アルバムレビュー:I’ll Be Your Girl by The Decemberists

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2018年3月16日

ジャンル:インディーロック、インディーフォーク、シンセポップ、バロックポップ、フォークロック、オルタナティブロック

概要

The Decemberistsの『I’ll Be Your Girl』は、2018年に発表されたスタジオ・アルバムであり、バンドの長いキャリアの中でも特に音楽的な転換色が強い作品である。The Decemberistsは、Colin Meloyを中心にオレゴン州ポートランドで結成され、2000年代初頭から文学的な歌詞、古風なバラッド形式、アコーディオンやオルガンを用いた演劇的なフォーク・サウンドによって独自の地位を築いてきた。デビュー作『Castaways and Cutouts』では、漂流者、兵士、孤児、死者、港町といったモチーフを通じて、インディーフォークに物語性と古い民謡の空気を持ち込んだ。続く『Her Majesty The Decemberists『Picaresque』ではその作風をより洗練させ、『The Crane Wife』では日本の民話を含む長編的構成とプログレッシブな展開を取り入れた。

その後、2009年の『The Hazards of Love』では、ロック・オペラ的な連作形式に挑み、2011年の『The King Is Dead』では、R.E.M.やアメリカーナへの接近を見せ、比較的シンプルで開かれたフォークロック作品を作り上げた。2015年の『What a Terrible World, What a Beautiful World』では、バンドの持つ文学性とポップ感覚をバランスよくまとめたが、同時にThe Decemberistsというバンドが一つの完成されたスタイルに到達していたことも示していた。その後に登場した『I’ll Be Your Girl』は、まさにその定着したイメージを意識的に揺さぶる作品である。

本作の大きな特徴は、シンセサイザーやニューウェーブ的な音色を積極的に導入している点である。The Decemberistsといえば、アコーディオン、フォークギター、オルガン、マンドリン、物語調の歌詞といったイメージが強いが、『I’ll Be Your Girl』では、80年代的なシンセポップ、ダークなエレクトロニック・テクスチャー、反復するビートが前面に出る楽曲が多い。プロデューサーにはJohn Congletonを迎え、従来の温かい室内楽的アンサンブルとは異なる、より硬質で不穏な音像が作られている。

ただし、本作はThe Decemberistsが完全に別のバンドへ変わった作品ではない。Colin Meloyの語りの強さ、皮肉、歴史や寓話への関心、社会の不穏さを物語に変える感覚は、これまでと連続している。変わったのは、その物語を包む音の衣装である。古い港町や民謡的な世界から、終末感を帯びた現代の都市、政治的混乱、メディア的な不安、暗い祝祭へと舞台が移ったような作品である。

『I’ll Be Your Girl』が発表された2018年という時代背景も重要である。2010年代後半のアメリカ社会は、政治的分断、ポピュリズム、不信、社会的怒り、気候不安、情報環境の混乱が強まっていた。本作の歌詞には、直接的な政治スローガンよりも、暗い寓話、破滅の予感、群衆の不安、壊れた祝祭のようなイメージが目立つ。The Decemberistsは、現代社会をニュースの言葉で説明するのではなく、戯画化された人物、終末的な風景、シニカルな物語として描く。その意味で、本作は彼ららしい政治的アルバムともいえる。

タイトルの『I’ll Be Your Girl』は、一見するとロマンティックで親密な響きを持つ。しかし、このアルバム全体を通して聴くと、その言葉には性別の役割、演技、変身、相手に合わせること、関係の中で自分を作り替えることへの皮肉が含まれているように響く。The Decemberistsはこれまでも、歌の中で兵士、殺人者、恋人、亡霊、女王、船員、子どもなど、さまざまな人物に声を与えてきた。ここでの「I’ll be your girl」という宣言も、固定された自分ではなく、歌の中で別の役割を演じることへの意識と関係している。

音楽的には、アルバム全体が従来のThe Decemberists作品よりも重く、暗く、時に奇妙にポップである。「Severed」のような曲では、シンセベースと硬いビートが不穏なニューウェーブ的空気を作り、「Once in My Life」では、悲観的な言葉を巨大な合唱的メロディへ変換する。「We All Die Young」では、ほとんどグラムロックやパワーポップのような大げさな祝祭感があり、「Rusalka, Rusalka / The Wild Rushes」では、バンド本来の民話的・長編的な物語性が濃く現れる。つまり本作は、変化と回帰が同時に存在するアルバムである。

