1. 歌詞の概要
「Find an Island(ファインド・アン・アイランド)」は、BENEE(ベニー)が2019年にリリースしたEP『Stella & Steve』に収録された楽曲であり、小さな喧嘩の後に生まれる距離感と、愛する人との“間合いの取り方”をユーモラスかつ鮮やかに描いたポップナンバーである。
タイトルの「Find an Island(島を見つけて)」というフレーズは、直接的な別れを告げるのではなく、「ちょっとどこか離れた場所に行ってくれない?」という軽やかな拒絶と余白を含んだ言い回し。
それは、怒りでも憎しみでもなく、ただ「いまは近くにいすぎた」という正直な気持ちなのだ。
この曲は、関係を壊したくないけれど、距離を取りたいという微妙な感情を、鋭すぎないメロディとリズムに乗せて表現している。
明るく聴こえるけれど、言っていることは意外とドライ。そこにBENEE特有の**“クールでドキリとする感情の切り取り方”**がある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Find an Island」は、BENEEが実際に友人と軽い口論をした後に生まれた楽曲だという。
その友人とは絶縁するほどではなかったものの、「いまは少し距離を置きたい」という感情が浮かび、それを比喩と皮肉を交えてポップソングに仕立てた。
この曲は、BENEEのソングライティングの鋭さを証明する一曲でもある。
「別れる」「距離を置く」というテーマは普通なら悲しげに描かれがちだが、BENEEはウィットを交えて軽やかに処理しながらも、確かに“感情の温度”は保っている。
そのさじ加減が、彼女の音楽を“聴き流せないポップス”へと昇華させている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Find an island far away from me
A shipwreck lost at sea
私から遠く離れた島でも見つけてよ
沈没船みたいに、海で迷子になっちゃって
You broke my heart
Now I’m waitin’ for someone to come fix me
あなたが私の心を壊したの
だから今、誰かが直してくれるのを待ってるの
It’s not that deep
But I meant it when I said it
そんな大したことじゃないけど
言ったときは、本気だったのよ
You better find an island now
もう島でも探して、ひとりで行ってくれる?
歌詞引用元:Genius – BENEE “Find an Island”
4. 歌詞の考察
「Find an Island」は、“壊さずに離れる”という絶妙な関係性の処理の仕方を、現代的な距離感で描いた楽曲である。
この曲に出てくる語り手は、感情的になりすぎることなく、かといって相手を許しているわけでもない。
「あなたが嫌い」というよりは、「今のあなたとは居たくない」という態度を、「島」という言葉で優しく、しかし確実に伝えている。
「It’s not that deep(そんなに深刻じゃない)」というラインには、関係を完全に終わらせたいわけじゃないけれど、無視もできない微妙な違和感が漂っており、
それをあえて“軽く”言い切ることで、感情の複雑さが浮き彫りになる。
BENEEの声の使い方も見逃せない。カラフルで軽やかに響くヴォーカルは、内心の苛立ちや痛みをカモフラージュするように機能している。
それがこの曲をただの「失望の歌」ではなく、「距離感の設計図」のような作品にしているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Don’t Delete the Kisses by Wolf Alice
感情の迷いを語るように歌いながら、距離と親密さの狭間をさまよう美しいバラード。 - Alaska by Maggie Rogers
変わっていく関係性を自然の風景に重ねて描く、軽快で深いエレクトロ・フォーク。 - Coffee by beabadoobee
関係の中で生まれる些細なすれ違いを、柔らかいサウンドとともに描いたラブソング。 -
Motion Sickness by Phoebe Bridgers
恋人との感情的なずれを、ユーモアと怒りを混ぜて吐き出すインディーロックの傑作。 -
Space Girl by Frances Forever
距離を測ることと恋心を持て余すことが交差する、ちょっと不思議なポップソング。
6. “別れ”よりも、“ひとりでいてほしい”という願い
「Find an Island」は、人間関係における“ちょうどいい距離感”の探し方を描いた、ポップでスパイスの効いた現代的な会話のような一曲である。
BENEEはこの曲で、「傷ついた」「もうイヤだ」と感情を爆発させるのではなく、
「ちょっと離れて」「今は無理」と、自分を守るための“静かなライン”を引いている。
「Find an Island」は、感情をこじらせずに、自分のスペースを保つための音楽的バウンダリーとも言える。
それは、傷ついた自分を守る方法のひとつであり、
BENEEはそれを明るく、でも真剣に歌っている。
まるで、「愛してるよ、でも今は一緒にいられない」と言ってるかのように。
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