
発売日:2013年3月5日
ジャンル:Country Rock / Americana / Folk Rock
概要
All Fired Upは、Pocoが2013年に発表したスタジオ・アルバムである。1968年の結成から長い歴史を持つPocoにとって、2002年のRunning Horse以来となる新曲中心のスタジオ作で、Rusty Young、Paul Cotton、Jack Sundrud、George Lawrenceを軸に制作された。初期からバンドを支えたYoungと、1970年代から重要なソングライター/ギタリストとなったCottonが同じ作品に参加した最後のスタジオ・アルバムでもあり、長いキャリアの一つの区切りとして見ることができる。
サウンドはPocoが築いてきたカントリー・ロックを基本にしている。アコースティックギター、エレクトリックギター、ペダル・スティール、マンドリン、安定したリズム隊と複数人のコーラスを使いながら、初期作品をそのまま再現するのではなく、2010年代のAmericanaにも自然につながる乾いたバンドサウンドへまとめている。タイトル通り、前作Running Horseの穏やかさと比べてロック色が強く、ギターとドラムが前へ出る場面も多い。
歌詞には恋愛や別れだけでなく、年齢を重ねても音楽を続けること、人生の変化、過去との向き合い方といった題材が見える。若さを装うのではなく、長く活動してきたミュージシャンだからこそ歌える視点を、軽快なカントリー・ロックへ乗せているところが本作の大きな特徴である。
全曲レビュー
1. 「All Fired Up」
タイトル曲は勢いのあるギターとドラムで始まり、アルバムの方針を最初から明確にする。Pocoというと柔らかなハーモニーやペダル・スティールを連想しやすいが、ここではロックバンドとしての押し出しが強い。年齢や長い活動歴を感じさせないというより、そうした時間を経ても演奏する意欲が残っていること自体をエネルギーへ変えたような曲で、再始動を告げるオープニングとして機能している。
2. 「Drink It In」
前曲の勢いを保ちながら、より開放的なカントリー・ロックへ移る。人生の瞬間を受け入れ、味わうという感覚を中心にした歌詞と、明るく広がるコーラスの相性がよい。楽器は細かな技巧を競うより、一定のリズムを全員で押し進めることを優先しており、Pocoが長年得意としてきた「一緒に歌えるロック」の親しみやすさが出ている。
3. 「That’s What Rock and Roll Will Do」
ロックンロールと長く付き合ってきた人間の視点が前面に出る一曲で、キャリア後期のPocoが歌うことに意味がある。演奏も題名に合わせてエレクトリックギターを強く押し出し、カントリー的な装飾よりバンドの直接的な推進力を重視する。音楽によって人生が変化していくことを、若者の夢ではなく実際に何十年も演奏してきた側から描くため、本作のテーマを具体化する曲になっている。
4. 「Regret」
テンポを落とし、失われた関係や過去への後悔に焦点を移す。感情を大げさに盛り上げるバラードではなく、ボーカルの周囲にギターや鍵盤を控えめに置くことで、言葉そのものを聞かせる作りだ。後悔を劇的な悲劇として扱うより、時間がたってから残る感情として見つめており、前半の活発なロック曲とは違う成熟した表情を見せる。
5. 「When She’s Mine」
恋愛を扱った親しみやすい曲で、Pocoらしい滑らかなメロディとコーラスが中心となる。ヴァースではリードボーカルを比較的シンプルに聞かせ、サビで複数の声が重なることで自然に音が広がる。ギターも旋律の合間へ短いフレーズを入れる程度に抑えられており、演奏の複雑さではなく、歌いやすいメロディを中心に組み立てる彼らのポップ感覚がよく分かる。
6. 「A Little Rain」
雨を感情や人生の難しい時期に重ねながら、それを避けられないものとして受け入れていくような感覚を持つ。アコースティックな響きが曲の中心にあり、ロック色の強い前半から少し距離を置く配置になっている。暗さだけに沈まず、困難も人生の一部だという落ち着いた視点を保つことで、本作に繰り返し現れる経験と時間という題材を自然に掘り下げている。
7. 「Hard Country」
題名通りカントリーの輪郭をはっきりさせた曲で、Rusty Youngのペダル・スティールをはじめとする弦楽器の響きが存在感を増す。とはいえ伝統的なカントリーへ完全に戻るわけではなく、ドラムとエレクトリックギターにはロックの強さが残る。Pocoが結成時から続けてきた二つの音楽の接続を、長いキャリアの末にもう一度力強く鳴らしたような演奏である。
8. 「Love Has No Reason」
恋愛を論理では説明できないものとして捉え、理屈より感情が先に動く瞬間を歌う。メロディは滑らかで、ハーモニーも柔らかく、前曲の土臭いカントリー色からウェストコースト的なポップへ音の焦点が移る。Pocoのバラードでは楽器を大量に重ねなくてもコーラスによって十分な厚みが生まれ、この曲でも声の配置がアレンジの中心を担っている。
9. 「Rockin’ Horse Blues」
ブルースを土台にしたギター主体の演奏で、アルバム後半に粗い手触りを加える。整ったハーモニーを聞かせる曲とは違い、ここではリフとリズムの反復が中心となり、Pocoのルーツにあるロックンロールやブルースへ近づく。タイトルにも遊び心があり、深刻な内省より、長年一緒に演奏してきたミュージシャンがグルーヴを楽しむ感覚を前へ出している。
10. 「Neil Young」
