
発売日:2014年9月8日
ジャンル:ポスト・パンク・リバイバル、インディー・ロック、オルタナティヴ・ロック、ニューウェイヴ、ダーク・ロック
概要
Interpolの5作目『El Pintor』は、バンドにとって再出発の意味を持つアルバムである。2002年のデビュー作『Turn On the Bright Lights』によって、Interpolは2000年代初頭のニューヨーク・インディー・ロックを代表する存在となった。The Strokesがロックンロールの軽快さと都市的な洒脱さを担ったのに対し、InterpolはJoy Division、The Chameleons、Echo & the Bunnymen、The Cureなどのポスト・パンク/ニューウェイヴの暗い美学を、21世紀のニューヨークの冷たい夜景へ移植したバンドだった。
初期Interpolの魅力は、緊張感のあるギターの絡み、冷たいベースライン、硬質なドラム、Paul Banksの低く乾いた声、抽象的で不穏な歌詞にあった。『Turn On the Bright Lights』では、都市の孤独、欲望、倦怠、失われた親密さが、モノクロームの映像のようなサウンドで描かれた。続く『Antics』では、より明確なフックと推進力を獲得し、Interpolはポスト・パンク・リバイバルの中心的バンドとして国際的な評価を確立した。
しかし、バンドの歩みは常に安定していたわけではない。2007年の『Our Love to Admire』ではメジャー移籍に伴うスケールアップを試み、2010年のセルフタイトル作『Interpol』では重く沈んだ音像と長い曲構成が目立った。そしてその制作後、ベーシストのCarlos Denglerが脱退する。Carlos DのベースはInterpolの音楽において非常に重要だった。彼のベースは単なる低音の支えではなく、曲の緊張感や冷たい推進力を作る主役の一つだった。そのため、彼の不在はバンドのサウンドに大きな影響を与える可能性があった。
『El Pintor』は、そのCarlos D脱退後に制作された最初のアルバムである。タイトルの『El Pintor』はスペイン語で「画家」を意味するが、同時に「Interpol」のアナグラムでもある。このタイトルは象徴的である。バンドは過去の自分たちを並べ替え、新しい形へ再構成しようとしている。さらに、Paul Banksが本作ではベースも担当しており、バンドは3人編成を核にしながら、Interpolらしい緊張感を再構築した。
本作は、前作『Interpol』の重く沈み込む雰囲気から一転し、よりタイトで、リズムが前に出た作品になっている。冒頭の「All the Rage Back Home」から、バンドは明確な推進力を取り戻している。Daniel Kesslerのギターは鋭く、Sam Fogarinoのドラムは引き締まり、Paul Banksのヴォーカルは以前よりも少し開かれた表情を見せる。Carlos D不在によって失われたものは確かにあるが、その代わりに本作には、バンドが自分たちの核をもう一度整理し直したような明快さがある。
音楽的には、『El Pintor』はInterpolの原点回帰でありながら、単なる初期作の焼き直しではない。『Turn On the Bright Lights』のような深い夜の冷気、『Antics』のような鋭いフック、『Our Love to Admire』以降のスケール感が、比較的コンパクトな形でまとめられている。曲の長さは抑えられ、構成も明快で、アルバム全体として聴きやすい。しかし、Interpol特有の陰影や不穏さは失われていない。
歌詞面では、Paul Banksらしい抽象的で断片的な表現が続いている。彼の歌詞は、明確な物語を語るというより、感情の断片、関係の緊張、都市的な孤独、欲望と距離感を詩的なフレーズで示す。『El Pintor』でも、愛、執着、喪失、自己防衛、罪悪感、逃避が繰り返し現れる。意味は完全には説明されないが、言葉の響きと声のトーンによって、冷たい感情の風景が作られる。
本作は、Interpolが2010年代において自分たちの存在意義を再確認したアルバムでもある。2000年代初頭のポスト・パンク・リバイバルはすでに一つの歴史となり、多くの同時代バンドが変化や失速を経験していた。その中でInterpolは、流行を追うのではなく、自分たちの美学をもう一度研ぎ澄ませる道を選んだ。『El Pintor』は、革新的な作品というより、バンドのアイデンティティを再定義する作品である。
