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シューゲイザーを知るなら、まず定番アーティストから
シューゲイザーは、ギターの轟音、深いリバーブ、曖昧に溶けるボーカル、揺れるようなメロディが特徴のロック・ジャンルである。1980年代末から1990年代初頭のイギリスを中心に広がり、オルタナティブ・ロックやインディー・ロックの中でも独自の美学を築いた。
このジャンルを知るうえで、定番アーティストから聴くことはとても重要である。なぜなら、シューゲイザーはバンドごとに音の作り方が大きく異なるからだ。My Bloody Valentineの極端に加工されたギター、Slowdiveの浮遊感、Rideの疾走感、Lushのポップなメロディなど、同じジャンルでも入口はひとつではない。
まず代表的なバンドを押さえることで、シューゲイザーの基本的な魅力が見えてくる。轟音の中にあるメロディ、ノイズの向こうにある歌、ロック・バンドの演奏とスタジオでの音響処理が一体になる感覚。この記事では、初心者にも聴きやすく、ジャンルの理解に役立つ定番アーティストを10組紹介する。
シューゲイザーとはどんなジャンルか
シューゲイザーは、1980年代後半から1990年代初頭のイギリスで形を整えたロックの一種である。ギターにディストーション、リバーブ、ディレイ、コーラス、トレモロアームなどを多用し、音の壁のような厚いサウンドを作ることが多い。ボーカルは前面に出るよりも、ギターやシンセの層に溶け込むように配置されることが多く、歌詞よりも音の質感そのものが強く印象に残る。
親ジャンルとしてはrockの流れにあるが、パンク以降のインディー・ロック、ポストパンク、サイケデリック・ロック、ノイズポップ、ドリームポップなどとも深く関わっている。特にドリームポップとは接点が大きく、柔らかなメロディや浮遊感のある音作りを共有するバンドも多い。
シューゲイザーという呼び名は、演奏中にエフェクターを操作するため、ミュージシャンが足元を見つめているように見えたことから広まったとされる。もともとは批評的なニュアンスもあった言葉だが、現在ではギター・ミュージックの重要なジャンル名として定着している。
シューゲイザーの定番アーティスト10選
1. My Bloody Valentine
My Bloody Valentineは、シューゲイザーを語るうえで最も重要なバンドのひとつである。アイルランド出身のKevin Shieldsを中心に、1980年代から活動し、1991年のアルバム『Loveless』でジャンルの決定的な基準を作った存在として知られている。
彼らの音楽の特徴は、ギターを単なるコード楽器としてではなく、音響そのものとして扱う点にある。トレモロアームを使った揺れるギター、極端に重ねられたノイズ、輪郭が曖昧なボーカルが一体となり、ロック・バンドの演奏でありながら、まるで別の楽器群のように響く。代表曲「Only Shallow」では、冒頭から分厚いギターが押し寄せ、シューゲイザーの音圧とメロディの関係を強く示している。
初心者はまず『Loveless』を通して聴くのがよい。最初は音の密度に圧倒されるかもしれないが、何度か聴くと、ノイズの中に繊細なメロディやリズムの揺れがあることに気づくはずである。
2. Slowdive
Slowdiveは、イングランド・レディング出身のバンドで、1990年代初頭のシューゲイザーを代表する存在である。Neil HalsteadとRachel Goswellのボーカルを中心に、ギターの残響、穏やかなテンポ、広がりのある音作りによって、My Bloody Valentineとは異なる柔らかなシューゲイザー像を作り上げた。
代表作としては、1993年の『Souvlaki』が特に知られている。このアルバムでは、ギターの轟音よりも、コードの響き、ボーカルの重なり、空間的なミックスが重視されている。「Alison」や「When the Sun Hits」では、シンプルなメロディと深いリバーブが結びつき、シューゲイザーが持つ美しい側面をわかりやすく伝えている。
初心者には、まず『Souvlaki』から入るのがおすすめである。音は厚いが攻撃的すぎず、ドリームポップに近い聴きやすさもあるため、シューゲイザーの柔らかな入口として適している。
3. Ride
Rideは、イングランド・オックスフォード出身のバンドで、1990年代初頭のシューゲイザー・シーンを代表する存在である。Mark GardenerとAndy Bellのツインボーカル、疾走感のあるドラム、きらびやかなギターの重なりによって、ロック・バンドとしての推進力を強く持ったシューゲイザーを展開した。
代表作は1990年の『Nowhere』である。特に「Vapour Trail」は、ギターのきらめきとストリングス風の響き、伸びやかなメロディが印象的な名曲として知られている。Rideの魅力は、轟音の中にもはっきりとした曲の骨格があり、インディー・ロックやギターポップのリスナーにも届きやすい点にある。
初心者は『Nowhere』を聴くと、シューゲイザーがただ内向的な音楽ではなく、バンド演奏の勢いや青春感を持った音楽でもあることがわかる。疾走するドラムと広がるギターの組み合わせに注目するとよい。
