
発売日:2018年8月24日
ジャンル:ポスト・パンク・リバイバル、インディー・ロック、オルタナティヴ・ロック、ガレージ・ロック、ダーク・ロック、ニューウェイヴ
概要
Interpolの6作目『Marauder』は、バンドのディスコグラフィの中でも特に生々しい質感を持つアルバムである。2002年のデビュー作『Turn On the Bright Lights』で、Interpolは2000年代初頭のニューヨーク・インディー・ロックを代表する存在となった。Joy Division、The Chameleons、Echo & the Bunnymen、The Cureなどのポスト・パンク/ニューウェイヴの影響を受けながら、彼らは冷たいギター、重く動くベース、硬質なドラム、Paul Banksの低く乾いた声によって、都市の孤独と欲望をモノクロームのようなサウンドで描いた。
『Turn On the Bright Lights』と『Antics』は、Interpolの初期美学を確立した作品である。そこでは、緊張したギターの絡み、Carlos Denglerの印象的なベースライン、Sam Fogarinoの正確で硬いドラム、Paul Banksの抽象的な歌詞が、非常に引き締まった形でまとまっていた。2007年の『Our Love to Admire』ではメジャー・レーベル移籍に伴い、より大きな音像と劇的な構成へ向かい、2010年のセルフタイトル作『Interpol』ではさらに重く沈んだサウンドへ進んだ。その後Carlos Denglerが脱退し、2014年の『El Pintor』では3人編成を核とした再構築が行われた。
『Marauder』は、その『El Pintor』の後に発表された作品であり、Interpolが再び自分たちのロック・バンドとしての肉体性を前面に押し出したアルバムである。前作『El Pintor』が、Carlos脱退後のバンドの形を整理し、比較的端正でタイトなサウンドを提示したのに対し、『Marauder』はもっと荒く、歪み、スタジオの空気や演奏の揺れを感じさせる。プロデューサーにDave Fridmannを迎えたことも大きい。The Flaming Lips、Mercury Rev、MGMTなどの作品で知られるFridmannは、音を過度に磨き上げるよりも、歪み、圧縮感、空間の濁りを含めて独特の存在感を作るプロデューサーである。本作では、その手触りがInterpolの冷たい美学に新しい粗さを与えている。
アルバム・タイトルの『Marauder』は、「略奪者」「襲撃者」「荒らし回る者」といった意味を持つ。Interpolの音楽はこれまで、都市の中で感情を抑え込み、距離を保ち、冷たい美学として欲望や孤独を描くことが多かった。しかし本作のタイトルは、より直接的で暴力的な人物像を連想させる。Paul Banksは本作において、自分の内側にある衝動、自己破壊、無責任さ、他者を傷つける側面を、ある種の人格として描いているように聴こえる。つまり『Marauder』は、外部の敵についてのアルバムではなく、自己の中にいる侵入者、あるいは自分自身が誰かの生活へ入り込んで荒らしてしまう存在であることをめぐるアルバムである。
音楽的には、本作はInterpolの中でも比較的ガレージ・ロック的な荒さを持つ。ギターは鋭く、ドラムは前に出ており、音はしばしば圧縮されている。『Our Love to Admire』のような広い空間や、『El Pintor』のような端正さよりも、ここではバンドが部屋の中でぶつかり合っているような感覚が強い。Daniel Kesslerのギターは、Interpolらしい冷たいラインを保ちながらも、より荒れた質感を持ち、Sam Fogarinoのドラムはアルバム全体に焦燥感を与える。Paul Banksのヴォーカルも、いつもの低く抑えた響きに加え、どこか疲れや苛立ちを含んでいる。
