
発売日:2023年3月24日
ジャンル:Alternative Rock / Pop Rock / Pop Punk
概要
So Much (For) Stardustは、Fall Out Boyが前作M A N I Aから約5年ぶりに発表した8作目のスタジオ・アルバムである。レーベルをFueled by Ramenへ移し、プロデューサーには初期の代表作From Under the Cork Tree、Infinity on High、Folie à Deuxを手掛けたニール・アヴロンを再び迎えた。2010年代の彼らが電子音やヒップホップ的なビートを積極的に取り込んできたのに対し、本作では4人のバンド演奏を中心へ戻しながら、ストリングス、ホーン、ピアノ、シンセサイザーまで使った厚いアレンジを組み立てている。
ただし、初期のポップパンクへ単純に回帰した作品ではない。パトリック・スタンプのソウルやファンクへの志向、ピート・ウェンツの言葉遊びと自己分析、2000年代後半から培ってきた大規模なポップ・アレンジが同時に入っている。歌詞では中年期の不安、燃え尽き、時間の経過、成功した後にも消えない空虚さが繰り返し現れ、若い頃の焦燥をそのまま再演するのではなく、長いキャリアを持つバンドだからこそ書ける内容へ変えている。
曲順にも明確な設計があり、前半では大きなロック曲を次々と置き、中盤からファンク、ピアノ・バラード、スポークンワードへと形を崩していく。さらに序盤で登場した旋律や言葉が終盤で戻ってくるため、個々のシングルを並べるより一枚を通して聴くことを意識した作りだ。過去のFall Out Boyらしさを材料にしつつ、それを2020年代の彼らの年齢や視点から組み直したアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Love from the Other Side」
静かなストリングスから始まり、バンドが入るとギター、ベース、ドラムが一気に前へ出る。ヴァースでは音数を絞り、サビでスタンプの高い声と厚いギターを開放する構成には初期作の勢いがあるが、弦楽器を含む導入や細かな転調によってスケールは大きい。歌詞では長く続けてきた関係や創作活動の疲労が恋愛の比喩と重なり、華やかな復帰曲の内側に消耗感を忍ばせている。
2. 「Heartbreak Feels So Good」
軽快なドラムと上昇するようなメロディによって、失恋を題材にしながら祝祭的に聞かせる曲である。サビでは複数の声と楽器が一斉に広がり、ライブで観客が歌える大きさを意識した作りになっている。痛みを避けるのではなく、傷つくことまで含めて生きる感覚を肯定する歌詞が、明るい演奏と結びつくことで単純な悲恋歌にはならない。
3. 「Hold Me Like a Grudge」
太いベースラインが曲を引っ張り、ギター中心だった冒頭2曲からファンク寄りのグルーヴへ切り替わる。スタンプも長いフレーズを細かく区切りながら歌い、言葉の多いヴァースから大きなサビへ滑らかにつなげる。過去への執着や自意識を皮肉交じりに扱うウェンツらしい歌詞と、身体的に弾む演奏との組み合わせが、本作が単なるポップパンク回帰ではないことを早い段階で示している。
4. 「Fake Out」
明るく澄んだギターから始まる、比較的軽い質感のポップ・ロックである。勢いで押すのではなく、スタンプの旋律を中心に余白を残しているため、前曲までの密度から一度耳を休ませる働きもある。歌詞では人との距離を縮めたい気持ちと、自分から関係を壊してしまうような防御反応が並び、親しみやすいメロディの裏側にコミュニケーションへの不安が残る。
5. 「Heaven, Iowa」
ゆっくりしたテンポから段階的に音を増やし、後半で巨大なロック・バラードへ変わっていく。スタンプは低めの声から始め、サビでは長く伸びる高音まで使うため、ボーカルそのものが曲の拡大を担っている。若さや美しさが永遠には続かないという意識を恋愛の言葉へ重ねた歌詞も、本作の時間に対する関心とよく合う。派手な即効性より、積み上げによってピークを作る曲だ。
6. 「So Good Right Now」
ホーンや手拍子を交えた明るいアレンジで、1960年代のポップやソウルを思わせる軽快さがある。しかし歌詞の語り手は現在を素直に楽しみきれず、「今は最高だ」という感覚にもどこか無理が混じる。陽気なメロディと落ち着かない心理をわざと一致させないことで、楽しい音楽を鳴らしながら不安について歌うFall Out Boyの性格がよく表れた一曲になっている。
7. 「The Pink Seashell」
俳優イーサン・ホークによる映画『Reality Bites』の台詞を用いた短いインタールードである。人生にあらかじめ決められた大きな意味がないとすれば、それでも何を支えに生きるのかという問いが語られる。単独の楽曲として展開させるのではなく、アルバム前半の焦燥を言葉として整理し、後半でより直接的になる虚無感や生き方の問題へ橋を架けている。
8. 「I Am My Own Muse」
重いストリングスと金管楽器が迫り、映画音楽のような大げささをロック・バンドの演奏へ接続する。ギターだけで重量を作らず、オーケストラ的な低音と鋭いアクセントを重ねるため、本作でも特に威圧的な響きになった。何かを壊して最初からやり直したいという衝動を扱う歌詞も演奏の大きさに合っており、創作や自己評価に行き詰まった人物の苛立ちとして読むことができる。
9. 「Flu Game」
タイトルは、体調不良の中でプレーしたことで知られるマイケル・ジョーダンの試合を連想させる。曲自体は弾むベースと切れのよいリズムを持つポップ・ロックで、苦しい状態でも平然と役割をこなそうとする歌詞との対照が効いている。成功しているように見える外側と、消耗している内側のずれをスポーツのイメージへ置き換え、本作の「続けることの疲労」を比較的軽快に表現している。
10. 「Baby Annihilation」
