アルバムレビュー:Rembrandt Pussyhorse by Butthole Surfers

Spotifyジャケット画像

発売日: 1986年4月
ジャンル: エクスペリメンタル・ロック、アートロック、ポストパンク、ノイズロック、サイケデリック


静けさは不安を孕み、ユーモアは暴力と交わる——“破壊の中の構築”が始まった、バットホールの実験的中期名作

1986年の『Rembrandt Pussyhorse』は、Butthole Surfers(バットホール・サーファーズ)のセカンド・スタジオ・アルバムにして、
前作『Psychic… Powerless… Another Man’s Sac』の暴走的ノイズ・カーニバルから、
よりねじれた構造性と音楽的サイコドラマ性を強めた“内的混沌”の表現作である。

この作品では、スピードや爆発力を抑えるかわりに、緊張感、反復、不穏な沈黙、突然の脱臼といった
アヴァンギャルド/ミニマル的要素が色濃くなり、サーファーズの音楽が“構築的狂気”へとシフトしていく様子が見てとれる。

アルバムタイトル「Rembrandt Pussyhorse」は、高尚な芸術と猥雑なイメージの結合という意味で、
本作全体に通底する「笑っていいのか、怯えるべきか分からない美学」の象徴とも言える。


全曲レビュー

1. Creep in the Cellar

静かに揺れるピアノとサイケデリックなギターの反復。
“地下室の這い寄り”というタイトルの通り、不穏で病的な空気に満ちた導入
スロウテンポの裏に張り詰めた狂気が漂う。

2. Sea Ferring

壊れたトランペットとナレーションのようなボーカル。
海に出るという行為が、逃避と喪失の両方を意味しているかのような儀式的トラック

3. American Woman

The Guess Whoの名曲をカバーしながら、原曲のグルーヴや色気を完全に破壊し尽くした悪意の解釈
ボーカルは歪み、テンポは崩れ、アメリカ的セクシュアリティのグロテスクな反転が描かれる。

4. Waiting for Jimmy to Kick

タイトルに漂う“薬物的な死の予感”と、ループするギターリフの異常な執着が印象的。
“待つこと”が精神をすり減らす様を音にしたような沈黙のトラック

5. Strangers Die Everyday

不穏なストリングス(本物ではない)とピアノの断片。
“他人は毎日死ぬ”という冷淡なタイトルにふさわしく、感情を拒絶した美学がある。

6. Perry

ジャズ的とも言える即興的フレーズと、歪んだボーカルが重なる短いインタールード。
不安を煽る“間”の取り方が非常に映画的

7. Whirling Hall of Knives

アルバム中もっとも長く、構成的に複雑なトラック。
タイトルの通り、回転し続ける刃の迷宮に迷い込んだような不協和と暴力のミニマル展開が続く。
ポストインダストリアルな質感もある、異色の名曲。

8. Mark Says Alright

突如として炸裂するパンク/ノイズナンバー。
一瞬のノイズが、逆にアルバム全体の“沈黙の緊張”を際立たせる。

9. In the Cellar

1曲目の“Creep in the Cellar”の逆回転的続編のようなサウンド。
地下室という閉鎖空間を、音の構造だけで描き切る実験性が際立つ


総評

Rembrandt Pussyhorse』は、Butthole Surfersの音楽が“爆発”から“構築的狂気”へと進化していく重要な分岐点である。
その中には、ミニマル・ミュージック的反復の魔力、ポストパンク的冷笑、
そしてアメリカ文化に対するねじれた愛憎
が、ノイズと戯画化のなかで交錯している。

聴くというより“覗き込む”ような感覚。
そして、気づけば笑っていたのか、怯えていたのか分からなくなる感情の螺旋

この作品は、サーファーズが真に“音楽そのものを破壊せずに、音楽の中で暴れる方法”を見出した証でもある。


おすすめアルバム

  • SwansChildren of God
    宗教と暴力の象徴的交差点。構築的狂気という点で強い親和性。
  • Throbbing Gristle – 20 Jazz Funk Greats
    不穏なミニマリズムとジャンルの転覆。『Whirling Hall of Knives』的要素に通じる。
  • The Birthday Party – Junkyard
    ニック・ケイヴ在籍時の暴力的ポストパンク。笑いと恐怖のねじれた連鎖。
  • ChromeAlien Soundtracks
    サイケとノイズの前衛融合。SF的異物感が共鳴。
  • Nurse With Wound – Homotopy to Marie
    脱構築的音響芸術。構成の不安定さと儀式性が『Pussyhorse』と共振する。

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