かつてBuffalo SpringfieldでRusty Youngにつながるメンバーたちと活動し、その後もカントリーとロックの境界を行き来してきたNeil Youngを題名に置いた曲である。単なる名前の引用以上に、Poco自身が歩んできた西海岸カントリー・ロックの歴史を意識させる。音楽仲間や同時代の存在を振り返る視線があり、過去を美化するだけでなく、長く音楽を続けることそのものへ思いを向けた曲として聞ける。
11. 「Long Shot」
何かに賭けること、その結果が保証されていなくても進むことを思わせる題材を、軽快な演奏で運んでいく。リズム隊が一定の推進力を保ち、ギターがその上で短いアクセントを加えるため、曲にはロードソングのような前進感がある。人生経験を扱う後期Pocoの歌詞は説教調になることもあり得るが、ここではテンポの良さによってメッセージを重くしすぎない。
12. 「Pucky Huddle Stomp」
歌詞より演奏そのものを楽しむタイプのナンバーで、弦楽器を中心としたPocoのカントリー的な技術が表に出る。タイトルに「Stomp」とある通り、一定の拍を強く感じさせながら、各楽器が短いフレーズを受け渡していく。シリアスな歌が続いた後にこうした曲を置くことで、アルバムが思想や回想だけに傾かず、バンドが演奏する楽しさへ戻る余白を作っている。
13. 「Friend」
長い時間を共有する人間関係を扱い、恋愛とは違った種類のつながりへ焦点を移す。Pocoのハーモニーはこうした題材との相性がよく、一人の声だけでなく複数の声が加わることで、歌詞の「友人」という主題が演奏の形にも重なる。派手な展開を作らず、メロディと声を丁寧に聞かせることで、アルバム終盤に穏やかな余韻を生んでいる。
14. 「The Music Man」
アルバムの最後では、長く音楽を演奏してきた人間そのものへ視線が向けられる。若い時期の成功や勢いを再現しようとするのではなく、時間が過ぎても音楽を続けることが人生の一部になっているという感覚が中心だ。All Fired Upが冒頭で現在のエネルギーを示したのに対し、ここではそのエネルギーがどこから来るのかを音楽家としての生き方へ結びつけ、落ち着いた形で作品を締めくくる。
総評
All Fired Upでまず目立つのは、キャリア後期のアルバムにありがちな静かな回顧作に収まっていないことである。ペダル・スティール、アコースティックギター、コーラスというPocoの基本的な音は維持しながら、エレクトリックギターとドラムをしっかり前へ出している。Running Horseの穏やかな感触に比べると、バンドとして一緒に鳴らすこと自体を楽しんでいる感覚が強い。
Pocoの大きな長所だったボーカル・ハーモニーも健在である。リードボーカルが感情を一人で背負うのではなく、サビで複数の声が加わることでメロディを広げる。その方法は1970年代から大きく変わらないが、2013年にはFleet Foxes以降のフォーク・ロックやAmericanaでも複数人のハーモニーが広く聞かれるようになっていた。結果として、本作の伝統的な方法が不自然に古く聞こえにくいのも興味深いところだ。
歌詞では、若さを取り戻そうとするより、年齢を重ねたことを前提に現在を肯定する姿勢が目立つ。ロックンロール、友人、後悔、愛情といった題材は特別に珍しくないが、半世紀近く音楽に関わってきたメンバーが歌うことで意味が変わる。過去について歌いながらも演奏そのものは現在進行形であり、この「振り返る言葉」と「前へ進む音」の組み合わせが作品を支えている。
革新的なカントリー・ロックを求めるなら、初期Pocoほどの歴史的な衝撃はない。そもそも2013年には、彼らが開拓に関わったカントリーとロックの融合はAmericanaを含む広い領域へ定着していた。本作の価値は新しい様式を作ることではなく、40年以上前に形成した音楽語法を単なる再現にせず、当時のメンバー自身の年齢と経験に合わせて更新したことにある。結果としてAll Fired Upは、Pocoの長いキャリアを締めくくる時期に、バンドがなお現役の演奏集団だったことを伝える作品となった。
おすすめアルバム
Running Horse by Poco
前作にあたる2002年のスタジオ作で、同じ後期Pocoでもこちらはアコースティックで穏やかな曲が中心となる。All Fired Upと比較すると、後者がギターとリズム隊を強め、意識的にロックの推進力を取り戻したことが分かりやすい。
A Good Feelin’ to Know by Poco
初期Pocoのカントリー・ロックが最も活発だった時期の一枚。若々しい演奏、ペダル・スティール、力強いハーモニーを聞けば、All Fired Upまで40年以上維持されたバンドの基本的な音楽語法がどこから来たのかを確認できる。
Legend by Poco
1970年代末にPocoがより滑らかなウェストコースト・ポップへ接近した代表作。「Crazy Love」「Heart of the Night」に見られる明快なメロディと整ったコーラスは、後期作品の親しみやすい歌作りにもつながっている。
The Gilded Palace of Sin by The Flying Burrito Brothers
Pocoと同じ時代に、ロックと伝統的なカントリーを別の角度から接続した作品である。Pocoより土臭く傷ついた感触が強く、1960年代末に「カントリー・ロック」という領域が一つの方法だけから生まれたわけではないことが分かる。
Prairie Wind by Neil Young
長いキャリアを持つミュージシャンが、カントリーやフォークを通じて時間、記憶、人間関係を見つめた作品。All Fired Upより静かで内省的だが、若い時代の音楽的ルーツを保ちながら、年齢を重ねた現在の言葉として鳴らす点でよく響き合う。

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