1. 歌詞の概要
「Tokyo(トーキョー)」は、イギリスのポストパンク・リバイバルバンド White Lies(ホワイト・ライズ)が2019年にリリースした5枚目のスタジオ・アルバム『Five』に収録された楽曲であり、異国の都市・東京を舞台に、自己喪失と再生、そして“距離”が持つ感情的な意味を浮かび上がらせたシンセポップ・バラードである。
タイトルにある“Tokyo”は、実際の都市でありながらも、歌詞のなかでは象徴的に機能している。
それは、過去を捨てて新しい自分に生まれ変わる場所でもあり、すれ違いの果てに誰かを追いかけて行き着いた、遠くて現実味のない場所でもある。
語り手は、かつての関係の破片を抱えて“君”を追い、遥か東京までやってきたが、そこで感じるのはやはり**「ここにも、君はいない」という虚無と孤独**だ。
それでも彼はこう歌う――「何があっても、君が東京にいるなら、僕はそこへ行く」と。
その言葉には、失った愛を追い続けることの切なさと、美しさと、諦めきれなさがすべて込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Tokyo」は、White Liesにとって初めて明確に“東京”という実在の都市を舞台にした楽曲であり、バンドの音楽的冒険の一環として位置づけられている。
アルバム『Five』は、結成10周年の節目に制作された作品であり、従来のダークなギターサウンドに加えて、80年代風のシンセ、スケールの大きなプロダクション、そしてより叙情的なリリック表現が特徴となっている。
この曲では特に、都会の光と影、記憶と現在、個と群のはざまがテーマとして通底しており、東京という“場所”がそうしたモチーフを完璧に内包する都市として選ばれている。
実際、バンドはインタビューで「東京は自分たちのツアーのなかでも特に印象的だった」と語っており、この都市が持つ匿名性や緊張感が、失われた愛を追いかける旅の舞台として非常にふさわしいと感じたという。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“If you leave, will you take me with you? / I’m not ready to turn around”
「君が行くなら、僕も連れて行ってくれ / まだ引き返す準備なんてできてないんだ」
“If you leave for Tokyo / I will follow you”
「君が東京へ行くのなら / 僕は君を追いかける」
“In the shadows of your life / Is where I want to be”
「君の人生の影のなかに / 僕は存在していたいんだ」
“I don’t know what I’m running from / But I keep on running still”
「何から逃げているのか、自分でもわからない / でも、まだ走り続けてるんだ」
ここでは、“追うこと”と“逃げること”が曖昧に混じり合い、自分自身すら見失いながら誰かを探し続ける切実な心理状態が描かれている。
「東京」は、その逃避と渇望の交差点にある都市なのだ。
歌詞全文はこちら:
White Lies – Tokyo Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Tokyo」の核心にあるのは、自己喪失の果てにたどり着く感情の荒野である。
語り手は、かつての恋人を追って東京へと向かうが、それは単に「彼女を追いかける」という単純な物語ではない。
むしろそれは、喪失と向き合うための巡礼であり、過去の自分と訣別するための儀式に近い。
東京という都市は、その匿名性、喧騒、そして美しい無機質さによって、感情の回復と崩壊が同時に起こりうる場所として描かれている。
語り手がそこで見出すのは、愛の再生ではなく、「君の影にすらなれればそれでいい」という諦めに近い願いなのだ。
この点において「Tokyo」は、White Liesの他の代表曲「Death」や「To Lose My Life」と同様、自己と他者の境界のなかで揺れる魂の記録であり、関係の終わりを受け入れながらも、それでもなお“繋がり”を探し続ける旅なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Someone Great by LCD Soundsystem
喪失を日常のなかで受け入れていく姿を、淡々と描いたエレクトロニカの傑作。 - New York by St. Vincent
都市が恋人の記憶と重なり、風景すら感情化してしまう美しく哀しい叙情詩。 - The Nights Are Cold by Camera Obscura
孤独と共にある冬の街角に光を見出す、女性的な視点で描かれるエレジー。 - Don’t Give In by Snow Patrol
絶望の中にある再起の火種を、繊細に燃やし続けるヒューマンソング。 - Midnight City by M83
夜の都市を疾走するようなエレクトロポップの快楽と孤独の共存。
6. “誰もいない東京で、君の影だけを抱きしめている”
「Tokyo」は、White Liesにとって都市と愛と自己が交差する、最も詩的で映像的な楽曲のひとつである。
この曲に描かれるのは、「終わった恋を忘れられない男の話」ではなく、愛を失ったことで“自分が何者だったのか”さえ分からなくなった人間が、それでもなお誰かを求めて都市を彷徨う姿である。
そしてその旅の舞台が“東京”であることが、この物語を決定的に美しくしている。
なぜなら東京は、誰でもいて、誰もいない場所。
感情と記憶が混じり合い、新しい始まりと永久の喪失が隣り合わせで息づいている都市だからだ。
だから語り手は、何も見つからないと知りながらも、今日もまた東京を歩く。
君がそこにいるかもしれないから。
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