Wasted Days by Cloud Nothings(2012)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Wasted Days」は、アメリカ・オハイオ州クリーブランド出身のロックバンド**Cloud Nothings(クラウド・ナッシングス)**が2012年にリリースしたアルバム『Attack on Memory』の収録曲であり、同作を象徴するアンセミックでカタルシスに満ちたトラックである。

この曲は、**“浪費された時間”と“変化の渇望”**というテーマを、9分にも及ぶ長尺で反復と爆発を繰り返しながら描き出す、怒りと焦燥と決意の歌である。
語り手は、自分の時間が意味もなく消費されていくことに苛立ち、それを打ち破ろうとするもがきの中にいる。「I thought I would be more than this(もっと違う自分になれると思ってた)」というリフレインは、若さの幻想が崩れる瞬間に吐き出される内面の叫びとして、リスナーの胸を強く打つ。

この曲のリリース当時、Cloud Nothingsはローファイなパワーポップから脱却し、よりエモーショナルでハードな音楽性へと進化していた。その中で「Wasted Days」は、彼らのサウンドと精神の“脱皮”を体現する決定的な瞬間となったのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

Cloud Nothingsは、フロントマンの**ディラン・バルディ(Dylan Baldi)**の宅録プロジェクトとして始まり、当初はチルウェイヴやインディーポップ的な軽快さを持っていた。しかし2012年の『Attack on Memory』では、スティーヴ・アルビニがエンジニアとして参加し、バンドはサウンドの根幹を大きく変化させる。

「Wasted Days」はその転換の象徴であり、突き刺すようなギター、荒れ狂うドラム、絶叫に近いヴォーカルなど、激情をすべてさらけ出したような演奏が特徴的。特に中盤のインストゥルメンタル・ブレイクでは、反復と混沌のなかに緊張が累積し、最終的に怒涛のリリックとともに爆発する。ここには、若さの行き場のなさと、自分自身を壊してでも打ち破ろうとする姿勢が刻まれている。

バンドのインタビューでも語られているように、このアルバムは「暗さと本気さ」を追求した作品であり、「Wasted Days」はその極北に位置する。歌詞は多くを語らず、繰り返されるフレーズの中に感情が焼き付けられている

3. 歌詞の抜粋と和訳

“I know / My life’s not gonna change”
わかってる 俺の人生なんて 変わりはしない

“And I’ll live / Through all these wasted days”
それでも生きる この無駄に過ぎていく日々の中で

“I thought / I would be more than this
もっと何かになれると思ってたんだ

“I thought / I would be more than this”
こんなはずじゃなかったと思ってた

“I thought / I would be more than this”
もっと 何かになれていたはずだった

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

「Wasted Days」の歌詞は非常にミニマルで、特に終盤に繰り返される「I thought I would be more than this」という一文は、自分に対する幻滅、社会に対する不信、そして変われない現実への怒りを一気に凝縮したようなフレーズである。

ここで歌われているのは、単なる“鬱屈”ではない。むしろ、「こんな毎日で終わりたくない」「このままの自分ではいたくない」という、強烈な意志と否定性の裏返しが潜んでいる。自分を否定することで、何かを変える力を得ようとする——そうした破壊的なまでの“自己再編の欲望”が、この楽曲の根底にある。

とりわけ印象的なのは、中盤の数分間に及ぶインスト・パートである。反復されるリフ、歪んでいく音像、そして次第にうねるようなノイズのなかに、言葉では表現しきれない感情のカタルシスが詰まっている。そこには、言葉が沈黙せざるを得ないほどの、内面の激流が流れている。

「変わらない」と知りながら「変えたい」と叫ぶ——その矛盾こそが青春の本質であり、「Wasted Days」はその**“破れた理想と、しがみつく願望”をリアルタイムで記録した一曲**だといえる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Not by Big Thief
     日常と内面の空洞を鋭くえぐる、静かで破壊的なインディーロック。
  • No Below by Speedy Ortiz
     内省と自己否定を、グランジ的なギターで包み込んだポスト・パンクの佳作。
  • Your Best American Girl by Mitski
     理想と現実の間で引き裂かれる女性像を、激しい情動とともに描く名バラード。
  • Heart of the City by Cloud Nothings(同アルバムより)
     アルバム全体のテンションを支える楽曲。攻撃性と旋律美がせめぎ合う1曲。
  • Never Meant by American Football
     若さと諦念、夢の残骸をメロウなアルペジオで語る、エモの金字塔。

6. 錯綜する焦燥と決意——クラウド・ナッシングスが切り開いた「怒りの新景色」

「Wasted Days」は、Cloud Nothingsの転機である『Attack on Memory』において、バンドが“ただの若者のバンド”ではなくなった瞬間を刻む決定的な楽曲である。

この曲には、ジャンルで言えばパンクやポスト・ハードコア、ノイズロック、そしてエモのエッセンスが混在している。だがそれ以上に重要なのは、感情の“手触り”が音になっているという点だ。怒りも焦りも、絶望も、すべてが生のまま、編集されずにリスナーの胸に叩きつけられる

そしてその核にあるのは、「こんな自分で終わりたくない」という切実な願いである。

“変わりたいのに変われない”——その怒りと祈りを、9分間に凝縮したこの曲は、青春という時間の残酷さと美しさを、決してドラマチックにではなく、あくまで“リアルタイムの渦”として描いている。

「Wasted Days」は、迷い、怒り、破壊、そして再生への欲望を音で描いた、現代ロックにおける純粋な魂の叫びである。青春を過ぎたあとでも、この曲は心をえぐる。そしてそれが、この楽曲が“永遠の若さ”を刻んだ証なのだ。

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