4. Lush
Lushは、ロンドンで結成されたバンドで、Miki BerenyiとEmma Andersonを中心に活動した。シューゲイザー、ドリームポップ、インディーポップの中間に位置する存在であり、厚いギターサウンドとキャッチーなメロディを結びつけたバンドとして知られている。
初期の代表作には『Spooky』やコンピレーション的に初期音源をまとめた『Gala』がある。Lushのサウンドは、深いリバーブを持つギターと透明感のあるボーカルが特徴だが、メロディは比較的明快で、曲ごとのフックも強い。後期にはブリットポップに近い方向へ接近するが、初期作品にはシューゲイザーの空気が濃く残っている。
初心者には、まず「De-Luxe」や「For Love」などを聴くと入りやすい。ノイズや残響の中にポップソングとしての親しみやすさがあり、シューゲイザーとギターポップの接点を理解しやすいバンドである。
5. Chapterhouse
Chapterhouseは、イングランド・レディング出身のバンドで、1990年代初頭のシューゲイザー・シーンを支えた存在である。Slowdiveと同じ地域的な文脈でも語られることがあり、リズムの反復とギターのレイヤーを活かしたサウンドを特徴としている。
代表作は1991年の『Whirlpool』である。この作品では、シューゲイザーらしい厚いギターの響きに、ダンスミュージックからの影響を感じさせるリズム感が加わっている。「Pearl」は、ギターの残響、淡いボーカル、グルーヴ感のあるビートが組み合わさった代表曲として知られている。
初心者には、RideやSlowdiveを聴いたあとにChapterhouseへ進むと理解しやすい。ギターの質感だけでなく、リズムの反復が曲を引っ張っている点に注目すると、このバンドの個性が見えてくる。
6. Swervedriver
Swervedriverは、イングランド・オックスフォード出身のバンドで、シューゲイザーの中でもよりオルタナティブ・ロックやガレージロックに近い荒々しさを持つ存在である。Rideと同じオックスフォード周辺のシーンから登場したが、より太いギターリフとアメリカン・ロック的な走行感を感じさせる音を鳴らした。
代表作としては、1991年の『Raise』や1993年の『Mezcal Head』が知られている。Swervedriverの魅力は、シューゲイザー的な音の厚みを持ちながら、曲の中心に強いリフとドライブ感があることだ。Adam Franklinのボーカルも、他のシューゲイザー・バンドより前に出ており、ロック・バンドとしての輪郭がはっきりしている。
初心者には、轟音ギターが好きなオルタナティブ・ロック・リスナーに特におすすめである。My Bloody ValentineやSlowdiveの音響的な方向とは違い、ギターが道路を走るような推進力を持っている。
7. Pale Saints
Pale Saintsは、イングランド・リーズ出身のバンドで、4AD所属のアーティストとしても知られている。1990年の『The Comforts of Madness』は、シューゲイザー、ドリームポップ、ポストパンクの要素を併せ持つ作品として評価されている。
彼らの音楽は、轟音一辺倒ではなく、繊細なギターのアルペジオ、変化のある曲構成、淡いボーカルが特徴である。初期の楽曲には、インディー・ロックらしい緊張感と、4AD的な幻想的サウンドの両方が含まれている。シューゲイザーとしてはやや変則的だが、その分、ジャンルの周辺を知るうえで重要な存在である。
初心者には、SlowdiveやLushの柔らかい音が好きな人に向いている。派手な轟音よりも、ギターの重なりや曲の陰影に耳を向けると、Pale Saintsの魅力が伝わりやすい。
8. The Jesus and Mary Chain
The Jesus and Mary Chainは、スコットランド出身のバンドで、厳密にはシューゲイザー以前のノイズポップ/オルタナティブ・ロックの重要バンドである。しかし、彼らが1985年の『Psychocandy』で示した甘いメロディと荒れたギターノイズの組み合わせは、後のシューゲイザーに大きな影響を与えた。
The Jesus and Mary Chainの特徴は、1960年代ポップスやガール・グループ的なメロディを、フィードバックノイズと歪んだギターで覆うところにある。シューゲイザーのような深い音響処理とは異なるが、ノイズの中にポップソングを置く発想は、My Bloody ValentineやLushなどの流れを考えるうえで重要である。
初心者は、シューゲイザーの直接的な完成形としてではなく、前史として聴くとわかりやすい。ノイズとメロディを同時に楽しむ耳を作るうえで、避けて通れないバンドである。
9. Cocteau Twins
Cocteau Twinsは、スコットランド出身のバンドで、1980年代の4ADを代表する存在である。彼らもシューゲイザーそのものというより、ドリームポップの重要アーティストとして知られているが、ギターの音響処理やボーカルの扱いにおいて、後のシューゲイザーへ大きな影響を与えた。
