発売日: 2021年2月19日
ジャンル: グランジ、ドリームポップ、オルタナティブロック
概要
『Year of the Rat』は、カナダ出身の双子姉妹、MercedesとPhoenix Arn-Hornによるオルタナティブデュオ、Softcultが2021年にリリースしたデビューEPである。
かつてロックバンドCourage My Loveで活動していた二人が、新たにSoftcultを結成し、より内省的かつドリーミーな音楽性へと舵を切った最初の作品である。
本作では、1990年代オルタナティブ／グランジの影響を受けたざらついたギターサウンドと、シューゲイザー的な浮遊感を併せ持つスタイルを確立。
その一方で、繊細で個人的なリリックを特徴とし、ジャンルの枠に収まらない独自の感性を打ち出している。
『Year of the Rat』というタイトルには、混乱と再生を象徴する意味合いが込められており、アルバム全体を通して、自己探求、社会的疎外感、精神的な葛藤といったテーマが静かに、しかし力強く貫かれている。
パンデミックのさなかにリリースされた本作は、孤独や不安、閉塞感といった時代の空気を鋭く反映し、多くのインディーリスナーに深い共鳴を呼び起こした。
全曲レビュー
1. Another Bish
EPの幕開けを飾る、ざらついたギターリフが印象的なオルタナティブロックナンバー。
女性同士の連帯や、自立へのメッセージが力強く刻まれている。
2. Take It Off
ドリーミーなシューゲイザー的サウンドに、怒りと悲しみが交錯するリリックを乗せた楽曲。
個人の尊厳を守ることへの切実な願いが滲む。
3. Young Forever
若さと無垢さへのノスタルジーをテーマにした、淡いメランコリーナンバー。
浮遊感あふれるギターと、柔らかなボーカルのコントラストが心に残る。
4. Bird Song
社会からの疎外感と自己認識の目覚めを描いた、アルバム屈指の内省的な楽曲。
鳥のモチーフを通じて、自由への希求が静かに歌われる。
5. Uzumaki
日本の「渦巻き」をモチーフにしたタイトルが象徴するように、精神的な混乱と自壊のイメージを描いたダークな一曲。
轟音と静寂の緩急がドラマティックに展開する。
総評
『Year of the Rat』は、Softcultという新たなプロジェクトの誕生を告げると同時に、グランジ／ドリームポップの現代的な再解釈として極めて完成度の高い作品である。
彼女たちの音楽は、90年代オルタナティブロックのエッジィな質感を受け継ぎながらも、現代的なジェンダー意識や自己探求のテーマを取り込み、単なるノスタルジーにはとどまらない切実さを持っている。
また、ボーカルの透明感とギターサウンドの荒々しさが織り成すコントラストは、聴く者に強い印象を残す。
全体を通して、外界への怒りと自己への問いかけが絶妙なバランスで共存しており、リスナーはその両方に静かに巻き込まれていく感覚を覚えるだろう。
『Year of the Rat』は、閉塞感と戦うすべてのリスナーに向けられた、静かでありながら確かな抵抗の歌なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Nirvana『In Utero』
粗削りなサウンドと、内省的なリリックの融合。 - Slowdive『Souvlaki』
ドリーミーな浮遊感と、静かな情感を共有する。 - Wolf Alice『Blue Weekend』
オルタナティブロックとドリームポップを絶妙に行き来する現代的作品。 - Snail Mail『Lush』
若さと痛みを繊細に描き出すインディーロック。 - Soccer Mommy『Clean』
自己認識と孤独をテーマにした、柔らかなエモーション。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『Year of the Rat』は、MercedesとPhoenixの自宅スタジオでセルフレコーディングされた。
制作期間中、彼女たちは外部プロデューサーを入れず、すべての作業を自身でコントロールすることで、より純粋な自己表現を追求したという。
特に、ギターサウンドには90年代初期のアナログエフェクト（特にリバーブとファズ）が多用され、過剰なプロダクションを避けた生々しい音像が構築されている。
また、リリックにおいても、パーソナルな体験と社会的な問題意識が巧みに交差しており、これがSoftcultならではのリアリティとオルタナティブ精神を支えているのである。
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