1. 歌詞の概要
Beabadoobeeの「Worth It」は、アルバム『Fake It Flowers』に収録された楽曲であり、ティーンエイジャー特有の衝動、罪悪感、そして自己肯定感の揺れ動きをリアルに描いた作品である。
歌詞は、誰かと関係を持つことへの葛藤、そしてその選択が本当に「価値のあるもの」だったのかという問いを投げかける構造になっている。冒頭から「I was getting bored of everything」と歌われるように、退屈な日常から逃れようとするような衝動が物語を駆動しており、その流れの中で、間違いと知りながらも飛び込んでしまった関係への自己批判がにじみ出る。
「Worth It」という言葉は、ここでは恋愛の「見返り」や「報酬」というニュアンスではなく、「その経験が自分にとって意味のあるものだったのか？」というもっと根源的で切実な問いとして響いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲が収録された『Fake It Flowers』は、Beabadoobeeがベッドルーム・ポップからオルタナティブ・ロックへの大胆なシフトを遂げた作品である。彼女はこのアルバムで、これまでのソフトで甘いイメージを打ち壊し、より攻撃的でノイジーなギターサウンドとともに内面の葛藤を赤裸々に表現している。
「Worth It」もその流れに沿った楽曲であり、特に90年代のオルタナティブロックに強く影響を受けたサウンドが印象的だ。Smashing PumpkinsやVeruca Salt、Liz Phairといったアーティストのエッセンスが散りばめられ、Beabadoobee自身の声がそのノスタルジックなサウンドの中で鋭く浮かび上がる。
また、Beabadoobeeはこの曲について、「本当は良くないと分かっていながらも、誰かと一夜を共にしてしまうことに対する混乱や自責の念がテーマ」と語っている。つまり、「Worth It」は青春の過ちそのものを肯定も否定もせず、そのままの形で描き出す試みなのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I was getting bored of everything
すべてに飽きていたのI was getting bored of you
あなたのことも、退屈になってたThen I kinda said I love you
なのに、なんとなく「愛してる」なんて言っちゃってYou said it back too soon
あなたもすぐに「僕も」なんて返してきたIs it me or is it you?
悪いのは私？それともあなた？I said I’m sorry, I know it isn’t worth it
ごめんねって言った、わかってる、こんなこと意味なんてないって
歌詞引用元：Genius Lyrics – Worth It
4. 歌詞の考察
「Worth It」は、自らが下した選択が正しかったのかを問う非常にパーソナルな作品である。恋愛において、人は時に退屈や寂しさから衝動的に行動してしまう。その結果が、たとえ誰かを傷つけるものだったとしても、それは感情の流れの中で起きた「人間的な」選択ともいえるだろう。
この曲の中では、Beabadoobeeが「間違いを認めながらも、その責任をどう受け止めるか」という複雑な感情を抱えている。彼女は「ごめんね」と謝りながらも、「それだけじゃ済まされない」とも感じている。そして、そんな自分自身に対してもまた怒りや戸惑いを向けているように聞こえる。
興味深いのは、楽曲が最終的に明確な「答え」や「解決」を提示していない点だ。Beabadoobeeは、「Worth It」というタイトルに象徴される問いかけを、聴き手にも投げかける。あなたにとって、それは「価値のある」経験だったか？ それとも後悔だけが残るものだったのか？ その答えは誰にもわからないし、だからこそリアルなのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Seether by Veruca Salt
90年代オルタナの粗さと繊細さが融合した名曲。Beabadoobeeのサウンドに通じるものがある。 - Why Won’t You Make Up Your Mind? by Tame Impala
不確かな恋の感情を浮遊感のあるサウンドで包み込んだ一曲。 - Dreams Tonite by Alvvays
過去の恋愛と現在の距離を淡く描く、インディ・ポップの佳作。 - Crush by Ethel Cain
壊れやすい恋の記憶と自己疑問が同居する、濃密な感情表現の楽曲。
6. 矛盾と葛藤が共存するBeabadoobeeのリアリズム
Beabadoobeeの楽曲に通底しているのは、善悪や正誤で簡単には測れない人間の感情の複雑さだ。「Worth It」はその象徴ともいえる曲であり、「自分の選択を後悔している」と口にしながらも、どこかで「それでも、やっぱり意味はあったのかもしれない」と呟くような余韻を残している。
また、Beabadoobeeの表現力の核には「自分の感情を否定せず、丸ごと受け止める姿勢」がある。彼女はこの曲で、軽率な行動の裏にある孤独や不安をきちんと描き、それをジャッジせずに提示している。その誠実さが、「Worth It」をただの“若気の至りソング”以上の深みある作品へと昇華させているのだ。
「Worth It」は、何かを間違えた瞬間にこそ浮かび上がる自分の本当の姿を、じっと見つめるような曲である。そのまなざしの静けさが、逆にとても力強く響いてくる。Beabadoobeeは、過ちや後悔さえも美しく包み込むことができる稀有なアーティストなのかもしれない。
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