1. 歌詞の概要
「Blanket」は、ロサンゼルス出身のオルタナティブ・ロックバンド、Autolux(オートラックス)が2004年にリリースしたデビューアルバム『Future Perfect』に収録された楽曲であり、同作の中でも特に夢と現実の狭間を漂うような音像と詩性が際立つ作品である。
この曲のタイトル「Blanket(毛布)」が象徴するのは、ぬくもり、包み込み、静寂、そして隔絶である。
歌詞は非常にミニマルで、抽象的。だがその反復性と淡い輪郭は、まるで意識が薄れていく時の内的モノローグのようでもある。
恋愛や人間関係の断絶を連想させるラインの連なりの中で、「blanket」は眠りや無感覚のメタファーとなり、現実からの緩やかな逃避を象徴する。
全体を貫くのは、“わかり合えないこと”への哀しさと美しさの共存である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Autoluxは、Greg Edwards(Failure)、Carla Azar(Ednaswap, Jack Whiteのドラマー)、Eugene Goreshterの三人によるトリオで、オルタナティブ・ロックやノイズ・ポップ、ドリーム・ポップの要素を併せ持った独特のサウンドを生み出している。
彼らの音楽性は、静寂と轟音の間にある感情の“余白”を探るようなスタイルで、特にこの「Blanket」はその象徴的な1曲とされる。
『Future Perfect』の制作において、バンドは「音の質感」を最優先し、録音の際にはノイズの質や空気感に異常なまでのこだわりを見せたとされる。この曲も例に漏れず、シューゲイズ的なギターの霞みと、Carlaの囁くようなボーカルが音と歌詞の境界を曖昧にしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
She’s a blanket / Soft and warm
彼女は毛布 柔らかくてあたたかいI wrap around her / When things feel wrong
うまくいかないとき 僕は彼女に包まれるShe never questions / She never lies
彼女は問いかけもせず 嘘もつかないShe just takes me / And shuts my eyes
ただ僕を受け入れて そっと目を閉じさせてくれるI let her cover me
僕は彼女にすべてを覆わせるんだ
出典:Genius.com – Autolux – Blanket
歌詞はきわめて少ない語数で構成されているが、その静けさはむしろ豊かな解釈の余地を聴き手に与える。
“毛布”として描かれる「彼女」は実在の人物ではなく、安息や孤立のメタファーのようにも受け取れる。
4. 歌詞の考察
「Blanket」は、感情をあらわにするのではなく、すべての感覚が麻痺していく過程を音と詞で表現したような作品である。
歌詞の語り手は、現実の困難や痛みから逃れるために「彼女=毛布」に包まれる。だがその行為は癒しではなく、むしろ“感覚の遮断”として描かれている。
つまりこの楽曲は、自己防衛的な麻酔のような愛/依存を描いているとも言える。
“彼女は何も尋ねない”“彼女は嘘をつかない”というラインに含まれるのは、無条件の優しさではなく、対話の不在という不穏な沈黙だ。
それは他者との関係というよりも、内面の空洞に身を沈めていくような孤独感の描写であり、ドリーミーな音像と合わさって、悲しみと恍惚の境界を揺らすような不安定な美を生み出している。
また、「包まれる」ことによって目を閉じ、全てを手放していく描写は、一種の死や無への誘惑を想起させるが、それが激しい絶望としてではなく、静かに進行する受け入れの儀式として描かれていることも特筆すべき点である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
言葉が意味を超えて音になった、夢と現のはざまを漂う名曲。 - Soon by My Bloody Valentine
歪みの中で甘く踊るような、脱力感と多幸感の同居。 - Pitseleh by Elliott Smith
日常のやるせなさと甘いメランコリアを淡く包み込むアコースティックの名作。 - Alison by Slowdive
「Blanket」にも通じる“感情の遠さ”と“近さ”が共存するシューゲイズの傑作。
6. “感情の遮断”と“優しさの仮面” ― Blanketが描く静かな自己防衛
Autoluxの「Blanket」は、聴き手の感情を直接揺さぶるような劇的な曲ではない。
だがその曖昧さ、ミニマルさ、音のスモークのような質感のなかにこそ、現代的な孤独や沈黙に潜む美しさと危うさが宿っている。
“毛布”とは、安らぎであると同時に、
世界との接触を拒む壁でもある。
**「Blanket」**は、
眠るふりをして現実を断ち切ろうとする、
静かで、美しく、そして怖ろしい心のゆりかごである。
そしてそれは、
誰かに包まれることを求めながらも、
本当は誰にも触れてほしくないと思っている人たちのための音楽なのだ。
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