
楽曲の概要
「Audience No. 2」は、ロサンゼルスの3人組Autoluxが2008年に発表した楽曲である。のちに2010年のセカンド・アルバム『Transit Transit』の7曲目に収録されたが、曲自体はアルバム完成よりかなり早く公開されている。2004年のデビュー作『Future Perfect』から新作まで6年が空いたAutoluxにとって、その中間期に届けられた重要な新曲だった。アルバム版は約4分35秒で、作曲はGreg Edwards、Carla Azar、Eugene GoreshterのAutolux名義、アルバムはバンド自身がプロデュースしている。
編成はGreg Edwardsのギター、Eugene Goreshterのベースとボーカル、Carla Azarのドラムを基本とする。曲を特徴づけるのは、ノイズを含んだギター、低く反復するベース、Azarの独特なドラムが作る硬質なグルーヴである。シューゲイズの音響、ポストパンクの緊張感、クラウトロック的な反復を一つにしたような曲だが、音を大量に重ねて埋め尽くすタイプではない。むしろ三人の間に空白を残すことで、一つ一つの音を不穏に響かせている。
歌詞の概要
歌詞は明確な物語を順番に説明するものではない。語り手は「考えること」と「口にすること」の間にある隔たりから始め、消えない感覚、変化した人物、責任の所在などについて断片的に語る。そこには親密だった誰かとの関係が崩れていく気配があるが、恋愛関係なのか、それ以外の人間関係なのかは限定されていない。重要なのは、相手と語り手の間に以前とは違う距離ができていることだ。
中盤ではSwedenborg、ブラックホール、ヘリコプターのサーチライト、Orsonといった互いに直接つながらないイメージが現れる。Swedenborgは18世紀スウェーデンの思想家・神秘思想家Emanuel Swedenborgを指すと考えるのが自然で、現実世界と霊的世界を結びつけようとした人物である。しかし歌詞はその思想を説明するわけではなく、日常から突然遠い場所へ飛ぶための奇妙な固有名詞として使っているように聞こえる。ブラックホールを通ってでも相手のもとへ行くという極端な距離感も含め、親密さそのものが現実離れしたものとして描かれる。
後半になると語り手の態度は変化する。自分はもう大丈夫だから相手には去ってもらう、という方向へ進み、それまでの執着から距離を取ろうとする。しかし責任についての言葉は最後まで安定しない。最初は誰も責められないように聞こえたものが、後には誰もが責められるという方向へ反転する。関係が壊れた理由を一人の責任へ整理できない混乱が、その矛盾した言葉に残っている。
制作背景・時代背景
Autoluxは2004年に『Future Perfect』を発表した。T Bone Burnettがプロデュースした同作は、シューゲイズやノイズロックの質感を持ちながら、Azarの非常に個性的なドラムと、Edwards、Goreshterによる不安定なギター/ベースの響きを組み合わせていた。その後バンドはThe White Stripes、Nine Inch Nails、Beckなどと共演しながら活動を続けたものの、レーベルをめぐる事情もあり、次のアルバムはなかなか完成しなかった。
その空白の途中、2008年5月に「Audience No. 2」は新曲として公開された。Greg Edwardsは後年、アルバム制作が本格的に始まったのもちょうどその頃だったと説明している。バンドとして長く新作を出していなかったため、契約先が決まるまで待つのではなく、完成していた曲を先に出して活動の勢いを保つ意図があったという。結果的に「Audience No. 2」は『Transit Transit』で最初に完成した曲となり、アルバム発売より約2年早く聴かれることになった。
『Transit Transit』の大部分は、ロサンゼルス中心部近くのリハーサル空間に作られたSpace 23で制作された。プロデュースはAutolux自身、Greg Edwardsがエンジニアリングも担当し、完成版のミックスにはKennie TakahashiとDave Sardyが関わっている。前作よりピアノや電子音を広く使ったアルバムだが、「Audience No. 2」は比較的『Future Perfect』との連続性が強い。長い空白の向こう側からAutoluxがまず提示したのが、実験的な小品ではなく、三人の演奏そのものが強く出た曲だったことには意味がある。
歌詞の抜粋と和訳
この曲では「考えることと話すことの間」「消えない感覚」「変化」「責任」「ブラックホール」「サーチライト」といったモチーフが断片的につながっている。出来事を説明する普通の会話と、夢や映画の一場面のようなイメージが同じ歌詞の中に置かれるため、何が現実の出来事で何が語り手の連想なのかははっきりしない。
特に「変わってしまった自分を見る」という感覚と、誰を責めるべきなのかという問題が中心にある。変化は突然の稲妻のようなものとして現れ、それを自分で引き起こしたのか、外から与えられたのかも曖昧である。この決着のつかなさが、曲の不安定なサウンドと結びついている。
サウンドと歌詞の考察
「Audience No. 2」で最初に重要なのは、ギターよりもむしろリズムの奇妙な安定感である。Carla Azarのドラムは単純に一定のビートを刻むのではなく、スネアやタムのアクセントをずらしながら、演奏が少し傾いたような感覚を作る。それでもテンポそのものは大きく揺れないため、曲は不安定なのに前進を止めない。機械的な反復と生身のドラマーによる細かな変化が同時に存在するところに、Autoluxらしいグルーヴがある。
そこへEugene Goreshterのベースが低い位置で反復し、曲の重心を作る。ベースラインは派手に動き回るというより、同じ場所へ何度も戻ることで催眠的な感覚を強める。歌詞の語り手も、関係から抜け出そうとしながら同じ感情や責任の問題へ戻ってしまう。リズム隊が作る循環は、その心理的な停滞とよく重なる。曲は進んでいるのに、感情だけが同じ場所を回っているように聞こえるのである。
