1. 歌詞の概要
「A Different Age」は、**Current Joys(カレント・ジョイズ)**が2018年に発表した同名アルバム『A Different Age』のタイトル・トラックであり、アルバムの核を成す楽曲である。約7分にわたって語りと歌が交錯しながら展開するこの曲は、ノスタルジー、時代への違和感、自己喪失、そして芸術表現の限界に関する深い瞑想として響く、異色かつ特別な存在である。
タイトルが示す「別の時代」は、単なる過去への郷愁ではなく、自分が本来いるべきだったかもしれない“どこか”を希求する感情のメタファーだ。この曲の語り手は、現代に生きながら、その時代に心がフィットしていないことを痛感している。
デジタルでスピード重視の社会、自撮りと自己演出、SNSによる自己の断片化。そうした現代的疲弊感と個人の芸術的苦悩が、ミニマルなギターの伴奏と淡々としたモノローグによって描き出されていく。
楽曲は、音楽というより**“詩と映画の中間にある”ような表現**として成立しており、その静けさと緊張感は、まるで夜の底から誰かの独白を聴いているかのような錯覚を与える。
2. 歌詞のバックグラウンド
Current Joysは、ニック・レイナルズ(Nick Rattigan)のソロ・プロジェクトであり、彼は映像作家としての顔も持つアーティストである。「A Different Age」は、その映像的な感覚が最も色濃く出た楽曲のひとつであり、MVでは古い8ミリ風の映像と共に、“芸術家としての自己”と“現代の観客”との関係性がテーマとして描かれている。
この楽曲はリリース当初から、**Z世代やミレニアル世代における“自分の時代ではない感覚”**を代弁するものとして共感を集め、TikTokやYouTubeでの二次創作・再編集によって広く拡散された。
「ぼくはアーティストじゃない」「これはただの曲だ」「僕の人生はこの曲じゃない」など、語り口で綴られるフレーズは、芸術家が自己表現と現実との乖離に苦しむ姿そのものでもあり、リスナーにとっては“他人事ではない孤独”を突きつける鏡でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“This is not my life / It’s just a fond farewell to a friend”
これは僕の人生じゃない
ただの友だちへの、優しい別れの言葉なんだ“It’s just a lullaby / To the ones that lost their minds”
これは子守唄さ
心を失くしてしまった人たちへのね“I’m not an artist / I’m a journalist”
僕はアーティストじゃない
ただのジャーナリストさ“I document these feelings / I don’t feel them anymore”
ただ記録してるんだ この感情を
僕自身はもう 感じてないんだよ“I’m from a different age / I don’t get off on what you say”
僕は別の時代から来た
君たちが何を言おうが それで興奮なんかしない
※ 歌詞引用元:Genius
4. 歌詞の考察
「A Different Age」は、“自己”とは何か、“表現”とは何か、“時代”とは何か、という根源的な問いを静かに投げかける楽曲である。
語り手は、「アーティスト」という役割から距離を取ろうとしながら、それでも創作を止められずにいる。「自分が感じていない感情」を作品にするという自己分裂的行為は、あらゆる表現者が抱えるジレンマでもある。
この曲の核心には、「今の自分は、ここ(この時代)に属していない」という断絶感がある。「I’m from a different age」というフレーズは、どこか懐古的にも聞こえるが、決して過去を理想化しているわけではない。
むしろ、今という時間がリアルに感じられない、生きている実感がない、という鋭い感覚がそこにはある。
また、「ぼくは感じていない」「ただ記録している」という語りは、SNSやネットの世界で自己を演出する現代人のメタファーにも重なる。すべてが見せるためのパフォーマンスになり、実感は剥がれ落ちていく——そうした**“現代的な空虚”の詩的表現**とも言えるだろう。
この楽曲における“波風のない語り口”と“感情の爆発寸前の抑制”が生むテンションは、Nick Rattiganの音楽がただのベッドルーム・ポップではなく、文学や映画に近い表現域に達していることを証明している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Motion Sickness” by Phoebe Bridgers
現代的な自己不信と過去への屈折した愛情を、静かに歌い上げる名曲。 - “Archie, Marry Me” by Alvvays
愛の夢と現実の乖離を、ノスタルジックなギターポップに載せて。 - “Jesus Christ” by Brand New
宗教、死、アイデンティティへの問いを静かな絶望で包んだエモの異端作。 - “Depreston” by Courtney Barnett
都市の空虚と人生の皮肉を、ミニマルなリリックで描いた現代的ポップ。 - “Videotape” by Radiohead
死を目前にした自己の記録=再生の祈り。音と沈黙のあいだの傑作。
6. 生きる時代を間違えた人たちへ——「A Different Age」が残す静かな祈り
「A Different Age」は、Current Joysというプロジェクトの核を象徴する楽曲であり、時代への違和感と創作の虚しさ、そしてなお生きることへのささやかな希望が静かに織り込まれている。
それは“自分はここに属していない”と感じるすべての人に向けられた詩であり、
「感じないことを歌う」という逆説の中にこそ、本物の感情が浮かび上がる瞬間を私たちに差し出してくれる。
「A Different Age」は、声にならない違和感をそのまま音にしたような作品であり、世界に馴染めないまま日々を過ごすあなたの耳元に、そっと囁きかけてくる——“それでも君はここにいる”と。
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