本作で特に印象的なのは、初期Interpolの緊張感をそのまま再現するのではなく、長年活動してきたバンドならではの歪みや疲労を隠さずに出している点である。2000年代初頭のInterpolは、鋭く、冷たく、若いバンド特有の張り詰めた美しさを持っていた。それに対して『Marauder』のInterpolは、より年齢を重ね、過去の自分たちのスタイルを理解したうえで、あえて音を少し乱し、汗や摩擦を加えている。これは単なる原点回帰ではなく、冷たさの中に荒い人間味を持ち込む試みである。
歌詞面では、いつものPaul Banksらしい抽象性が残る一方で、本作には自己告白的な響きも強い。彼の歌詞は明確なストーリーを語るわけではないが、「The Rover」「If You Really Love Nothing」「Complications」「Stay in Touch」などでは、欲望、関係の破綻、自己欺瞞、逃避、相手への距離感が、断片的な言葉として現れる。Banksの語り手はしばしば、他者を求めながらも、関係を維持することに失敗する。愛を望みながら、愛を壊す。近づこうとしながら、逃げる。『Marauder』では、その矛盾がより露骨に出ている。
代表曲「The Rover」は、本作の性格をよく示す楽曲である。タイトルは「放浪者」「さすらう者」を意味し、曲には落ち着かず動き続ける人物の感覚がある。ギターとドラムはタイトに進み、Banksの声は不穏な語り手のように響く。ここには、Interpolらしい都市的な緊張感がありながら、どこか宗教的、寓話的な響きもある。「If You Really Love Nothing」は、よりメロディアスで、愛と無関心の矛盾を歌う曲であり、本作の中でも特にシングル向きの強さを持つ。
『Marauder』は、Interpolの作品の中では評価が分かれやすい。Dave Fridmannによるプロダクションは、バンドの音を粗く、濁ったものにしており、初期作のような明瞭で鋭利なサウンドを好むリスナーには違和感を与えるかもしれない。しかし、その濁りこそが本作の重要な特徴である。Interpolの冷たく端正な美学に、演奏の摩擦、音の歪み、感情の乱れが加わることで、アルバム全体に不安定な生命力が生まれている。
日本のリスナーにとって『Marauder』は、Interpolを単なる「暗く美しいポスト・パンク・バンド」としてだけでなく、長く活動するロック・バンドが自分たちの型をどう揺さぶるかを知るうえで重要な作品である。完成度の高さや端正さでは『Turn On the Bright Lights』や『Antics』に及ばない部分もあるが、本作にはそれらとは異なる荒さと危うさがある。『Marauder』は、Interpolが成熟した後に、自分たちの音楽へ再び不穏な血流を戻そうとしたアルバムである。
全曲レビュー
1. If You Really Love Nothing
アルバム冒頭の「If You Really Love Nothing」は、『Marauder』の中でも特にメロディアスで、強いシングル性を持つ楽曲である。タイトルは「もし本当に何も愛していないのなら」という意味であり、愛と空虚、欲望と無関心が同時に存在するようなInterpolらしい矛盾を含んでいる。
サウンドは、ギターの鋭い刻みとタイトなリズムを中心に進む。曲はコンパクトで、冒頭曲としてアルバムに勢いを与える。Dave Fridmannのプロダクションによって音はやや粗く、ギターやドラムの輪郭には生々しい歪みがある。初期Interpolの冷たい端正さとは異なり、ここでは演奏が少し汗ばんで聴こえる。
歌詞では、相手に対する問いかけと、自分自身の感情への疑いが重なる。愛しているのか、何も愛していないのか。関係を求めているのか、ただ空虚を埋めようとしているだけなのか。Paul Banksの歌詞は明確な答えを出さないが、タイトルの言葉が曲全体に冷たい不安を与えている。
「If You Really Love Nothing」は、『Marauder』の入口として非常に効果的である。Interpolらしい暗さを保ちながら、曲としての即効性も高い。アルバム全体に流れる自己欺瞞、関係の不安定さ、愛への懐疑を、最初に分かりやすく提示する楽曲である。
2. The Rover
「The Rover」は、本作の代表曲の一つであり、アルバム・タイトル『Marauder』の人物像とも深く響き合う楽曲である。タイトルの「Rover」は放浪者、さすらう者を意味し、どこにも定着できない人物、常に移動し続ける衝動を連想させる。
サウンドは、Interpolらしいポスト・パンク的な推進力を持つ。ギターは硬く刻まれ、ドラムは前のめりに進み、ベースは曲に低い緊張を与える。曲全体には焦燥感があり、落ち着く場所を持たない語り手の心理が音に反映されている。Fridmannのプロダクションにより、音はややざらつき、曲に荒々しさが加わっている。
歌詞では、放浪者的な人物像が断片的に描かれる。彼は自由な存在であると同時に、責任や関係から逃げ続ける存在でもある。『Marauder』における語り手は、しばしば魅力的でありながら、他者の生活を乱す側面を持つ。「The Rover」は、その人物像を最も端的に表す曲である。
この曲には、宗教的なイメージや寓話的な響きもある。単なる恋愛曲ではなく、自己の中の衝動を一つのキャラクターとして描いているように感じられる。「The Rover」は、Interpolが本作で目指した荒い緊張感と人物描写の中心にある楽曲である。
3. Complications
「Complications」は、タイトル通り、複雑化した関係や感情をテーマにした楽曲である。Interpolの音楽では、恋愛や欲望はほとんど常に単純ではない。近づくことは傷つくことを意味し、愛することは自分自身の矛盾に直面することでもある。この曲は、その複雑さを比較的直接的に扱っている。
サウンドは、硬質なギターとリズムの反復が印象的である。曲は明快なポップ・ソングというより、緊張を積み上げていくタイプのロックである。Sam Fogarinoのドラムは強く、バンド全体を前へ押し出す。ギターの音は荒く、きれいに磨かれていない分、曲の不安定さを強めている。
歌詞では、関係の中で生じる問題、逃げられない感情、言葉にできない摩擦が描かれる。Paul Banksの声は低く、冷静でありながら、内側には苛立ちがある。彼は感情を直接爆発させないが、言葉の間から疲労や不満が滲む。
「Complications」は、『Marauder』の中でアルバムの荒い質感を支える楽曲である。曲名の通り、シンプルな解放感はなく、バンドは複雑化した感情の中を進む。Interpolらしい心理的な緊張が、より生々しい音で表現されている。
4. Flight of Fancy
「Flight of Fancy」は、幻想、空想、逃避をテーマにした楽曲である。タイトルは「気まぐれな空想」「現実離れした思いつき」を意味し、現実から離れて別の場所へ飛び立つ感覚を含んでいる。しかしInterpolの世界における空想は、単純な自由ではなく、現実を避けるための危うい手段でもある。
サウンドは、比較的メロディアスで、アルバムの中ではやや開けた印象を持つ。ギターは冷たい線を描きながらも、曲には浮遊感がある。ドラムとベースは曲の足場を作るが、メロディは少し上へ漂うように進む。この上昇感が、タイトルの空想的なイメージと重なる。
歌詞では、現実から逃れたい気持ち、関係の中で別の可能性を想像する感覚が描かれる。だが、その空想は完全な救いではない。むしろ、現実を直視できないことの裏返しでもある。Interpolの歌詞では、逃避と自己欺瞞がしばしば近い場所にある。
「Flight of Fancy」は、『Marauder』の中で少し柔らかい余白を作る楽曲である。粗いギター・ロックの質感の中に、夢想的なメロディが入り込むことで、アルバムの色合いに変化を与えている。
5. Stay in Touch
「Stay in Touch」は、本作の中でも特に暗く、官能的で、不穏な楽曲である。タイトルは「連絡を取り続ける」「つながりを保つ」という意味だが、Interpolの文脈ではそれは温かい親密さではなく、断ち切れない執着や不完全な関係を示すように響く。
サウンドは、ゆったりとしたテンポで、重く、湿った空気を持つ。ギターは鋭く鳴るというより、暗い空間の中で漂い、リズムは低く沈む。Paul Banksのヴォーカルは非常に近く、相手に囁くようでありながら、どこか冷たい距離を保っている。
歌詞では、別れた後も残るつながり、関係を終わらせられない感覚、肉体的な記憶や感情の残響が描かれる。連絡を取り続けることは、希望であると同時に、傷を長引かせる行為でもある。この曖昧さが曲全体を支配している。
「Stay in Touch」は、『Marauder』の中でInterpolの暗いロマンティシズムが最も強く出た曲の一つである。大きなシングル的な派手さはないが、官能、執着、距離、疲労が濃密に混ざり合っている。バンドの成熟した陰影を示す重要曲である。
6. Interlude 1
「Interlude 1」は、短いインタールードであり、アルバム全体の流れに小さな断絶を作る役割を持つ。『Marauder』は比較的荒く、前のめりに進む曲が多いため、こうした短い間奏が入ることで、アルバムに呼吸の余地が生まれる。
サウンドは断片的で、通常の楽曲のような明確な展開を持たない。Interpolのインタールードは、曲と曲を滑らかにつなぐというより、アルバムの中に不穏な隙間を挿入する役割を果たす。ここでも、その短さによって逆に耳に引っかかる。
このような小品は、単体の楽曲として大きく評価されるものではない。しかし、『Marauder』の人物像や空気を考えると、断片的な記憶や通り過ぎる風景のように機能している。語り手の意識が次の場面へ移る前の、短い暗転とも言える。
「Interlude 1」は、アルバム構成上の小さな装置である。物語を説明するのではなく、空気を変える。Interpolの音楽における余白と不穏さを支える短い断片である。
7. Mountain Child
「Mountain Child」は、アルバムの中でもやや異色の楽曲であり、タイトルから自然、孤立、野性、純粋さのようなイメージを連想させる。Interpolの音楽は都市的なイメージが強いが、この曲では山や子どもという言葉が、より原始的で寓話的な世界を呼び込んでいる。
サウンドは、リズムが前に出たロック・ナンバーでありながら、どこか奇妙な明るさを持つ。ギターはInterpolらしく冷たいが、曲全体には少し開放的な感覚もある。荒いプロダクションによって、演奏には乾いた土や石のような質感が加わっている。
歌詞では、山の子どもというイメージを中心に、外部の世界から切り離された存在、あるいは文明化されていない無垢な衝動が描かれているように聴こえる。『Marauder』における語り手は、都市的で計算された人物でありながら、内側には野性的で制御しきれない部分を抱えている。この曲は、その側面を象徴的に示している。
「Mountain Child」は、Interpolの通常の都市的な美学から少し外れた位置にある曲である。そのため、アルバムの中で独特の色を持つ。バンドが『Marauder』で、いつもの冷たい夜景だけでなく、より荒い寓話性にも踏み込んでいることを示す楽曲である。
8. NYSMAW
「NYSMAW」は、タイトル自体が暗号のような楽曲であり、Interpolらしい謎めいた感覚を持つ。略語のようにも、言葉として意味を拒む記号のようにも見えるこのタイトルは、本作の中でも特に抽象的な印象を与える。
サウンドは、勢いのあるギターとリズムを中心にしたロック・ナンバーである。曲には焦燥感があり、バンドが前へ突き進むような力がある。ただし、音はきれいに整理されすぎておらず、やや濁った質感が残る。この濁りが『Marauder』らしい。
歌詞は断片的で、明確な物語を追うより、声の響きやフレーズの印象で聴くタイプの曲である。Interpolの楽曲では、言葉が完全に意味を伝えるより、感情の影や空気を作ることが多い。「NYSMAW」でも、タイトルの不透明さと歌詞の断片性が、曲全体に謎めいた緊張を与えている。
「NYSMAW」は、アルバム後半にスピード感を戻す楽曲である。意味を固定しにくいが、その不明瞭さ自体がInterpolの魅力である。言葉が明確に開かれないことで、曲は冷たい記号のように響く。
9. Surveillance
「Surveillance」は、監視、視線、見られること、あるいは他者を見張ることをテーマにした楽曲である。Interpolの音楽には、親密さと距離、欲望と観察が常に存在するが、この曲ではその視線の問題がタイトルとして明確に示されている。
サウンドは、硬く、抑制された緊張を持つ。ギターは鋭く、リズムは冷静に進む。曲全体には、誰かに見られている、あるいは誰かを見ているような落ち着かない感覚がある。音が過度に広がらず、一定の緊張を保つことで、監視の閉塞感が生まれている。
歌詞では、関係の中で相手を観察すること、疑い、支配、距離感が描かれる。恋愛や欲望において、見ることは単なる関心ではなく、権力でもある。相手を見つめることは、相手を知りたいという欲望であると同時に、相手を管理したいという衝動にもつながる。
「Surveillance」は、『Marauder』の中で非常にInterpolらしいテーマを扱う楽曲である。都市的な孤独、関係の中の不信、冷たい視線。これらが荒い音像の中で表現され、本作の心理的な不穏さをさらに深めている。
10. Number 10
「Number 10」は、アルバムの中でも特に勢いがあり、短く鋭いロック・ナンバーである。タイトルは記号的で、特定の人物、場所、番号、あるいはスポーツや政治的な符号を連想させるが、曲の中では明確に説明されない。その不明瞭さが曲に奇妙な緊張を与えている。
サウンドは、ガレージ・ロック的な荒さが強い。ギターは鋭く、ドラムは前に出ており、Interpolとしてはかなり直接的なエネルギーを持つ。曲は長く展開するのではなく、短い時間で衝動を走らせる。『Marauder』の中でも、バンドの生々しい側面がはっきり出ている。
歌詞では、対立、関係の緊張、人物への呼びかけのような断片が現れる。Paul Banksの言葉はいつも通り曖昧だが、曲の勢いによって、言葉は理屈よりも感情の弾丸のように響く。ここでは意味の深読みより、演奏の切迫感が重要である。
「Number 10」は、アルバム後半に荒々しいアクセントを加える曲である。初期Interpolの端正な緊張感とは異なり、よりラフで、ライブ的な勢いがある。『Marauder』のガレージ的な側面を代表する楽曲である。
11. Party’s Over
「Party’s Over」は、タイトル通り「パーティーは終わった」という意味を持つ楽曲であり、快楽の終わり、夜の後の空虚、関係の終焉を連想させる。Interpolの音楽において、夜やパーティーはしばしば魅力的でありながら、その後には疲労と孤独が残る。この曲は、その余韻を扱っている。
サウンドは、ゆっくりとしたテンポで、暗いムードを持つ。曲には騒がしいパーティーのエネルギーはなく、むしろその後に残された部屋、散らかった空間、沈黙のような空気がある。ギターとリズムは抑えられ、Banksの声が低く響く。
歌詞では、終わってしまった時間、もう戻れない関係、快楽が去った後の虚しさが描かれる。タイトルの言葉は非常に直接的だが、その意味は単なるイベントの終了ではない。若さの終わり、関係の終わり、自己欺瞞の終わりとしても読める。
「Party’s Over」は、『Marauder』のテーマと深く関わる曲である。略奪者や放浪者のように動き回ってきた語り手も、最後には終わりの感覚に直面する。楽しい時間の後に残る空虚を、Interpolらしい冷たい余韻で描いた楽曲である。
12. Interlude 2
「Interlude 2」は、終盤に置かれた短い断片であり、「Interlude 1」と同様にアルバムの流れに隙間を作る役割を持つ。『Marauder』は演奏の荒さと曲ごとの衝動が強い作品であるため、インタールードは単なる休憩ではなく、アルバムの心理的な不安定さを強調する。
サウンドは短く、断片的で、明確なポップ・ソングの構造から外れている。このような小品は、語り手の意識の切れ目、あるいは記憶の断片のように聴こえる。アルバム全体を一つの人物の移動や衝動として捉えるなら、このインタールードはその人物が一瞬立ち止まる暗い場面である。
Interpolの音楽において、沈黙や余白は重要な役割を持つ。彼らは音を詰め込みすぎるより、暗い空間を残すことで感情を強める。「Interlude 2」も短いながら、その空間の作り方に関係している。
「Interlude 2」は、単体の曲としてではなく、アルバム終盤の空気を整える断片として機能する。最後の曲へ向かう前に、不穏な余韻を残す小さな暗転である。
13. It Probably Matters
アルバムの最後を飾る「It Probably Matters」は、『Marauder』の終曲として非常に象徴的な楽曲である。タイトルは「たぶんそれは重要だ」という意味であり、断言を避ける曖昧さがある。重要なのかもしれないが、確信はない。この曖昧な言い方に、アルバム全体の自己欺瞞や感情の不確かさが凝縮されている。
サウンドは、比較的落ち着いており、終曲らしい余韻を持つ。アルバム全体の荒い勢いが少し引き、ここではより内省的な空気が前に出る。ギターは冷たく響き、リズムは抑制され、Paul Banksの声が静かに曲を導く。
歌詞では、関係や過去の出来事、自分がしてきたことの意味を振り返るような感覚がある。だが、語り手は明確な結論に到達しない。ただ「たぶん重要だった」と言うだけである。この不確かさは、誠実さとも逃避とも取れる。自分の行為の意味を完全には引き受けられないまま、それでも何かが残っていることだけは分かっている。
「It Probably Matters」は、『Marauder』の終わりとして非常にふさわしい。アルバムは明確な救済や答えに到達しない。略奪者、放浪者、自己破壊的な語り手は、最後に自分の行為の重さをぼんやりと認める。しかし、その認識はまだ曖昧で、不完全である。その余韻が、本作を冷たく人間的な作品として閉じている。
総評
『Marauder』は、Interpolが自分たちの冷たいポスト・パンク美学に、荒さ、歪み、演奏の摩擦を持ち込んだアルバムである。『El Pintor』がCarlos Dengler脱退後のバンドを端正に再構築した作品だったとすれば、本作はその再構築された形を、より不安定で生々しい方向へ揺さぶった作品である。
本作の大きな特徴は、Dave Fridmannによるプロダクションである。音はクリアに磨かれすぎず、ギターやドラムにはざらつきがあり、全体に圧縮されたような密度がある。この音作りは、初期Interpolのシャープで冷たい響きを好むリスナーには粗く感じられる可能性がある。しかし『Marauder』というタイトルや、アルバムの人物像を考えると、この粗さは重要である。略奪者、放浪者、関係を壊す者の物語に、端正すぎる音は似合わない。
「If You Really Love Nothing」「The Rover」「Complications」「Number 10」などでは、バンドのロック的な勢いが強く出ている。これらの曲は、Interpolが単なる雰囲気のバンドではなく、鋭いギター・ロック・バンドとしての力を持っていることを示す。一方で、「Stay in Touch」「Party’s Over」「It Probably Matters」では、より暗く、内省的で、疲労した感情が描かれる。この両面が、本作の人間的な歪みを作っている。
Paul Banksの歌詞は、本作でも断片的で抽象的である。しかし『Marauder』では、いつも以上に自己告白的な響きが強い。彼の語り手は、愛を求めながら愛を壊し、他者に近づきながら逃げ、関係を維持できない自分をどこかで理解している。タイトルの「Marauder」は、他人を傷つける外部の侵入者であると同時に、自分自身の中にいる破壊的な人格としても読める。
Interpolの音楽において、感情は常に抑制されてきた。彼らは叫びすぎず、泣きすぎず、冷たい距離を保つことで独自の美学を築いた。しかし『Marauder』では、その抑制が少し崩れ、怒り、疲労、欲望、衝動が音の粗さとして表に出ている。これはバンドにとって重要な変化である。完全に新しい方向へ向かったわけではないが、従来の美学にひびを入れようとしている。
本作の弱点は、その粗いプロダクションと曲ごとの印象のばらつきにある。『Turn On the Bright Lights』のような一体感や、『Antics』のようなコンパクトな強度を期待すると、『Marauder』はやや散漫に聴こえる部分がある。また、音の濁りによって、Interpol特有のギターやベースの鋭い輪郭が見えにくくなる場面もある。
