発売日: 2021年5月26日
ジャンル: エクスペリメンタルロック、プログレッシブロック、ジャズロック
Black Midiの2作目「Cavalcade」は、デビュー作「Schlagenheim」で見せたエネルギッシュでカオティックなサウンドを継承しつつ、さらにプログレッシブロックやジャズの要素を取り入れて、より複雑で豊かな音楽表現へと進化した作品だ。今作では、バンドは単にノイズや不協和音を用いるだけでなく、緻密なアレンジとダイナミズムを重視し、壮大な音の風景を描き出している。ドラマーのモーガン・シンプソンのテクニカルなプレイや、ボーカルのジョーディ・グリープの表現力が一層際立ち、アルバム全体を通じて不気味で幻想的な世界観が織りなされている。
「Cavalcade」は、ジャズやプログレの影響が色濃く表れた複雑なサウンドが特徴であり、瞬間ごとに新しい展開が現れるため、一度聴いただけでは捉えきれない奥行きがある。楽曲の構成は劇的かつ予測不可能で、リスナーを驚かせるアプローチが随所に見られる。シュールなリリックと変幻自在なサウンドが交錯し、まるでサーカスのように異様で華麗な世界が展開される。「Cavalcade」はBlack Midiが音楽的に成熟し、次なるレベルに達したことを示すアルバムだ。
トラックごとの解説
1. John L
アルバムの幕開けを飾る「John L」は、フリージャズのような複雑なリズムと狂気じみたギターリフが特徴。グリープの叫ぶようなボーカルとバンドのエネルギッシュな演奏が絡み合い、カオスと秩序の狭間を行き来する衝撃的な一曲。
2. Marlene Dietrich
「Marlene Dietrich」は、前曲とは対照的に静かな美しさを持つバラードで、ジョーディが情緒的に歌い上げる。曲は20世紀の映画スター、マレーネ・ディートリッヒへのオマージュであり、シンプルでメロディックなギターとジャズ調のピアノが印象的だ。
3. Chondromalacia Patella
「Chondromalacia Patella」は、変拍子と激しいギターが織りなす、ブラックミディらしい複雑でエキセントリックなトラック。膝の軟骨疾患をテーマに、リズムが崩れたり加速したりする不安定な展開が、曲の不気味な雰囲気を増幅させている。
4. Slow
ジャジーなベースラインとメロウなリズムが特徴的な「Slow」。グリープのボーカルはミステリアスで、曲はゆったりとしたテンポながらも緊張感を保っている。静かな狂気がじわじわと広がるような感覚が味わえる一曲だ。
5. Diamond Stuff
「Diamond Stuff」は、アルバムの中でも特にアンビエントな雰囲気を持つトラック。静かなイントロと柔らかなサウンドが、リスナーを夢の中にいるような感覚に導き、バンドの多様な音楽的アプローチが感じられる。
6. Dethroned
「Dethroned」は、エレクトリックギターとドラムが織りなすダイナミックなトラックで、プログレッシブロックの影響が強い。王座を追われた者の苦悩を表現するかのようなリズムとエネルギッシュな演奏が、サウンド全体を力強く牽引している。
7. Hogwash and Balderdash
実験的なサウンドが際立つ「Hogwash and Balderdash」は、ジャズの要素が入り混じり、バンドのテクニカルな面が強調された一曲。鋭いビートとリズムの変化が絶え間なく続き、聴き手を圧倒する勢いがある。
8. Ascending Forth
アルバムのラストを飾る「Ascending Forth」は、10分に及ぶ壮大なエピローグで、アルバム全体のテーマを集大成したような作品。静かなギターのアルペジオから始まり、徐々にエモーショナルなクライマックスへと展開される。最後には圧倒的な感動が広がり、まさにアルバムを締めくくるにふさわしい。
アルバム総評
「Cavalcade」は、Black Midiがさらなる実験性と音楽的な幅を広げた野心的なアルバムであり、聴くたびに新しい発見がある豊かな作品である。フリージャズ、プログレッシブロック、ジャズロックといった要素が、予測不可能な展開とともに織り込まれ、バンドの技術力と表現力が光っている。複雑でありながらも一瞬たりとも聴き手を飽きさせない構成は、まるで異次元の音楽劇のようであり、リスナーをブラックミディのカオスで華麗な世界へと引き込む。「Cavalcade」は、エクスペリメンタルロックの新しい可能性を示し、Black Midiがその道を切り開いていることを証明する一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Rock Bottom by Robert Wyatt
ジャズとプログレの影響が色濃いアルバムで、幻想的で複雑なサウンドが「Cavalcade」と共通。繊細で感情的な表現が楽しめる。
Bitches Brew by Miles Davis
ジャズとロックを融合させた革新的な作品。混沌と秩序の間を行き来するアンサンブルが、「Cavalcade」のファンにも響く。
Amnesiac by Radiohead
ダークで実験的なアプローチが際立つ一枚。アヴァンギャルドなサウンドと緊張感が「Cavalcade」と共通している。
Pawn Hearts by Van der Graaf Generator
プログレッシブロックの名盤で、劇的な構成と複雑なアレンジが特徴。Black Midiのエクスペリメンタルな音楽性と重なる部分が多い。
The Powers That B by Death Grips
攻撃的で実験的なサウンドが特徴。予測不可能な展開やエネルギッシュな表現が「Cavalcade」のリスナーにも響く作品。
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