
発売日:2017年9月22日
ジャンル:インディー・ロック、ドリーム・ポップ、ジャングル・ポップ、カヴァー・アルバム、オルタナティヴ・ロック
概要
Lunaの『A Sentimental Education』は、1990年代アメリカン・インディー・ロックを代表するバンドのひとつであるLunaが、再結成後に発表したカヴァー・アルバムである。Lunaは、Galaxie 500解散後にDean Warehamが中心となって結成したバンドで、1990年代を通じて、The Velvet Underground以降のミニマルなギター・ロック、ドリーム・ポップ的な浮遊感、都会的な倦怠、控えめなメロディを結びつけた独自の音楽性を築いた。『Lunapark』『Bewitched』『Penthouse』『Pup Tent』『The Days of Our Nights』『Romantica』『Rendezvous』といった作品群は、派手な爆発よりも、夜の街を漂うようなギターの反復と、乾いたロマンティシズムによって聴かれてきた。
『A Sentimental Education』というタイトルは、Gustave Flaubertの小説『感情教育』を想起させる。若さ、恋愛、失望、記憶、社会との距離といったテーマを含むこの言葉は、Lunaというバンドの美学にも非常によく合う。Lunaの音楽は、激情的なロックではない。むしろ、感情が過ぎ去った後に残る微かな余韻、愛や憧れを少し離れた場所から見つめる視線、都市生活の中で静かに漂う孤独を扱ってきた。そうしたバンドが、自分たちの音楽的記憶をたどるように選んだカヴァー集が『A Sentimental Education』である。
本作の収録曲は、The Cure、Willie “Loco” Alexander、The Velvet Underground、Fleetwood Mac、Bob Dylan、Yes、David Bowie、The Rolling Stones、Mink DeVille、Mercury Revなど、多様なアーティストの楽曲で構成されている。表面的にはかなり幅広い選曲だが、Lunaの手にかかると、これらの曲は驚くほど統一された質感を持つ。原曲のジャンルや時代の違いは残しつつも、すべてがLuna特有の柔らかなギター・サウンド、抑制されたヴォーカル、夜のようなテンポ感の中に溶け込んでいく。
カヴァー・アルバムは、しばしばアーティストの趣味を並べた副次的な作品として扱われることがある。しかし『A Sentimental Education』は、単なる余興ではない。Lunaにとってカヴァーとは、自分たちの音楽的DNAを明らかにする行為である。The Velvet Undergroundはもちろん、The Cureのポスト・パンク、Bob Dylanのソングライティング、David Bowieの初期の繊細な叙情、Fleetwood Macのメロディックな柔らかさ、Mercury Revのサイケデリックな霞。これらはすべて、直接的または間接的にLunaの音楽とつながっている。
Lunaのカヴァーの特徴は、原曲を過度に劇的に再解釈しないことにある。多くのカヴァー・アルバムでは、原曲を大胆に壊すことで新しさを作ろうとする場合がある。しかしLunaは、曲を壊すよりも、曲の中にある静かな部分を見つけ出し、それを自分たちの音へ移す。Dean Warehamのヴォーカルは、原曲の感情を大きく演じ直すのではなく、少し距離を置いて歌う。そのため、どの曲も派手な告白ではなく、記憶の中から取り出された手紙のように響く。
ギター・サウンドも本作の重要な要素である。Lunaのギターは、ノイズで圧倒するのではなく、透明な線を重ねる。リフは過度に強調されず、コードは柔らかく揺れ、ソロも感情を誇示するものではなく、曲の余白を照らすように置かれる。この控えめなギターの美学によって、選曲の幅広さにもかかわらず、アルバム全体に一貫した空気が生まれている。
本作は、Lunaの新作オリジナル・アルバムとは異なる性格を持つが、彼らの世界観を理解するうえで非常に重要である。どの曲を選び、どう鳴らすかによって、バンドが何を愛し、どのような音楽的記憶の中に自分たちを置いているのかが見えてくる。『A Sentimental Education』は、Lunaによる音楽的自画像であり、同時に、インディー・ロックというジャンルがどのような過去の断片によって形作られているかを静かに示す作品である。
全曲レビュー
1. Fire in Cairo
The Cureの初期曲「Fire in Cairo」を取り上げたオープニングは、本作の姿勢を明確に示している。原曲は1979年のThe Cure初期に見られる、鋭く乾いたポスト・パンクの感覚を持つ曲である。若いRobert Smithの神経質な歌唱と、硬いギターの刻みが印象的な楽曲だが、Lunaはそれをより滑らかで、少し夢の中のような質感へ変えている。
