Never Coming Down (Part I) by Spacehog(1995)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Never Coming Down (Part I)」は、Spacehogが1995年に発表したデビューアルバム『Resident Alien』の終盤に収録された、壮大で感傷的なバラードです。タイトルにある「Never Coming Down(もう地上には戻らない)」というフレーズは、字義通りの“高揚感”と“逃避”を意味しながらも、精神的な超越や、現実との決別といった複雑な感情を内包しています。

この曲の語り手は、“落ちていかない”状態、つまり何かから解放されたような、あるいは現実のしがらみから切り離されたような感覚に包まれています。その“上昇”には陶酔や希望もあれば、孤独や終焉への予感もある。浮遊感のあるメロディとスローな展開の中に、自己消失や魂の昇華すらも連想させる、ミステリアスなラブソングとも解釈できる楽曲です。

2. 歌詞のバックグラウンド

Spacehogのデビュー作『Resident Alien』は、90年代オルタナティヴロックにおけるグラムロック復興の象徴的なアルバムでありながら、その内面には孤独や現代人の疎外感が濃く流れています。「Never Coming Down (Part I)」は、アルバム後半で突如現れる静けさと壮大さが特徴のトラックで、作品全体に“内省”という深みを与える重要な位置づけです。

“Part I”というタイトルが示すように、この曲には短い“Part II”(エピローグのような再演奏)が存在しており、アルバムのラストを締めくくる形でリプライズされます。こうした構成は、アルバム全体を通じて描かれる“宇宙的な浮遊と現実との距離”というテーマを強調しており、聴く者に長い旅路の果てを感じさせます。

3. 歌詞の抜粋と和訳

When I saw you for the first time
初めて君を見たあの時

I knew you were the one
すぐに、君が“運命”だってわかった

That I’d been waiting for
僕がずっと待っていた誰かだって

And I’m never coming down
もう僕は、地上には戻らない

Your love has taken me so high
君の愛は、僕をこんなに高くまで連れていった

I’m floating in your sky
僕は君の空に浮かんでいる

Where everything feels fine
すべてが完璧に感じられる場所

歌詞全文はこちら:
Genius Lyrics – Never Coming Down (Part I)

4. 歌詞の考察

この曲の核心は、“愛”や“自己”といった重いテーマを、宇宙的スケールで語っている点にあります。語り手は、恋人との出会いによって現実の重力から解放されたような感覚を抱き、「僕はもう戻れない」と告げます。だがそれは喜びだけでなく、ある種の諦めや逃避にも聞こえます。

「Never coming down」という言葉には、単なる“ハイ”な感覚以上に、“日常からの脱却”や“永遠の中毒状態”といった危うさも含まれています。愛という経験があまりにも強烈であるがゆえに、もう地に足をつけて歩けない。現実を捨ててでも、その感覚に身を委ねてしまいたい──それは陶酔であると同時に、自己喪失の始まりかもしれません。

さらに、Spacehogらしいグラム・スタイルの壮大さと抑制されたヴォーカルが、歌詞に潜む“感情の空白”や“遠さ”を強調しています。これは愛の讃歌というより、むしろ“愛に飲み込まれた者の最後の囁き”のようなトーンすら帯びており、リスナーを静かに不安にさせる魅力があります。

引用した歌詞の出典:
© Genius Lyrics

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Life on Mars? by David Bowie
    非現実の美しさと現実からの逃避を描いた名曲。浮遊感と諦念が「Never Coming Down」に共鳴。

  • Third Planet by Modest Mouse
    宇宙的メタファーを通じて人間の感情を描く。親密さと距離感の表現が近い。

  • Porcelina of the Vast Oceans by Smashing Pumpkins
    広がる音像と内面世界の交差。壮大なスケールの愛と孤独が共通する。

  • Space Oddity by David Bowie
    宇宙への出発を、孤独と憧れの両面で描いた名曲。宇宙と自己の交差が美しい。

6. 宇宙に溶けるラブソング──“地上に戻らない”という選択

「Never Coming Down (Part I)」は、恋愛における究極の高揚と、その裏に潜む逃避の願望、そして“もはや戻れない”という感覚の美しさと悲しみを描いた楽曲です。それは、現実の世界で居場所を見つけられなかった者が、愛の中に“浮遊する空間”を築こうとする行為でもあります。

しかし、空に浮かび続けることは、どこにも着地できないことでもあります。この曲はその矛盾を、美しく、儚く、そして静かに伝えてきます。

もしかしたら、「Never coming down」という選択は、愛に生きるということのメタファーなのかもしれません。それが永遠でなくとも、誰かの愛によって“現実を超える瞬間”を感じられたこと──その奇跡こそが、この楽曲の真のメッセージなのです。

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