The Decemberistsのディスコグラフィーの中で見ると、『I’ll Be Your Girl』は評価が分かれやすい作品である。初期のフォーク・バラッド的な世界観を好むリスナーにとっては、シンセサウンドの強さや80年代的な音色が違和感を生むかもしれない。一方で、バンドが自己模倣を避け、すでに確立した文学的フォークロックの型を壊そうとした点は重要である。The Decemberistsはこのアルバムで、自分たちの物語性を現代的な不穏さと接続し直そうとしている。

全曲レビュー

1. Once in My Life

アルバム冒頭の「Once in My Life」は、『I’ll Be Your Girl』のテーマを鮮やかに提示する楽曲である。タイトルは「人生で一度くらい」という意味を持ち、歌詞では、せめて一度だけでも物事がうまくいってほしいという願いが歌われる。これは非常に普遍的な感情でありながら、The Decemberistsらしい皮肉と哀愁を含んでいる。

音楽的には、大きく開けたメロディを持つロック・バラードである。曲はゆっくりと始まり、次第に合唱的な高揚へ向かう。Colin Meloyの声は、絶望を抱えながらも、それを共同体的な歌へ変えていく。メロディ自体は明るさを持つが、歌詞には深い疲れがある。この対比が曲の核心である。

歌詞では、人生が何度も期待を裏切る感覚が描かれる。努力しても報われない。希望しても壊れる。祈っても答えがない。それでも「一度くらいは」と願う。この願いは小さく見えるが、実際には非常に切実である。大きな成功や完全な救済ではなく、ただ一度だけでも自分の側に運命が向いてほしいという願いだからである。

この曲は、アルバム全体の不穏な世界に対する入口として重要である。『I’ll Be Your Girl』には、政治的・社会的な暗さ、終末感、変身や役割の混乱が多く含まれるが、その根底には「どうして人生はこうもうまくいかないのか」という素朴な嘆きがある。「Once in My Life」は、その嘆きを壮大なメロディへ変換することで、アルバムの感情的な基盤を作っている。

2. Cutting Stone

「Cutting Stone」は、労働、創造、削り出す行為を連想させるタイトルを持つ楽曲である。石を切るという行為は、硬い素材に形を与えることであり、芸術や労働、あるいは自分自身を変える作業の比喩として読むことができる。The Decemberistsの歌では、手作業や古い職能がしばしば象徴的に用いられるが、この曲でもその感覚がある。

音楽的には、やや重く、硬質なサウンドを持つ。従来のフォーク的な柔らかさよりも、リズムと音色に角があり、アルバムの新しい方向性を示している。シンセやエレクトリックな質感が、石を削るような反復性と冷たさを生んでいる。

歌詞では、何かを形作ろうとすることの困難さが感じられる。石は簡単には変わらない。人間の性格、社会の構造、過去の傷も同じように硬い。切るには力と時間が必要であり、時には自分自身も傷つく。曲のタイトルは、そうした変化の重さを象徴している。

「Cutting Stone」は、アルバムの中では大きな物語曲ではないが、音楽的な質感の面で重要である。The Decemberistsが従来の木や紙や海のイメージから、より硬く冷たい現代的な素材へ移行していることが感じられる。アルバムの不穏な空気を支える一曲である。

3. Severed

「Severed」は、本作の中でも最も大胆な変化を示す楽曲であり、アルバムを象徴する一曲である。タイトルは「切断された」という意味を持ち、身体的な暴力、関係の断絶、社会の分断、自己の分裂を連想させる。The Decemberistsの歌詞にはもともと暴力や死のモチーフが多いが、この曲ではそれがフォーク・バラッドではなく、ダークなシンセロックとして提示される。

音楽的には、重いシンセベースと硬いビートが前面に出ており、従来のThe Decemberistsのイメージから大きく離れている。ニューウェーブ、ポストパンク、ダークポップの要素が強く、曲全体に機械的な不穏さがある。Meloyの声も、物語の語り部というより、冷たい宣告を行う人物のように響く。

歌詞では、切断、権力、暴力、支配のイメージが重なる。具体的な物語として一つに固定するよりも、政治的・社会的な寓話として読むほうが自然である。何かが切り離され、共同体が壊れ、言葉や身体が分断されていく。2010年代後半のアメリカ社会の分断を、The Decemberistsらしい暗い寓話に変換した曲といえる。