Luna版では、原曲の切迫感は抑えられ、ギターの線は柔らかくなっている。The Cureの初期にあった冷たい緊張は残しながらも、Luna特有の都市的な浮遊感が加わる。Dean Warehamのヴォーカルは、Robert Smithのように不安を鋭く表出するのではなく、少し離れた場所から情景を眺めるように歌う。その結果、曲はポスト・パンク的な焦燥から、回想の中の異国的な夜へと変化している。
タイトルにあるCairoは、現実の都市であると同時に、遠い場所、幻想、熱、逃避の象徴として響く。The Cureの原曲では若々しい神経の高ぶりとして機能していたそのイメージが、Luna版ではより淡いロマンティシズムを帯びる。火は燃え上がるのではなく、遠くで揺れている。
オープニングとして、この曲は非常に効果的である。Lunaはここで、単に原曲をなぞるのではなく、自分たちの速度、自分たちの温度に曲を置き換えている。『A Sentimental Education』が、激しい再解釈ではなく、静かな変換のアルバムであることが最初に示される。
2. Gin
Willie “Loco” Alexanderの「Gin」は、本作の中でもLunaの都会的な酩酊感と相性がよい楽曲である。Willie Alexanderは、The Velvet Underground周辺の文脈にも関わるアーティストであり、Lunaがこの曲を選んだことには自然なつながりがある。Lunaの音楽には、常にVelvets以降のニューヨーク的な倦怠とロマンが流れており、「Gin」はその系譜を静かに受け継いでいる。
音楽的には、酒場のような湿り気と、Lunaらしい乾いたギターの響きが共存している。タイトルの「Gin」は、酒そのものだけでなく、酩酊、孤独、夜、会話のずれ、記憶のぼやけを連想させる。Lunaはこの曲を、派手な酔っぱらいの歌としてではなく、静かにアルコールが回っていくようなテンポで演奏する。
Dean Warehamの歌唱は、ここでも非常に抑制されている。彼は酔いを演じすぎず、むしろ酔いの後に訪れるぼんやりした感覚を歌う。曲の中には、ロックンロール的な荒さよりも、夜の終わりに残る気だるさがある。Lunaのサウンドは、酩酊を快楽としてではなく、少し寂しい反復として描く。
「Gin」は、本作におけるVelvet Underground的な地下感覚を支える重要な曲である。Lunaはここで、音楽的なルーツへの敬意を示しながら、自分たちらしい静かな夜の歌へと変えている。
3. Friends
The Velvet Undergroundの「Friends」は、Lunaというバンドにとって非常に重要な選曲である。Lunaの音楽は、The Velvet Undergroundの影響なしには語れない。反復するギター、都市的な冷たさ、甘さと皮肉の共存、感情を過度に演じないヴォーカル。これらはすべて、VelvetsからLunaへと流れる重要な要素である。
「Friends」というタイトルは、一見すると親密で温かい言葉である。しかし、Velvet Underground的な文脈では、友情は単純な安心ではなく、危うい距離感や、都市の中で一時的に結ばれる関係を含む。Lunaはその曖昧さをよく理解している。彼らの演奏では、友情の温かさよりも、関係の脆さや、言葉にできない距離が浮かび上がる。
音楽的には、原曲の素朴さを保ちながら、Lunaらしい柔らかなギターの残響が加えられている。曲は大きく盛り上がらず、淡々と進む。その淡々とした進行が、友情という言葉の裏にある不確かさを強めている。人は友人であると言う。しかし、本当に互いを理解しているのか。その問いが静かに残る。
この曲は、『A Sentimental Education』の精神的な中心のひとつである。Lunaがどこから来たバンドなのかを、最も明確に示すカヴァーであり、同時に彼らがその影響を模倣ではなく、自分たちの言葉として鳴らしていることを示している。
4. One Together
Fleetwood Macの「One Together」は、本作に柔らかなメロディック・ロックの色合いを与えている。Fleetwood MacとLunaは一見離れているように見えるが、メロディの滑らかさ、ギターの抑制、感情を過度に爆発させない歌唱という点では、意外に相性がよい。Lunaはこの曲を通じて、1970年代のソフトなロックの中にある繊細さを自分たちの音へ引き寄せている。
音楽的には、穏やかなギターと淡いリズムが中心である。原曲の持つ柔らかいメロディを生かしながら、Lunaは過度に温かくしすぎない。Fleetwood Mac的な親しみやすさは残るが、Lunaの演奏では少し冷えた空気が加わる。そこに、都会的な距離感が生まれている。
