
発売日:1987年10月12日
ジャンル:インディー・ロック、ジャングル・ポップ、ポスト・パンク、C86、ギター・ポップ
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Everyone Thinks He Looks Daft
- 2. What Did Your Last Servant Die Of?
- 3. Don’t Be So Hard
- 4. A Million Miles
- 5. All This and More
- 6. My Favourite Dress
- 7. Shatner
- 8. Something and Nothing
- 9. It’s What You Want That Matters
- 10. Give My Love to Kevin
- 11. Anyone Can Make a Mistake
- 12. You Can’t Moan, Can You?
- 13. All About Eve
- 14. Getting Nowhere Fast
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. The Wedding Present – Bizarro
- 2. The Smiths – The Queen Is Dead
- 3. Orange Juice – You Can’t Hide Your Love Forever
- 4. C86 – Various Artists
- 5. The Pastels – Up for a Bit with The Pastels
概要
The Wedding Presentのデビュー・アルバム『George Best』は、1980年代後半のイギリス・インディー・ロックを語るうえで欠かせない作品である。1987年に発表された本作は、マンチェスター・ユナイテッドの伝説的サッカー選手ジョージ・ベストの名を冠しながらも、内容はスポーツ賛歌ではなく、恋愛の失敗、嫉妬、未練、屈辱、すれ違いを、猛烈なギター・ストロークと早口のヴォーカルで描き出すアルバムである。タイトルに著名なフットボーラーの名前を使うセンスも含め、The Wedding Presentらしい皮肉、日常性、英国的な不器用さが端的に表れている。
The Wedding Presentは、David Gedgeを中心にリーズで結成されたバンドである。彼らの音楽は、The Smiths以降の英国インディー・ギター・ポップの流れに位置づけられることが多いが、The Smithsのような流麗なメロディや文学的な身振りとは異なり、より粗く、速く、切迫している。Johnny Marr的な繊細なギター・アルペジオではなく、ひたすら掻き鳴らされるリズム・ギターが楽曲の中心にあり、その音はしばしばパンクに近い攻撃性を持つ。一方で、歌詞の題材は社会的な反抗よりも、非常に個人的で小さな感情に向けられている。この落差こそが、The Wedding Presentの重要な個性である。
1980年代半ばのイギリスでは、メジャーなポップ・ミュージックの華やかさとは別に、インディー・レーベルを中心としたギター・バンドの文化が形成されていた。C86と呼ばれるムーブメントはその象徴であり、DIY精神、素朴な録音、 jangly guitar の響き、反スター的な佇まいを特徴としていた。The Wedding Presentはしばしばこの文脈で語られるが、彼らのサウンドはC86的な可憐さだけでは説明できない。『George Best』には、ジャングル・ポップの明るいギター音と、ポスト・パンク由来の硬質なリズム、そしてパンクの速度感が同居している。
本作の最大の特徴は、恋愛を美化しない姿勢にある。収録曲の多くは、終わった関係、うまくいかない関係、相手に対する嫉妬や苛立ち、別れた後の未練を扱っている。しかし、それらは大仰な悲劇として語られない。David Gedgeの歌詞は、非常に会話的で、時にみっともなく、時に自己中心的で、時に驚くほど率直である。恋愛における格好悪さを隠さず、むしろその格好悪さを観察することで、The Wedding Presentは従来のロック的なロマンスから距離を取った。
音楽的にも、『George Best』は恋愛の混乱をそのままテンポと音圧に変換したような作品である。ギターは常に前のめりで、リズムは急かすように進み、ヴォーカルは感情を整える前に言葉を吐き出す。曲によってはメロディが甘くなる瞬間もあるが、それは長く続かない。すぐにギターの嵐が感傷を押し流し、楽曲は次の不満、次の後悔、次の不器用な告白へと向かう。この速度感は、失恋後の思考が止まらない状態、あるいは同じ記憶を何度も反復してしまう心理と深く結びついている。
