Beginnings by Chicago(1969)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

『Beginnings』は、Chicagoのデビューアルバム『Chicago Transit Authority』(1969年)に収録された楽曲であり、その名のとおり「始まり」をテーマにした、愛と人生のスタート地点を描いた作品である。情熱的でありながら、どこか柔らかく開放的なトーンが特徴的で、時間とともにゆっくりと高揚していく構成が印象的な一曲だ。

歌詞はシンプルだが、恋が芽生えるその瞬間の高揚感や、不安よりも喜びに満ちた未来への憧れが、繰り返しのフレーズによって少しずつ熱を帯びていく。「Only the beginning of what I want to feel forever(これは、永遠に感じ続けたいものの始まりにすぎない)」という一節に象徴されるように、本作は“出会い”や“愛”の中にある無限性を、軽やかな言葉で表現している。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Beginnings』は、バンドのキーボーディストであるロバート・ラム(Robert Lamm)によって書かれた曲であり、彼の初期の代表作でもある。もともとはアルバム収録時にはシングルとしては目立たなかったが、1971年に再リリースされた際に全米チャートで7位を記録し、Chicagoの代表的なラブソングとして確立された。

音楽的には、イントロから穏やかに流れるアコースティック・ギター、ジャジーなコード進行、そして徐々に躍動するホーン・セクションが展開され、最後にはパーカッションの応酬とコーラスのリフレインによってカタルシスを迎えるという、まるで一つの小さな旅のような構成を持っている。

この曲は、シカゴというバンドの音楽性——ロックとジャズ、ソウルとポップの融解——を初期段階で完璧に示した一曲でもある。また、ロバート・ラムが持つ詩的感性と都会的なメロディ感覚が融合し、以後のChicagoサウンドの基盤を築いたと言えるだろう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元: Genius

When I’m with you
It doesn’t matter where we are
Or what we’re doing
I’m with you, that’s all that matters

君といるときは
場所なんて関係ない
何をしているかも問題じゃない
君と一緒にいる、それだけでいいんだ

Time passes much too quickly
When we’re together laughing

一緒に笑っていると
時間はあっという間に過ぎていく

I wish I could sing it to you
Oh no

この気持ちを君に歌えたらいいのに
ああ、うまく言えないけど

Only the beginning
Only just the start

これはまだ始まりにすぎないんだ
ようやくスタートラインに立ったところさ

この詩には、恋の芽生えに感じる“時間の伸び縮み”や、“言葉にならない思い”といった、恋愛初期に特有の瑞々しい感情が込められている。それを語る声も、抑えきれない高鳴りを抑制しながら、丁寧に歌い上げている。

4. 歌詞の考察

『Beginnings』というタイトルが示すように、この楽曲の主題は「始まり」——すなわち、恋の始まり、関係の始まり、人生の新たなフェーズの入口に立った瞬間である。語り手は、恋人と共に過ごす今の時間に酔いしれ、その未来に希望を抱いている。「始まりにすぎない」と繰り返すその言葉は、時間が進むほどに増していく愛情や深まりを予感させる。

またこの曲は、恋の初期段階における“自己の解放”を描いているようにも見える。普段は言葉にならない感情、あるいは社会的な制約の中で押し殺していた想いが、恋という現象を通して自然に溢れ出してくる。そしてそれを音楽として形にするという、ロバート・ラムの詩人としての美学が見事に表れている。

さらに注目すべきは、歌詞の内容がきわめて個人的なもの(「君といるだけでいい」)である一方、サウンド全体は集団的で祝祭的であるという対比である。ソフトなギターから始まり、最後には何重にも重なったコーラスと打楽器が炸裂し、まるで街角のフェスティバルのような熱気を放つ。このダイナミクスの変化もまた、“始まりから次の段階へ”という、物語の流れを音で描いているように思える。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Colour My World by Chicago
    ピアノとフルートだけで構成されたシンプルなバラード。愛と時の流れを静かに描く。

  • Your Song by Elton John
    個人的な愛の始まりを真摯に綴った代表的なピアノバラード。詩情とメロディの美が共鳴する。

  • I’d Really Love to See You Tonight by England Dan & John Ford Coley
    恋の序章、再会の予感といった“はじまりの空気感”をまとったソフト・ロックの佳作。

  • Saturday in the Park by Chicago
    日常の中に潜む幸福を見つける詩的なポップソング。開放感とロバート・ラムの詩の世界観が重なる。

6. 音と詩が描く“始まりの詩”——都市の詩人たちの名刺代わり

『Beginnings』は、Chicagoというバンドの「始まり」を象徴する作品であり、同時に多くの人にとっての“愛の始まり”の記憶に寄り添うような、普遍的な詩である。この楽曲が持つ親密さと高揚感のバランスは、恋という出来事の本質を極めて自然な形で描いている。

アメリカの都市文化を背景にしながら、そこに暮らす人々の個人的な感情、そしてそれを共有する祝祭のような感覚が、音と詩で編み上げられている。その詩は決して難解でもないし、大げさでもない。ただ、「今、この気持ちを誰かに伝えたい」という衝動に突き動かされている。それこそが“始まり”の持つ最大の魅力であり、Chicagoがこの曲で私たちに教えてくれることなのだ。

『Beginnings』を聴くことは、人生の原点にふたたび立ち返ることでもある。それは恋の記憶であっても、夢への第一歩であってもいい。あらゆる“始まり”には、まだ見ぬ希望と少しの不安、そしてどうしようもなく心を動かす何かがある。そのすべてを音にして残したのが、この名曲なのである。

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