
発売日: 2006年10月2日
ジャンル: ポップ、アダルト・コンテンポラリー、カバー
概要
『I Love You』は、Diana Rossが2006年にリリースした18枚目のスタジオ・アルバムであり、“愛”をテーマにしたポップス/バラードの名曲カバー集である。
1999年の『Every Day Is a New Day』以来7年ぶりの新作であり、彼女の音楽キャリアにおいては“原点回帰”とも言える、スタンダード的楽曲への深い愛と敬意に満ちた作品となっている。
収録曲には、Burt Bacharach、Marvin Gaye、Stevie Wonder、Queenなど、ジャンルを越えて「愛」にまつわる名曲ばかりが並び、Diana Rossの豊潤な歌声によって、どの曲も新たな命を吹き込まれている。
また、アルバムには唯一の新曲として「I Love You(That’s All That Really Matters)」が収録されており、これはRossからリスナーへのパーソナルなラブレターのような役割を果たしている。
全曲レビュー
1. Remember
アルバムの幕開けを飾る、幻想的なオリジナル楽曲。
「忘れないで、私のことを」というメッセージが、愛の記憶として聴き手の心に残る。
2. More Today Than Yesterday
1969年のSpiral Starecaseによるポップ・ソウルを軽やかにカバー。
恋する喜びと日常の幸せを、Rossらしい上品さで描き出す。
3. I Want You
Marvin Gayeの名曲をスロウ・グルーヴで再解釈。
原曲よりもしっとりと大人びたアプローチで、Rossの息づかいまでもが感じられる。
4. I Love You(That’s All That Really Matters)
唯一の新曲で、アルバムの中心を担うバラード。
誇張のない言葉とメロディで、「愛してる」が持つ本質的な強さを語る。
5. What About Love
ハートの奥底を揺さぶる、ソフトで誠実な問いかけ。
愛に見捨てられたような瞬間にも“希望は残る”と信じさせてくれる一曲。
6. The Look of Love
Burt Bacharachの名曲を、原曲の優美さを保ちながらスムースにカバー。
微笑むような表情と切なさの混在がRossのヴォーカルで引き立つ。
7. You Are So Beautiful
Joe Cockerで知られる名バラード。
Rossは囁くように、まるでそっと手を握るかのようにこの曲を歌う。
8. Always and Forever
永遠を誓うスロウ・バラード。
Rossの穏やかな歌い口とストリングスが温かな光のように包み込む。
9. Only You
The Plattersのクラシックを再解釈。
“あなただけ”という言葉の重みを、品と深みを持って表現している。
10. To Be Loved
「愛されることの素晴らしさ」を喜びいっぱいに歌った楽曲。
Rossの陽気な面が引き出される、幸福感にあふれたカバー。
11. I Will
The Beatlesの名曲を、誠実かつ優しいトーンで再構築。
シンプルな構成だからこそ、Rossの声の温度がダイレクトに伝わってくる。
12. This Magic Moment
ベースとストリングスが絡むミステリアスなムードの中、Rossが“魔法の瞬間”を甘く語る。
13. Crazy Little Thing Called Love
Queenのロカビリー調ナンバーを軽やかにジャズアレンジ。
遊び心あふれるヴォーカルがRossの多彩さを見せつける。
14. Only You(Remix)
本編のリミックス版。微細なビートとエフェクトが加えられ、より現代的な仕上がりに。
総評
『I Love You』は、Diana Rossが**“伝えるべき言葉はもうただひとつ――I Love You”と静かに断言する、成熟した愛のアルバムである。
派手なボーカルや時代性に頼ることなく、ひとつひとつの歌詞をゆっくりと噛みしめるような彼女の歌唱には、時代もジャンルも超えた“母なる声”**のような優しさが宿っている。
選曲は“愛の多面性”を映し出すものであり、恋のときめきも、失恋の痛みも、人生の感謝もすべて包み込んでいる。
本作において、Diana Rossはもはや“スター”ではなく、**“語り手”であり“癒し手”**としてそこにいる。
おすすめアルバム(5枚)
- 『Love Songs』 / Barbra Streisand
愛のバラードに特化した構成と抑制された歌唱が共鳴。 - 『Timeless: The Classics』 / Michael Bolton
往年のラブソングを現代的にアレンジしたカバー集。 - 『Songs from the Last Century』 / George Michael
クラシックポップを再構成するアプローチが似ている。 - 『The Greatest Love Songs of All Time』 / Barry Manilow
ロマンスに寄り添う作品として、Rossの本作と並べて聴きたい一枚。 - 『Still the One』 / Shania Twain(Ballad Collection)
ストレートな愛情表現に重きを置いたアルバムとして類似性がある。
ビジュアルとアートワーク
ジャケットには、真っ赤な衣装に身を包んだDiana Rossがやさしく微笑む姿が映し出されている。
背景に光を帯びたボケが広がり、まるで愛そのものが光の粒として降り注いでいるかのような演出。
“愛されるより、愛する人でいたい”――そんなRossの人生哲学が、このアルバム全体を包んでいる。
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