歌詞のテーマは、ひとつになること、誰かと共にいることへの願いである。しかし、Lunaが歌うと、その「together」は確信ではなく、願望として響く。共にいることはできるのか。あるいは、共にいたいと思うだけなのか。Dean Warehamの声には、そうした曖昧さが自然に含まれている。
「One Together」は、本作の中で非常に穏やかな位置を占める曲である。激しさはないが、アルバム全体に柔らかい光を加えている。Lunaのカヴァー選曲が、ポスト・パンクやインディーだけでなく、クラシックなメロディック・ロックにも開かれていることを示す楽曲である。
5. Most of the Time
Bob Dylanの「Most of the Time」は、本作の中でも特に歌詞の重みが強い楽曲である。原曲は1989年の『Oh Mercy』に収録されており、失恋後の自己欺瞞、忘れたつもりでいる感情、平静を装う語り手の弱さを描いた名曲である。Lunaがこの曲を取り上げることは非常に自然である。なぜなら、Lunaの音楽もまた、感情を大きく叫ぶのではなく、抑えた言葉の隙間に痛みを残すからである。
音楽的には、Luna版は原曲の陰影を保ちながら、より淡く、透明なサウンドになっている。ギターは控えめに鳴り、リズムも静かで、Dean Warehamの声が歌詞の複雑さを淡々と運ぶ。Dylanの原曲にある深い苦味は、Luna版ではより軽い霧のように広がる。
歌詞の核心は、「たいていの時間は大丈夫だ」と語る人物が、本当は大丈夫ではないという点にある。忘れた、気にしていない、平気だと言いながら、その言葉自体が相手の存在を証明してしまう。Lunaの抑制された歌い方は、この自己欺瞞を非常にうまく表現している。泣き叫ばないからこそ、痛みが残る。
「Most of the Time」は、本作の中でも特にLunaの感情表現の美学が生きたカヴァーである。大きなドラマにせず、静かに傷を見せる。その方法は、Lunaというバンドの本質に近い。
6. Sweetness
Yesの「Sweetness」は、選曲として非常に興味深い。Yesは一般的にはプログレッシブ・ロックの代表格として知られ、複雑な構成や技巧的な演奏のイメージが強い。しかし「Sweetness」は、初期Yesの中でも比較的柔らかく、メロディックで、穏やかな側面を持つ楽曲である。Lunaはこの曲を取り上げることで、プログレ以前のYesにある素朴な美しさを引き出している。
音楽的には、Luna版は原曲の優しさを保ちながら、より簡素でインディー・ロック的な質感へ整えられている。Yesの華やかなコーラスやプログレ的な広がりは抑えられ、ギターと歌の柔らかさが中心に置かれる。結果として、曲はより親密で、夜の部屋で鳴っているような雰囲気を持つ。
歌詞では、甘さ、愛情、穏やかな感情がテーマとなる。しかしLunaが演奏すると、その甘さは完全な幸福ではなく、少し遠い記憶のように響く。タイトルの「Sweetness」は、現在の感情というより、かつて感じた優しさを思い出す言葉にも聞こえる。
「Sweetness」は、本作の選曲の幅を示す楽曲である。Lunaは有名な曲ばかりを選んでいるわけではない。むしろ、アーティストのディスコグラフィの中にある少し意外な柔らかい曲を選び、自分たちの音に変えている。そのセンスが、本作を単なる有名曲集ではないものにしている。
7. Letter to Hermione
David Bowieの「Letter to Hermione」は、本作の中でも最も繊細なカヴァーのひとつである。原曲はBowieの初期作品に収録された、非常に個人的で傷つきやすいラブソングである。後年のBowieに見られるキャラクター性やグラム的な演劇性とは異なり、ここには若いソングライターのむき出しの失恋がある。Lunaはその繊細さを非常に丁寧に扱っている。
音楽的には、静かで、余白が多い。Lunaの演奏は、原曲の親密さを壊さず、むしろその儚さを強めている。ギターは控えめに鳴り、声は近く、曲全体が手紙のように響く。タイトル通り、これは誰かに向けて書かれた私的な言葉である。
歌詞では、Hermioneという相手への想い、失われた関係、相手がもう別の世界にいることへの痛みが語られる。手紙という形式は、直接会えないこと、言葉が届くか分からないことを示す。Lunaの抑えた演奏は、その距離感をよく表現している。
Dean Warehamの声は、Bowieの原曲にある若い痛みをそのまま再現するのではなく、時間を経た後の回想として歌っているように聴こえる。そのため、Luna版の「Letter to Hermione」は、失恋の瞬間というより、かつての手紙を読み返しているような感覚を持つ。非常に美しいカヴァーである。
8. (Walking Thru The) Sleepy City