Greg Edwardsのギターは、一般的なロックのようにコードを厚く鳴らして曲を支える役割からかなり離れている。歪んだ音が長く残ったり、鋭いフレーズが突然割り込んだりし、ギターそのものが周囲の空間を不安定にする。『Future Perfect』以来のAutoluxにはSonic YouthやMy Bloody Valentineを連想させる要素があるが、ここでは轟音の壁を作るというより、ノイズを必要な場所だけに置く方法が目立つ。音数がそれほど多くないため、一つのフィードバックや歪みが大きく感じられる。
この空白はGoreshterのボーカルにも重要である。声は力強く前へ押し出されず、少し眠そうで、言葉と演奏の間に距離がある。ブラックホールやSwedenborg、サーチライトといった奇妙な言葉が出てきても、それを劇的に強調しない。そのため歌詞は「意味を理解してほしい」と説明する文章ではなく、頭の中を通過していく断片のようになる。何かを言葉にしようとしているのに、完全には言葉にならないという冒頭の感覚が、歌い方そのものにも表れている。
サビに相当する部分では、ギターとリズムの圧力が増し、変化と責任についての短い言葉が繰り返される。しかし大きなポップ・コーラスへ開けるわけではない。むしろ同じフレーズを反復することで緊張を高める方法で、解放よりも執着が残る。ここにはクラウトロック的な発想も感じられる。コードを次々に変えてドラマを作るのではなく、同じパターンを維持しながら音色やアクセントを変え、聴き手の感覚を少しずつ変化させていく。
歌詞の構造にも同じ方法が使われている。前半では「誰も責められない」という方向に進んでいた考えが、後半では「全員に責任がある」という方向へ反転する。しかし曲はそこで新しいセクションへ移ったり、明るいコードへ変化したりしない。言葉だけが同じ音楽の上で別の結論を出す。そのため、語り手の考えが整理されたというより、同じ出来事を別の角度から見直したように感じられる。
終盤では「Gulf sign」が画面を分断するという視覚的なイメージが繰り返される。具体的な意味を一つに決めるのは難しいが、「screen」という言葉も含め、現実を直接見るのではなく、何かの映像を通して見ている感覚が強い。それ以前にもヘリコプターのサーチライトが登場しており、後半の歌詞には映画やテレビの断片のような視覚性がある。個人的な関係の崩壊と、外部から流れ込む映像が同じ意識の中で混ざっているように聞こえる。
その感覚は『Transit Transit』全体にも通じる。Autoluxはロサンゼルスのバンドだが、都市を具体的な地名や物語として描くより、機械音、光、断片的な映像、疎外感として音楽に取り込む。「Audience No. 2」も、感情を大きなメロディで説明する曲ではない。ドラム、ベース、ギター、声がそれぞれ少し距離を保ちながら動き、その隙間から不安が見えてくる。三人しかいないバンドだからこそ、音を埋めるのではなく、音が鳴っていない場所までアレンジの一部にしているのである。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Turnstile Blues」 by Autolux
デビュー作『Future Perfect』のオープニング曲。Carla Azarの異様に印象的なドラムを中心に、歪んだギターと低いボーカルが絡む。「Audience No. 2」のリズムとノイズの関係を、より荒々しい形で聴ける。
「Census」 by Autolux
『Transit Transit』収録曲で、鋭いギターと緊張したリズムをさらにノイズロック側へ押し進めた曲。「Audience No. 2」の硬質な部分が好きなら、同作が『Future Perfect』の攻撃性をどう更新したかが分かりやすい。
「The Bouncing Wall」 by Autolux
同じアルバムから、Carla Azarのボーカルを前面に出した曲。「Audience No. 2」とは対照的に柔らかな空間を持つが、電子音と生演奏の境界を曖昧にする『Transit Transit』のもう一つの側面を示している。
「The Diamond Sea」 by Sonic Youth
反復するロックの骨格を保ちながら、ギターのノイズそのものを曲の展開へ変えていく作品。Autoluxの音楽に直接的な影響関係だけを求める必要はないが、「Audience No. 2」の歪みと空間の使い方につながる感覚がある。
「Mother Sky」 by Can
一定のリズムを長く維持し、その上でギターや声の表情を変えていくクラウトロックの代表曲。Azarのドラムが生む反復の快感や、コード進行よりグルーヴによって緊張を持続させる方法を比較しやすい。
まとめ
「Audience No. 2」は、Autoluxの音楽にある「不安定なのに崩れない」という特徴がよく表れた曲である。Carla Azarのずれを含んだドラムとEugene Goreshterの反復するベースが一定の前進を作る一方、Greg Edwardsのギターはノイズと空白によってその足場を揺らし続ける。歌詞も同様に、壊れた関係や人間の変化を説明しようとしながら、Swedenborg、ブラックホール、サーチライトなどの断片へ飛び、責任についての結論さえ途中で反転する。2008年に先行して発表されたこの曲は、『Future Perfect』のノイズロック的な強さを残しながら、後の『Transit Transit』が追求する乾いた空間と反復へ向かう接続点になった作品である。
参照元
- Autolux公式Bandcamp『Transit Transit』
- Autolux公式ストア『Transit Transit』
- TBD Records『Transit Transit』
- The Quietus「Autolux: Greg Edwards’ Track By Track Preview Of Transit Transit」
- The Quietus「Locked In The Vacuum: Greg Edwards Of Autolux Interviewed」
- WFUV「TAS Interview: Greg Edwards of Autolux」
- Exclaim!「Autolux」
- WIRED「Resurgent Autolux’s Triumphant Transit Shreds Sonic Envelope」

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