた世界中の音楽ファンにとって、ひとときの救いと祝祭だったのかもしれない。
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