
イントロダクション
Current Joysは、Nick Rattiganによるソロプロジェクトである。彼の音楽を聴くと、まず感じるのは「部屋の中で鳴っている音」だ。派手なスタジオの照明ではなく、薄暗い寝室のランプ。大きなフェスの歓声ではなく、夜中に一人で見返す古い映画。Current Joysの音楽には、そうした私的な孤独が濃く染み込んでいる。
しかし、その孤独は閉じ切っていない。むしろ、個人の部屋から世界の断片へと伸びていく。映画、青春、失恋、記憶、身体の不安、アメリカの風景、ネット時代の断片的な感情。Current Joysは、ベッドルームポップ、インディーロック、ローファイ、ポストパンク、フォーク、カントリーまでを横断しながら、ひとりの人間の内側に広がる景色を音に変えてきた。
Current JoysはNick Rattiganのプロジェクトであり、彼はSurf Curseのメンバーとしても知られる。SpotifyやBandcampなどの配信上では、Voyager、LOVE + POP、LOVE + POP Pt 2、East My Loveなど、時期ごとに異なる質感の作品が確認できる。2024年10月11日にリリースされたEast My Loveは、Secretly Canadianから発表された作品で、Bandcampでは「アメリカ西部のフォークロアを深く掘り下げ、愛、トラウマ、失恋、精神的再生を語るアルバム」と紹介されている。
Current Joysの魅力は、完成された美しさではなく、揺れそのものにある。声は時に震え、ギターはざらつき、ドラムマシンは簡素で、録音には部屋の空気が残る。だが、その不完全さが、むしろ真実味を生む。完璧に磨かれたポップソングでは届かない場所へ、Current Joysの音楽はそっと入り込んでくる。
Current Joysの背景とNick Rattigan
Current Joysの中心人物であるNick Rattiganは、アメリカ・ネバダ州出身のミュージシャンである。彼はソロ名義Current Joysとして活動する一方、Jacob RubeckとのバンドSurf Curseでもドラムとボーカルを担当してきた。PitchforkはSurf Curseのレビューにおいて、Rattiganの二つの顔を対比し、Current Joysを「沈んだ内省的なギターポップ」として、Surf Curseをより大胆でハートブレイクを抱えたエネルギーのあるバンドとして描いている。
この二面性は重要である。Surf Curseが外へ走り出す音楽だとすれば、Current Joysは内側へ落ちていく音楽である。Surf Curseには青春の爆発、パンク的なスピード、仲間と鳴らすバンドの熱がある。一方、Current Joysには、ひとりで映画を見て、ひとりでギターを弾き、ひとりで記憶を掘り返すような静けさがある。
Current Joysの初期作品は、まさにDIY的な環境から生まれた。Bandcampを中心に音源を公開し、ローファイな録音の質感をそのまま表現の核にしていった。華やかなプロモーションよりも、少数のリスナーが個人的な痛みを重ねながら見つけるような音楽だったのである。
彼の音楽がインターネット世代のリスナーに響いた理由も、そこにある。Current Joysの楽曲は、巨大な物語を語らない。代わりに、夜中の感情、ふとした不安、映画のワンシーンのような記憶、過ぎ去った恋の残像を切り取る。SNSやストリーミングで断片的に音楽と出会う時代において、Current Joysの曲は、まるで誰かの日記の1ページを偶然拾ったように響く。
音楽スタイルと特徴
Current Joysの音楽スタイルは、ベッドルームポップ、ローファイ・インディーロック、ポストパンク、ニューウェイブ、フォーク、カントリー、実験的ポップの間を揺れ動く。Nick Rattiganの表現は一貫して「孤独」を中心にしているが、その孤独の形はアルバムごとに変わる。
初期作品では、粗いギターとシンプルなドラムマシン、遠くで鳴っているような声が特徴的である。音数は少なく、録音はむき出しで、歌はまるで自分自身に向かってつぶやかれているようだ。この時期のCurrent Joysには、Joy DivisionやThe Cure以降の暗いポストパンク感覚、さらにDaniel Johnston的な脆さも感じられる。
一方で、Voyager以降の作品では、アレンジが広がり、ストリングスやより厚みのあるバンドサウンドも取り入れられていく。音のスケールは大きくなるが、中心にある孤独は消えない。大きな音になっても、Current Joysはあくまで「ひとりの人間の内側」を歌っている。
