
1. 楽曲の概要
「Twin Plagues」は、アメリカ・ノースカロライナ州アッシュビルを拠点とするバンドWednesdayが2021年に発表した楽曲である。同年8月13日にOrindal Recordsから発売されたスタジオ・アルバム『Twin Plagues』の表題曲であり、アルバムの冒頭に収録されている。
作詞・作曲はボーカル兼ギターのカーリー・ハーツマンが担当した。録音時のWednesdayは、ハーツマン、ギターのジェイク・レンダーマン、ラップスティールのザンディ・チェルミス、ベースのマーゴ・シュルツ、ドラムのアラン・ミラーを中心とする編成だった。楽曲のアレンジはバンド全体によるものである。
アルバムの録音はアッシュビルのDrop of Sunで行われ、アレックス・ファラーとアダム・マクダニエルが制作に関わった。「Twin Plagues」は、荒いギターノイズ、シューゲイズ的な残響、1990年代オルタナティヴ・ロックの重量感を組み合わせた作品である。
Wednesdayは後に『Rat Saw God』でオルタナティヴ・カントリーとノイズロックの融合を広く知られるようになるが、その方向性は本曲ですでに明確になっていた。静かな親密さと耳を圧迫する歪みを同じ曲の中に置き、日常の小さな不安を大きな音響へ拡張している。
題名の「Twin Plagues」は直訳すると「二つの災厄」である。ハーツマンによれば、リチャード・ブローティガンの文章に由来し、クリスマスと新年を指す表現として使われていた。祝祭として扱われる二つの日を、期待と義務を押しつける苦痛として捉えた言葉である。
2. 歌詞の概要
歌詞は、語り手と親しい相手の性格の違いを中心に進む。相手は恐れを知らず、危険や死を意識せずに行動できる人物として描かれる。一方、語り手は小さな出来事にも不安を感じ、その感覚から離れられない。
曲中には虫を引き寄せて感電させる防虫灯が登場する。暗闇の中で虫が光へ向かい、短い音を立てて死んでいく光景である。身近でありながら不穏な場面が、相手の大胆さと語り手の恐怖を結びつける。
相手は死を無視して前進するが、語り手の恐怖は消えない。ここで描かれる不安は、具体的な一つの危険に対する反応ではない。日常の背景に常に存在し、楽しい時間や親密な関係の中にも入り込む感覚である。
タイトルの「二つの災厄」をクリスマスと新年に結びつけると、歌詞の心理が理解しやすい。祝日は幸福であること、家族や恋人と充実した時間を過ごすこと、新しい年に希望を持つことを求められる。そうした期待は、不安を抱える人にとって負担となり得る。
本曲はクリスマスの出来事を具体的に説明する歌ではない。祝祭をめぐる圧力を出発点にしながら、恐怖を抱える人物と、それを恐れない人物の距離を描いている。
語り手は相手を羨み、同時に理解できずにいる。恐れを知らない姿は魅力的だが、その大胆さは危険にも見える。憧れと警戒が分離されないことが、歌詞の緊張につながっている。
歌詞は明確な結論へ進まない。語り手が恐怖を克服することも、相手が慎重になることもない。二人の違いを残したまま、演奏だけが大きく膨張していく。
3. 制作背景・時代背景
Wednesdayは、カーリー・ハーツマンの個人的な録音プロジェクトとして始まり、アッシュビルの音楽仲間を迎えてバンドへ発展した。初期作品では、宅録的なインディーロック、ドリームポップ、シューゲイズの要素が強かった。
『Twin Plagues』では、そうした繊細な音楽性を残しながら、バンド演奏の重量が大きく増している。ギターは旋律を支える伴奏ではなく、フィードバックと歪みによって曲の感情を拡張する中心的な要素となった。
ハーツマンは、記憶から細かな情景を取り出し、それを曲の中で再構成する作詞法を用いる。後の作品でも、店舗、道路、動物、近隣住民、家族の会話など、アメリカ南部の日常にある具体的な断片を歌詞へ取り込んでいる。
「Twin Plagues」の虫を殺す灯りも、その方法に沿ったイメージである。死や不安を抽象的に説明するのではなく、夜の庭や玄関先で実際に見られる物を提示する。小さな場面が、人物の心理を示す装置として働いている。