ピート・ウェンツの朗読を中心とする1分台の短い曲で、通常のヴァースとサビを持たない。言葉は愛情や自己嫌悪、他人とのつながりを求める感覚を断片的に行き来し、論理的な物語より思考が連続して浮かぶ状態に近い。派手な「I Am My Own Muse」や軽快な「Flu Game」と異なり、演奏を後ろへ下げることで、本作を支える不安をほとんど加工せず提示する。
11. 「The Kintsugi Kid (Ten Years)」
タイトルの「金継ぎ」は、割れた器を修復した跡そのものを見せる日本の技法を指す。ここでは傷を完全に消すのではなく、それを抱えたまま形を保つイメージとして機能している。柔らかな電子音とバンド演奏の上で、失われた時間や記憶、麻痺した感覚が語られ、過去を美化するだけではない。10年という具体的な時間感覚によって、若さを歌っていたバンドが中年期から自分たちを見返す本作の視点が鮮明になる。
12. 「What a Time to Be Alive」
ディスコやファンクの要素を強く出し、細かく動くリズム、華やかな鍵盤、弾むボーカルで一気に空気を変える。タイトルだけなら現在を祝福する歌に見えるが、歌詞にはパンデミック期を思わせる閉塞や、世界の混乱を前にした皮肉が入り込む。「生きているには素晴らしい時代」という言葉を完全な肯定にしないことで、踊れるサウンドと社会的な疲労が同時に成立している。
13. 「So Much (For) Stardust」
タイトル曲はピアノとスタンプの声を軸に始まり、ストリングスやバンド演奏を加えながら大きく広がる。成功や輝きへの期待と、その後に残る空虚さを扱う言葉はアルバム名の「stardust」と結びつき、華々しいキャリアを持つバンド自身にも重ねて読める。終盤では「Love from the Other Side」で使われた言葉や音楽的な要素が戻り、冒頭と終点を接続する。単なる最終曲ではなく、一枚を循環する構造として完成させる役割を担っている。
総評
So Much (For) Stardustは、Fall Out Boyが過去のサウンドを取り戻した作品というより、自分たちの過去を現在の技術と視点で使い直したアルバムである。ギター、ベース、ドラムの存在感はM A N I Aより明確だが、初期のポップパンクだけに戻ることはない。ファンク、ソウル、ディスコ、電子音、ストリングス、ホーンまで同じ作品に入れ、それをスタンプの幅広い歌唱力とアヴロンの密度の高いプロダクションでまとめている。
特に強いのは、演奏の華やかさと歌詞の疲労感が何度も食い違うことである。「So Good Right Now」や「What a Time to Be Alive」は明るく身体を動かせる曲なのに、その中心には現在を無条件に肯定できない人物がいる。「Flu Game」では苦しくてもパフォーマンスを続け、「The Kintsugi Kid (Ten Years)」では傷や失われた時間を消さずに見つめる。若い頃のFall Out Boyにも自己嫌悪や不安はあったが、本作ではそれが成功、加齢、長期間活動することの負担と結びついている。
一方で、アレンジの情報量はかなり多い。ストリングスやコーラスを積み上げた曲では、4人の演奏だけが持つ荒々しさより、スタジオで緻密に構築された壮大さが優先される。そのため、初期作の簡潔なギター・ロックを期待すると過剰に聞こえる部分もある。ただし、この過剰さは欠点であると同時に本作の個性でもあり、パンク由来のバンドが20年以上の活動で身につけたポップ、ソウル、映画音楽的な発想を一つの場所へ集めた結果でもある。
そしてアルバム単位で見ると、インタールードを挟み、前半のモチーフを最終曲で回収する構成が効いている。2000年代の自分たちを模倣して若返ろうとするのではなく、かつての勢いが永遠ではないこと自体を歌詞の材料にしている点が重要だ。So Much (For) Stardustは「昔のFall Out Boy」と「ポップ化したFall Out Boy」のどちらかを選ぶ作品ではない。その二つを同じキャリアの一部として受け入れたことで、彼らが2020年代にもロック・バンドとして何を作れるのかを具体的に示した作品である。
おすすめアルバム
Folie à Deux by Fall Out Boy
ニール・アヴロンと組んだ2008年作で、初期のポップパンクからソウル、ピアノ、複雑なアレンジへ踏み出した作品。So Much (For) Stardustの大掛かりな構成やスタンプの多彩な歌唱につながる要素を最も見つけやすい。
M A N I A by Fall Out Boy
直前のスタジオ作で、シンセサイザーやプログラミングを大胆に前へ出している。本作とは表面的な音が大きく異なる一方、ロックの形式に固執せずポップや電子音を取り込む姿勢を比較すると、変化と継続の両方が分かる。
Infinity on High by Fall Out Boy
ポップパンクを土台にしながら、R&Bやソウルへの関心を明確にした2007年作。ギターの勢いとスタンプの歌唱力を両立させる方法が確立されており、本作が回帰した2000年代的な要素を確認するうえで適している。
The Black Parade by My Chemical Romance
同時代のロック・バンドがパンクを出発点にしながら、ピアノ、ストリングス、劇的な曲構成を使ってアルバム規模の物語へ広げた作品。本作とは方向性が異なるものの、ロックを意図的に大げさな表現へ拡張する発想に共通点がある。
A Fever You Can’t Sweat Out by Panic!
2000年代のエモ/ポップパンク圏から登場しながら、電子音、ダンス・ビート、芝居がかったアレンジを積極的に混ぜた作品。So Much (For) Stardustが示す「ロック・バンドの枠内で異なるポップ音楽を混ぜる」という発想の近縁として聴き比べられる。

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