アルバムレビュー:Interpol by Interpol

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発売日: 2010年9月7日
ジャンル: ポストパンク・リバイバル、オルタナティヴ・ロック、ダーク・ウェイヴ


重力の中で鳴る決別の余韻——黒く沈んだ都市の肖像としてのセルフタイトル作

Interpol』は、ニューヨークのポストパンク・リバイバルを代表するバンドInterpolによる4作目のスタジオ・アルバムであり、
バンドの名をそのまま冠したセルフタイトル作である。

しかし、そのタイトルが象徴するような“核心的な作品”というよりも、
むしろこのアルバムは過渡期の音楽である。

というのも、リリース直前にベーシストであり象徴的存在でもあったカルロス・デンゲラー(Carlos D.)が脱退。
彼の退廃的な美意識と冷酷なグルーヴは、バンドの音楽に不可欠な要素であり、
本作はその“別れ”と“空洞”をそのまま記録したような、不在と喪失の音像を持っている。

サウンドは過去作よりも内向的で、暗く、密室的。
Turn on the Bright Lights』や『Antics』にあった高揚感や攻撃性は抑制され、
代わりに不穏な静けさ、張り詰めた空気、崩壊寸前のバランスが支配している。


全曲レビュー

1. Success
タイトルの皮肉とは裏腹に、低音と抑制の効いたギターが不安定な導入を描く。
「成功」を語りながら、実際には何も手にしていないという虚無感が漂う。

2. Memory Serves
かすかに揺れるベースと、薄暗いコードが印象的なスロウ・チューン。
記憶と忘却の間で、アイデンティティが溶けていくような錯覚を呼ぶ。

3. Summer Well
唯一やや明るい質感を持つナンバー。
だがそのポップさの裏には、やはり消えゆく時間と喪失の気配が潜む。

4. Lights
シングル曲。ミニマルな構成から徐々にビルドアップしていく構成は、
まるで都市の夜景が滲んでいくような幻惑的な美しさを湛える。

5. Barricade
本作中では比較的アップテンポ。
タイトルが示す通り、“自分と他者のあいだにある障壁”を強く意識したリリックが中心。

6. Always Malaise (The Man I Am)
ループするベースラインと悲しげなメロディ。
「常なる倦怠」と題されたこの曲は、まさに自己否定と無気力のドキュメント。

7. Safe Without
カール・バロンのヴォーカルが最も切実に響くトラック。
“君がいなくても安全なんだ”と繰り返しながら、その裏にある未練が滲み出る。

8. Try It On
ソリッドなドラムと反復的なギター。
実験性のあるアレンジの中に、焦燥感と閉塞感が浮かび上がる。

9. All of the Ways
低く、深く、沈み込むようなミニマル・ポストロック。
空間と沈黙を最大限に使い、音の“間”が感情を語る一曲。

10. The Undoing
スペイン語のリリックが混ざる異色の終幕。
“解体”というタイトル通り、すべてが崩れていく中で、
微かな再生の兆しだけが余韻として残る。


総評

Interpol』は、喪失と崩壊の美学を描いたダークなセルフポートレートである。
そこにあるのは、全盛期の“再現”ではなく、“解体されつつあるバンドの姿”そのもの。

演奏は緊張感に満ちているが、決して激しさではなく、
あくまで“沈黙の重さ”や“心の空白”によって支えられている。

このアルバムが放つ空気は、不穏で、重く、そして奇妙に美しい。
それはまるで、薄暗い部屋の中で静かに鳴る“終わりの音楽”のようである。


おすすめアルバム

  • Turn on the Bright Lights / Interpol
    原点にしてポストパンク・リバイバルの金字塔。高揚感と不安が交錯する傑作。
  • Low / David Bowie
    断片と沈黙、再構築の美学。『Interpol』と通じる内向的構成が魅力。
  • Sea Change / Beck
    音数を抑えた失恋の記録。静けさの中に感情が濃密に漂う作品。
  • High Violet / The National
    モダン・ロックにおける倦怠と情熱の共存。Interpolの後継的作品とも言える。
  • Pornography / The Cure
    ポストパンクの極北。絶望と緊張感を極限まで高めたアルバムとして共鳴する。

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