1. 歌詞の概要
「Blood of the Sun」は、Mountainのデビュー・アルバム『Climbing!』(1970年)に収録された、バンド初期の最も荒々しくパワフルなナンバーのひとつである。その内容はきわめてシンプルかつ本能的であり、ロックンロールが持つ肉体性と欲望のエネルギーを、濁りのないサウンドと言葉でそのままぶつけたような作品である。
歌詞全体には、人生に対する焦燥、自由への渇望、そしてその果てに待ち受ける“血と太陽”という対照的なイメージが交錯している。語り手は、愛、富、成功といった地上的な快楽を全て求めながらも、同時に何か破滅的な運命の予感を抱えている。ロックの快楽主義と宿命論が交錯する、短くも重厚な語りがここにはある。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲はMountainの中心人物であるレスリー・ウェスト(Leslie West)が、Mountain結成以前に発表したソロ・アルバム『Mountain』(1969年)にも収録されていた。Mountainの名はそこから取られているため、この曲はバンドの“原点”とも言える存在である。
作詞作曲は、レスリー・ウェストとフェリックス・パパラルディ、そしてパパラルディの妻で詩人・作詞家のゲイル・コリンズ(Gail Collins)による共同作業で、Mountain特有のブルースロックとハードロックの境界を突き破るような、重量感と衝動に満ちた世界観を明確に示している。
また、当時のアメリカにおけるカウンターカルチャーの文脈――戦争、ドラッグ、精神の解放と破壊――とも共鳴し、この曲は単なる“爆音ロック”に留まらず、**時代の裏側で燃え盛る太陽のようなエネルギーとその“血の代償”**を暗示していた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Why can’t you see
What you’re doing to me
What you’re doing to me
You take my money and you run to Mexico
どうして君には見えないんだ
君が俺に何をしているか
俺の金を奪ってメキシコに逃げていくなんて
You’re stealing my love and you’re thinking it’s fun
Blood of the sun
Blood of the sun
俺の愛を盗んでおいて
それが楽しいだなんて思ってる
太陽の血
太陽の血
引用元:Genius 歌詞ページ
この引用からも明らかなように、ここでは裏切り、怒り、混乱、そして情熱が混ざり合っている。“太陽の血”という不穏な比喩は、愛の裏切りによって燃え上がる怒りや、自我の崩壊を象徴しているようにも思える。
4. 歌詞の考察
「Blood of the Sun」は、ブルースロックの基本構造を持ちながらも、単なるラブソングや失恋の歌では終わらない、狂気と救済の間を揺れる男の心情を描き出している。特にこの曲における“太陽の血”というキーワードは、生命と破滅の二重性を暗示するものであり、聖なる光でもあり、焼き尽くす力でもある。
語り手は明らかに裏切られており、その怒りは直接的だが、彼の叫びにはどこか滑稽さや諦念の影も漂う。これは、Mountainというバンド全体が持つ“悲劇とユーモアの共存”という感覚とも通じている。
また、この曲はバンドの音楽的骨格を提示した一曲でもある。レスリー・ウェストの切り裂くようなギターリフと、フェリックス・パパラルディの重厚なベースがぶつかり合い、非常にタイトで爆発力のある演奏となっている。この“圧”が、歌詞の緊張感と完璧に一致しており、まるで言葉と音が拳のようにまとまってリスナーを殴りつけるような感覚を生んでいる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mississippi Queen by Mountain
同アルバム収録の代表曲。より官能的なアプローチだが、衝動の爆発は共通。 - Evil by Cactus
70年代初頭のヘヴィ・ブルースロック。ダーティなグルーヴと怒りの表現が似ている。 - Red House by Jimi Hendrix
ラブソングに宿るブルースの情念とギターの激情を味わえる。 - Born to Be Wild by Steppenwolf
自由への憧れと破壊願望が共存するハードロック初期の金字塔。 - Waiting for the Bus / Jesus Just Left Chicago by ZZ Top
アメリカ南部的な語りとヘヴィブルースの交差点。音像の密度が似ている。
6. 太陽の血が燃えるとき――ロックが語る“怒りと衝動の神話”
「Blood of the Sun」は、Mountainの楽曲の中でもとりわけ原初的なエネルギーに満ちたロックンロールである。そこには知性や洗練ではなく、むき出しの感情と身体の躍動がある。失われた愛、奪われた金、裏切られた信頼――それらすべてが、ギターのディストーションに変換され、叫びとして放出される。
それはまさに、ロックが“神話”として成立していた時代のエネルギーに他ならない。太陽は明るく照らすが、同時に焼き尽くす。それは愛にも、怒りにも、創造にも通じる。
この曲は短く、荒く、力強い。だがそこに込められた“太陽の血”は、永遠に冷めることのない熱として、今もリスナーの心に火を灯し続けている。
だからこそ、耳を傾けるたびに思うのだ――
「これがロックの原点だった」と。
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