日本のリスナーにとって『El Pintor』は、Interpolを初期2作だけで語らないために重要な一枚である。『Turn On the Bright Lights』や『Antics』の影響力は大きいが、本作にはバンドがメンバー脱退を乗り越え、より簡潔で力強いサウンドへ戻った姿が刻まれている。都市の夜、冷たいギター、抑制された感情、内側に燃えるような緊張感。Interpolの核はここでもしっかり生きている。
全曲レビュー
1. All the Rage Back Home
「All the Rage Back Home」は、『El Pintor』の幕開けを飾る楽曲であり、Interpolが再び推進力を取り戻したことを明確に示す曲である。静かな導入から始まり、やがてドラムとギターが加速していく構成は、バンドの緊張感を効果的に引き出している。
冒頭では、Paul Banksの声が比較的抑えられた形で登場する。そこには諦めや距離感があり、曲が進むにつれてバンド全体が熱を帯びていく。Daniel Kesslerのギターは、鋭く刻まれながらもメロディアスで、Interpolらしい冷たい輝きを持つ。Sam Fogarinoのドラムは非常に重要で、曲に焦燥感と疾走感を与えている。
歌詞では、帰る場所、怒り、関係の断絶、自己防衛のような感情が断片的に描かれる。「back home」という言葉は安心できる場所を連想させるが、ここではむしろ感情の衝突や未解決の問題が戻ってくる場所として響く。Interpolの楽曲では、親密な場所ほど安全ではない。
この曲は、アルバムのシングルとしても非常に有効である。Interpolの暗い美学を保ちながら、サビには強い開放感があり、初期作に通じる切れ味もある。「All the Rage Back Home」は、『El Pintor』が単なる沈んだ再出発ではなく、バンドの活力を回復した作品であることを示す重要曲である。
2. My Blue Supreme
「My Blue Supreme」は、Interpolらしいメランコリーと硬質なリズムが結びついた楽曲である。タイトルの「Blue」は、悲しみ、夜、冷たさ、精神的な沈み込みを連想させる。そこに「Supreme」という言葉が加わることで、悲しみそのものが高められ、ほとんど美学化されているように響く。
サウンドは、ミドルテンポで引き締まっている。ギターは過剰に歪まず、細かく空間を作る。リズム隊は硬く、曲全体に抑制された緊張を与える。Paul Banksのヴォーカルは、低く冷静でありながら、ところどころに感情の揺れを見せる。
歌詞は抽象的だが、自己像、欲望、相手との距離が中心にある。Interpolの歌詞は、具体的な説明を避けることで、聴き手に感情の余白を残す。この曲でも、「blue」という感情の色が中心にありながら、それが恋愛の悲しみなのか、自己嫌悪なのか、都市的な孤独なのかは明確に固定されない。
「My Blue Supreme」は、派手な代表曲ではないが、『El Pintor』の中でアルバムの色調を深める曲である。冷たく、滑らかで、感情を大きく爆発させないまま緊張を保つ。Interpolの成熟した暗さが表れた楽曲である。
3. Everything Is Wrong
「Everything Is Wrong」は、タイトルからして強い絶望感を持つ楽曲である。「すべてが間違っている」という言葉は、個人的な関係の崩壊にも、自己認識の歪みにも、世界そのものへの不信にも読める。Interpolらしい冷たい諦念が凝縮されたタイトルである。
サウンドは、シンプルながら非常に効果的である。ギターは反復的に鳴り、ドラムは重く曲を前へ進める。派手な装飾は少なく、曲の感情はリフとヴォーカルの抑制された響きによって伝えられる。Interpolの強みは、少ない要素で強い雰囲気を作る点にあるが、この曲はその好例である。
歌詞では、関係や状況が修復不能になっている感覚が示される。ただし、Paul Banksは直接的に感情を吐露するのではなく、断片的な言葉で不調和を描く。だからこそ、タイトルの「Everything Is Wrong」が非常に重く響く。何が間違っているのかが完全には説明されないため、むしろ世界全体が歪んでいるように感じられる。
「Everything Is Wrong」は、『El Pintor』の中で特にInterpolらしい陰鬱さを持つ曲である。サウンドはコンパクトだが、タイトルとムードの強さによって深い印象を残す。初期Interpolの冷たい絶望感を2010年代のバンドが再構成した楽曲といえる。
4. Breaker 1
「Breaker 1」は、アルバム前半の中でも独特の緊張感を持つ楽曲である。タイトルは通信や機械的な信号を連想させ、「Breaker」という言葉には壊す者、遮断するもの、波を砕くものといった複数の意味がある。Interpolの世界では、コミュニケーションはしばしば断絶や誤解を含むが、この曲にもその感覚が漂う。