2023年のLOVE + POPでは、ヒップホップ、エレクトロ、オートチューン、ポップの人工的な質感へ大きく接近した。Bandcampによると、LOVE + POPは2023年8月4日にリリースされ、YOUR ANGELやLil Yachtyが関わる楽曲も含まれている。Current Joys それまでのCurrent Joysを知るリスナーにとって、この作品はかなり大胆な変化だった。ローファイなギターの孤独が、デジタル時代の壊れたポップへと変形したのである。
そして2024年のEast My Loveでは、再び生々しいフォークとカントリー寄りの方向へ向かう。Bandcampではこの作品が「country-tinged」、つまりカントリー色を帯びたアルバムとして紹介されている。Current Joys ここでのCurrent Joysは、ベッドルームの孤独をアメリカ西部の荒野へと持ち出している。部屋の中で膝を抱えていた人間が、いつの間にか広い空の下で自分の傷と向き合っているような変化だ。
代表曲の楽曲解説
「New Flesh」
「New Flesh」は、Current Joysを象徴する楽曲のひとつである。シンプルなギター、反復するリズム、冷たく乾いたボーカル。曲全体に漂うのは、若さの高揚というより、若さが終わっていく感覚である。
この曲の魅力は、疾走しているのにどこか空虚なところだ。テンポは軽快で、身体は自然に動く。しかし、その中心にはぽっかり穴が空いている。まるで夜の街を走っているのに、どこにも目的地がないような感覚だ。
「New Flesh」には、ポストパンク的な反復の美学がある。メロディは大きく展開するというより、同じ感情を何度もなぞる。だからこそ、聴き手は曲の中に閉じ込められる。孤独や不安は、劇的に解決されない。ただ続いていく。その感じがCurrent Joysらしい。
「Kids」
「Kids」は、Current Joysの初期を代表する楽曲であり、青春の儚さと無防備さが詰まっている。タイトルは単純だが、そこにある感情は複雑だ。若さを讃えているようでいて、同時にその若さが失われることをすでに知っているような曲である。
ギターの響きは素朴で、声はまっすぐだが、どこか頼りない。この頼りなさが美しい。完璧な歌唱ではなく、感情が声に追いつかないような瞬間がある。Current Joysの音楽では、その不安定さが表現の中心になる。
「Kids」を聴くと、青春とは明るい季節ではなく、後から振り返ったときにだけ光って見える時間なのだと感じる。過ごしている最中は不安で、退屈で、孤独で、どうしようもない。だが、過ぎてしまえば、それは戻れない場所になる。Current Joysは、その矛盾を小さな曲の中に閉じ込めている。
「Blondie」
「Blondie」は、Current Joysのロマンティックな側面を示す楽曲である。甘さはあるが、明るいラブソングではない。むしろ、恋愛が記憶の中でぼやけていく過程を描いているように聞こえる。
Current Joysの恋愛ソングは、相手を強く抱きしめるというより、遠くから思い出すようなものが多い。目の前にいる相手ではなく、すでに失われた誰か。あるいは、最初から手の届かない誰か。「Blondie」にも、そうした距離感がある。
音の質感は簡素で、余白が多い。その余白が、リスナー自身の記憶を呼び込む。Current Joysの楽曲は、細かく説明しすぎないからこそ、聴く人の個人的な体験と結びつきやすい。
「A Different Age」
「A Different Age」は、Current Joysの中でも特に重要な楽曲である。アルバムA Different Ageのタイトル曲であり、Nick Rattiganの映画的な感性と内省的なソングライティングが強く表れている。
この曲には、「別の時代」への憧れがある。しかし、それは単なる懐古ではない。過去に戻りたいというより、現在にうまく適応できない人間が、別の時間軸を夢見ているような感覚である。現代の速度、情報量、人間関係の軽さ。その中で、自分だけが古い映画の中に取り残されているような孤独がある。
Current Joysにとって映画は重要な要素だ。First Avenueのアーティスト紹介では、Nick Rattiganが映画を熱心に吸収する人物であり、彼の音楽が映像的なイメージと音響を同時に構想するものとして説明されている。First Avenue 「A Different Age」も、まさに短編映画のような曲だ。物語をすべて説明するのではなく、数カットの映像だけを残して終わる。
