アルバムレビュー:Independent Worm Saloon by Butthole Surfers

Spotifyジャケット画像

発売日: 1993年3月23日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ノイズロック、グランジ、サイケデリック


カオスは骨太に着地したか——メジャー移籍後の“最もロックなバットホール”

1993年にリリースされたButthole Surfers(バットホール・サーファーズ)の『Independent Worm Saloon』は、
彼らにとって初のメジャー・レーベル(Capitol)からのリリースであり、
過去の破壊的ノイズやサイケデリック実験を経た上での“最もロックらしい”作品として位置づけられる一枚である。

プロデュースを務めたのはJohn Paul Jones(Led Zeppelin
その影響もあり、サウンドはよりタイトで力強く、ギター主導のグランジ/ハードロック寄りの構造美が強調されている。
だが、それでもなおサーファーズらしい皮肉、妄想、バカバカしさ、そして不穏なユーモアは健在。

言うなればこれは、“狂気にスーツを着せてステージに上げたらこうなった”という音の記録
地上へと降りた異星人のような違和感を抱えつつ、90年代オルタナティヴの渦に飛び込んだ瞬間である。


全曲レビュー

1. Who Was in My Room Last Night?

アルバム冒頭にして、彼ら史上最も“ロック的”なシングル曲。
爆音ギターとキャッチーなリフ、破壊的なヴォーカルが一体となった名曲で、MTVでもヘヴィローテーションを獲得。
混乱と快楽の狭間にある“記憶喪失の夜”がテーマ。

2. The Wooden Song

アコースティック・ギターと奇妙なヴォーカルが織りなす、サイケデリック・フォーク調の変化球
美しいようで狂っている、サーファーズ流バラードの新機軸

3. Tongue

ヘヴィでスラッジーなリズムに乗せて、不穏でセクシャルな空気が立ち込める。
“舌”というタイトルがすでに気持ち悪い、ねっとりとした快楽曲。

4. Chewin’ George Lucas’ Chocolate

そのままの意味なら“ジョージ・ルーカスのチョコを噛む”という謎のメタ・ジョーク。
スピード感あるグランジ・パンクと断片的な映像的イメージが交錯する異色ナンバー。

5. Goofy’s Concern

アルバム随一のスラップ・スラッジ・アンセム。
“誰が何を心配してる?”という問いと、笑い声と、爆音ギターが渦を巻く。
まさに“ディズニー×パンク”なイメージの破壊力。

6. Alcohol

タイトル通り、酩酊と暴力の中間をうろつくブルージーなロック
反復と爆発を繰り返し、飲み過ぎた夜のように脳をぐらつかせる。

7. Dog Inside Your Body

アシッドなコード進行とヒステリックなボーカル。
“君の体の中に犬がいる”という一節が、そのままサイケデリックのイメージ詩になっている。

8. Strawberry

短く美しいインストゥルメンタル。
混沌の中にふと現れる“甘さ”のような、小休止的な一曲。

9. Some Dispute Over T-Shirt Sales

タイトルからして笑わせにきているが、内容は意外にも骨太なハードロック。
バンド内トラブルや業界への皮肉をユーモアで包んだメタ楽曲。

10. Dancing Fool

中盤のダンサブル・ノイズポップ的ナンバー。
ダンスと狂気の親和性を露呈させる、不安定なグルーヴが特徴。

11. You Don’t Know Me

ギターとベースの掛け合いがスリリング。
“お前に俺はわからない”という90年代的疎外感の再演

12. The Annoying Song

本当にイライラするメロディと声。
タイトルに偽りなしの“わざと”の繰り返しと不協和音で構成された奇作

13. Dust Devil

不穏でゆったりしたブルース・サイケ。
嵐の前の静けさのようで、砂嵐のように心を削っていく

14. Leave Me Alone

終盤に配置されたメロウなナンバー。
過剰な自己防衛と、静かな怒りが染み出す歌詞と演奏

15. Edgar

エフェクト満載のサウンド・コラージュ。
ストーリーテリングのようで、実際は夢の中の断片のような音響詩。

16. Dust Devil (Reprise)

最後は再び“砂嵐”に戻って幕引き。
アルバム全体が大きなトリップだったことを暗示する、静かな終わり方


総評

Independent Worm Saloon』は、Butthole Surfersがノイズとサイケの迷宮から“構造化された狂気”へと変貌を遂げた、
90年代的オルタナティヴ・ロックの異端的傑作
である。

ギターリフは太く、曲構成は整い、ヴォーカルは“歌”になっている。
だがそこに滲むのは、かつてからのねじれた視線、悪意あるユーモア、そして誰にも似ていない異物感である。

これはロックとして聴けるバットホールだが、
決して普通のバンドではないという気持ち悪さが、最後まできっちりと残る
だからこそ、これは最高に“健全な異常”のアルバムでもあるのだ。


おすすめアルバム

  • The Jesus Lizard – Liar
    鋭利なノイズと暴力的美学の極致。サーファーズの硬質版。
  • Ministry – Psalm 69
    インダストリアル×メタルの極北。90年代オルタナの反骨精神と接続。
  • Melvins – Houdini
    グランジとスラッジの交差点。ジョン・ポール・ジョーンズ繋がりの重低音。
  • Faith No More – Angel Dust
    ジャンル横断と不穏な美学が共鳴する、時代の異端者。
  • Helmet – Meantime
    正確無比なヘヴィリフとノイズの構築。ロックとしての完成形を追求する姿勢が共通。

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