アルバムレビュー:Buffalo Springfield by Buffalo Springfield

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発売日: 1966年12月5日
ジャンル: フォークロック、カントリーロック、サイケデリック・ロック


西海岸の夜明け、そして裂け目——バッファロー・スプリングフィールド、激動の予兆を奏でた最初の一撃

1966年、アメリカ西海岸のロサンゼルスで結成されたBuffalo Springfieldは、
のちにソロで伝説となるNeil YoungStephen Stillsを擁する、短命にして影響力の大きなスーパーグループである。

デビュー作となる『Buffalo Springfield』は、まさに1960年代後半のアメリカ社会と音楽の転換点を記録した作品だ。
フォーク、ロック、カントリー、ブルース、そして初期のサイケデリック要素までを内包しながら、
若者の不安、政治的目覚め、恋と孤独の感情を、生々しいサウンドと複雑な視点で描き出している。

なお、シングル「For What It’s Worth」が発売後に大ヒットしたため、アルバムはその曲を追加して再発されたバージョンが一般的である。
このレビューもその“リイシュー版”に基づく。


全曲レビュー

1. For What It’s Worth

ステファン・スティルスによる反戦・抗議ソングの代名詞
「止まれ。何が起こってるか見てみよう」——この一節は、60年代後半のアメリカを象徴する言葉として今も引用される。
静かなギターリフと囁くような歌唱が、不穏な空気をむしろリアルに響かせる

2. Go and Say Goodbye

カントリー色が濃厚なフォークロック・チューン。
軽やかなリズムとは裏腹に、別れの予感と複雑な心情が滲む。

3. Sit Down I Think I Love You

ポップなメロディとソフトなコーラス。
だがそのタイトルの“逡巡”からもわかる通り、愛の告白に潜む不安と曖昧さを見事に描いている。

4. Nowadays Clancy Can’t Even Sing

ニール・ヤングによる内省的な一曲。
繊細なコード進行と詩的な歌詞が特徴で、疎外感や芸術家の苦悩を抽象的に綴る
当時から異彩を放っていたヤングの作家性が光る。

5. Hot Dusty Roads

スティルスによるブルージーな曲。
タイトルの通り、荒れた道を進むような浮浪者的情景と、都会の孤独が交差する。

6. Everybody’s Wrong

政治や社会への不信をにじませたリリック。
メロディは穏やかだが、“誰も正しくない”という断定に、当時の空気の裂け目が見える

7. Flying on the Ground Is Wrong

ニール・ヤングによるバラード調の楽曲。
感情の起伏を抑えながらも、“地面を飛ぶ”という逆説が心をざらつかせる、詩的で異色なラブソング。

8. Burned

ヤングのヴォーカルが初めて登場するアップテンポなナンバー。
恋の終わりと喪失がテーマながら、リズミカルで躍動感があるのが逆に切ない

9. Do I Have to Come Right Out and Say It

Richie Furayがヴォーカルを務める優しいミッドテンポ。
回りくどい愛の表現に、当時の男性像の不器用さと感情表現の限界が垣間見える。

10. Leave

緊張感のあるビートと尖ったギターが印象的。
心理的・物理的“離脱”の衝動をストレートに鳴らすロックナンバー。

11. Out of My Mind

ヤングが書いた、非常にパーソナルで不穏なバラード。
「正気を失っている」というフレーズに、内面の脆さと詩人としての孤独がにじむ。

12. Pay the Price

スティルスによるソリッドなロックナンバー。
自己責任と代償、社会的プレッシャーへの怒りと自己肯定の両方が込められている。


総評

Buffalo Springfield』は、60年代中盤のフォークロックを基盤にしながら、
のちのカントリーロック、サザンロック、シンガーソングライター文化へとつながる礎
を築いた作品である。

このアルバムには、時代の矛盾、個人の混乱、社会の分裂がすでに芽吹いており、
それが音楽という形で静かに、しかし力強く記録されている。

そして何よりも特筆すべきは、Stephen Stills、Neil Young、Richie Furayという後の巨星たちのスタイルが、すでにこの時点で確立されつつある点である。
まさに、時代の裂け目に立った若者たちが、一度だけ揃った夜の記録——それがこのデビュー作なのだ。


おすすめアルバム

  • Crosby, Stills & Nash – s/t (1969)
    BSS解散後にStillsが参加。調和と多声コーラスが美しい名作。
  • Neil YoungAfter the Gold Rush
    ニール・ヤングの初期ソロ代表作。内省と時代批評が交錯する。
  • The ByrdsYounger Than Yesterday
    フォークロックからサイケへの橋渡しをした名盤。
  • The Lovin’ Spoonful – Do You Believe in Magic
    60年代中盤の軽やかさと切なさが共存するポップ・フォーク作。
  • Gram Parsons – GP
    カントリーロックの魂を深く掘り下げた、もう一つの系譜の原点。

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