1. 歌詞の概要
「Dying to Believe」は、The Beths（ザ・ベス）が2020年にリリースした2ndアルバム『Jump Rope Gazers』に収録された一曲であり、「変わりたい」と「変われない」の間で葛藤する姿を、エネルギッシュで切れ味のあるパワーポップに昇華した名曲である。
タイトルの「Dying to Believe（信じたくてたまらない）」という言葉は、字義通りには「必死で信じたい」という意味だが、ここには「変わろうとする自分を信じたい」「自分を信じることすら怖い」という、切迫した内面の揺れが込められている。語り手は、自分自身の不完全さや失敗を認めながらも、「それでも信じてほしい」と静かに懇願する。
これは恋愛の歌でもあり、自己対話の歌でもある。誰かに理解されたい、でも自分自身がその“理解される価値がある人間”だと信じられない。そうした感情が、弾けるようなバンドサウンドの中でぎゅっと凝縮され、聴く者の胸を突く。
2. 歌詞のバックグラウンド
Elizabeth Stokes（エリザベス・ストークス）は、この曲について「相手を変えようとするんじゃなく、自分の欠点を認めながらも“それでも信じて”って言う曲」だと語っている。この視点は、恋愛や友情、あらゆる人間関係における“誠実な弱さ”を表している。
『Jump Rope Gazers』は、前作『Future Me Hates Me』で描かれた内省的で自虐的なトーンを受け継ぎつつも、より成熟し、より“相手”との関係に意識が向いているのが特徴である。「Dying to Believe」は、その中でも特に“自己の矛盾と他者への信頼”という難しいテーマに切り込んだ楽曲と言える。
サウンド面では、切れ味鋭いギターリフとタイトなリズムセクション、そしてThe Bethsらしい多層的なコーラスワークが特徴で、感情の焦燥感と高揚感が同時に押し寄せる。まさに「言葉では伝えきれない思い」を音で補完するような構造になっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m sorry for the way that I can’t hold conversations
会話もうまくできなくて、ごめんねThey’re such a fragile thing to try to support the weight of
言葉って、こんなにも不安定で、気持ちを乗せるには脆すぎるI’ve been trying to be more open
もっと心を開こうとしてきたけどIt’s hard when everyone is hiding something
誰もが何かを隠してるこの世界では、簡単じゃないよAnd I am dying to believe
それでも私は、信じたくてたまらないYou’ll see the best in me
あなたが私の中の“いい部分”を見てくれると
歌詞引用元：Genius Lyrics – Dying to Believe
4. 歌詞の考察
「Dying to Believe」は、誰かに“信じてほしい”という感情と、それを口に出すことすら怖いという矛盾を見事に言語化している。語り手は自分の至らなさを認めつつも、「それでも、あなたの目には良い部分が映ることを願っている」と訴える。その願いは切実であると同時に、決して傲慢ではない。
この曲の最大の美点は、“自信のなさ”を過度に dramatize しないことにある。語り手は傷ついているが、同時にそれをユーモアと距離感を持って見つめている。だからこそ、リスナーはそこにリアリティを感じ、「自分もそうだ」と共感できる。
また、“会話が苦手”や“みんな何かを隠してる”というラインは、コミュニケーションが難しくなる現代社会において、非常に普遍的な不安を掬い上げている。そして「それでも人と繋がりたい」という願いを、逃げずに描いているところに、The Bethsの誠実さが光る。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Souvenir by boygenius
愛されたいと願う気持ちと、それを求める自分への戸惑いが交錯する静かなラブソング。 - Cut Your Bangs by Girlpool
“他者のために自分を変えてしまう”葛藤を、率直な言葉で描いたインディーの佳作。 - Me & My Dog by Phoebe Bridgers, Lucy Dacus & Julien Baker
誰かとの関係の中で感じる不完全さと逃避願望を詩的に綴った心の記録。 - Alaska by Maggie Rogers
変化を受け入れながら自分を肯定していく過程を、美しくダンサブルに描いた一曲。
6. “信じたくてたまらないけど、怖い”
「Dying to Believe」は、変わりたいと願いながらも、そのプロセスで傷つくことを恐れる――そんな人のためのアンセムである。
この曲が私たちに教えてくれるのは、「弱さを見せることは、信じることの第一歩である」という真実だ。完璧じゃなくてもいい。うまく話せなくてもいい。大切なのは、誰かに「見ていてほしい」と思えること。そして、その願いを口にする勇気を持てるかどうか。
Elizabeth Stokesは、軽やかなギターと共に、そんな複雑な感情をまっすぐに届けてくれる。だからこの曲は、叫ぶような激しさではなく、ぎゅっと心をつかんで離さない“静かな衝動”を持っている。
「Dying to Believe」は、信じたいけれど信じきれないあなたに贈る、まっすぐで優しいラブソングである。信じることが怖いときこそ、この曲の中に身を預けてみてほしい。きっと、あなたの中の“最良の部分”が、そっと目を覚ますはずだから。
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