「Severed」が重要なのは、バンドが過去の形式に頼らず、不穏な時代を新しい音で表現しようとしている点である。もし同じ内容をアコーディオンとアコースティック・ギターで歌っていたら、単なるThe Decemberistsらしい物語曲に収まっていたかもしれない。しかし、この曲では電子的な音色が、現代的な冷たさと暴力性を強めている。

本作の中でも最も賛否を生みやすい曲だが、『I’ll Be Your Girl』の挑戦を理解するうえで欠かせない楽曲である。

4. Starwatcher

「Starwatcher」は、星を見る者というタイトルを持ち、天体、観察、遠い世界への憧れを連想させる楽曲である。The Decemberistsは地上の港町や歴史的な人物を描くことが多いが、この曲では視線が空へ向かう。星を見ることは、現実から距離を取り、より大きな時間や宇宙の中で自分の位置を考える行為でもある。

音楽的には、リズムに推進力があり、シンセサイザーとギターが混ざったサウンドが特徴である。曲には少し幻想的な空気があり、タイトルの通り夜空を見上げるような広がりを持つ。ただし、完全に穏やかな曲ではなく、どこか焦燥感もある。

歌詞では、星を見る者の孤独や、遠くの光に何かを託す感覚が描かれる。星は美しいが、手には届かない。遠くのものを見つめることは、希望であると同時に、現在の自分の場所への不満を示すことでもある。The Decemberistsらしく、ロマンティックなイメージの裏には、現実からの疎外感がある。

「Starwatcher」は、アルバムの中で宇宙的な視野を加える曲である。社会的な断絶や不穏さが強い本作において、星を見る行為は、混乱した地上から一時的に離れるための方法として機能する。しかし、星を見ても問題は解決しない。その届かなさが、曲に哀愁を与えている。

5. Tripping Along

「Tripping Along」は、軽やかなタイトルを持つ楽曲であり、アルバムの中では比較的親しみやすく、フォークポップ的な響きを持つ。タイトルは「軽く歩いていく」「つまずきながら進む」といった意味に読める。人生を完璧に進むのではなく、少しよろめきながらも進んでいく感覚がある。

音楽的には、アコースティックな質感とメロディの柔らかさがあり、The Decemberistsの従来のフォークロック的な側面が戻ってくる。前半のシンセ色が強い楽曲に比べると、温かく、聴きやすい。アルバムの流れの中で、少し息をつかせる役割を持つ。

歌詞では、旅や歩行のイメージを通じて、人生の不確実さが描かれる。完璧な目的地に向かうのではなく、途中で転び、迷いながらも進む。これはThe Decemberistsの多くの物語に共通する感覚である。彼らの登場人物たちは、英雄的に勝利するというより、奇妙な道を進み、時に失敗しながら、歌の中に残る。

「Tripping Along」は、アルバムの中で比較的軽やかな曲だが、その軽さは重要である。暗い曲や不穏な曲が多い本作において、よろめきながらも進むという感覚は、小さな希望として響く。大きな救済ではなく、足取りの不安定な前進。そこにThe Decemberistsらしい人間味がある。

6. Your Ghost

「Your Ghost」は、幽霊をめぐる楽曲であり、The Decemberistsにとって非常に相性のよい主題を扱っている。タイトルは「あなたの幽霊」を意味し、亡くなった人の存在、あるいは関係が終わった後も残る相手の記憶を示している。The Decemberistsの作品では、死者や亡霊はしばしば語り手として登場するが、この曲では、幽霊は記憶としてつきまとう存在に近い。

音楽的には、暗めのトーンを持つインディーロックであり、シンセやギターが薄い霧のような空気を作る。曲全体に冷たい余韻があり、タイトルの幽霊性とよく合っている。Meloyの声も、距離のある相手に語りかけるように響く。

歌詞では、相手がいなくなった後も、その存在が消えない感覚が描かれる。幽霊とは、実際の死者だけではない。終わった恋愛、過去の自分、壊れた約束、失った時間もまた、幽霊のように人に取り憑く。The Decemberistsは、その記憶の残存を、ゴシックなイメージで表現している。

