発売日: 2017年9月22日
ジャンル: ドリームポップ、インディー・ロック、カバーアルバム
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Fire in Cairo（The Cure）
- 2. Gin（Willie “Loco” Alexander）
- 3. Friends（Velvet Underground）
- 4. One Together（Fleetwood Mac）
- 5. Most of the Time（Bob Dylan）
- 6. Sweetness（Yes）
- 7. Letter to Hermione（David Bowie）
- 8. (Walking) The Cow（Daniel Johnston）
- 9. Let Me Dream If I Want To（Mink DeVille）
- 10. Caroline Says II（Lou Reed）
- 総評
- おすすめアルバム
- ファンや評論家の反応
概要
『A Sentimental Education』は、Lunaが2017年にリリースした再結成後初のアルバムであり、全編が“選び抜かれたカバー曲”で構成された異色作にして、Luna流ロック教養講座とも言える作品である。
タイトルはフローベールの小説『感情教育』の英訳名でもあり、同時に、Lunaのメンバーたちが影響を受けた楽曲やアーティストへの敬愛と再解釈を込めた音楽的レクチャーという意味も含まれている。
選ばれた楽曲は、Velvet Underground、Television、Fleetwood Mac、Yesなど多岐にわたり、原曲の魅力を残しながらも、すべてがLunaのフィルターを通して“夜の静けさ”と“優雅な脱力感”を纏った音像へと生まれ変わっている。
全曲レビュー
1. Fire in Cairo（The Cure）
オリジナルの暗さと緊張感を、Lunaらしいスロウなコードと柔らかいヴォーカルで包み込む。
“火”が“揺らめき”へと変わる感覚。
2. Gin（Willie “Loco” Alexander）
マイナーな名曲をセレクトした玄人好みの一曲。
ダウナーなアレンジが、夜更けのバーの空気を思わせる。
3. Friends（Velvet Underground）
ルー・リードの孤独な語りが、ディーン・ウェアハムの無表情な歌声によってさらに深まる。
Lunaにとっての原点とも言える存在への最大の敬意。
4. One Together（Fleetwood Mac）
ピーター・グリーン時代のFleetwood Macの深掘りカバー。
ブルージーなエッセンスを残しつつ、メロウで透明感のあるアレンジが魅力。
5. Most of the Time（Bob Dylan）
ディランの内省的名曲を、さらに“静けさと距離”で包み込む。
心の奥底からゆっくりと立ち上がってくるようなカバー。
6. Sweetness（Yes）
意外な選曲だが、プログロックのドラマ性を削ぎ落とし、Luna流の繊細なメロディとして再構築。
“優しさ”が実体を持って迫ってくる。
7. Letter to Hermione（David Bowie）
初期ボウイのフォーク時代のラブソング。
感傷と距離感の美学が見事にLunaの世界へと引き込まれている。
8. (Walking) The Cow（Daniel Johnston）
ダニエル・ジョンストンのローファイな名作を、少しだけ整えた形でカバー。
だが、壊れやすさや純粋さはしっかり保たれている。
9. Let Me Dream If I Want To（Mink DeVille）
ドリーミーな一曲を、さらに夢のなかに沈み込ませるようなカバー。
「夢を見ることすら選ばせてほしい」という祈りのような感触。
10. Caroline Says II（Lou Reed）
ルー・リード作品からの二度目の選曲。
原曲の暴力的な悲しみを、静かに、しかし確実に伝えるラストにふさわしいカバー。
総評
『A Sentimental Education』は、Lunaというバンドが再結成後にあえて“自分の言葉”ではなく、他者の歌を通して自らを語るという手法を選んだ、極めて文学的かつ感性的なリスタートである。
どの曲も、Luna特有のミニマリズムと低体温なロマンチシズムに包まれ、原曲への敬意と同時に“自分たちの解釈”が静かに息づいている。
それは模倣ではなく、音による内面対話の記録とも言える。
これはカバーアルバムでありながら、完全にLunaの作品である。
そして、かつて彼らの音楽に救われた者たちへ向けた、控えめで誠実な手紙のような作品なのだ。
おすすめアルバム
- Dean & Britta / 13 Most Beautiful: Songs for Andy Warhol Screen Tests
カバーと映像の融合による、ディーンの“他者と向き合う音楽”の実践。 - Yo La Tengo / Fakebook
同様にカバーを通じて音楽愛を表現したインディー・ロックの名盤。 - Galaxie 500 / Today
Luna以前のディーンが原曲を“自分の声”に変えるきっかけとなった作品。 - Sonic Youth / The Whitey Album（Ciccone Youth）
実験的カバーでポップミュージックを再構築した前例。 -
Cat Power / The Covers Record
女性的な視点で再構成された内省的カバー集。Lunaとは逆の熱を持つが共通点も多い。
ファンや評論家の反応
『A Sentimental Education』は、再結成後のカムバックとして静かに受け入れられながらも、深いリスナーには“予想以上に個人的なアルバム”として高く評価された。
Pitchforkでは「カバーでしか描けない内面世界がある」と評され、
Lunaらしい距離感と知性が、バンドの成熟を証明する一作として位置づけられた。
このアルバムは、記憶と音楽のあいだにある“静かな架け橋”である。
そして、Lunaが今も変わらず、夜に寄り添う存在であることをそっと示している。
コメント