アルバムレビュー：Meet The Smithereens! by The Smithereens

アルバムレビュー

2025.05.10

発売日: 2007年1月16日
ジャンル: パワーポップ、ロックンロール、カバーアルバム

『Meet The Smithereens!』は、The Smithereensが2007年に発表したビートルズ・トリビュートアルバムであり、
1964年のThe Beatlesのアルバム『Meet the Beatles!』を全曲カバーした企画作である。
タイトルとジャケットはもちろん、内容も構成も元ネタを忠実に踏襲しながら、
The Smithereensらしいエッジと男気、そしてローファイなロックンロール感を加えた、愛に満ちたオマージュとなっている。

この作品は単なる“名盤の再現”ではない。
1980年代から“アメリカにおけるポスト・ビートルズの正統”を体現してきたThe Smithereensにとって、
原点であり、宿命でもあるビートルズへのラブレターであり、
同時に、パット・ディニツィオの音楽的精神性を明快に可視化した記録でもある。

当時、パットはすでに声に衰えを見せ始めていたが、
その“声のかすれ”がむしろ、ビートルズ楽曲の“永遠の若さ”との対比として機能しており、
ノスタルジーとリアルタイムの間に架け橋をかけるような演奏になっている。

全曲レビュー
総評
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全曲レビュー

1. I Want to Hold Your Hand
ビートルズ最大級のヒット曲を、ラフで骨太なギターと共にカバー。
ややテンポを抑え、ロックンロール的グルーヴを強調。若さの焦燥というより、中年の誠実な熱量がにじむ。

2. I Saw Her Standing There
オリジナルの疾走感をそのままに、よりガレージ寄りのアレンジ。
エネルギッシュなリフとドラムが、Smithereensらしい“地に足のついたロックンロール”に昇華。

3. This Boy
ハーモニーの美しさが際立つ一曲。
パットの声のかすれがかえってリアリティを生み、失恋の甘さより苦さが強調される。

4. It Won’t Be Long
突き抜けるようなコーラスとキレのあるギターが融合した、アルバム中でも屈指の完成度。
ビートルズ版よりもロック的で、ギター・バンドとしての立場が明確に表れている。

5. All I’ve Got to Do
スロウなナンバーをあえてスイートに寄せず、ブルージーに再構築。
Smithereensの“恋愛に対する成熟した視点”が滲み出る。

6. All My Loving
ビートルズ流のカントリーポップを、ハードエッジなアレンジに。
軽やかな原曲が、ここでは深みのあるパワーポップへと変貌。

7. Don’t Bother Me
ジョージ・ハリスン初期作の孤独感をしっかり受け止めた秀逸なカバー。
Smithereensの持つ“内向的ロックンロール”との親和性が高い。

8. Little Child
陽気さと皮肉の間を行き来するロックンロール・ナンバー。
ヴォーカルにやや余裕を持たせることで、大人の遊び心が表現されている。

9. Till There Was You
カバー曲をさらにカバーするメタな選曲。
ここではビートルズのジャジーさではなく、もっとシンプルな“憧れ”が感じられる。

10. Hold Me Tight
粗さを前面に出したローファイな演奏が光る。
この曲のポテンシャルを再発見させるような、見事なアレンジの一曲。

11. I Wanna Be Your Man
ガレージ・パンクの原型的楽曲として仕上げた力作。
The Rolling Stones版とビートルズ版の間を行くような、エネルギー重視の演奏。

12. Not a Second Time
哀しみと知性が交錯するこの佳曲を、Smithereens流にしっとりと演奏。
静かな余韻を残しながら、アルバム全体の締め括りとして見事に機能。

総評

『Meet The Smithereens!』は、単なる“再現アルバム”ではなく、
「ビートルズという文化的原点」と「Smithereensという実直なアメリカン・ロックバンド」が交差する交響点として成立している。
ビートルズの楽曲に対する深い理解とリスペクト、
そして自分たちの色を薄く塗り重ねる誠実なスタンスが、本作の魅力の核である。

90年代以降、The Smithereensは大きなヒットには恵まれなかったが、
このアルバムによって彼らが**“ルーツとともに生きるバンド”であること**をあらためて証明した。
これは、音楽が時代や世代を越えて生き続けることの証明であり、
リスナーにとっても“ロックンロールとの再会”を感じさせる一枚である。