1. 歌詞の概要
「Human Cannonball」は、アメリカのアヴァンギャルド・ロックバンド、Butthole Surfers(バットホール・サーファーズ)が1987年にリリースしたアルバム『Locust Abortion Technician』に収録された楽曲であり、ノイズとユーモア、破壊衝動とカルト的美学が混在する、彼らの中でも特に“聴ける”部類に入る異色のロックトラックである。
タイトルの「Human Cannonball(人間大砲)」とは、サーカスなどで使われる文字通り“大砲から発射される人間”というアクトを意味するが、この楽曲ではそれが**比喩的に、“自ら破滅に飛び込んでいく存在”、“制御不能の衝動”**として描かれている。
歌詞は非常に簡潔かつ反復的で、具体的な物語を語るというよりは、状態や欲望、テンションそのものを音と共に投げつけるような構造を持つ。そのため、聴き手はこの曲を「意味を理解する」のではなく、「体感する」ことを求められるのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Human Cannonball」が収録された『Locust Abortion Technician』は、Butthole SurfersがインディーズのレーベルTouch and Goから発表した3作目のスタジオ・アルバムであり、当時のアメリカ・アンダーグラウンドシーンにおいて最も過激で挑戦的な作品の一つとして知られる。
このアルバムは、バンドがテキサス州の民家のガレージを改造したスタジオでDIY的に録音されたもので、プロデューサーやエンジニアを排し、自分たちだけのサウンドと方法論で作り上げた純粋なカオスである。全体を通じて、ノイズ、スラッジ、サイケデリック、カントリー、デスロックなどが目まぐるしく交錯する中、「Human Cannonball」は比較的ストレートな構成とリズムで聴きやすく、ライブでも人気の高い楽曲として知られている。
ギターリフはヘヴィでキャッチー、ドラムは硬質かつ反復的、そしてギブby・ヘインズのヴォーカルは、怒りとも喜びともとれないヒステリックなテンションに満ちており、その異様さが一種の中毒性を生み出している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
英語原文:
“I’m a human cannonball
I’m a human cannonball
I’m a human cannonball
I’m a human cannonball”
日本語訳:
「俺は人間大砲だ
俺は人間大砲だ
俺は人間大砲だ
俺は人間大砲だ」
引用元:Genius – Human Cannonball Lyrics
これ以上なくシンプルなリリックではあるが、その反復が自己暗示、あるいは破壊衝動の暴走のように響く。人間でありながら“武器”として扱われる感覚、自分自身を世界へぶつけるための存在として再定義するその狂気的発想は、自己破壊と自己表現の極地としても読むことができる。
4. 歌詞の考察
「Human Cannonball」は、Butthole Surfersが持つパフォーマティブな“狂気”と、ラディカルな身体性の象徴として機能する楽曲である。
“俺は人間大砲だ”という宣言は、シンプルに見えて、その背景には社会や自己、感情といったものを言語化することの無意味さへの反抗がある。言葉よりも行為を、思考よりも爆発を。そうした感性が、この曲の構造にも宿っている。
ここでは、「飛ばされる」という行為が、受動的なものではなく能動的な破壊行為として描かれている。それは、ただ世界にぶつかっていく衝動そのもの。「準備はいいか?」などという前置きは不要で、すでに発射されることが宿命づけられた存在として、語り手は自らを「人間大砲」と宣言するのだ。
また、この“飛び出していく”というテーマは、ライブパフォーマンスにも共通しており、Butthole Surfersのコンサートがしばしば“儀式”や“儀礼的暴力”として語られる理由のひとつでもある。音楽とは身体そのものであり、音を介して世界と衝突するための装置であるという信念が、この曲に凝縮されている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “TV Eye” by The Stooges
野性的で原初的なエネルギーがむき出しのガレージパンクの傑作。 - “New York’s Alright If You Like Saxophones” by Fear
アイロニーと暴力性が交差する、ラフで混沌としたパンクロック。 - “Institutionalized” by Suicidal Tendencies
個人的な不安と社会的な矛盾をヒステリックに吐き出すクロスオーバー・スラッシュ。 - “Jesus Built My Hotrod” by Ministry(feat. Gibby Haynes)
ギブby本人が参加した、インダストリアルとサイコビリーの狂気的融合。 - “Too Drunk to Fuck” by Dead Kennedys
自暴自棄と皮肉のなかにある“自己放棄的カタルシス”の名曲。
6. 破壊衝動と生存本能の交錯点としてのロック
「Human Cannonball」は、Butthole Surfersの美学を最も単純明快な形で伝える楽曲のひとつである。
そこには、社会への不信も、自己への執着も、形式への敬意もない。ただあるのは、
「自分という肉体を爆発的に外へ投げ出したい」という衝動のみ。
この楽曲が今なお“聴ける”のは、
それが時代を問わず人間が抱える、
制御不能の生への欲望と死への誘惑を象徴しているからかもしれない。
飛ぶ先がどこかもわからない。着地できる保証もない。
それでも「俺は人間大砲だ」と叫ぶこの曲は、
現代社会の“安全な狂気”に対する、最も痛烈なアンチテーゼなのだ。
コメント