「Become the Warm Jets」
「Become the Warm Jets」は、Current Joysの中でも感情の爆発が強い楽曲である。静かな孤独というより、抑えていたものが一気に噴き出すような曲だ。
タイトルからはBrian EnoのHere Come the Warm Jetsを連想する人もいるだろう。Current Joysの音楽には、過去の音楽や映画への参照が自然に混ざり込んでいる。しかし、それは引用を見せびらかすためではない。自分の感情を表すために、古い文化の断片を借りてくるのである。
この曲の美しさは、荒さの中にある。声は揺れ、演奏も完全に整っているわけではない。しかし、その粗さが感情の輪郭を濃くする。きれいに歌われていたら失われてしまう痛みが、ここには残っている。
「Fear」
「Fear」は、タイトル通り恐怖や不安を扱った楽曲である。Current Joysの音楽において、不安は頻繁に現れるテーマだ。しかし、それはホラー映画的な恐怖ではなく、日常の中に潜む静かな恐怖である。
朝起きても何も変わっていないこと。誰かに忘れられること。自分の感情が自分でもわからなくなること。身体だけがここにあって、心がどこか別の場所にあること。Current Joysの恐怖は、そういう種類のものだ。
音楽的には、ミニマルな構成が不安を増幅する。大きな展開で解放されるのではなく、同じ場所をぐるぐる回るように進む。だから聴き手は、曲の中で不安から逃げられない。これはCurrent Joysの表現の強さである。
「California Rain」
「California Rain」は、2024年のEast My Loveから先行的に紹介された楽曲である。Northern Transmissionsによると、East My Loveは2024年10月11日にSecretly Canadianからリリースされ、先行シングルとして「California Rain」が公開された。
この曲では、Current Joysの孤独がよりフォーキーで広い風景へ向かっている。カリフォルニアの雨という言葉には、乾いた土地に降る一時的な湿り気のようなイメージがある。過去の記憶が、ふとした天候によって蘇るような曲だ。
East My Love期のCurrent Joysは、内向的なベッドルームポップから、アメリカ的なフォークロアへと歩み出している。だが、その歩みは明るい冒険ではない。傷を抱えたまま荒野に出るような、静かな再生の旅である。
アルバムごとの進化
Wild Heart
Wild Heartは、Current Joysの初期衝動を知るうえで重要な作品である。もともとはTELE/VISIONS名義の流れも含む初期の活動と結びついており、Nick RattiganのDIY精神が色濃く残っている。
この時期の音は、非常にむき出しである。きれいに整ったスタジオポップではなく、衝動のままに録音されたような質感がある。ドラムマシン、簡素なギター、孤独な声。すべてが小さな部屋の中で鳴っているように聞こえる。
Wild Heartというタイトルは、Current Joysの本質をよく表している。彼の音楽は内向的だが、心は決して静止していない。むしろ、内側で暴れている。外から見れば無口な人間の中に、制御できないほど荒れた感情がある。その「野生の心」が、初期Current Joysの音にはある。
Me Oh My Mirror
Me Oh My Mirrorは、Current Joysの名前と世界観をよりはっきり刻んだ作品である。鏡というモチーフが示すように、ここには自己との対話がある。自分を見ること、自分を疑うこと、自分の姿に耐えられないこと。Current Joysの音楽における内省性が、より濃くなっている。
音楽的には、ローファイなインディーロックとポストパンク的な冷たさが混ざり合う。ギターは簡素だが印象的で、リズムは反復的で、声はどこか遠い。まるで鏡に向かって歌っているのに、その声が自分には返ってこないような感覚がある。
このアルバムは、Current Joysの「ひとりで鳴らすバンドサウンド」を確立した作品と言える。バンドの熱狂ではなく、ひとりの部屋の中に仮想のバンドを作り出す。その感覚が、ベッドルームポップとしてのCurrent Joysを形作っている。
A Different Age