サウンドは、やや不穏で、リズムとギターが細かく絡む。大きなサビで開放するというより、曲全体が抑制された状態で進む。Daniel Kesslerのギターは鋭い線を描き、Sam Fogarinoのドラムは曲に硬い骨格を与える。
歌詞では、相手との関係がうまく接続されない状態が感じられる。言葉は届いているようで届かず、感情は伝わる前に歪んでしまう。Paul Banksの歌い方には、親密さを求めながらも距離を保とうとする矛盾がある。
「Breaker 1」は、『El Pintor』の中で大きなフックを持つ曲ではないが、バンドの不穏なアンサンブルがよく表れた楽曲である。Interpolの音楽における緊張とは、爆発ではなく、接続されない感情が張り詰めたまま続くことにある。この曲はその性質をよく示している。
5. Ancient Ways
「Ancient Ways」は、本作の中でも特に攻撃的で、ロック的な勢いを持つ楽曲である。タイトルは「古代の方法」「古いやり方」を意味し、過去から続く行動様式や抜け出せない習慣を連想させる。Interpolの曲としては、比較的直接的なエネルギーが前に出ている。
サウンドは、鋭いギターと力強いドラムによって進む。アルバム全体の中でもテンションが高く、ライブ映えするタイプの曲である。Daniel Kesslerのギターは切れ味があり、Sam Fogarinoのドラムは曲を前へ押し出す。Paul Banksの声も、ここではやや荒さを帯びている。
歌詞では、古いパターンから抜け出せない感覚が示される。人間関係でも、自己破壊的な行動でも、人はしばしば同じ過ちを繰り返す。「ancient ways」とは、文明以前の衝動のようでもあり、現代人の中に残る原始的な欲望や暴力性のようでもある。
「Ancient Ways」は、『El Pintor』の中でアルバムに硬いロックのエネルギーを与える曲である。Interpolの冷たさだけでなく、内側にある怒りや焦燥が表に出た楽曲であり、作品全体の緩急を作っている。
6. Tidal Wave
「Tidal Wave」は、タイトル通り、大きな波、感情の津波、圧倒的な力に飲み込まれる感覚を持つ楽曲である。Interpolの音楽では、感情はしばしば抑制されているが、この曲ではその抑制の奥にある大きなうねりが感じられる。
サウンドは、比較的メロディアスでありながら、低い緊張を保っている。ギターは冷たく流れ、リズムは安定しているが、曲全体には水面下で何かが膨らんでいくような感覚がある。Paul Banksのヴォーカルも、感情を爆発させるのではなく、波が近づいてくるように少しずつ圧を増す。
歌詞では、避けられない感情や出来事に押し流されるような感覚が描かれる。Tidal waveは、自分の意志で止められるものではない。恋愛、記憶、罪悪感、欲望、別れなどが、ある瞬間に巨大な力となって押し寄せる。その感覚が曲全体に漂う。
「Tidal Wave」は、『El Pintor』の中で叙情的な広がりを持つ曲である。大きなアンセムではないが、Interpolが持つ静かなドラマ性がよく表れている。感情を抑えながらも、その下にある巨大な揺れを感じさせる楽曲である。
7. Anywhere
「Anywhere」は、本作の中でも比較的明快な推進力とキャッチーなメロディを持つ楽曲である。タイトルは「どこへでも」という意味で、逃避、移動、自由、あるいは居場所のなさを連想させる。Interpolの曲において「どこへでも行ける」という感覚は、必ずしも開放的な幸福ではなく、帰る場所を失った状態とも結びつく。
サウンドはタイトで、ギターとドラムが快活に進む。アルバム後半の中で、曲に再び勢いを与える役割を持つ。Paul Banksの歌も比較的前に出ており、サビにはInterpolとしては珍しく開かれた感覚がある。
歌詞では、相手とどこかへ行くこと、あるいはどこにも属さないことが示される。Interpolの都市的な歌詞世界では、移動はしばしば自由と孤独の両方を意味する。どこへでも行けることは、どこにも根を下ろせないことでもある。
「Anywhere」は、『El Pintor』の中で聴きやすい曲の一つであり、バンドがコンパクトで強いロック・ソングを書く力を保っていることを示している。初期Interpolの緊張感を、より明るい推進力として再構成した楽曲である。
8. Same Town, New Story
「Same Town, New Story」は、タイトルからして物語性の強い楽曲である。「同じ街、新しい物語」という言葉には、場所は変わらなくても、関係や人生の局面が変化していく感覚がある。Interpolらしい都市的な視点と、物語の断片性がよく表れたタイトルである。