「Your Ghost」は、アルバムの中で過去との関係を担う曲である。『I’ll Be Your Girl』は新しい音を取り入れた作品だが、The Decemberistsの根本にある死者への関心、記憶の不気味さ、失われたものへの語りかけは変わっていない。この曲は、その連続性を示している。

7. Everything Is Awful

Everything Is Awful」は、本作の中でも最も露骨に時代の気分を表す楽曲である。タイトルは「すべてが最悪だ」という意味であり、現代の不安、政治的混乱、社会的疲労、日常的な絶望を非常にストレートに言い切っている。The Decemberistsとしては珍しいほど直接的な表現だが、曲調には皮肉な明るさがある。

音楽的には、明るく弾むようなポップソングである。メロディは軽快で、ほとんど陽気に聴こえる。しかし歌われている内容は、すべてがひどいという嘆きである。この明るさと絶望の組み合わせが、曲に強い皮肉を与えている。

歌詞では、世界のあらゆることが悪化しているように感じる状態が描かれる。政治、社会、個人の生活、未来への不安。具体的な説明よりも、圧倒的な疲労感が前面に出る。現代人が日々感じる「もう何もかもひどい」という感覚を、The Decemberistsはあえて単純な言葉で歌う。

この曲の重要な点は、絶望をコミカルに処理していることにある。深刻な時代に、深刻な顔で絶望を語るだけではなく、ほとんど笑えるほど明るい曲調で「すべてが最悪」と歌う。この皮肉な祝祭性は、The Decemberistsの演劇的な性格とよく合っている。

「Everything Is Awful」は、『I’ll Be Your Girl』の時代性を最も分かりやすく示す楽曲である。暗い時代を、暗い音だけでなく、陽気な絶望として表現する。そのねじれが、曲の魅力である。

8. Sucker’s Prayer

「Sucker’s Prayer」は、本作の中でも特にメロディアスで、切実な感情を持つ楽曲である。タイトルは「愚か者の祈り」と訳せる。ここでの「sucker」は、騙されやすい者、負け続ける者、不器用に希望を持ってしまう者を指す。祈りという言葉が加わることで、愚かさと信仰、希望と自己嫌悪が結びつく。

音楽的には、フォークロックとポップのバランスがよく、アルバムの中でも聴きやすい曲である。メロディには哀愁があり、コーラスは開かれている。シンセ色の強い曲が多い本作において、この曲はThe Decemberistsの伝統的な叙情性を感じさせる。

歌詞では、絶望の中でなお祈ってしまう人間の姿が描かれる。自分が愚かだと分かっていても、何かがよくなることを願う。何度も裏切られても、また信じてしまう。この感覚は「Once in My Life」とも響き合っている。どちらの曲にも、人生が思い通りにならない中で、なお希望を手放せない人間がいる。

「Sucker’s Prayer」は、本作の中で感情的な核の一つである。皮肉や不穏さが目立つアルバムだが、この曲では、より素直な弱さが表れる。The Decemberistsの物語的な装飾の奥にある、人間の単純で切実な願いが聴こえる。

9. We All Die Young

「We All Die Young」は、タイトルからして終末的でありながら、曲調は奇妙な祝祭感を持つ楽曲である。「私たちは皆、若くして死ぬ」という言葉は悲劇的だが、曲はそれを大げさで劇場的なロックとして鳴らす。The Decemberistsらしい黒いユーモアが強く出た曲である。

音楽的には、グラムロックやパワーポップのような派手さがあり、コーラスは非常に大きい。重いテーマを、ほとんど演劇的なショーとして提示する構成である。曲の明るさと歌詞の死の意識が強く対比されている。

歌詞では、死の避けがたさが歌われる。人は誰でも死ぬ。しかも、どれほど長く生きても、人生は過ぎてしまえば短い。だから「若くして死ぬ」という表現は、実年齢の問題ではなく、人生そのものの短さを示しているとも読める。

この曲の魅力は、死を深刻に沈み込むのではなく、過剰なロックの祝祭として扱う点にある。The Decemberistsは、死を恐怖としてだけでなく、民謡や劇場の中で歌い継がれるものとして捉えている。「We All Die Young」は、その伝統を現代的なロックの形で表現した曲である。