2018年のA Different Ageは、Current Joysの代表作として語られることが多い。ここでは、Nick Rattiganの映画的な感性、青春への距離感、孤独の美学が非常に強く表れている。
このアルバムの重要な点は、単に暗いだけではないことだ。たしかに、音には寂しさがある。しかし、その寂しさの中に、記憶の輝きがある。古い映画、過ぎ去った恋、戻れない時間。それらが粗いギターの響きの中で淡く光る。
A Different Ageというタイトルには、現在への違和感がある。自分は今ここにいるのに、本当は別の時代に属しているのではないか。そうした感覚は、インターネット以降の若いリスナーに強く響いた。あらゆる時代の音楽や映画にアクセスできる一方で、自分の現在がどこか空虚に感じられる。その感情を、Current Joysはとても自然に音にしている。
Voyager
2021年のVoyagerは、Current Joysのサウンドが大きく広がった作品である。FLOOD Magazineのインタビュー記事では、Rattiganがソロ名義とSurf Curseの双方で常に制作とツアーのサイクルにいたが、突然すべてが止まり、自分と向き合う時間を持つことになったという文脈でVoyagerが語られている。
この作品では、初期のローファイな小部屋感から一歩進み、より壮大で映画的なアレンジが登場する。音の空間が広がり、ストリングスや豊かな楽器配置によって、Current Joysの内面世界が大きなスクリーンに投影されるようになる。
しかし、スケールが大きくなっても、Current Joysの核は変わらない。歌われているのは、孤独、記憶、自己不信、愛、死、映画的幻想である。Voyagerは、ベッドルームの小さな感情を、旅の物語へと拡張したアルバムだ。タイトル通り、内面の宇宙を旅する作品である。
LOVE + POP
2023年のLOVE + POPは、Current Joysのディスコグラフィの中でも特に大胆な転換点である。Bandcampによると、このアルバムは2023年8月4日にリリースされ、「LOVE + POP feat. YOUR ANGEL」や「Gatsby」などを含んでいる。
ここでのCurrent Joysは、従来のギター中心のローファイ感から離れ、デジタルポップ、ヒップホップ、エレクトロニックな質感へ接近する。音は人工的で、時に過剰で、コラージュ的である。これまでのCurrent Joysが古いVHSのような質感だったとすれば、LOVE + POPは割れたスマートフォンの画面越しに見る感情のようだ。
この変化には賛否があったとしても、非常にCurrent Joysらしい挑戦である。なぜなら、彼の音楽は常に「今の自分の不安」を正直に映してきたからだ。2020年代の孤独は、ギター一本だけでは表現しきれない。通知音、加工された声、ジャンルの崩壊、ネット上のイメージ。その混乱を取り込むことで、LOVE + POPはCurrent Joysの孤独を現代的に更新した。
LOVE + POP Pt 2
2024年のLOVE + POP Pt 2は、前作の実験性をさらに展開した作品である。Spotify上でも、LOVE + POP Pt 2は2024年のアルバムとして確認できる。
この作品では、Current Joysのポップへの接近がより断片的で、ジャンル横断的になる。従来のインディーロック的なリスナーからすれば、かなり異質に感じる部分もある。しかし、この異質さは、Current Joysが自分の表現を固定しないアーティストであることを示している。
Current Joysは「ベッドルームポップの人」というイメージで語られやすい。だが、彼自身はその部屋の壁を何度も壊そうとしている。LOVE + POP Pt 2は、その壊す作業の一部である。孤独を美しく保存するだけでなく、時に醜く、騒がしく、加工された形で提示する。そこに2020年代のリアリティがある。
East My Love
2024年のEast My Loveは、Current Joysの新たな到達点である。Bandcampでは2024年10月11日リリース、全12曲の作品として掲載されており、「Echoes of the Past」、「California Rain」、「Days of Heaven」、「Never Seen a Rose」などが収録されている。
このアルバムは、前作群のデジタルな実験から一転し、カントリーやフォークの響きを帯びている。Big Love Recordsの商品紹介では、Rattiganがテネシーの森の中でこの作品を制作したこと、孤独や不安、抑うつに向き合うような作品であることが紹介されている。