The Rolling Stonesの「(Walking Thru The) Sleepy City」は、初期Stonesの裏側にあるポップで少しけだるい魅力を引き出す選曲である。Rolling Stonesといえばブルース、ロックンロール、反抗的なイメージが強いが、この曲には都市の夜を歩くような柔らかい感覚がある。Lunaが取り上げることで、その「眠たい街」の雰囲気がより強調されている。
音楽的には、軽やかなギターと穏やかなリズムが中心で、Lunaの得意とする都市的な散歩感と非常に相性がよい。曲は大きく展開せず、タイトル通り、眠った街を歩くように進む。夜明け前の通り、閉まった店、少し冷えた空気。そのような情景が浮かぶ。
歌詞では、眠る街を歩くことが描かれる。都市は昼には騒がしいが、夜や早朝には別の顔を見せる。Lunaの音楽は、まさにその時間帯に合う。人が少なく、音が遠く、感情が少しだけはっきりする時間である。
この曲は、本作の中でLunaらしさが特に強いカヴァーである。原曲を大きく変えるのではなく、もともと曲の中にあった静かな都市感覚を引き伸ばしている。Lunaの音楽が、歩くこと、漂うこと、夜の街を見ることに深く結びついていることがよく分かる。
9. Let Me Dream If I Want To
Mink DeVilleの「Let Me Dream If I Want To」は、夢を見る権利、逃避、ロマンティックな反抗をテーマにした楽曲である。Mink DeVilleの音楽には、ニューヨークのストリート感覚、ラテン的なロマン、古いロックンロールへの愛があり、Lunaの都会的な倦怠とは違う質感を持つ。しかし、この曲をLunaが演奏すると、夢見ることへの静かな抵抗が前面に出る。
音楽的には、Luna版は原曲のロックンロール的な情熱を抑え、より淡いインディー・ロックへ変えている。ギターは軽く、リズムも過度に熱くならない。タイトルにある「dream」は、Lunaのサウンドでは非常に自然に響く。彼らは夢を大げさなファンタジーではなく、日常の中の小さな逃げ場として扱う。
歌詞では、夢を見たいなら見させてほしいという願いが語られる。これは一見すると素朴な言葉だが、現実が夢を見ることを許さない状況では、静かな反抗になる。Lunaはその反抗を叫ばず、穏やかに歌う。そのため、曲には強い主張よりも、諦めきれない願望が残る。
「Let Me Dream If I Want To」は、本作のタイトル『A Sentimental Education』とも響き合う。感情教育とは、現実に傷つきながらも、なお夢を見る方法を学ぶことでもある。この曲は、アルバム後半においてそのテーマを静かに補強している。
10. Car Wash Hair
Mercury Revの「Car Wash Hair」は、本作の締めくくりとして非常に適した楽曲である。Mercury Revは、1990年代オルタナティヴ/ネオ・サイケデリアの中でも、夢幻的で奇妙な音響世界を作ってきたバンドであり、Lunaとは異なる形でサイケデリックな浮遊感を持つ。「Car Wash Hair」は、その奇妙なタイトルも含め、日常的な言葉と夢のような感覚が混ざった曲である。
Luna版では、原曲のサイケデリックな霞が、より端正で柔らかなギター・ポップへ置き換えられている。曲はふわりと漂い、終曲らしい余韻を持つ。大きなクライマックスではなく、夢がゆっくり終わっていくような締めくくりである。
タイトルの「Car Wash Hair」は、非常に視覚的で奇妙な言葉である。洗車機の水、泡、髪、光、動く機械。日常の中にある少し変なイメージが、サイケデリックな感覚へ変わる。Lunaはその奇妙さを過剰に強調せず、自然な夢のように響かせる。
終曲として、この曲は本作の性格をよくまとめている。『A Sentimental Education』は、過去の音楽を回顧するアルバムであると同時に、それらを現在のLunaの夢の中で再び鳴らすアルバムである。「Car Wash Hair」は、その夢が完全に解決されることなく、柔らかく消えていくような余韻を残す。
総評
『A Sentimental Education』は、Lunaのカヴァー・アルバムでありながら、非常にLunaらしい作品である。原曲の多様性にもかかわらず、アルバム全体は驚くほど統一された空気を持っている。The Cure、The Velvet Underground、Bob Dylan、David Bowie、Fleetwood Mac、Mercury Revといった異なる作家たちの楽曲が、すべてLunaの夜の色に染められている。
本作の最大の魅力は、カヴァーにおける抑制である。Lunaは原曲を過剰に破壊しない。派手なアレンジで自分たちの存在を見せつけるのではなく、曲の中にある静かな部分を選び取り、それを自分たちの音で照らす。これは非常に成熟したカヴァーの方法である。原曲への敬意と、自分たちの美学が自然に両立している。
