発売日: 1967年10月30日
ジャンル: サイケデリック・ロック、フォークロック、カントリーロック、バロックポップ
自由な発火、分裂の予感——“再び”集った者たちが放つ、創造の火花と不協和の美
1967年にリリースされた『Buffalo Springfield Again』は、バンドにとって2枚目のスタジオ・アルバムであり、
結果としてもっとも野心的で、もっともバラバラな、そしてもっとも創造性に満ちた作品となった。
前作でその才能を覗かせていたStephen Stills、Neil Young、Richie Furayは、
ここでそれぞれが独立した作曲者、プロデューサー、パフォーマーとして個性を爆発させており、
もはやこれは“バンド”というより、“3つの個”の衝突と共鳴が刻まれた記録”に近い。
プロダクションにはジャック・ニッチェ(Phil Spector人脈)、デヴィッド・クロスビーらが関わり、
フォーク、ジャズ、クラシック、サイケ、バロック、カントリーが複雑に交錯する万華鏡的作品となっている。
カリフォルニア・ロックの精神的転換点にして、バンドの崩壊前夜を映す静かなる傑作だ。
全曲レビュー
1. Mr. Soul
ニール・ヤングによるオープニング・ナンバー。
ラウドなギターリフとダークな歌詞が絡み合い、自己疎外と商業的成功への不信がぶちまけられる。
まるで“フォーク版のJumpin’ Jack Flash”のような攻撃性。
2. A Child’s Claim to Fame
リッチー・フューレイによる軽快なカントリーポップ。
バーンと鳴るドブロ・ギターと三声コーラスが心地よく、皮肉と愛情が交錯する。
ヤングに向けたメッセージとも解釈される。
3. Everydays
スティルス作のジャズ風フォーク。
不規則なコード進行と曖昧な構成が、“日常の奇妙さ”を音で描いている。
演奏にはジャズ・プレイヤーも参加し、サウンドの幅が一気に拡張。
4. Expecting to Fly
ヤング作のバラッドにして、本作の白眉。
ジャック・ニッチェによるストリングスとオーケストラのアレンジが壮麗に展開し、
“別離と幻滅”をこれほどまでに詩的かつ荘厳に描いた曲は他にない。
ヤングの脆く繊細な歌声が胸に迫る。
5. Bluebird
スティルスの代表作の一つ。
アコースティックな冒頭から徐々にエレキとバンジョーが絡み合い、
ブルース、フォーク、サイケが一つの曲で推移していく“構成美”が光る。
まさにサマー・オブ・ラブの理想と崩壊を描いた叙事詩。
6. Hung Upside Down
リズミカルなミディアムテンポのロック。
スティルスの迷いや反省、時代への困惑が詩に込められ、
コーラスとギターの絡みが豊かな層をつくる。
7. Sad Memory
リッチー・フューレイによる短い弾き語りバラード。
素朴さと真っ直ぐな感情が胸を打つ、バンド内で最も“人間的”な一曲。
8. Good Time Boy
ドラマーのデューイ・マーティンがリードをとるR&B風ナンバー。
ブラス・セクションが入り、ソウルやモータウン的な影響も垣間見える異色曲。
9. Rock & Roll Woman
スティルスとクロスビー共作とも言われるナンバー。
アシッドなギターと浮遊感のあるハーモニーが、
カリフォルニア・サイケの洗練を体現する。
“女性像”の描き方に、時代の曖昧なジェンダー感も反映。
10. Broken Arrow
ニール・ヤングによる7分を超える実験的トラック。
サウンド・コラージュ、管弦楽、ジャズ風ピアノ、カントリー調バラードが断片的に組み合わされ、
“愛と戦争、個人と国家、喪失と幻想”を描いたポストモダン的楽曲。
混沌と叙情の極み。
総評
『Buffalo Springfield Again』は、バンドという枠組みの中で、個々の才能がはちきれんばかりに拡張された結果、
一枚の中で3つの異なる世界が同居するような異形の傑作である。
それは時に不協和であり、時に驚くほどの調和を見せ、
“バラバラであること”の美しさと可能性を見せてくれる作品でもある。
本作をもって、Buffalo Springfieldはすでに「バンド以上の存在」となっていた。
この“再び”のタイトルには、実は二度と戻らないという予兆も含まれていたのかもしれない。
おすすめアルバム
- Neil Young – Harvest
ヤングによるカントリー/フォークロックの金字塔。 - Stephen Stills – Stephen Stills (1970)
ソロ名義の初作。本作の延長線上にある多様性と個性が花開く。 - The Byrds – The Notorious Byrd Brothers
サイケとカントリー、内省とポップの調和という点で強い共鳴。 - Crosby, Stills, Nash & Young – Déjà Vu
バッファロー解体後の集大成。個の拡張と調和の黄金バランス。 - Love – Forever Changes
同時代におけるLAサイケの名作。複雑さとメロディの美が響き合う。
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