サウンドは、アルバムの中でも少し柔らかく、広がりがある。ギターは冷たく響きながらも、曲全体にはメランコリックな余韻がある。リズムは抑制され、Paul Banksの歌が曲の中心に置かれる。
歌詞では、街、関係、過去と現在のズレが描かれる。同じ場所にいても、人間関係は変わり、かつての意味は失われる。新しい物語が始まっているようでいて、それは過去の反復でもある。Interpolの世界では、都市は記憶の層として機能する。この曲は、その感覚をよく表現している。
「Same Town, New Story」は、『El Pintor』の中で静かな深みを持つ楽曲である。派手なシングル曲ではないが、アルバム全体の情緒を支える重要な曲であり、Interpolの詩的な都市感覚が強く表れている。
9. My Desire
「My Desire」は、タイトル通り欲望をテーマにした楽曲であり、『El Pintor』の中でも特に官能的で、じわじわと燃えるような緊張を持つ。Interpolの音楽における欲望は、明るく解放的なものではなく、しばしば抑制、距離、罪悪感、執着と結びつく。
サウンドは、ミドルテンポでじっくり進む。ギターとリズムは抑えられているが、曲全体に濃い空気がある。Paul Banksの低い声が、欲望を直接叫ぶのではなく、内側に秘めたまま語る。その抑制が曲の官能性を高めている。
歌詞では、相手への欲望、自分の中にある衝動、近づきたいが近づききれない感情が描かれる。タイトルは単純だが、曲の感情は単純ではない。欲望は対象へ向かう力であると同時に、自分自身を不安定にする力でもある。
「My Desire」は、『El Pintor』の中でInterpolのセクシュアルで暗い側面をよく示す曲である。派手なロックではなく、抑制された緊張によって聴かせる。バンドが持つ大人の暗さが表れた楽曲である。
10. Twice as Hard
アルバムの最後を飾る「Twice as Hard」は、重く、静かで、終曲らしい余韻を持つ楽曲である。タイトルは「二倍難しい」「二倍つらい」という意味で、努力、関係、感情的な負荷が増していく感覚を示している。『El Pintor』の終わりに置かれることで、アルバム全体の緊張を沈ませるような役割を果たしている。
サウンドは、ゆっくりとしたテンポで、重心が低い。ギターは広がりを持ちながらも冷たく、ドラムは大きく間を取り、曲に重みを与える。Paul Banksの歌唱も、ここでは非常に落ち着いており、疲労や諦めを含んだ声で響く。
歌詞では、何かを維持することの困難さ、関係の重さ、自分自身を保つことの難しさが示される。タイトルの「Twice as Hard」は、すべてが以前よりも難しくなっている感覚を象徴している。バンドの状況を考えると、メンバー脱退後にInterpolとして続けることの重さとも重ねられる。
「Twice as Hard」は、派手なクライマックスではなく、沈み込むような終曲である。『El Pintor』は再出発のアルバムだが、その再出発は明るい勝利宣言ではない。困難を抱えたまま、それでも音を鳴らし続ける。その姿勢が、この曲に静かに刻まれている。
総評
『El Pintor』は、InterpolがCarlos Dengler脱退後に自分たちの音楽的核を再確認したアルバムである。バンドにとってベーシストの不在は大きな変化だったが、本作ではPaul Banksがベースも担い、Daniel KesslerとSam Fogarinoとの3人編成を基盤に、Interpolらしい緊張感を再構築している。結果として、本作は前作『Interpol』よりもタイトで、明快で、推進力のある作品になった。
本作の最大の魅力は、原点回帰と成熟が同時にある点である。「All the Rage Back Home」や「Anywhere」には、初期Interpolを思わせる鋭い勢いがある。一方で、「My Blue Supreme」「Same Town, New Story」「Twice as Hard」には、より落ち着いた陰影と成熟した表情がある。バンドは若い頃の焦燥を完全に再現しようとはしていない。むしろ、その焦燥を大人の抑制の中で鳴らしている。
『Turn On the Bright Lights』の影響があまりに大きいため、Interpolの新作は常に初期作と比較される。しかし『El Pintor』は、過去の名盤を超えようとするより、バンドが現在の形でどれだけInterpolらしく鳴れるかを問う作品である。その意味で、本作は非常に成功している。ギターの冷たい絡み、硬質なリズム、抽象的な歌詞、Paul Banksの低い声。そのすべてが、バンドの核として機能している。
Daniel Kesslerのギターは、本作でもInterpolの個性を決定づけている。彼のギターは、ブルース的な熱さやロックンロール的な荒々しさではなく、線の細い緊張、空間の切り取り、冷たいメロディを特徴とする。彼のフレーズは過度に派手ではないが、曲の空気を支配する力を持つ。