Dean Warehamのヴォーカルも、本作の統一感を作る大きな要素である。彼の声は決して大きく感情を揺さぶるタイプではない。しかし、その抑えた歌い方によって、失恋、友情、夢、孤独、記憶といったテーマが過剰なドラマにならず、静かな余韻として残る。特に「Most of the Time」や「Letter to Hermione」では、その効果が非常に大きい。
ギター・サウンドも、Lunaの本質をよく示している。彼らのギターは、ロックの攻撃性よりも、都市の空気や夜の光を描く。音は透明で、柔らかく、時に少し冷たい。『A Sentimental Education』では、そのギターがカヴァー曲の輪郭を変え、曲をLunaの世界へ引き込んでいる。これは、単なる演奏技術ではなく、音色による解釈である。
選曲には、Lunaの音楽的ルーツと趣味がはっきり表れている。The Velvet UndergroundやThe Cureは、彼らのポスト・パンク/インディー的な基盤を示し、Bob DylanやDavid Bowieはソングライティングへの敬意を示す。Fleetwood MacやYesの選曲は、メロディックな柔らかさへの関心を示し、Mercury Revは1990年代オルタナティヴ以降の夢幻的な感覚へ接続する。つまり本作は、Lunaの音楽史の地図でもある。
アルバムとしての性格は、非常に穏やかである。劇的なピークや強烈なロックの爆発は少ない。そのため、刺激を求めるリスナーには地味に感じられる可能性がある。しかしLunaの魅力は、もともと派手な爆発ではなく、繰り返し聴くことで少しずつ深まる空気にある。本作もまた、夜にゆっくり聴くことで、曲の余白や選曲の意味が見えてくるタイプの作品である。
日本のリスナーにとって『A Sentimental Education』は、Lunaの入門としても、やや特殊な形で有効である。オリジナル・アルバムの代表作『Penthouse』や『Bewitched』を聴くことでバンドの本質はより分かりやすいが、本作では彼らがどのような音楽を愛し、それをどう自分たちの音に変換するかを知ることができる。カヴァー・アルバムでありながら、Lunaの美学を凝縮した作品といえる。
『A Sentimental Education』は、音楽的記憶をめぐる静かなアルバムである。青春の曲、失恋の曲、夜の曲、夢の曲、友情の曲が、Lunaのギターと声によって再び鳴らされる。そこには過去への郷愁があるが、単なる懐古ではない。過去の曲を現在の自分たちの感情で聴き直すこと。それが本作における「感情教育」である。Lunaはこのアルバムで、過去の音楽を静かに抱えながら、自分たちの夜の世界へと美しく変換している。
おすすめアルバム
1. Luna『Penthouse』
Lunaの代表作であり、彼らの都会的なギター・ロック美学が最も洗練された形で表れたアルバム。The Velvet Underground的な反復、柔らかなギター、Dean Warehamの抑制された歌が高い完成度で結びついている。『A Sentimental Education』の音色や空気を理解するうえで最重要の一枚である。
2. Luna『Bewitched』
初期Lunaの繊細なギター・ポップと夢のような浮遊感が美しく表れた作品。『Penthouse』ほど都会的に磨かれる前の柔らかさがあり、Lunaのメランコリックな側面を知るのに適している。カヴァー集で感じられる穏やかな夜の質感とも通じる。
3. Galaxie 500『On Fire』
Dean WarehamがLuna以前に在籍したGalaxie 500の代表作。スロウで反復的なギター、淡いヴォーカル、夢のようなインディー・ロックの原点がここにある。Lunaの音楽的背景を理解するために欠かせない作品であり、『A Sentimental Education』の抑制された美学の源流でもある。
4. The Velvet Underground『The Velvet Underground』
Lunaの音楽的DNAを理解するうえで避けて通れない作品。ミニマルなギター、都市的な孤独、甘さと冷たさの同居は、Lunaのサウンドに深く受け継がれている。『A Sentimental Education』で「Friends」を取り上げていることからも、その影響の大きさが分かる。
5. Dean & Britta『L’Avventura』
Dean WarehamとBritta Phillipsによる作品で、Lunaの延長線上にある柔らかく映画的なポップ感覚が楽しめる。カヴァーや過去の音楽への愛情、ロマンティックで少し距離のある歌唱という点で、『A Sentimental Education』と非常に相性がよい。

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