
発売日: 2022年2月4日
ジャンル: グランジ、ドリームポップ、オルタナティブロック
概要
『Year of the Snake』は、Softcultが2022年にリリースした2枚目のEPであり、彼女たちが描くオルタナティブサウンドと内省的なリリックの世界観をさらに深化させた作品である。
前作『Year of the Rat』で確立された、グランジ直系の荒々しさとドリーミーな静謐さの絶妙なバランスはそのままに、本作ではより社会的なメッセージが色濃く打ち出されている。
MercedesとPhoenix Arn-Hornによるこのデュオは、フェミニズム、環境問題、精神的自立といったテーマを、自らの体験を通して鋭く、しかし繊細に描き出しているのだ。
『Year of the Snake』というタイトルは、変化と脱皮、そして古い殻を脱ぎ捨てることを象徴しており、アルバム全体が「自己再生」のプロセスをテーマにしている。
リリース当時、インディーロックシーンで着実に注目度を高めていたSoftcultは、本作によりさらに評価を高め、オルタナティブミュージックの新たな旗手としての地位を固めた。
全曲レビュー
1. BWBB (Bleed Without Blood Being Shed)
重厚なギターリフとドリーミーなコーラスが交錯するオープニング。
暴力と沈黙、見えない傷について歌ったリリックが胸を打つ。
2. House of Mirrors
自己認識の歪み、内面との対話をテーマにしたダークなナンバー。
重く響くリズムと、鏡をモチーフにした歌詞が強烈な印象を残す。
3. Perfect Blue
Softcult流のドリームポップ。
逃避願望と現実逃避の間を揺れる心情が、淡いサウンドスケープに溶け込む。
4. Gaslight
タイトル通り、ガスライティング(心理的操作)をテーマに据えた楽曲。
静かな怒りを湛えたボーカルと、不穏なサウンドが絶妙な緊張感を生む。
5. Uzumaki (Reprise)
前作『Year of the Rat』収録曲「Uzumaki」のリプライズバージョン。
よりミニマルに、より内向的にアレンジされており、精神的な混乱と再生を静かに表現している。
総評
『Year of the Snake』は、Softcultの音楽的成熟を示す重要なEPである。
グランジのざらつきとドリームポップの浮遊感という一見相反する要素を、彼女たちは驚くほど自然に融合させている。
本作において特に際立っているのは、リリックの鋭さと、社会への眼差しである。
個人的な痛みだけでなく、社会構造への違和感や怒りがしっかりと表現されており、それが単なる内省を超えた「静かな闘い」の姿勢を浮かび上がらせる。
サウンド面でも、前作より一層深みを増しており、楽曲ごとの起伏やダイナミクスも豊かになっている。
MercedesとPhoenixのツインボーカルは、時に寄り添い、時にずれることで、心の葛藤や多層的な感情をリアルに描き出している。
『Year of the Snake』は、自己再生をテーマにしながら、リスナーに対して「あなたもまた変われるのだ」と静かに、しかし確かに語りかける作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Hole『Live Through This』
女性の怒りと脆さを赤裸々に描く、90年代グランジの金字塔。 - Slowdive『Everything Is Alive』
静かな浮遊感と感情の深みを共有するドリームポップ作品。 - Wolf Alice『Visions of a Life』
オルタナティブロックのダイナミズムと繊細さを兼ね備える。 - Snail Mail『Valentine』
痛みと希望を緻密に編み込んだインディーロックアルバム。 - Fiona Apple『Fetch the Bolt Cutters』
社会構造への鋭い批評と個人的な解放感が交錯する傑作。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Year of the Snake』もまた、Softcultのセルフプロデュースによる作品である。
制作は自宅スタジオで行われ、最低限の機材のみを使用して、より直感的なレコーディングプロセスが追求された。
ギターサウンドには、古いFender Jazzmasterと手作りのファズペダルが使われ、90年代グランジのざらついた質感を再現。
ボーカルは極力オーバーダビングを控え、息遣いまで感じられるナチュラルなトーンが大切にされた。
また、ビジュアル面でもDIY精神を貫き、ジャケットアートやミュージックビデオはすべて姉妹自身が手がけている。
この徹底したセルフマネージメントこそが、Softcultの音楽に宿るリアルな抵抗感とオーセンティシティを支えているのである。
コメント