10. Rusalka, Rusalka / The Wild Rushes

「Rusalka, Rusalka / The Wild Rushes」は、本作の中で最もThe Decemberistsらしい長編的・民話的な楽曲である。Rusalkaはスラヴ民間伝承に登場する水の精霊、しばしば水死した女性や人を水へ引き込む存在として描かれる。The Decemberistsは、こうした民話的素材を非常に得意としており、この曲ではバンド本来の物語性が濃く表れている。

音楽的には、長尺で展開のある構成を持つ。前半は水辺の不穏な物語として進み、後半の「The Wild Rushes」では、より広がりのあるフォークロック的な展開へ向かう。アルバム全体の中で、シンセポップ的な曲とは異なり、古いThe Decemberistsの叙事詩的な感覚が戻ってくる。

歌詞では、水、誘惑、死、変身、自然の力が描かれる。Rusalkaは美しくも危険な存在であり、愛と死が結びついている。The Decemberistsの物語世界では、水辺はしばしば境界の場所である。生者と死者、現実と神話、欲望と破滅の境目として機能する。

この曲は、『I’ll Be Your Girl』における過去のThe Decemberistsとの接点として重要である。新しい音に挑んだアルバムの中で、バンドが本来持っていた民話的・長編的な語りを改めて提示している。初期作品や『The Crane Wife』を好むリスナーにとっては、本作中でも特に強く響く曲だろう。

「Rusalka, Rusalka / The Wild Rushes」は、The Decemberistsが単にシンセサウンドへ移行したのではなく、古い物語形式と新しい音像を同じアルバム内で共存させようとしていたことを示す重要曲である。

11. I’ll Be Your Girl

アルバムを締めくくる表題曲「I’ll Be Your Girl」は、作品全体の不思議な余韻をまとめる楽曲である。タイトルは親密な愛の申し出のようでありながら、どこか演技的で、性別や役割の入れ替わりを感じさせる。The Decemberistsは常に歌の中で別の人物になってきたバンドであり、この曲はその変身の感覚をタイトルにまで押し出している。

音楽的には、比較的静かで、アルバムの終曲らしい落ち着きがある。シンセ色の強さよりも、メロディと声の余韻が中心にある。派手な結末ではなく、少し不安定で親密な空気の中でアルバムは閉じられる。

歌詞では、相手のために別の存在になろうとする感覚が描かれる。ここには、献身、変身、関係の中で自分を差し出すことへの甘さと危うさがある。「君の女の子になる」という言葉は、単純なラブソングとしても読めるが、Colin Meloyが歌うことで、性別の役割や歌の中の仮面への意識が強くなる。

この曲は、アルバム全体に流れる「演じること」の主題と結びついている。The Decemberistsの歌では、語り手は常に誰か別の人物になり得る。兵士にも、幽霊にも、少女にも、精霊にも、愚か者にもなれる。表題曲は、その変身能力を静かに宣言しているように響く。

「I’ll Be Your Girl」は、アルバムの終わりとして明確な解決を与えない。むしろ、関係の中で人はどのような役を演じるのか、自分とは何なのかという問いを残す。『I’ll Be Your Girl』という作品は、この曖昧さの中で閉じられる。

総評

『I’ll Be Your Girl』は、The Decemberistsのディスコグラフィーの中でも、最も意識的に変化を試みたアルバムの一つである。バンドの代名詞であったアコースティックで古風なフォーク・バラッドの世界を一度距離化し、シンセポップ、ニューウェーブ、ダークなエレクトロニック・サウンドを取り入れることで、現代的な不穏さを表現しようとしている。これは単なる音色の変更ではなく、The Decemberistsの物語世界を2010年代後半の社会的空気に接続し直す試みである。

本作の魅力は、明るさと暗さ、皮肉と祈り、演劇性と時代性が混ざり合っている点にある。「Everything Is Awful」は、すべてが最悪だという時代感覚を陽気なポップソングとして歌い、「Severed」は社会の分断や暴力を冷たいシンセロックとして鳴らす。一方で、「Sucker’s Prayer」や「Once in My Life」には、どれほど状況が悪くても希望を捨てられない人間の弱さがある。The Decemberistsは、絶望をただ暗く描くのではなく、奇妙な祝祭や演劇に変える。

歌詞の面では、初期作品ほど古風な物語に徹しているわけではないが、The Decemberistsらしい寓話性は残っている。Rusalkaのような民話的存在、幽霊、星を見る者、愚か者、切断された者たちが登場し、それぞれが現代社会の不安や人間関係の不安定さを映し出す。Colin Meloyは、直接的な政治批評よりも、奇妙な人物やイメージを通じて時代を描く作家である。本作でもその特質は保たれている。

