発売日: 1992年8月3日
ジャンル: オルタナティブロック、ポップロック、ニューウェーブ
アルバム全体の印象
「Welcome to Wherever You Are」は、INXSが従来のスタイルに新たな挑戦を加えた、実験的かつ野心的なアルバムだ。前作「X」での成功を受け、バンドはさらなる進化を模索。90年代初頭の音楽シーンの変化に対応しながらも、彼らのアイデンティティを保つことに成功している。本作ではエスニックな要素やオーケストラを取り入れるなど、サウンドスケープを大胆に広げ、各楽曲が多彩な個性を放っている。
プロデューサーにはINXSの長年のコラボレーターであるマーク・オピッツを起用し、全体の統一感を保ちながらも、各曲が独立したエネルギーを持つように構成されている。マイケル・ハッチェンスのボーカルは、これまで以上に感情的で多彩な表現力を見せ、リスナーの心を揺さぶる。
シングル「Not Enough Time」や「Baby Don’t Cry」はアルバムのハイライトだが、アルバム全体を通して一貫した実験性と創造性が感じられる。商業的にはバンドの最盛期と比べてやや控えめな成功に終わったが、現在ではその革新性が再評価され、INXSのディスコグラフィーの中でも特別な位置を占める作品となっている。
各曲解説
1. Questions
アルバムの幕開けを飾るこの楽曲は、エスニックなドラムと重厚なオーケストラアレンジが特徴的。静謐な雰囲気の中に緊張感が漂い、アルバムの実験的なトーンを予感させる一曲。
2. Heaven Sent
ギターリフが突き抜けるロックナンバーで、シンプルながら力強い構成が魅力的。ハッチェンスのボーカルは荒々しく、歌詞には恋愛の激しさと熱狂が込められている。ライブ映えするエネルギッシュな楽曲だ。
3. Communication
メランコリックなメロディと落ち着いたリズムが心地よい楽曲。歌詞は人間関係における疎外感を描いており、バンドの成熟を感じさせる内容だ。穏やかな曲調の中に、ハッチェンスの感情的な表現が際立つ。
4. Taste It
セクシーで挑発的な一曲。ミニマルなビートと官能的なリフが絡み合い、独特の緊張感を生み出している。歌詞には誘惑と欲望が描かれており、INXSの大胆な一面を象徴している楽曲だ。
5. Not Enough Time
アルバムの中心的な楽曲で、愛と時間の儚さをテーマにしたエモーショナルなバラード。ハッチェンスの歌声が圧倒的な存在感を放ち、ストリングスのアレンジがドラマチックな雰囲気を演出している。
6. All Around
エスニックなリズムセクションが特徴的で、楽曲全体に異国情緒が漂う。ポップでありながらも複雑なアレンジが施されており、アルバムの実験的な方向性を象徴している。
7. Baby Don’t Cry
オーケストラのダイナミックなアレンジが印象的なアンセム的ナンバー。シンプルなメッセージ性を持つ歌詞と壮大なサウンドが融合し、リスナーに力強い感動を与える一曲だ。
8. Beautiful Girl
優しいメロディとシンプルなアコースティックアレンジが魅力のバラード。歌詞には愛情と感謝が込められており、ハッチェンスの繊細なボーカルが胸を打つ。ファンの間でも人気の高い楽曲。
9. Wishing Well
スローなテンポと重厚なベースラインが楽曲全体を支えている。歌詞は願望や希望をテーマにしており、リフレインが耳に残る一曲。落ち着いたトーンの中にも深い感情が込められている。
10. Back on Line
ミッドテンポのロックナンバーで、ギターとドラムのリズムが心地よいグルーヴを生む。歌詞には再起への意志が込められており、アルバムの中でも前向きなエネルギーを感じさせる。
11. Strange Desire
タイトル通り、ミステリアスな雰囲気が漂う楽曲。ミニマルなアレンジとハッチェンスの感情的なボーカルが絶妙に絡み合い、アルバムの多様性を象徴している。
12. Men and Women
アルバムのラストを飾る楽曲は、穏やかで温かみのあるアレンジが印象的。歌詞は男女の関係性にフォーカスしており、親密さと普遍的なテーマが感じられる。静かな余韻を残してアルバムを締めくくる。
アルバム総評
「Welcome to Wherever You Are」は、INXSが音楽的に最も大胆な挑戦を行ったアルバムの一つであり、エスニックな要素やオーケストラを取り入れるなど、そのサウンドはこれまでの彼らとは一線を画している。一方で、バンドの核であるリズムセクションとマイケル・ハッチェンスのカリスマ的なボーカルは健在であり、新しい要素と融合することで、彼らの音楽にさらなる深みが加わっている。アルバムの売上は期待を下回ったものの、その芸術性は現在でも高く評価されている。INXSの進化を感じたいリスナーに、ぜひおすすめしたい一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「Kick」 by INXS
バンドの代表作であり、ダンスロックのエネルギーが詰まったアルバム。ポップでありながらエッジの効いた楽曲が揃っている。
「Automatic for the People」 by R.E.M.
叙情的でエモーショナルな作品。「Welcome to Wherever You Are」の静かで深い側面に共感するリスナーにおすすめ。
「So」 by Peter Gabriel
壮大なサウンドスケープとエスニックな要素が、「Welcome to Wherever You Are」と通じる。特に「In Your Eyes」などの楽曲は必聴。
「Ten Summoner’s Tales」 by Sting
ポップとワールドミュージックを融合した作品で、INXSの実験的な一面と共通点がある。
「Songs of Faith and Devotion」 by Depeche Mode
重厚で実験的なサウンドが特徴的なアルバム。INXSの挑戦的な側面を好むリスナーに響くはずだ。
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