Sam Fogarinoのドラムも重要である。Interpolの音楽は暗く静的に語られがちだが、実際にはドラムの推進力が大きな役割を果たしている。『El Pintor』では、ドラムがアルバム全体を引き締め、曲に前進感を与えている。特に「All the Rage Back Home」や「Ancient Ways」では、その力が明確に表れる。
Paul Banksのヴォーカルと歌詞は、本作の感情的な中心である。彼の声は以前と同じく低く、硬く、感情を過剰に表に出さない。しかし、その抑制された声の中に、孤独、欲望、諦め、怒りが滲む。歌詞は明確な物語よりも、断片的なフレーズと感情の輪郭で成り立っている。これは聴き手に解釈の余地を与えると同時に、Interpol特有の冷たい神秘性を保っている。
本作の弱点を挙げるなら、Interpolの基本的な美学から大きく外れる作品ではないため、革新性を求めるリスナーにはやや保守的に聴こえる可能性がある。『Turn On the Bright Lights』のような歴史的インパクトや、『Antics』のようなシングルの強さを期待すると、本作は比較的控えめに感じられるかもしれない。また、曲調の色合いが近いため、初聴ではアルバム全体が均質に聴こえる部分もある。
しかし、その均質さはInterpolの美学でもある。彼らは多彩なジャンルを横断するバンドではなく、限られた音色と感情の範囲を深く掘り下げるバンドである。黒、灰色、暗い青のような限られた色調の中で、微妙な濃淡を描く。『El Pintor』は、その濃淡を丁寧に描いた作品である。
2010年代のインディー・ロックの中で、本作は派手な流行とは距離を置いている。シンセ・ポップ化やダンス・ミュージックへの接近、ローファイ化など、同時代の多くの動きとは異なり、Interpolは自分たちのポスト・パンク的な核を維持した。その姿勢は保守的にも見えるが、同時に強固な美学の表れでもある。
日本のリスナーにとって『El Pintor』は、夜の都市や内省的なロックを好む層に強く響くアルバムである。派手なメロディや明快な感情表現ではなく、冷たいギター、抑えた声、言葉にならない孤独を聴く作品である。初期作ほどの衝撃はないが、Interpolが成熟したバンドとして再び焦点を取り戻したことを示す重要作である。
『El Pintor』は、喪失の後に作られた再構築のアルバムである。Carlos Denglerという重要なメンバーを失ったInterpolは、本作で自分たちの名前をアナグラムとして並べ替え、新しい形を描いた。タイトルが「画家」を意味するように、このアルバムはバンドが自分たちの輪郭をもう一度描き直す行為だった。冷たく、端正で、抑制され、内側に熱を秘めた作品である。
おすすめアルバム
1. Turn On the Bright Lights by Interpol
2002年発表のデビュー作。2000年代ポスト・パンク・リバイバルを代表する名盤であり、「Untitled」「Obstacle 1」「PDA」「NYC」などを収録している。Interpolの冷たい都市的美学の原点として必聴の一枚である。
2. Antics by Interpol
2004年発表の2作目。デビュー作の暗い緊張感を保ちながら、より明確なフックとロック・ソングとしての推進力を獲得した作品である。「Evil」「Slow Hands」「C’mere」を収録し、『El Pintor』のタイトな方向性とも比較しやすい。
3. Interpol by Interpol
2010年発表の4作目。Carlos Dengler在籍最後のアルバムであり、重く沈んだ音像と長い構成が特徴である。『El Pintor』がどのように前作の重さから離れ、より簡潔で推進力のある形へ戻ったかを理解するために重要である。
4. Unknown Pleasures by Joy Division
1979年発表のポスト・パンクの歴史的名盤。冷たいベースライン、疎外感、都市的な不安、抑制された演奏によって、Interpolの重要な背景にある美学を理解できる作品である。直接的な比較だけでなく、暗いロックの系譜を知るうえで欠かせない。
5. The Back Room by Editors
2005年発表のアルバム。Interpol以後のポスト・パンク・リバイバルを代表する作品の一つであり、暗いギター、低いヴォーカル、都市的な緊張感を持つ。『El Pintor』のような冷たいインディー・ロックを好むリスナーに関連性が高い。

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