後の音楽シーンへの影響も大きい。The Wedding Presentの高速ストローク、日常的な恋愛描写、反英雄的なヴォーカル・スタイルは、1990年代以降の英国インディー、エモ、ローファイ・ギター・ポップ、さらには日本のギター・ポップ系バンドにも間接的な影響を与えた。彼らはロック・スター的なカリスマを拒み、個人的で些細な感情を、非常に激しいサウンドで鳴らす方法を示した。『George Best』はその原点であり、The Wedding Presentの美学が最も無骨で鮮烈な形で表れたアルバムである。
全曲レビュー
1. Everyone Thinks He Looks Daft
オープニング曲「Everyone Thinks He Looks Daft」は、『George Best』全体の語り口を端的に示す楽曲である。タイトルからして、恋愛の相手やその新しい恋人に対する嫉妬、皮肉、負け惜しみがにじんでいる。「みんな彼のことを間抜けに見えると思っている」というような言い回しには、客観的な批評というより、失恋した側の屈折した自己防衛がある。
音楽的には、The Wedding Presentらしい高速ギター・ストロークが最初から全開で鳴らされる。ギターは旋律を優雅に飾るというより、感情の苛立ちを物理的な振動に変える役割を担っている。ドラムも軽快でありながら前のめりで、曲全体は短い時間の中を一気に駆け抜ける。ここには、パンク以降の切迫感と、インディー・ポップのメロディ感覚が同時に存在している。
歌詞では、別れた相手への未練と、新しい相手への対抗心が絡み合う。主人公は相手を忘れたわけではなく、むしろ忘れられないからこそ、新しい恋人を貶めることで自尊心を保とうとしている。この心理は決して立派ではないが、非常に人間的である。The Wedding Presentは、恋愛における格好悪さを隠さない。アルバムの冒頭から、その姿勢が明確に打ち出されている。
2. What Did Your Last Servant Die Of?
「What Did Your Last Servant Die Of?」は、タイトルの皮肉な響きが印象的な楽曲である。この言い回しは、相手が自分に何かを当然のように求めることへの反発を示している。恋愛関係における不満、役割の押しつけ、相手のわがままに対する苛立ちが、非常に英国的な皮肉を通じて表現されている。
サウンドは鋭く、リズムはせわしない。The Wedding Presentのギターは、ここでも休むことなく刻まれ、楽曲に神経質な緊張感を与える。一般的なギター・ポップであれば、メロディの甘さやコード進行の美しさが前面に出るが、この曲ではむしろ摩擦が中心にある。ギターの音は、恋人同士の会話が噛み合わず、次第に口論へ変わっていくような感覚を作り出す。
歌詞の主題は、恋愛の中で生じる不公平感である。片方だけが尽くしている、片方だけが我慢している、あるいは相手に都合よく扱われているという感覚は、The Wedding Presentの歌詞に頻出する。この曲では、それがユーモラスな言い回しによって描かれるため、重苦しい告発にはならない。しかし、その軽さの奥には、関係の崩壊を予感させる不満が確実に存在している。
3. Don’t Be So Hard
「Don’t Be So Hard」は、タイトルからも分かるように、相手に対して少し柔らかく接してほしいという願いを含んだ楽曲である。ただし、ここでの懇願は素直な優しさだけでできているわけではない。そこには、言い訳、自己弁護、傷ついた自尊心、相手への依存が混じっている。The Wedding Presentの恋愛描写は、常に複数の感情が絡み合っており、単純な愛の告白にはならない。
音楽的には、勢いのあるギター・サウンドの中に、ややメロディアスな表情が見える。David Gedgeのヴォーカルは、技巧的に歌い上げるというより、話し言葉をそのままリズムに乗せたようなスタイルである。そのため、歌詞は抽象的な詩ではなく、実際の口論や弁解の延長のように響く。これはThe Wedding Presentの大きな特徴であり、聴き手に非常に近い距離感を与える。
歌詞では、関係がうまくいかない中で、相手からの厳しい態度に耐えかねる人物像が浮かび上がる。しかし、この主人公が完全に被害者であるとは限らない。むしろ、自分にも非があることを薄々理解しながら、それでも相手に優しさを求めているように聴こえる。この曖昧さが、楽曲に現実味を与えている。
4. A Million Miles
「A Million Miles」は、距離の感覚を中心にした楽曲である。タイトルの「百万マイル」は物理的な距離というより、心理的な隔たりを意味している。恋人同士が同じ場所にいても、感情の距離は途方もなく遠くなることがある。この曲は、そのような関係の断絶を、The Wedding Presentらしい高速ギターと会話的な歌詞で描いている。