アルバムのタイトルは、新型コロナウイルス感染症の流行を指すものではない。発表時期からそのように受け取られる可能性はあったが、ハーツマンはクリスマスと新年を示すブローティガン由来の表現だと説明している。
それでも、2021年という発表時期は曲の受け取られ方へ影響した。日常生活の制限、先の見えない不安、決まった日に幸福を演じることへの疲労は、感染症流行下の社会にも重なる。ただし、これは時代との共鳴であり、曲の直接的な題材と断定すべきではない。
音楽的には、My Bloody Valentine以後のシューゲイズ、Dinosaur Jr.やSmashing Pumpkinsのような大音量ギターロック、Pavement周辺の不均整なインディーロックを連想させる。一方、Wednesdayはそれらを復古的に再現せず、ハーツマンの南部的な語彙と生活描写へ結びつけている。
4. 歌詞の抜粋と和訳
You are fearless > > You defy death
和訳:
あなたは恐れを知らない > > 死にさえ逆らう
この短い言葉は、語り手と相手の対照を明確にする。相手は単に勇敢なのではなく、死という避けられないものまで無視できる人物として誇張されている。
「defy」には、従うことを拒み、正面から挑むという意味がある。相手の態度には自由や強さがある一方、危険を認識しない無謀さも含まれる。
語り手は相手を称賛しているように聞こえるが、自分には同じ行動ができない。その距離が、尊敬だけではない不安を生む。相手が恐怖を知らないほど、恐怖に支配されている自分の姿が明確になるからである。
なお、歌詞は著作権保護対象であるため、批評に必要な最小限のみ引用した。
5. サウンドと歌詞の考察
「Twin Plagues」は、フィードバックを含む大きなギターノイズから始まる。旋律や歌詞を提示する前に、複数の歪んだ音が重なり、聴き手の周囲を埋める。
この導入は、曲の背景にすでに不安が存在することを示す。語り手が恐怖について語り始める前から、音響そのものが落ち着かない状態を作っている。
二本のギターは、同じコードを整然と重ねるだけではない。一方がコードと低い歪みを支え、もう一方が高音のフィードバックや揺れるフレーズを加える。音の輪郭が衝突し、互いの位置を奪い合うように聞こえる。
ヴァースに入ると、演奏の密度が下がり、ハーツマンの声が見えやすくなる。ただし完全な静けさにはならず、ギターの残響やノイズが背景に残る。恐怖が一時的に小さくなっても、消えてはいないことを示す構成である。
ハーツマンのボーカルは、歪んだ演奏に対して比較的柔らかい。声を大きく張ってギターへ対抗するより、少し擦れた声で言葉を置いていく。歌詞の人物が不安を劇的に訴えず、日常的な事実として抱えていることが伝わる。
ドラムは大きな音量を持ちながら、単純な直線的ビートだけに依存しない。シンバルの持続とスネアの打点を使い、静かな部分から爆発的な部分への移行を支える。
ベースは厚いギターの下でコードの重心を示す。音像がフィードバックによって曖昧になっても、ベースとバスドラムが拍を保つため、曲は完全なノイズへ崩れない。
サビや大きく展開する部分では、ギターの歪みがボーカルを覆うほど広がる。一般的なポップソングでは、サビで歌詞を明瞭にし、意味を強調することが多い。本曲では逆に、感情が強くなるほど言葉がノイズの中へ沈んでいく。
この処理は、恐怖をうまく説明できない状態に対応している。語り手は自分の感覚を言葉にしようとするが、演奏がその言葉を圧倒する。不安が説明の対象ではなく、身体全体へ広がる感覚として表現されている。
一方、大音量の部分には解放感もある。歪みは語り手を押しつぶすだけでなく、内側にたまった不安を外へ放出する。Wednesdayの音楽では、ノイズが暴力と救済の両方の役割を担う。
曲の構成は、静と動の対比を明確に使っているが、完全に整った循環ではない。音量の増減やフィードバックの入り方にわずかな不均衡があり、次の変化を予測しにくい。その不安定さが歌詞の心理と一致する。