East My Loveは、Current Joysの音楽が「部屋」から「風景」へ移動したアルバムである。初期の音楽がベッドルームの壁に反響していたとすれば、この作品では声が森や平原に吸い込まれていく。だが、孤独は消えない。むしろ、広い場所に出ることで、自分の小ささがよりはっきりする。
Apple Musicでは、East My Loveについて、かつてRattiganが生々しすぎて歌えないと感じていた曲を再訪した作品として説明されている。Apple Music – Web Player これは非常に重要だ。Current Joysの音楽は、ただ新しい音を作るだけではなく、過去の傷を別の時期に歌い直す作業でもある。時間が経ったからこそ歌える痛みがある。East My Loveは、その成熟を感じさせる作品である。
DIY性とベッドルームポップの美学
Current Joysを理解するうえで、DIY性は欠かせない。DIYとは、単に予算が少ないことではない。自分の感情を、自分の手で、自分の速度で形にする態度である。
Current Joysの初期作品には、プロフェッショナルな録音物にはない近さがある。声が近い。ギターが近い。録音の粗さが近い。それは、リスナーに「完成品を聴いている」というより、「誰かの部屋に入り込んでしまった」という感覚を与える。
ベッドルームポップの魅力は、この距離感にある。大きなスタジオで録音された音楽は、しばしばリスナーとの間に舞台を作る。だが、Current Joysの音楽は舞台を作らない。むしろ、床に座って同じ空気を吸っているような近さがある。
もちろん、Current Joysはキャリアを重ねるにつれて録音もアレンジも広がっていった。だが、根本的なDIY精神は残っている。たとえ音が大きくなっても、Current Joysは個人的な感情を出発点にしている。そこが彼の音楽を特別なものにしている。
映画との関係
Current Joysの音楽には、映画的な質感が強くある。Nick Rattiganは映像的な感性を持つアーティストであり、First Avenueの紹介文でも、彼の音楽はイメージと音が同時に構想される触覚的なものとして語られている。
彼の曲は、明確なストーリーを語るというより、映画の一場面だけを切り出すように作られている。夜の道路、誰もいない部屋、古いテレビ、恋人の後ろ姿、雨の窓、砂漠の空。そうした映像が、歌詞や音の隙間から立ち上がる。
「A Different Age」や「Become the Warm Jets」などには、映画の記憶と個人的な感情が混ざり合っている。Current Joysにとって映画は、単なる趣味や引用元ではない。自分の感情を理解するための鏡であり、現実から少し離れるための避難所であり、同時に現実へ戻るための道具でもある。
彼の音楽を聴くと、リスナーは自分自身の記憶も映画のように見始める。あの時の部屋、あの人の表情、あの帰り道。Current Joysの曲は、聴き手の記憶に映写機の光を当てる。
影響を受けた音楽と文化
Current Joysの音楽には、さまざまな影響が流れている。ポストパンク、ニューウェイブ、ローファイインディー、ベッドルームポップ、フォーク、カントリー、エモ、さらにはヒップホップやエレクトロニックポップまで、その幅は広い。
初期の反復的なギターや冷たいリズムには、Joy DivisionやThe Cureの影が感じられる。一方で、声の脆さや録音の粗さにはDaniel Johnstonや初期のローファイアーティストに通じるものがある。さらに、LOVE + POP期には、現代のネットポップやラップ以降の感覚も取り入れている。
Current Joysの面白さは、影響を受けたものを整然と整理しないところだ。彼の音楽では、古い映画、インディーロック、ネットカルチャー、個人的な記憶が雑然と混ざっている。まるで部屋の床に散らばった本、レコード、DVD、スマートフォン、服、手紙のようである。その雑然さが、現代のリアルな感情に近い。
同時代アーティストとの比較
Current Joysを同時代のインディーアーティストと比較すると、その個性が見えてくる。
Mac DeMarcoは、ローファイな質感と脱力したロマンティシズムを広く知らしめた存在である。しかし、Mac DeMarcoの音楽にはどこかユーモアと陽気さがある。一方、Current Joysはより影が濃く、感情の温度が低い。Mac DeMarcoが昼下がりの気だるさなら、Current Joysは午前3時の自己対話だ。