サウンド面では、疾走するリズムと細かく刻まれるギターが、焦燥感を生み出している。曲は前へ進んでいるようでいて、感情的には同じ場所をぐるぐる回っているようにも聴こえる。この二重性は、失恋やすれ違いを扱う本作全体に通じる。テンポは速いが、感情は解決へ向かわない。むしろ、速く演奏されるほど、主人公の内面の混乱が強調される。
歌詞では、相手との距離を縮めたいという願いと、それが不可能であるという諦めが共存している。The Wedding Presentは、恋愛を理想化せず、関係が冷えていく過程や、言葉が届かなくなる瞬間を丁寧に描く。この曲における「距離」は、地理的な問題ではなく、感情を共有できなくなった状態の比喩である。そのため、曲は軽快でありながら、内容には深い寂しさがある。
5. All This and More
「All This and More」は、アルバムの中でも比較的ポップな印象を持つ楽曲である。しかし、その明るさは単純な幸福感ではなく、過剰な感情や期待、そしてそれが裏切られる可能性を含んでいる。タイトルは「これ全部、そしてそれ以上」といった意味を持ち、恋愛に対して多くを求める心理、あるいは関係の中で積み上がった複雑な要素を示している。
演奏は軽快で、ギターは相変わらず高速で刻まれるが、メロディには開放感がある。The Wedding Presentの魅力は、歌詞がどれほど不満や未練に満ちていても、楽曲自体には不思議な爽快感がある点だ。この曲でも、感情の混乱が音楽の速度によって浄化されるような感覚が生まれる。失恋の歌でありながら、聴き終えた後には奇妙な高揚が残る。
歌詞では、恋愛関係の中で交わされる約束、期待、失望が描かれている。相手に対して求めるものが大きくなるほど、実際の関係はその重みに耐えられなくなる。The Wedding Presentは、そのような心理をドラマチックに誇張するのではなく、日常会話の延長として描く。だからこそ、曲の中の感情は身近で、時に痛々しいほど現実的に響く。
6. My Favourite Dress
「My Favourite Dress」は、『George Best』の中でも特に重要な楽曲であり、The Wedding Present初期を代表する名曲の一つである。タイトルは「お気に入りのドレス」を意味するが、このドレスは単なる衣服ではなく、失われた関係、相手の記憶、かつての親密さを象徴するものとして機能している。非常に個人的な物の記憶を通じて、恋愛の終わりを描く点に、この曲の鋭さがある。
音楽的には、激しいギター・ストロークと強いメロディが見事に結びついている。イントロから楽曲は一気に走り出し、抑えきれない感情をそのまま音に変換する。ギターは美しく鳴るというより、ほとんど暴力的なほどに掻き鳴らされる。しかし、その中に切ないメロディが通っているため、曲は単なる怒りではなく、深い未練と喪失感を帯びる。
歌詞の主題は、記憶に残る具体物と失恋の関係である。別れた後、相手そのものよりも、相手が着ていた服、部屋の匂い、何気ない言葉のような細部が強く残ることがある。「My Favourite Dress」は、そうした記憶の残酷さを描いている。お気に入りだったものは、関係が終わった後には痛みの象徴に変わる。The Wedding Presentは、この感情を過剰に詩的に飾らず、むしろ直接的で会話的な言葉によって表現する。その結果、曲は非常に生々しいリアリティを持つ。
7. Shatner
「Shatner」は、タイトルからして奇妙な印象を与える曲である。俳優ウィリアム・シャトナーを連想させるタイトルは、The Wedding Presentらしいユーモアと斜めからの感覚を示している。ただし、曲の内容は軽いパロディではなく、恋愛における疎外感やコミュニケーションの失敗を含んでいる。
サウンドは、アルバム全体の流れを保ちながら、やや独特のひねりを持つ。ギターは相変わらず激しく刻まれるが、曲の雰囲気には少し不安定なユーモアがある。The Wedding Presentの音楽では、深刻な感情と滑稽さがしばしば同居する。失恋や嫉妬は本人にとって重大な問題だが、外から見ればどこか滑稽でもある。この曲は、その二面性をよく示している。
歌詞では、相手との会話が成立しない感覚、あるいは自分がどこか場違いな存在になってしまった感覚が読み取れる。The Wedding Presentの主人公たちは、しばしば自信に満ちた恋愛の勝者ではなく、言い訳し、苛立ち、誤解し、取り残される人物である。「Shatner」もその系譜にあり、恋愛を通して自己像が揺らぐ瞬間を描いている。
8. Something and Nothing