Robin Guthrieのギターは、エフェクトを多用して輪郭をぼかし、Elizabeth Fraserのボーカルは、言葉の意味よりも声の響きを前面に出すように配置される。1984年の『Treasure』や1986年の『Victorialand』などでは、ロック・バンドの形式を超えた音響的なポップミュージックが展開されている。
初心者には、SlowdiveやLushの柔らかな側面が好きな人におすすめである。シューゲイザーの轟音とは違うが、声とギターが空間の中で溶け合う感覚は、ジャンルの理解を深めるうえで大きな手がかりになる。
10. M83
M83は、フランス出身のAnthony Gonzalezを中心とするプロジェクトで、2000年代以降のシューゲイザー的な感覚を電子音楽やシンセポップへ拡張した存在である。初期作品では、ギターの歪み、シンセサイザーのレイヤー、ドラムマシン的なビートが組み合わされ、ポスト・ロックやエレクトロニカとも接続するサウンドを作っていた。
代表作としては、2003年の『Dead Cities, Red Seas & Lost Ghosts』や2005年の『Before the Dawn Heals Us』が挙げられる。M83の音楽は、1990年代のシューゲイザーをそのまま再現するのではなく、轟音の質感をシンセサイザーや電子音のレイヤーに置き換えた点に特徴がある。のちにはよりポップで大きなスケールのサウンドへ展開していくが、初期作品にはシューゲイザーからの影響が強く感じられる。
初心者には、ロックよりも電子音楽や映画的なサウンドが好きな人に向いている。ギター・バンドだけではない、シューゲイザー以降の広がりを知る入口として聴きやすいアーティストである。
まず聴くならこの3組
シューゲイザーを初めて聴くなら、まずMy Bloody Valentine、Slowdive、Rideの3組から入るのがわかりやすい。My Bloody Valentineは、ジャンルの音響的な到達点を示した存在であり、特に『Loveless』を聴くことで、シューゲイザーがなぜギター・ロックの中で特別な位置を持つのかが見えてくる。
Slowdiveは、シューゲイザーの柔らかく聴きやすい側面を知る入口として優れている。『Souvlaki』はメロディが美しく、音の厚みもありながら、過度に攻撃的ではない。ドリームポップやアンビエント寄りの音が好きな人にもすすめやすい。
Rideは、ロック・バンドとしての勢いを持つシューゲイザーを知るうえで重要である。『Nowhere』には、ギターのきらめき、疾走するリズム、明快なメロディが揃っている。インディー・ロックやオルタナティブ・ロックからシューゲイザーへ入る人にとって、最初の一枚として聴きやすい。
関連ジャンルへの広がり
シューゲイザーを聴き進めると、ドリームポップ、ノイズポップ、オルタナティブ・ロックといった関連ジャンルにも自然に関心が広がっていく。ドリームポップは、ギターやシンセの響き、淡いボーカル、ゆったりした曲調を重視するジャンルで、SlowdiveやCocteau Twinsを聴くとその接点がわかりやすい。
ノイズポップは、ポップなメロディを歪んだギターやフィードバックノイズで包み込む音楽である。The Jesus and Mary Chainはその代表的な存在であり、シューゲイザーが登場する前に、ノイズとメロディを結びつける重要な発想を示していた。
オルタナティブ・ロックとの関係も深い。SwervedriverやRideのようなバンドは、シューゲイザーの音響的な特徴を持ちながら、ロック・バンドとしての強い演奏感や疾走感も備えている。ギターの轟音を中心に聴きたい人は、シューゲイザーからオルタナティブ・ロックへ広げていくと理解しやすい。
まとめ
シューゲイザーは、ギター・ロックの中でも音の質感を大きく変えたジャンルである。My Bloody Valentineはその音響的な核心を示し、Slowdiveは柔らかな響きとメロディを、Rideはバンドとしての疾走感を、Lushはポップな親しみやすさを提示した。Chapterhouse、Swervedriver、Pale Saintsも、それぞれ異なる角度からジャンルの幅を広げた重要な存在である。
また、The Jesus and Mary ChainやCocteau Twinsのような前史的なアーティストを聴くことで、シューゲイザーが突然生まれた音楽ではなく、ノイズポップ、ドリームポップ、ポストパンク、オルタナティブ・ロックの流れの中で形作られたことも見えてくる。M83のような後続のアーティストを聴けば、その感覚が2000年代以降の電子音楽やインディー・ロックへ広がっていったことも理解できる。
まずはMy Bloody Valentine、Slowdive、Rideの3組から聴き始めるとよい。その後にLushやChapterhouseでシューゲイザーのポップな側面へ進み、SwervedriverやThe Jesus and Mary Chainでノイズとロックの強度を知る。さらにCocteau TwinsやM83へ広げれば、シューゲイザーが持つ音響的な魅力をより立体的に捉えられるはずである。

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