発売日: 2016年9月2日
ジャンル: インディー・ロック、ポストロック、ドキュメンタリー・ポップ、アート・ロック
『Going, Going…』は、The Wedding Presentが2016年に発表した通算9作目のスタジオ・アルバムであり、
音楽、映像、言葉を融合した“マルチメディア・ロードムービー・アルバム”という野心的コンセプト作である。
アメリカ横断をテーマに、20曲からなる構成はそれぞれに楽曲＋映像を対応させた短編映画のような作品群となっており、
一聴して“いつものWedding Present”とは違う――
だが聴き進めるうちに、これはまさしく**「デヴィッド・ゲッジという人物の心象風景をアメリカの地形に投影した私的地図」**であることが分かってくる。
本作は、バンド初のインストゥルメンタル楽曲を導入したアルバムでもあり、
ポストロック的構成、ロードムービー的ストーリーテリング、
そして恋愛の残響を“風景”として描く叙情性が見事に結びついている。
全曲レビュー（抜粋）
1. Kittery
アルバムの幕開けは、ノスタルジックで静かなインストゥルメンタル。
メイン州キッタリーの名を冠し、まるで旅の始まりに立つ日の早朝のような空気感をまとっている。
2. Greenland
ノイズギターと女性ヴォーカルが交錯する、スローコア的な一曲。
遠く離れたグリーンランドという地名が、**心の“到達できない場所”**を象徴する。
3. Marblehead
反復されるギター・パターンと海辺を思わせるサウンドスケープが印象的。
まるで波打ち際で独り言を呟くような、静かな情動を湛えている。
4. Sprague
初期Wedding Presentを思わせるパンク調の短編。
突然のテンションの高まりは、旅の途中にある感情の噴出のよう。
5. Two Bridges
本作の核心の一つ。
男女のヴォーカルが交錯し、“一緒にいても孤独”という関係性の断絶と微細な再接続を描く。
ミドルテンポの美しいメロディに、言葉にならない対話が流れている。
6. Little Silver
ゲッジらしい鋭い観察眼が光る一曲。
“小さなこと”が積もって関係が崩れる様子を、淡々と語る冷たさと鋭さが痛烈。
7. Bear
本作中でもっとも轟音ギターが炸裂するナンバー。
獰猛なタイトルとは裏腹に、“心の傷を暴かれる”ような切実な内容を含む。
8. Emporia
一転して静謐なインストゥルメンタル。
カンザス州エンポリアという地名にふさわしく、空と地平線だけが広がるような構成。
9. Lead
恋愛の“主導権”がテーマ。
語りと演奏の緊張が交錯し、関係性の中で自分を見失っていく恐怖が描かれる。
10. Rachel
本作で最もストレートな歌詞が登場する、“別れを認めた瞬間”の記録。
情熱ではなく諦念が支配する楽曲であり、過去のWedding Presentのどの失恋曲よりも静かで深い。
11〜20. Santa Monica〜Santa Monica (Reprise)
旅は終わり、西海岸へたどり着く。
**“海に着いたからといって、答えがあるわけじゃない”という含意を持った静かなエピローグ群。
再び“サンタモニカ”に戻ることで、アルバム全体が「回帰」ではなく「変質した自己との再会」**として完結する。
総評
『Going, Going…』は、The Wedding Presentのキャリアの中でも異色かつ野心的なコンセプト作品であり、
“デヴィッド・ゲッジがアメリカを横断しながら、かつての恋と自分自身の欠片を拾い集めるようなアルバム”である。
サウンドはポストロック的な構造を取り入れながら、
一方でバンドとしてのアンサンブルの躍動感と、ゲッジの私小説的語り口は健在。
映像作品と連動したプロジェクトであるがゆえに、視覚的な情景と音楽が結びつく体験をもたらしてくれる。
本作は、単なるアルバムではなく、
**ひとりの人間が喪失と記憶と風景を音に変えて紡いだ“情動のロードトリップ”**と呼ぶにふさわしい。
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Explosions in the Sky / The Earth Is Not a Cold Dead Place
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風景のなかで、喪失と静かに向き合う音楽詩。
特筆すべき事項
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本作は**全20曲すべてに映像を付けた「オーディオ・ビジュアル・アルバム」として構成され、
音楽作品であると同時に、「旅する詩人の映像エッセイ」**としても高く評価された。 -
インストゥルメンタル楽曲の導入、男女ツインボーカル構成、ポストロック的構成など、
これまでのWedding Present像を大胆に刷新した試みが随所に見られる。 -
本作は批評家からも非常に高い評価を受け、
「キャリア最晩年での最高傑作」との声も多く、ゲッジの作家性と音楽的再発明を証明した。
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