「Something and Nothing」は、タイトルの対比が示す通り、意味があるようでないもの、重要なようで取るに足らないものをめぐる楽曲である。恋愛関係では、小さな言葉や出来事が大きな意味を持つことがある一方で、後から見ればそれが何でもなかったように感じられることもある。この曲は、その曖昧な領域を扱っている。
音楽的には、The Wedding Presentの持ち味である細かく刻むギターと、性急なリズムが中心にある。曲は短く、無駄な装飾が少ない。これは本作全体に言えることだが、The Wedding Presentは感情を長く引き伸ばして劇的に演出するのではなく、短い言葉と短い曲の中に圧縮する。結果として、楽曲はスケッチのようでありながら、非常に鋭い印象を残す。
歌詞のテーマは、関係の中で積み重なる些細な出来事である。それは一見何でもない会話、態度、沈黙かもしれない。しかし、当事者にとっては、それが関係の行方を左右する決定的なサインになる。The Wedding Presentは、恋愛の大事件ではなく、こうした小さなズレを描くことに長けている。「Something and Nothing」は、その細部へのまなざしが表れた曲である。
9. It’s What You Want That Matters
「It’s What You Want That Matters」は、恋愛における欲望と優先順位をめぐる楽曲である。タイトルは「大事なのは君が何を望むかだ」という意味に取れるが、その言葉は寛大な理解というより、どこか諦めや皮肉を含んでいる。相手の望みを認めることは、時に自分が選ばれないことを受け入れることでもある。
サウンドは性急で、ヴォーカルには焦りがある。The Wedding Presentの曲では、主人公が自分の考えを整理してから語るのではなく、感情の勢いに押されて言葉を発しているように聴こえる。この曲でも、相手の意思を尊重しようとしながら、その裏側には納得できない気持ちや未練が残っている。言葉と感情が完全には一致していない点が、楽曲のリアリティを生む。
歌詞の主題は、関係の主導権である。恋愛において、片方が望むことともう片方が望むことが一致しない時、関係は不安定になる。この曲では、その不均衡が直接的に描かれる。The Wedding Presentは、相手を責めるだけでも、自分を悲劇の主人公にするだけでもない。むしろ、欲望のズレが生む不快な現実を、率直に音楽化している。
10. Give My Love to Kevin
「Give My Love to Kevin」は、タイトルからして皮肉と諦めが感じられる楽曲である。別れた相手、あるいは自分から離れていった相手が別の人物と関係を築いている状況が想像される。「Kevinによろしく」といった言い回しは一見軽いが、その裏には嫉妬、敗北感、未練、そして自分を保つための冗談がある。
音楽的には、アルバム後半でも勢いを落とさず、The Wedding Presentらしい荒々しいギターが前面に出る。曲は感情を分析する余裕を与えず、次々に言葉と音を叩きつける。この性急さが、失恋後の強がりとよく合っている。平静を装っているが、内側では感情が暴れている。その状態が、演奏の速度と粗さによって表現されている。
歌詞では、相手の新しい関係を受け入れたふりをする人物像が見える。しかし、その挨拶は本当に祝福ではなく、皮肉を込めた距離の取り方である。The Wedding Presentは、こうした「大人になりきれない」感情を非常に巧みに扱う。恋愛の終わりにおいて、人は必ずしも美しく振る舞えるわけではない。その不格好さを、曲は正面から描いている。
11. Anyone Can Make a Mistake
「Anyone Can Make a Mistake」は、タイトル通り、過ちをめぐる楽曲である。「誰だって間違いは犯す」という言葉は、一見すると寛容なフレーズだが、ここでは自己弁護や責任回避の響きも帯びている。The Wedding Presentの歌詞では、こうした日常的な言葉が、恋愛関係の中でどのようにねじれて響くかが重要になる。
サウンドは軽快だが、感情は不安定である。ギターは素早く刻まれ、リズムは休むことなく進む。David Gedgeのヴォーカルは、反省しているようでいて、どこか言い逃れしているようにも聴こえる。この曖昧さが、曲の人物像を立体的にしている。完全に悪い人間でも、完全に正しい人間でもない。そこにあるのは、恋愛の中で失敗し、それを認めることにも苦しむ普通の人物である。
歌詞のテーマは、過ちを認めることの難しさである。人は自分のミスを軽く見積もり、相手のミスを大きく感じることがある。この曲では、その非対称性が暗示される。タイトルの言葉は正しいが、それがどのような場面で、どのような口調で言われるかによって、意味は大きく変わる。The Wedding Presentは、このような言葉の温度差を音楽にすることに優れている。
12. You Can’t Moan, Can You?
「You Can’t Moan, Can You?」は、アルバム終盤において、The Wedding Presentの皮肉な語り口を強く感じさせる楽曲である。タイトルは「文句は言えないだろう?」というような意味を持ち、相手に対する牽制、あるいは自分自身への言い聞かせとして響く。恋愛関係の中で不満を抱えながらも、それを口にする資格があるのかどうかをめぐる複雑な感情が読み取れる。
音楽的には、短く鋭いギター・ポップとして機能している。ギターは切迫し、ドラムは前のめりで、楽曲は感情を整理する前に終わってしまう。この短さは、本作の魅力の一つである。The Wedding Presentは、長大な構成や壮大な展開に頼らず、日常の一瞬の感情をそのまま切り出す。その結果、曲はまるで口論の一場面のように感じられる。
歌詞では、相手を責めたい気持ちと、自分にも非があるという感覚が交錯する。文句を言いたいが、言ったところで状況は変わらない。あるいは、自分も同じようなことをしているため、相手を責める権利がない。こうした不完全な感情のやり取りが、The Wedding Presentのリアリズムを支えている。
13. All About Eve
「All About Eve」は、タイトルから映画的・演劇的な連想を誘う楽曲である。タイトル自体は、名作映画『All About Eve』を想起させるが、The Wedding Presentの文脈では、特定の女性、あるいは恋愛関係の中心にいる人物をめぐる観察として響く。アルバム全体において、女性像はしばしば主人公の未練や苛立ちを通して描かれるが、この曲でも相手への執着と距離感が重要になる。
サウンドは、他の曲と同様にギターの勢いが強く、感情の揺れを素早く伝える。The Wedding Presentのアレンジは一見単調に思えることもあるが、その反復こそが重要である。同じように刻まれるギターは、主人公が同じ考えを何度も反復してしまう心理と結びついている。この曲でも、音楽の執拗さが、歌詞の執着とよく合っている。
歌詞では、相手を理解したいという欲望と、相手を自分の物語の中に閉じ込めようとする視線が感じられる。恋愛において、相手を「分かったつもり」になることはしばしば問題を生む。The Wedding Presentは、その不完全な理解を美化せず、むしろ滑稽さや危うさを含んだものとして描いている。「All About Eve」は、アルバム終盤において、恋愛の語りそのものの不確かさを浮かび上がらせる曲である。
14. Getting Nowhere Fast
ラスト曲「Getting Nowhere Fast」は、『George Best』を締めくくるのにふさわしいタイトルを持つ楽曲である。「急いでいるのにどこにも辿り着かない」という意味は、アルバム全体の音楽性と心理状態を見事に要約している。本作の楽曲はどれも速く、前のめりで、感情を押し流すように進む。しかし、歌詞の中の人物たちは、恋愛の失敗や未練から抜け出せず、同じ場所を回り続けている。
サウンドは最後まで勢いを保ち、ギターは容赦なく掻き鳴らされる。終盤だからといって壮大な結末を用意するのではなく、むしろThe Wedding Presentらしい無骨なままアルバムは終わる。この終わり方は、本作の美学に合っている。失恋は劇的な解決によって終わるのではなく、日々の中で続いていく。怒りや未練はすぐには消えず、人はそれを抱えたまま次の場面へ進む。
歌詞のテーマは、停滞と焦燥である。急いでいるのに進んでいない、努力しているのに変わっていない、何かを言い続けているのに相手には届かない。この感覚は、『George Best』全体を貫くものだ。ラストにこの曲が置かれることで、アルバムは恋愛の物語をきれいに閉じるのではなく、未解決のまま聴き手に残す。そこにThe Wedding Presentのリアリズムがある。
総評
『George Best』は、1980年代イギリス・インディー・ロックの重要作であり、The Wedding Presentの美学が最も荒々しく、率直に表れたデビュー・アルバムである。高速で掻き鳴らされるギター、短く切り詰められた楽曲、話し言葉に近いヴォーカル、恋愛の格好悪さをそのまま描く歌詞。それらが一体となり、本作は当時のメインストリーム・ロックとはまったく異なる感情の表現を作り出した。
本作の音楽的特徴は、ギター・ポップのメロディ感覚とパンク的な速度を結びつけた点にある。The Wedding Presentは、華麗なギター・ソロや複雑なアレンジをほとんど必要としない。その代わり、リズム・ギターの執拗なストロークによって、楽曲に強烈な推進力を与える。このサウンドは、聴き手に快感をもたらすと同時に、歌詞の焦燥や不安定さを増幅する。つまり、演奏の速さは単なる勢いではなく、感情の構造そのものなのである。
歌詞の面では、『George Best』は恋愛をロマンティックな理想としてではなく、日常の中で繰り返される誤解、嫉妬、未練、苛立ちとして描いている。ここに登場する人物は、洗練された恋愛の達人ではない。相手の新しい恋人を悪く言い、自分の失敗を言い訳し、文句を言う資格があるのか悩み、過去の具体的な記憶に囚われる。その姿は格好良くはないが、非常に現実的である。The Wedding Presentは、この格好悪さを隠さないことで、独自の誠実さを獲得している。
歴史的に見ると、本作はC86以降の英国インディー・シーンにおける重要な転換点の一つである。C86的な素朴さやDIY精神を受け継ぎながらも、The Wedding Presentはより硬質で攻撃的なギター・サウンドを提示した。その結果、彼らは単なる可憐なギター・ポップ・バンドではなく、失恋や日常の苛立ちを高熱量のロックとして表現する存在となった。この方法論は、後のインディー・ロック、エモ、ポスト・パンク・リバイバル、ローファイ・ギター・バンドにも通じる。
また、本作は「英国的な日常性」を音楽に落とし込んだ作品でもある。歌詞には壮大な物語や神話的な比喩は少なく、むしろ会話、口論、皮肉、言い訳のような言葉が並ぶ。そこには、パブ、学生街、狭い部屋、別れ話の後の気まずい空気のような、非常に身近な世界がある。The Wedding Presentは、その小さな世界を、過剰なギターのエネルギーによってロック・アルバムとして成立させた。
『George Best』は、The Smithsの文学性やR.E.M.の陰影、パンクの速度感、C86のDIY精神に関心のあるリスナーにとって重要な作品である。また、恋愛を美しい思い出としてではなく、もっと不器用で、滑稽で、時に腹立たしいものとして描く音楽を求める人にも強く響く。洗練よりも勢い、完成された美しさよりも生々しさ、ロック・スター的なポーズよりも日常の感情を重視するアルバムであり、英国インディー・ロックの核心を知るための一枚である。
おすすめアルバム
1. The Wedding Present – Bizarro
『George Best』に続くセカンド・アルバムで、バンドの高速ギター・サウンドをより重厚かつスケールの大きい形に発展させた作品である。デビュー作の性急さや荒さを保ちながら、録音やアレンジには厚みが増している。The Wedding Presentの初期衝動と、その後の成熟をつなぐ重要作である。
2. The Smiths – The Queen Is Dead
1980年代英国インディー・ギター・ポップを代表する名盤。The Wedding Presentとはサウンドの質感が異なるが、恋愛、疎外感、皮肉、日常の屈折をギター・バンドの形式で描く点で関連性が高い。Morrisseyの文学的な言葉とJohnny Marrの流麗なギターは、『George Best』の背景を理解するうえでも重要である。
3. Orange Juice – You Can’t Hide Your Love Forever
ポスト・パンク以降のギター・ポップにおいて、軽やかなサウンドと屈折した感情を結びつけた作品。Orange Juiceのファンキーで柔らかなギター・ポップは、The Wedding Presentの硬質な速度感とは異なるが、恋愛の不器用さやインディー的な反スター性という点で共通している。
4. C86 – Various Artists
NMEのカセット・コンピレーションとして知られる、1980年代英国インディー・シーンを象徴する作品。ジャングル・ポップ、DIY、ローファイ、反メジャー的な感覚が詰まっており、The Wedding Presentが登場した時代の空気を理解する手がかりになる。『George Best』の背後にあるシーンの広がりを知るうえで重要である。
5. The Pastels – Up for a Bit with The Pastels
C86周辺のインディー・ポップを代表するバンドの一つによる初期作品。The Wedding Presentに比べると演奏はより素朴で、サウンドも柔らかいが、DIY精神、日常的な歌詞、メインストリームから距離を置いた姿勢に共通点がある。英国インディー・ポップの多様な表情を知るために関連性の高いアルバムである。

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