
発売日: 2018年3月16日
ジャンル: インディーロック / シンセポップ / バロックポップ
I’ll Be Your Girlは、The Decemberistsが新たなサウンドに挑戦した、実験的で大胆なアルバムである。シンセサイザーを大々的に取り入れ、1980年代のニューウェーブやシンセポップの影響を感じさせるサウンドが、これまでのフォークやバロックポップ中心のスタイルと一線を画している。
コリン・メロイの文学的で物語性豊かな歌詞は健在でありつつ、サウンド面ではエネルギッシュかつポップなアプローチが目立つ。バンドは、プロデューサーにジョン・コングルトンを迎え、エレクトロニックな要素を大胆に導入することで、これまでにない新しい音楽的領域を切り開いた。本作は、バンドの既存のファンにとって驚きの一枚であると同時に、新しいリスナーを引き込むポテンシャルを秘めている。
トラック解説
1. Once in My Life
アルバムのオープニングを飾るアンセミックなトラック。メロディアスでダイナミックな楽曲は、切実な願いを込めた歌詞が心に響き、バンドの新たなサウンドの方向性を示している。
2. Cutting Stone
ミッドテンポの楽曲で、コリン・メロイの語りかけるようなボーカルが特徴的。シンプルなアレンジの中に、バンドの緻密な演奏が光る一曲。
3. Severed
シンセサウンドとニューウェーブの影響が色濃いトラック。反復的なギターリフとシンセベースが楽曲に緊張感を与え、歌詞の暗さと対比を成すポップな仕上がりが特徴。
4. Starwatcher
ミステリアスでドラマチックなトラック。ストリングスとシンセが調和し、不穏ながらも引き込まれるような雰囲気を作り出している。
5. Tripping Along
柔らかなアコースティックギターを基調とした楽曲。控えめなアレンジがメロイのボーカルを引き立て、アルバム全体の中で穏やかなアクセントとなっている。
6. Your Ghost
ダークでムーディな楽曲。重厚なビートと浮遊感のあるシンセサウンドが、亡霊に追われるような歌詞をドラマチックに演出している。
7. Everything Is Awful
明るいメロディと皮肉たっぷりの歌詞が対照的なトラック。軽快なリズムが耳に残り、ライブでの盛り上がりを想像させる楽曲だ。
8. Sucker’s Prayer
カントリー調のメロディと切ない歌詞が印象的な楽曲。ピアノの響きとバンドのハーモニーが楽曲に温かみを加えている。
9. We All Die Young
アップテンポでエネルギッシュなトラック。シンセポップとロックの要素が融合し、アルバム全体に明るさをもたらしている。
10. Rusalka, Rusalka / Wild Rushes
10分を超える大作で、アルバムの中でも最も野心的な楽曲。ロシアの伝説をモチーフにした物語性豊かな構成と、ダイナミックな音楽展開が聴きどころ。
11. I’ll Be Your Girl
アルバムのタイトル曲で、静かで内省的なバラード。控えめなアコースティックアレンジとメロイの感情的なボーカルが、アルバムを穏やかに締めくくる。
アルバムの背景: 新たな挑戦と進化
I’ll Be Your Girlは、The Decemberistsがこれまでのフォークやバロックポップをベースにしつつも、新たな音楽的領域に踏み出した挑戦的なアルバムである。シンセサウンドの導入や、ジョン・コングルトンによるプロデュースが、バンドのサウンドにフレッシュなエネルギーを与えている。
歌詞面では依然として物語性や詩的な表現が中心だが、サウンドはより現代的でポップなアプローチを取り入れており、The Decemberistsがこれまで積み上げてきた音楽的遺産と、新しい挑戦を見事に融合させている。
アルバム総評
I’ll Be Your Girlは、The Decemberistsが大胆な音楽的進化を遂げた作品である。これまでのファンには驚きと新鮮さを与え、新たなリスナーにとってもバンドの入口となり得る魅力的なアルバムだ。シンセポップやニューウェーブの影響を受けつつも、文学的な歌詞や緻密なアレンジという彼らのアイデンティティはしっかりと保たれている。実験的な一枚でありながらも、随所に聴きやすさが感じられるバランスの良い作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Reflektor by Arcade Fire
シンセサウンドとニューウェーブの影響が色濃いアルバムで、I’ll Be Your Girlと通じるポップな要素が楽しめる。
Masseduction by St. Vincent
ジョン・コングルトンがプロデュースした作品で、エレクトロニックとロックの融合が共通点を持つ。
In Ghost Colours by Cut Copy
シンセポップとインディーロックが融合した作品で、The Decemberistsの新しい方向性と響き合う。
Trouble Will Find Me by The National
シンセサウンドを控えめに取り入れつつ、深い感情を持った楽曲が揃う。
Here Come the Warm Jets by Brian Eno
エクスペリメンタルなシンセサウンドが特徴的な名盤で、I’ll Be Your Girlの実験的な面に共鳴する。
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