Chosen to Deserve by Wednesday(2023)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Chosen to Deserve」は、Wednesdayが2023年に発表したアルバム『Rat Saw God』に収録された楽曲であり、そのタイトルの示す通り、「私がこうなったのは、そうなるべくして選ばれたのかもしれない」という**宿命と皮肉の混じった感情を、ローファイ・カントリー・ロックの軽やかなグルーヴに乗せて語る“痛みのユーモア”**に満ちた楽曲である。

語り口はまるで日記のように私的で、断片的なエピソードが続く。オキシコドンとの出会い、道端の嘔吐、地元の教会、セックス、愛、アルコール、そして破れた信仰——すべてが列挙されるが、その語りには一切の後悔も自己憐憫もない。むしろその開き直りこそが、この曲の魅力となっている。

一見すると、田舎町での“どうしようもない青春”の回想のようだが、そこに込められた感情は決して単純ではない。破滅を愛したのか、破滅にしか居場所がなかったのか。カーリー・ハーツマン(Karly Hartzman)の語る声は、どこまでも冷静で、それでいて心の奥を突くようなリアルさを帯びている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Chosen to Deserve」は、カーリー・ハーツマンがかつて聴いていたアーティスト、Lucinda Williamsの影響を強く受けており、彼女自身も「Lucindaのように、個人的で悲惨な話を淡々と語ることで、人間の強さを描きたかった」と語っている。特にこの曲は、ノースカロライナの地方都市での若者文化、ドラッグ、酒、暴力、セックスといったリアルな生活描写をストレートに綴っているが、全体のトーンはどこか飄々としていて、聴き手を突き放すことはない。

サウンドはオルタナティブ・カントリーの系譜にありつつ、90年代のインディーロック、特にSilver JewsPavementのような語りの強いロック文学的アプローチも感じさせる。ギターは軽やかに鳴るが、その背後には人生の重みが確かに存在する。これがこの曲を単なる“田舎者の物語”ではなく、誰にでも訪れる喪失と自己肯定の再定義の物語へと昇華させている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Chosen to Deserve」の印象的なラインとその和訳を紹介する。

“I used to drink ‘til I threw up on weeknights at my parents’ house”
昔は平日の夜、実家で吐くまで酒を飲んでた

“Tried to get high with a soda can and a pen / And I found out real young I didn’t care about the rules”
ソーダ缶とペンでドラッグを試してみた そのとき気づいたんだ ルールなんて気にしちゃいないって

“I tried to tell you I was chosen to deserve”
私は“ふさわしくなるために選ばれた”って、あなたに伝えたかったの

“He was so patient / He took me home / And he asked me if I felt God in the building”
彼はすごく優しくて 私を家に送ってくれて 教会で神を感じたかって訊いてきた

“And I said I wasn’t looking, but I might be now”
私は探してなかったけど 今なら探してるかもしれないって答えた

歌詞引用元:Genius – Wednesday “Chosen to Deserve”

4. 歌詞の考察

「Chosen to Deserve」というタイトルは、本来“Deserve to be chosen(選ばれるに値する)”という言葉遊びを逆転させたような構造になっており、誰かに愛される資格、神に救われる資格、まともな人生を送る資格といったものが、自分にあるのかという疑問が根底にある。

歌詞は、青春時代の暴走や違法行為、無軌道な恋愛を自嘲気味に語りながらも、そこに被害者意識はまったくない。むしろそれらを経てきたことによって、今の自分があるという確信、ある種の誇りすら感じさせる。それが「私はふさわしくなるために選ばれた」という逆説的なラインに集約される。

さらに重要なのは、「神を感じたか?」という問いへの返答。「探してなかったけど、今なら探してるかもしれない」というラインには、信仰、愛、救いといった大きなテーマに対する一種の開き直りと再構築が見て取れる。ここで語られているのは、過去を悔やむことでもなければ、理想を追うことでもない。“私の人生はこれだった”と認めることの勇気と、その上で“今は変われるかもしれない”という可能性なのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Drunken Angel by Lucinda Williams
     破天荒な生を送った人への鎮魂歌。痛みを知る者の優しさと似ている。

  • Random Rules by Silver Jews
     無関心と真実が同居する語り口が、カーリーの歌詞と共鳴する。

  • Motion Sickness by Phoebe Bridgers
     過去の恋愛と自己矛盾をユーモアと悲しみで包み込んだ現代的バラード。

  • Teenage Dirtbag by Wheatus
     一見コミカルだが、アウトサイダーとして生きることの孤独を正面から描いた名曲。

6. “選ばれた”のではなく、“選び続けてきた”人生

「Chosen to Deserve」は、“間違った選択”を積み重ねてきたように見える人生でも、それが自分のものであることに誇りを持てるようになるまでのプロセスを描いている。その語りには、懺悔ではなく受容と再定義がある。何かに救われたいと願うことすら恥ずかしいと感じていた若き日々。しかし今、彼女はようやく“探し始めた”と言える自分になっている。

その変化はドラマチックではない。地味で、痛々しくて、でも確かな変化だ。ロックは本来、そういう“ささやかな魂の変化”を記録する音楽だったはずだ。Wednesdayはそれを現代の言葉で、見事に体現している。


「Chosen to Deserve」は、自分の人生を肯定するために必要な時間と痛みを、ユーモアと優しさで乗り越えようとする全ての人への歌である。恥も罪も、そのすべてが“ふさわしさ”を形づくる物語になる。

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