Alex Gと比べると、両者にはDIY性と不安定な感情表現が共通している。ただしAlex Gはより奇妙で断片的なソングライティングを展開し、Current Joysは映画的なロマンティシズムを強く持つ。Current Joysの曲には、悲しい場面を美しく撮ろうとするカメラの視線がある。
Surf Curseと比較すると、違いはさらに明確だ。Surf CurseはNick Rattiganの外向きのエネルギーであり、Current Joysは内向きの告白である。Pitchforkも、RattiganのCurrent Joysとしての側面を内省的で孤独なギターポップとして、Surf Curseをより大胆なバンドとして対比している。Pitchfork この二つの活動は対立しているのではなく、同じ人物の別々の呼吸のようなものだ。
Current Joysが後進やシーンに与えた影響
Current Joysは、巨大な商業的成功を目指すタイプのアーティストではない。しかし、インディー、ベッドルームポップ、ローファイ系のリスナーや若いアーティストにとって、彼の存在は大きい。
彼が示したのは、完璧な録音や大きな制作環境がなくても、強い世界観は作れるということだ。むしろ、粗い録音、震える声、単純なコード、個人的な歌詞こそが、聴き手に深く刺さる場合がある。Current Joysは、DIY音楽における「不完全さの美しさ」を体現している。
また、TikTokやストリーミング以降の時代において、Current Joysの楽曲は断片的に発見されやすい性質を持つ。短いフレーズ、印象的なムード、映画的な感傷。これらは、現代の音楽の聴かれ方とも相性が良い。だが、Current Joysの音楽は単なる雰囲気消費で終わらない。アルバム全体を聴くと、そこには長い孤独の記録がある。
Current Joysの魅力とは何か
Current Joysの魅力は、孤独を美化しすぎないところにある。彼の音楽にはロマンティックな響きがあるが、それは単純な「孤独は美しい」というメッセージではない。孤独は苦しい。面倒で、暗くて、時にくだらない。だが、その中にも確かに光る瞬間がある。Current Joysは、その小さな光を拾う。
彼の曲は、世界を変えるための音楽ではない。むしろ、世界が変わらない夜をどうやって生きるかの音楽である。何かに失敗した日、誰にも連絡できない夜、自分がどこに向かっているのかわからない時間。Current Joysは、そうした瞬間に寄り添う。
また、Current Joysの音楽には「断片」の美しさがある。完全な物語ではなく、切れ端。完成された結論ではなく、途中で途切れた感情。だからこそ、聴き手は自分の記憶をそこに差し込める。Current Joysの音楽は、空白があるから深い。
まとめ
Current Joysは、Nick Rattiganによるソロプロジェクトであり、ベッドルームポップ、ローファイインディー、ポストパンク、フォーク、カントリー、実験的ポップを横断しながら、孤独と記憶を音にしてきたアーティストである。
「New Flesh」、「Kids」、「Blondie」、「A Different Age」、「Become the Warm Jets」、「California Rain」といった楽曲には、それぞれ違った形の孤独がある。若さの痛み、過去への憧れ、恋愛の残像、身体の不安、映画的な記憶、アメリカの風景。Current Joysは、それらを派手に語るのではなく、粗いギターと震える声で静かに差し出す。
アルバムごとの変化も大きい。初期のWild HeartやMe Oh My Mirrorでは、部屋の中で鳴るローファイな孤独が中心にあった。A Different Ageでは映画的な青春の喪失感が結晶化し、Voyagerでは音のスケールが広がった。LOVE + POPとLOVE + POP Pt 2ではデジタルなポップ実験へ踏み込み、East My Loveではカントリーやフォークの風景を通して、傷と再生を歌っている。
Current Joysは、ベッドルームの孤独と世界の断片を結ぶアーティストである。彼の音楽は、誰にも見せられない感情を、そっと映画のワンシーンのように映し出す。そこには大げさな救いはない。しかし、夜の終わりに小さな光が差すような瞬間がある。そのかすかな光こそ、Current JoysのDIYロマンスが持つ最大の美しさである。

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