
1. 歌詞の概要
「Doing It」は、Charli XCXが2014年にリリースしたアルバム『Sucker』からのシングルであり、2015年にはイギリス盤としてRita Oraをフィーチャーしたバージョンが発表された。この曲が描くのは、女性同士の連帯と解放感、そして夜の自由を謳歌するポップ・アンセムである。
歌詞の中心にあるのは、“私たちは私たちのやり方で生きる”という、極めて明快な自己肯定であり、そこには恋愛や承認ではなく、「仲間と過ごすことの多幸感」が根底にある。男性の視線を必要としない、自立した女性の姿――それがこの曲の核である。
特定のストーリー性は持たず、むしろ「瞬間」に焦点が当てられている。深夜のドライブ、ネオンの光、踊る体。すべてが“Doing it(やってるの)”という一言に集約される。この言葉は自由の宣言であり、欲望の肯定であり、友情の合図なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Doing It」は、Charli XCXの“ポップ反逆期”とも言える『Sucker』時代に生まれた楽曲であり、彼女がパンクの精神をポップのフォーマットに落とし込む実験を進めていた最中の一曲である。
Rita OraをフィーチャーしたUKバージョンは、よりクラブ志向のアレンジが施され、イギリスのチャートでもスマッシュヒットを記録した。ふたりのコラボは、「ガーリッシュ」でありながらも「媚びない」、力強いフェミニンさを象徴するものとして、ティーンの間で高い支持を集めた。
MVではピンクのカウボーイファッション、砂漠のハイウェイ、ラメとファンタジーが混ざり合うヴィジュアルが展開され、Thelma & LouiseやSpring Breakersといった“女性による逃避と冒険”をテーマにしたカルチャーへのオマージュが込められている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
We’re staying all night
We never slow down
I think we better do it like we’re doing it now
夜通し起きてるの
スピードは落とさない
今この瞬間みたいに、ずっと走り続けよう
It’s been a long time
Since we’ve been around
So come on, let’s keep doing it like we’re doing it
久しぶりだよね
ふたりでこんな風に遊ぶのは
だからずっとこうしていたいの
Yeah, we’ll keep on doing it
‘Cause we’re doing it right
そう、ずっと続けよう
だってこれが、私たちの正解なんだから
引用元:Genius Lyrics – Charli XCX “Doing It”
4. 歌詞の考察
「Doing It」の歌詞は、直訳すれば“それをやってる”という曖昧な表現だが、それこそがこの曲の肝である。恋に落ちているのでも、何かを勝ち取ったわけでもない。ただ、夜を走り、友だちと笑い合い、音楽に身体を任せる。何かを「成し遂げる」のではなく、「やってることそのもの」に価値がある――それがこの楽曲の美学だ。
この“Doing It”という言葉には、あらゆる可能性が詰まっている。自由、反抗、楽しさ、連帯、欲望、そして生きることそのもの。それらを、飾らず、説明せず、ただ“している”という事実だけで肯定する。だからこの曲は、特定の意味を限定せず、聴く者一人ひとりの「Doing It」に共鳴するのだ。
また、Rita Oraのパートが加わることで、ふたりの間に“sisterhood”のような絆が生まれ、曲全体がより開放的で官能的なものとなっている。それは恋愛やセクシュアリティの文脈を超えた、“女性同士の夜の物語”としての深みを与えている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Cool for the Summer by Demi Lovato
抑えきれない欲望を自由に歌い上げたポップソング。夏の衝動と感情の奔流が共通する。 - Run the World (Girls) by Beyoncé
女性の力と連帯を堂々と宣言したアンセム。フェミニズム的メッセージが「Doing It」と共鳴。 - IDGAF by Dua Lipa
強さと自立の象徴としての女性像を描く楽曲。恋愛よりも自分を選ぶ姿勢が似ている。 - Boys by Charli XCX
視線を翻し、女性主体の感情と欲望を軽やかに描いた作品。ポップでありながら意味深い。
6. 私たちの夜、私たちのリズム
「Doing It」は、“誰かのために整えられた夜”ではなく、“私たち自身の夜”を生きることを肯定するための音楽である。それは男性からの承認や、社会的な評価を求めるのではなく、もっと直感的に、今その瞬間の解放感や喜びを抱きしめるような行為だ。
この楽曲が放つエネルギーは、カラフルで、ノイジーで、そして誠実だ。真剣すぎず、でも本気。ふたりの歌声は、ただ楽しいだけでは終わらない何かを感じさせる。そこには、女性同士が肩を並べて自由を叫ぶ力がある。
Charli XCXはこの曲で、“楽しむことは革命になり得る”という姿勢を見せてくれた。そしてその革命は、クラブの床でも、深夜のドライブでも、どこでも始められるのだ。
「Doing It」は、ただのパーティーソングではない。それは、女性たちが自分の身体、自分の夜、自分の人生をコントロールするための、ポップという名の宣言なのだ。
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