
発売日:1982年9月20日
ジャンル:Country Rock / Soft Rock / Pop Rock
概要
Ghost Townは、Pocoが1982年に発表したスタジオ・アルバムである。Rusty YoungとPaul Cottonを中心とした時期の作品で、1970年代前半のPocoを特徴づけたカントリー・ロックから、より滑らかなソフト・ロック/ポップ・ロックへ進んだ後期サウンドを記録している。1978年のLegendとヒット曲「Crazy Love」によって新しい聴衆を獲得した後の作品だけに、ペダル・スティールなどPocoらしい音色を残しながら、キーボードや整ったコーラスを使ったラジオ向けの音作りが目立つ。
1982年という時期も本作の性格を理解するうえで重要だ。カントリー・ロックが新しいジャンルとして注目された時代はすでに過ぎ、米国のメインストリームではAORや洗練されたポップ・ロックが大きな位置を占めていた。Pocoも初期のスタイルをそのまま再現するのではなく、簡潔な曲構成、明瞭なボーカル、厚いコーラスへ重心を移している。その一方で、タイトル曲のように西部の風景を思わせる題材を残しており、過去を切り捨てるのではなく1980年代の音へ置き換えようとした作品である。
全曲レビュー
1. 「Ghost Town」
タイトル曲は、人気のなくなった町というイメージを人間関係の喪失と重ねるように進む。乾いたギターと整ったリズム隊にコーラスが加わり、Pocoらしい広がりを残しながらも、初期作品ほどカントリー色を強調しない。題材には西部劇を思わせる風景があるが、過去を懐かしむだけではなく、かつて存在したものが消えた後の空白を描く歌としても聞ける。簡潔なポップソングの中に、バンドの歴史とも重なる寂しさを持たせたオープニングだ。
2. 「How Will You Feel Tonight」
夜を舞台にした恋愛の不安を、柔らかなボーカルと滑らかな伴奏で聞かせる。リズムは強く押し出さず、ギターとキーボードが声の周囲に空間を作るため、タイトルの問いかけが自然に前へ出る。相手の気持ちを決めつけるのではなく、「今夜どう感じるのか」と距離を残している点も特徴である。1970年代のカントリー・ロックより、1980年代初頭のソフト・ロックへ接近したPocoの姿が分かりやすい。
3. 「Rose of Cimarron」
ここで取り上げられる「Rose of Cimarron」は、Rusty Youngが書き、1976年の同名アルバムで発表されたPocoの代表曲である。西部史に由来する人物像を扱い、ペダル・スティールを生かした広い風景と、物語を語るようなメロディが結びつく。1980年代のPocoがより都会的なポップへ移行していた時期だけに、この曲が持つ長い時間軸と西部のイメージはバンド自身の過去を振り返るようにも響く。新旧のPocoを結ぶ存在としてアルバム内でも異なる色を持つ。
4. 「Hold on to a Miracle」
明快なサビを中心に組み立てられ、タイトル通り希望を手放さない姿勢を前面に出す。細かな演奏上の仕掛けよりも、ヴァースからサビへ自然に感情を持ち上げるメロディが中心で、コーラスが入ると音像が大きく開く。Pocoが長く得意としてきた複数声のハーモニーを、カントリーではなく1980年代型のポップ・ロックへ応用した曲として聞ける。
5. 「The Other Side」
アルバム中盤では、前半の比較的明るいポップ感覚から少し陰のある方向へ移る。一定のテンポを保つリズムの上でギターとキーボードが重なり、感情を大きく爆発させずに緊張を維持する。題名の「向こう側」は、現在とは異なる状態や関係への移行を思わせ、Pocoの成熟したボーカルにもよく合っている。派手なソロよりアンサンブルを優先した後期Pocoらしい作りである。
6. 「Turn the World Around」
リズムをはっきり前へ出し、後半の流れに勢いを戻すポップ・ロックである。タイトルにも変化を求める感覚が表れ、メロディは内省するより外へ向かって開いていく。ギターの存在感は保たれているが、バンド全体としては一つの楽器を突出させず、ボーカルとコーラスを中心に整理されている。初期Pocoの演奏主体のカントリー・ロックから、楽曲主体のスタジオ・ポップへ変化したことがよく分かる。
7. 「Love’s So Cruel」
恋愛がもたらす苦さを扱いながら、演奏は過度に悲劇的にならない。滑らかなメロディと柔らかなコーラスの中に、関係が思い通りにならない苛立ちを置くことで、歌詞とサウンドの間に小さな温度差が生まれている。Pocoはこうした曲でカントリー由来の感傷を残しながら、それを都会的なソフト・ロックの音像へ移し替えている。強い言葉を穏やかな演奏で包むことが、この時期のバンドの持ち味になっている。
8. 「Special Care」
