Who Was in My Room Last Night by Butthole Surfers(1993)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Who Was in My Room Last Night?」は、アメリカのアンダーグラウンド・ロックバンド、Butthole Surfers(バットホール・サーファーズ)が1993年にリリースしたアルバム『Independent Worm Saloon』の冒頭を飾る楽曲であり、幻覚、妄想、暴力、そして狂気が渦巻くカオティックなロックンロールの坩堝である。

タイトルの通り、「昨夜、自分の部屋にいたのは誰だったのか?」という問いがリフレインのように繰り返されるが、そこにあるのは明確な答えではなく、記憶が断絶した混乱状態、そして現実と幻覚の曖昧な境界である。この曲は、まるで何かに取り憑かれたような夜の後に目覚めた男が、現実の断片を探し求めて叫んでいるような構造を持ち、終始テンションは高く、攻撃的でありながらもどこかユーモラスである。

歌詞は決して理路整然とはしておらず、むしろサイケデリック・パンク的な狂気と曖昧な言葉の連なりによって、混沌そのものを聴覚化するような作りになっている。それがこの曲の最大の魅力であり、聴く者の感覚を刺激し続ける。

2. 歌詞のバックグラウンド

Butthole Surfersは1980年代初頭に結成され、ノイズロック、サイケデリック、アートパンクを混成させた前衛的な音楽性と、過激かつグロテスクなライブパフォーマンスでカルト的人気を誇ってきたバンドである。1993年、彼らは主要メジャーレーベルの一つであるキャピトル・レコードと契約し、プロデューサーに元リック・ルービン門下のジョン・ポール・ジョーンズ(元Led Zeppelinのベーシスト)を迎えて制作したのがこの『Independent Worm Saloon』である。

この楽曲は同アルバムの先行シングルとしてリリースされ、バンドとしては初の大規模な商業的展開に繋がった楽曲の一つである。また、MTVで放送されたアニメ『Beavis and Butt-Head』で取り上げられたり、ビデオゲーム『Guitar Hero II』に収録されたことでも知られており、バットホール・サーファーズがオルタナティヴ・ロックの表舞台に一瞬躍り出た象徴的トラックとも言える。

MV(ミュージックビデオ)は非常にシュールかつアニメーション主体で、悪夢的な映像が次々と展開され、幻覚体験をそのまま視覚化したような内容となっており、曲のテーマと完全にシンクロしている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

英語原文:
“I had a dream last night
The world was set on fire
And everywhere I ran
There wasn’t any water”

日本語訳:
「昨夜、夢を見たんだ
世界が燃えていた
どこに逃げても
水は一滴もなかった」

引用元:Genius – Who Was in My Room Last Night?

このパートでは、絶望と混乱、喉の渇きと逃避のイメージが交差する。まるで黙示録的な夢の中に取り残されたような描写であり、現実の苦悩と幻覚が一体化したような歌詞である。“夢”という枠を使いながらも、そこに現れるのは現実よりも現実味を帯びた心理的風景だ。

4. 歌詞の考察

「Who Was in My Room Last Night?」は、明確な筋書きを持たない、体験そのものの歌である。
物語というよりは、断片的な記憶のかけら、夢の走馬灯、そして破綻した認識が寄せ集められたパズルのように展開していく。

語り手は、自分の身に起きたことを把握できず、ただ混乱し、恐れ、興奮し、そして誰かが“自分の空間に侵入した”という漠然とした不安に取り憑かれている。この“誰か”とは、文字通りの他者であると同時に、自己の中に潜む暴力性や破壊衝動のメタファーとしても読み解ける。

また、サウンドもこの心理的状態と見事に連動している。爆発的なギターリフ、タイトでドライなドラム、そしてギブby・ヘインズの絶叫とも呟きともつかないヴォーカルが交錯し、“精神崩壊のためのロックンロール”という名にふさわしい構造となっている。

この曲の核心は、“正気を保っているつもりで、実は何もかもがおかしい”という感覚。
それこそが、Butthole Surfersの世界観の中心にある真理なのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • TV Eye” by The Stooges
     原初のパンク的衝動と狂気が炸裂する、イギー・ポップの代表作。

  • “Jesus Built My Hotrod” by Ministry
     産業的ノイズと宗教的妄想の混合物。破壊的テンションが共鳴する。

  • “Detachable Penis” by King Missile
     奇抜な語りとユーモアが交錯する、オルタナティヴな語り口の名作。

  • “I’m Insane” by Sonic Youth
     自己意識の崩壊とギターの騒乱が共存するアヴァン・ノイズ。

  • “Kill the Poor” by Dead Kennedys
     風刺と暴力性を融合させた、皮肉と怒りのパンクソング。

6. 狂気と笑いが重なる“オルタナの境界線”

「Who Was in My Room Last Night?」は、Butthole Surfersというバンドの特異性が最も聴き取りやすい形で提示された一曲であり、サイケデリア、パンク、ホラー、ユーモアが混沌と共存する“危険な遊戯”のような作品である。

それは音楽である前に、感覚のトリップであり、
物語である前に、経験の断片であり、
ロックである前に、自己崩壊のリチュアルである。

“昨夜、自分の部屋にいたのは誰だったのか?”

この問いには、きっと答えなどない。
だがその問いを何度も繰り返すことで、私たちは
自分自身の部屋の奥底に潜む何かと向き合わざるを得なくなる。

そしてそれこそが、
**Butthole Surfersの放つ“ノイズの中の真実”**なのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました