
発売日:2018年8月24日
ジャンル:Indie Rock / Post-Punk Revival
概要
Interpolが2018年に発表した6作目のスタジオ・アルバムがMarauderである。Paul Banks、Daniel Kessler、Sam Fogarinoという3人体制で制作され、プロデューサーにはMercury Rev、The Flaming Lipsなどとの仕事で知られるDave Fridmannを起用した。前作El PintorでベーシストCarlos Dengler脱退後の形を確立したバンドが、今回は演奏そのものの荒さや勢いを前面に出している。
最大の特徴は録音の質感である。初期Interpolの冷たく整った音像や、El Pintorの比較的明瞭なミックスとは違い、ギター、ドラム、ボーカルが互いに押し合うような密度を持つ。Fogarinoのドラムは部屋全体を鳴らすように大きく、Kesslerのギターは細い単音とノイズを重ね、Banksのベースが低い位置で曲を動かす。音を一つずつ美しく分離するのではなく、バンドが同じ空間で鳴っている感覚を優先したプロダクションだ。
タイトルの「Marauder」は略奪者や襲撃者を意味し、Banksは自分の中にある無責任で自己中心的な人格を見つめるように歌う。恋愛関係の破綻、欲望、自己正当化といった題材が多いが、語り手をBanks本人とそのまま同一視する必要はない。従来のInterpolが得意とした都会的な疎外感を残しつつ、それを安全な距離から眺めるのではなく、問題を起こす側の人物へ近づいたことが本作の歌詞上の変化である。
全曲レビュー
1. 「If You Really Love Nothing」
細く反復するギターにドラムとベースが重なり、演奏が次第に密度を増していく。愛情を求めながら何も本気では愛せない人物を思わせる歌詞で、タイトルの矛盾がそのまま関係の不安定さを示す。Banksは感情を大きく爆発させず、冷静な声のまま相手との距離を測るため、かえって冷たさが際立つ。メロディは親しみやすいが、Fridmannの粗い録音によって簡単なポップには聞こえない。
2. 「The Rover」
Kesslerの鋭いギター・リフとFogarinoの強いドラムがほぼ休まず前進する、本作屈指の即効性を持つ曲である。Banksの低い声はリズムの上を滑るように進み、サビでも過剰に旋律を広げない。タイトルの「放浪者」には自由と無責任さの両方が感じられ、アルバムの中心人物であるMarauderの性格ともつながる。初期Interpolの切迫感を再現するのではなく、より荒い演奏へ置き換えた一曲だ。
3. 「Complications」
ギターが細かなフレーズを交差させ、単純なコードの壁ではなく複数の線によって緊張を作る。歌詞では関係を複雑にしてしまう人物の態度が見え、Banksの語り手はその混乱から完全に距離を置けていない。ドラムが強く前へ出るため、内省的な内容でも演奏は停滞せず、むしろ問題の中へ突き進むように聞こえる。タイトル通り、整然と解決するより絡まった状態を維持する曲である。
4. 「Flight of Fancy」
冒頭は比較的余白を取り、Banksの声とギターの反復を聞かせながら進む。やがてドラムとギターが厚くなり、抑えていた感情がサビ周辺で一気に広がる。空想や逃避を思わせるタイトルに対し、演奏には軽さより切迫感があり、現実から自由になるというより、自分の欲望に振り回される人物像が浮かぶ。静かな部分を十分に残すことで、本作の荒い音がより大きく感じられる曲だ。
5. 「Stay in Touch」
低く動くベースと硬いドラムを中心に、暗い空間をゆっくり進む。Banksの歌詞では過去の関係と現在の距離が交錯し、「連絡を取り続ける」という日常的な言葉が未練や支配欲を含んで響く。ギターは大きなリフを鳴らすより、背景へ不穏な音を差し込み続ける。明確なサビで解放する曲ではなく、消えない関係の気配を長く引きずることでアルバム前半を締めている。
6. 「Interlude 1」
短いインストゥルメンタルで、前半の密集したロックから一度耳を離すための区切りとなる。完成された独立曲というより、残響や音色によって次の場面へ移動するための通路に近い。アルバム全体がかなり高い音圧で進むため、この短い余白が後半への切り替えとして効果を持つ。
7. 「Mountain Child」
ドラムの強い推進力とギターの反復によって、再びアルバムを動かす。自然や逃走を思わせるタイトルだが、牧歌的な曲ではなく、都会的な緊張を保ったまま外部への脱出を想像するように進む。Banksの声は比較的伸びやかで、密度の高い演奏の上にも旋律がはっきり残る。前半より少し開けた感触を持ちながら、本作の粗いサウンドからは離れない。
8. 「NYSMAW」
タイトルは「Now You See Me at Work」の頭文字で、仕事や行動の中にいる人物を断片的な言葉で描く。ギターは鋭いフレーズを何度も差し込み、ベースとドラムが一定の速度で押し続けるため、落ち着いて考える余裕のない感覚がある。Banksの歌詞も一つの物語を説明するより場面や言葉を連結し、意味を完全には固定しない。音と言葉の両方がせわしなく動く、後半の緊張を高める曲だ。
9. 「Surveillance」
監視というタイトルに合わせるように、曲全体に誰かの視線から逃れられない緊張がある。Kesslerのギターは旋律を美しく飾るより、短い音を反復して神経質な感触を作り、Fogarinoのドラムがその下から圧力を加える。Banksの語り手にも、見る側と見られる側の境界が曖昧になるような不安がある。Interpolが以前から扱ってきた都会の疎外感を、より現代的な題材へ接続した曲として聞ける。
10. 「Number 10」
短く引き締まった構成で、ギターとドラムの勢いを優先するロック・ナンバーである。冒頭からKesslerのギターが落ち着かず動き、Banksのボーカルが入ると演奏全体がさらに前のめりになる。恋愛関係の駆け引きには冷静さと欲望が同居し、誰が状況を支配しているのか簡単には決まらない。長い展開を作らないことで、本作のライブ感が特に直接伝わる。
11. 「Party’s Over」
題名は祝祭の終わりを告げているが、演奏は静かに後片付けをするようには進まない。太いリズムと歪んだギターが鳴り続け、終わりを理解していても行動を止められない人物のような焦りを作る。歌詞には快楽とその後に来る空虚さが重なり、Marauderという人物像の自己破壊的な面が強く見える。アルバムのテーマを、説教ではなく勢いのあるバンド演奏として表現している。
12. 「Interlude 2」
二つ目の短いインタールードで、終盤の密集した曲群と最後の二曲の間に余白を置く。メロディを展開するというより、音の残響と雰囲気を維持しながら場面を切り替える役割が大きい。アルバムの物語を説明するものではないが、絶えず前進してきたリズムを一度止めることで、次曲の陰影を強めている。
13. 「It Probably Matters」
これまでの強いドラムとギターから少し距離を置き、後悔を思わせる感情へ焦点を移す。タイトルの「たぶん重要なのだろう」という言い方には、自分の行動が相手へ与えた影響を認めながら、それを完全には引き受けきれない人物の曖昧さがある。Banksの歌唱にもいつもの冷静さの下から疲労がにじむ。Marauder的な人物の勢いが失われた後に何が残るのかを見せるような終盤曲だ。
14. 「It Probably Matters (Reprise)」
最後は前曲の素材を短く再提示し、明快な新しい結論を作らずにアルバムを閉じる。独立した楽曲というより余韻であり、それまでの音や感情がまだ完全には消えていないことを示すエピローグとして機能する。自己中心的な人物が突然改心するような終わり方を避け、問題が残った状態で音だけが遠ざかっていくところがMarauderらしい。
総評
Marauderの最大の特徴は、Interpolの整然としたイメージを録音面から崩したことである。初期作品ではKesslerのギター、Denglerのベース、Fogarinoのドラムがそれぞれ明瞭な位置を持ち、冷たい建築物のようなアンサンブルを作っていた。本作ではDave Fridmannが各楽器を接近させ、ドラムの響きやギターの歪みが互いへ食い込むように配置する。結果として、曲そのもの以上に「バンドが鳴っている瞬間」が強く残る。
この録音は好みが分かれる部分でもある。音の分離やKesslerの細かなギターを追いたい場合、密集したミックスは窮屈に感じられる。しかし「The Rover」「Number 10」のような曲では、その窮屈さが演奏の切迫感へ直結する。Carlos Dengler脱退後にBanksが担うようになったベースも、目立つ旋律を弾くというよりギターとドラムを下から押し上げ、3人組としてのInterpolの力学を明確にしている。
歌詞では、従来の謎めいた恋愛や疎外感からさらに一歩進み、問題を作る人物自身へ焦点が移った。Marauderは単純な悪役ではなく、自分の欲望を理解しながら、それでも同じ行動を繰り返す存在として聞こえる。「Party’s Over」から「It Probably Matters」へ進む終盤では、その勢いの後に後悔が残る。こうした人物像と、制御しきれないほど荒れた録音がよく対応している。
初期Interpolの精密さを求めれば、本作は意図的に輪郭を汚したアルバムである。一方、デビューから15年以上を経たバンドが過去のポストパンク的な様式を清潔に再生産するのではなく、演奏の身体性を強めた点には意味がある。Marauderは新しいジャンルへ進んだ作品ではないが、よく知られたInterpolのギター、声、リズムを別の録音美学で乱した。その摩擦こそが、キャリア中盤以降の作品としての個性になっている。
おすすめアルバム
El Pintor by Interpol
2014年の前作。3人体制となったInterpolが、鋭いギターと明瞭なリズムによって自分たちの基本形を再構築した作品である。Marauderと比較すると、Dave Fridmannによる粗く密集した録音がどれほど大きな変化だったかが分かる。
Turn On the Bright Lights by Interpol
2002年のデビュー作。空間を生かした二本のギター、動きの多いベース、張り詰めたドラムで独自のポストパンクを確立した。Marauderの荒い音像と対照的で、同じバンドのアンサンブルが録音によってどう変わるかを比較できる。
Antics by Interpol
2004年作。デビュー作の暗さを残しながら曲を短く整理し、リズムとサビの即効性を高めた。「The Rover」などMarauderのコンパクトなロック曲を好むなら、Interpolのポップな作曲能力がより明瞭な形で聞ける。
Deserter’s Songs by Mercury Rev
1998年作。Dave Fridmannが共同プロデュースを担い、ロック・バンドの演奏へ歪み、奥行き、幻想的な音響を大胆に加えた。音楽性はInterpolと異なるが、整った演奏を独特な録音空間へ変える彼の仕事を理解するうえで興味深い。
Embryonic by The Flaming Lips
2009年作。Dave Fridmannとバンドが、歪んだ低音、飽和したドラム、ノイズを使って意図的に荒いサイケデリック・ロックを作った作品である。Marauderの圧縮されたような音像を、さらに極端な形で味わえる比較対象となる。

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