比較的コンパクトな構成の中で、親密な感情をまっすぐなメロディへまとめた曲である。声を中心に据えたミックスと控えめな伴奏によって、演奏技巧よりも歌の輪郭が耳に残る。初期作品にあったカントリー特有の跳ねるリズムは後退し、同時代のアメリカン・ポップに近い滑らかさが強い。それでもコーラスの重ね方にはPocoらしさがあり、完全に匿名的なAORにはならない。
9. 「When Hearts Collide」
タイトルが示す通り、二人の感情がぶつかる場面を扱い、アルバム終盤に適したドラマを作る。歌の部分では余裕を残しながら、サビでは複数の声と楽器を重ねて音を広げるため、感情の高まりが分かりやすい。恋愛を理想化するより、異なる意思を持つ二人が近づくことで生まれる摩擦に焦点を置いている点が印象を深くする。ポップな構成の中に、Pocoらしいほろ苦さを残した曲だ。
10. 「High Sierra」
最後は山岳地帯を思わせる題名によって、アルバム冒頭の「Ghost Town」と同じくアメリカ西部の風景へ戻る。都会的に整えられた中盤のラブソング群に対して、より広い場所を想像させる音と旋律が使われ、作品に視覚的な余韻を与える。初期のようにカントリーの演奏技法を前面に出すわけではないが、Pocoが長く歌ってきた土地や移動の感覚は残っている。最後にその要素を置くことで、1980年代型の音作りとバンドのルーツを結び直している。
総評
Ghost Townを初期Pocoの延長だけで捉えると、ペダル・スティールやカントリー特有の軽快なアンサンブルが後退したことに目が向きやすい。しかし本作の中心にあるのは、1970年代末以降にバンドが進めていたポップ化をさらに整理することである。ギター、キーボード、リズム隊を均等に配置し、その中央へリード・ボーカルとコーラスを置く。演奏の技巧より曲そのものを優先することで、1982年のラジオに自然に収まるサウンドを目指している。
それでもPocoと分かる最大の理由は声にある。複数のボーカルが滑らかに重なるハーモニーは、楽器編成が変化してもバンドの個性として残っている。初期にはその声がペダル・スティールやアコースティック楽器と結びついていたが、本作ではキーボードを含む柔らかなスタジオ・サウンドと組み合わされる。この変化によって、Pocoはカントリー・ロックの先駆者という過去だけに頼らず、自分たちの強みを別の時代へ運ぼうとしている。
一方で、Legendの「Crazy Love」のようにアルバム全体の印象を一曲で決定するほど強力なポップソングは少なく、均整の取れた音作りが曲ごとの差を小さくしている部分もある。1970年代前半の作品にあった即興的な広がりを期待すると、整いすぎていると感じられるだろう。ただ、その均一さはバンドが当時どこへ向かっていたかを明瞭にする。カントリー、フォーク、ロックを自由に往復した初期とは違い、ここではメロディとハーモニーを核にした成人向けのポップ・ロックへ焦点が絞られている。
タイトルが示す空虚な風景は、結果的にPocoの長いキャリアにもよく似合う。1970年代のカントリー・ロックを形成した環境が変化した後も、彼らは過去の形式をそのまま再演するのではなく、時代に合わせて音を作り替え続けた。Ghost Townはその試みがもっとも洗練された作品ではないものの、初期の西部的なイメージと1980年代のソフト・ロックが同じアルバムに存在する点に、長寿バンドならではの面白さがある。
おすすめアルバム
Blue and Gray by Poco
1981年の前作。南北戦争を題材とするコンセプトを持ちながら、音楽的には後期Pocoらしい滑らかなロックへ進んでいる。Ghost Town直前のバンドの方向性を確認できる作品である。
Legend by Poco
1978年作で、ヒット曲「Crazy Love」「Heart of the Night」を収録。カントリー・ロックからソフト・ロックへ移る転換点であり、Ghost Townの洗練されたポップ路線を理解するうえで欠かせない。
Rose of Cimarron by Poco
1976年作。ペダル・スティールや西部のイメージを残しながら、滑らかなハーモニーとポップな曲作りを広げている。1970年代と80年代のPocoをつなぐ中間地点として比較しやすい。
One of These Nights by Eagles
カントリー・ロックから洗練されたメインストリーム・ロックへ進んだ代表例。PocoよりロックやR&Bの要素が強く、同じ西海岸の音楽的背景から異なる商業的サウンドが形成された過程を比較できる。
Black Rose by J.D.
ウェストコーストのカントリー、フォーク、ソウルを都会的なスタジオ・サウンドへまとめた1976年作。Poco後期に通じる柔らかな歌とコーラスを持ちながら、よりシンガーソングライター中心の視点から楽しめる。

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