一方で、『I’ll Be Your Girl』は、The Decemberistsの最高傑作として語られるタイプの作品ではない。『Picaresque』や『The Crane Wife』のような物語構成の完成度、『The King Is Dead』のような自然なフォークロックの統一感と比べると、本作は意図的にばらつきがある。シンセポップ的な曲と、従来型の長編フォーク曲が並ぶため、アルバムとしての統一感は聴き手によって評価が分かれるだろう。

しかし、そのばらつきこそが本作の時代性でもある。2010年代後半の世界は、きれいに整理された物語では捉えにくいものだった。政治的な怒り、情報疲れ、終末感、皮肉、疲労、奇妙な希望が同時に存在していた。『I’ll Be Your Girl』は、その混乱をアルバムの構造そのものに取り込んでいる。整いすぎていないことが、むしろこの作品のリアリティになっている。

音楽的には、John Congletonのプロダクションによって、従来のThe Decemberistsよりも硬く、暗く、人工的な質感が加わっている。これは、バンドのファンにとっては違和感となる場合もあるが、同時にThe Decemberistsが自己模倣を避けた証でもある。長いキャリアを持つバンドにとって、自分たちの「らしさ」は強みであると同時に檻にもなる。本作は、その檻を壊そうとした作品である。

日本のリスナーにとって本作は、The Decemberistsの入門作としてはやや変則的かもしれない。初めて聴く場合は、『Castaways and Cutouts』や『Picaresque』『The Crane Wife』のほうが、バンド本来の文学的フォークロックの魅力を分かりやすく伝える。一方で、『I’ll Be Your Girl』は、The Decemberistsが単に古風な物語を歌うバンドではなく、時代の空気に応じて自分たちの音を変化させるバンドであることを示している。

総じて『I’ll Be Your Girl』は、不穏な時代におけるThe Decemberistsの変身のアルバムである。すべてが最悪に見える世界で、愚か者はまだ祈り、幽霊はまだつきまとい、水の精霊はまだ人を呼び、語り手は相手のために別の存在になろうとする。シンセサイザーの冷たい光の中でも、The Decemberistsの物語は消えていない。むしろ別の衣装をまとい、暗い時代の寓話として鳴っている。

おすすめアルバム

1. The Decemberists – Picaresque(2005)

The Decemberistsの物語性とインディーフォーク的な魅力が高い完成度で結実した代表作である。海洋譚、戦争、恋愛、政治的皮肉、長編的な楽曲構成がバランスよく配置されており、『I’ll Be Your Girl』の変化を理解するためにも、まずバンドの古典的な作風を知るうえで重要である。

2. The Decemberists – The Crane Wife(2006)

日本の民話「鶴の恩返し」を題材にした楽曲を含む、The Decemberistsの野心的な作品である。プログレッシブ・ロック的な展開、長編物語、フォークとロックの融合が特徴で、「Rusalka, Rusalka / The Wild Rushes」に通じる民話的・叙事詩的な側面を理解するうえで欠かせない。

3. The Decemberists – The King Is Dead(2011)

The DecemberistsがR.E.M.的なアメリカーナ/フォークロックへ接近した作品であり、バンドの中では最も簡潔で開かれたサウンドを持つ。『I’ll Be Your Girl』のシンセ色とは対照的だが、バンドが時期ごとに音楽性を変化させる姿勢を知るうえで重要である。

4. The Decemberists – What a Terrible World, What a Beautiful World(2015)

『I’ll Be Your Girl』の前作にあたり、バンドの文学性、フォークロック、ポップ感覚が比較的バランスよくまとまった作品である。ここで一度The Decemberistsらしい作風を整理した後、本作でより大胆な変化へ向かった流れが分かる。

5. Arcade Fire – Reflektor(2013)

インディーロック・バンドが既存のサウンドを拡張し、シンセ、ダンス、ニューウェーブ的な要素を取り入れながら、現代社会の不安や自己演出を描いた作品である。The Decemberistsとは音楽性は異なるが、『I’ll Be Your Girl』におけるバンドの変身、演劇性、時代の不穏さとの接続という点で関連性が高い。

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