「Twin Plagues」はシューゲイズの音響を用いるが、夢の中へ逃避する曲ではない。柔らかな残響だけでなく、グランジやノイズロックに近い硬い歪みがあり、現実の不快さを直接押し出す。
同時に、アルバムの最初に置かれたことで、Wednesdayの音楽的な基本方針を示している。個人的な恐怖、ありふれた光景、少ない言葉を、大音量のバンド演奏へ変換する。その後の「Handsome Man」や「Cody’s Only」へ続く入口として機能する曲である。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- One More Last One by Wednesday
同じアルバムに収録されたシューゲイズ色の強い楽曲である。残響の深いギターと親密なボーカルを組み合わせ、孤独や関係の不安定さを表現している。
- Handsome Man by Wednesday
『Twin Plagues』の2曲目で、表題曲の大きなギターノイズをより簡潔なインディーロックへつなぐ。歪みの強さと覚えやすいメロディの均衡が特徴だ。
- Bull Believer by Wednesday
2023年の『Rat Saw God』に収録された長尺曲で、静かな語りから激しい絶叫とノイズへ展開する。「Twin Plagues」で示された不安と音量の関係を、さらに大規模に発展させている。
- When You Sleep by My Bloody Valentine
多層的なギターと小さく聞こえるボーカルを組み合わせたシューゲイズの代表曲である。旋律をノイズの中へ埋め込み、感情を言葉より音色で伝える方法が近い。
- Little Fury Things by Dinosaur Jr.
大きく歪んだギターと弱さを残すボーカルを対置したオルタナティヴ・ロックである。静かな歌唱と突然広がるギターノイズの関係を比較できる。
7. まとめ
「Twin Plagues」は、Wednesdayがノイズ、シューゲイズ、インディーロックを独自の生活描写へ結びつけた重要な楽曲である。アルバムの冒頭で大きなフィードバックを提示し、バンドの音楽的な方向性を明確にしている。
歌詞では、恐れを知らない相手と、恐怖から離れられない語り手が対比される。防虫灯に引き寄せられる虫という小さな光景を通じて、死への無関心と日常的な不安を描いている。
題名は、リチャード・ブローティガンがクリスマスと新年を示すために使った表現に由来する。幸福を期待される祝日が、かえって精神的な負担になるという逆説が、曲の不安と結びついている。
サウンドでは、ハーツマンの柔らかな歌唱と、複数のギターによる圧迫的な歪みが対立する。言葉が明瞭になる静かな部分と、言葉が音に飲み込まれる大音量の部分を往復し、恐怖を説明ではなく身体的な感覚として伝える。
後の『Rat Saw God』ではカントリーやサザンロックの要素がさらに前面へ出るが、Wednesdayの核心は本曲ですでに成立している。身近な出来事を集め、そこに潜む死、記憶、不安を、大きく不均整なギターロックへ変える。その方法を端的に示した表題曲である。
参照元
- Wednesday公式Bandcamp『Twin Plagues』
- Wednesday公式YouTube「Twin Plagues」
- KEXP「Wednesday – Twin Plagues(Live on KEXP)」
- Pitchfork『Twin Plagues』レビュー
- Merry-Go-Round Magazine「Wednesday on Shoegaze, Christmas, and Some Chaos」
- Off Shelf「Wednesday’s Karly Hartzman」
- Post-Trash『Twin Plagues』レビュー

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