しかし、その不完全さは本作の魅力でもある。『Marauder』は、完璧に整ったInterpolではない。むしろ、整いすぎた自分たちのイメージを少し壊し、バンドの演奏に再び荒い血を通わせようとした作品である。長いキャリアを持つバンドにとって、このような不安定さは重要である。安全な自己模倣に閉じこもるのではなく、音の質感を変えることで、自分たちの美学を再検討している。
Daniel Kesslerのギターは、本作でもInterpolの中心的な要素である。彼のフレーズは相変わらず冷たく、硬く、緊張感を持つ。ただし、今回はそのギターがより荒い音像の中に置かれているため、初期作のような鋭利な建築物というより、少し崩れかけた構造物のように響く。Sam Fogarinoのドラムも、全体に勢いと摩擦を与えており、本作のロック・バンドとしての肉体性を支えている。
Paul Banksのヴォーカルは、若い頃の冷たく端正な響きから、より疲れや陰影を含んだものへ変化している。本作では、その変化が非常によく合っている。『Marauder』は若いバンドの鋭さではなく、過去を背負った人間の不安定さを描くアルバムだからである。
日本のリスナーにとって『Marauder』は、Interpolの代表作から入った後に聴くと、少し違和感を持つ作品かもしれない。初期の冷たい美しさは残っているが、音はより荒く、曲も少し暴れている。しかし、その違和感を受け入れると、本作には長く活動するバンドならではの味わいがある。完成された美学の中に、あえて乱れを入れることで、Interpolは自分たちの音楽を再び危ういものにしている。
『Marauder』は、Interpolの最高傑作ではないかもしれない。しかし、バンドの中期以降を理解するうえで非常に重要な作品である。端正な暗さではなく、荒れた暗さ。冷たい美学ではなく、少し汚れた衝動。『Marauder』は、Interpolが自分たちの内側にいる略奪者を見つめ、その不穏な存在を音にしたアルバムである。
おすすめアルバム
1. El Pintor by Interpol
2014年発表の前作。Carlos Dengler脱退後、Interpolが3人編成を核に再構築された重要作である。『Marauder』よりも端正でタイトな音像を持ち、「All the Rage Back Home」「My Desire」などを収録している。本作との比較で、バンドがどのように荒い方向へ進んだかが分かる。
2. Turn On the Bright Lights by Interpol
2002年発表のデビュー作。Interpolの冷たい都市的美学を決定づけた名盤であり、「Obstacle 1」「PDA」「NYC」などを収録している。『Marauder』の荒さと比較すると、初期の鋭利でモノクロームな緊張感がより明確に分かる。
3. Antics by Interpol
2004年発表の2作目。デビュー作の暗さを保ちながら、より明快なフックとロック・ソングとしての推進力を獲得した作品である。「Evil」「Slow Hands」「C’mere」を収録し、『Marauder』のギター・ロック的な勢いの源流を理解できる。
4. Our Love to Admire by Interpol
2007年発表の3作目。メジャー移籍後、Interpolが音のスケールを拡大した作品である。「The Heinrich Maneuver」「Rest My Chemistry」などを収録し、『Marauder』とは異なる形で、バンドが自分たちの美学を大きな音像へ広げようとした重要作である。
5. Embryonic by The Flaming Lips
2009年発表のアルバム。Dave Fridmannが関わる荒く歪んだサイケデリック・ロックの質感を理解するうえで有効な作品である。Interpolとは音楽性が異なるが、『Marauder』のざらついたプロダクションや、音の濁りを積極的に使う感覚を比較しやすい。

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