Warrior by Wishbone Ash(1972)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Warrior(ウォーリアー)」は、イギリスのツイン・リード・ギターバンド、Wishbone Ash(ウィッシュボーン・アッシュ)が1972年に発表した代表作『Argus』に収録された楽曲であり、戦士の誇りと苦悩、そして戦いの先にある精神的勝利を描いたロック叙事詩である。

歌詞には剣、名誉、敵、勝利といった“戦士の物語”を象徴するキーワードが並び、古代や中世の騎士道のような世界観が広がっている。しかし、この「戦士」は単なる武力の使い手ではなく、葛藤し、疲弊し、自己と向き合う存在として描かれており、より普遍的な“人間の戦い”――それは信念を貫くことや人生に立ち向かう姿勢――のメタファーとも言える。

Wishbone Ashがこのアルバムで構築した、時間と空間を超えた“神話的世界”の中核に位置する楽曲であり、そのテーマ性と音の壮麗さは、50年を経ても色褪せることがない。人生の岐路で、自分の内なる“戦士”を見つけようとするすべての人にとってのアンセムとも言えるだろう。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Argus』は、Wishbone Ashの最高傑作と称されるセカンド・アルバムであり、「Warrior」はその中心的な一曲である。このアルバム全体が中世的な世界観や戦士の比喩を通して、現代人の精神的戦い、アイデンティティの模索、自由と運命への問いを投げかけている。

「Warrior」は、そんなアルバムの精神性を最も端的に体現した楽曲のひとつである。作詞は主にベーシストのマーティン・ターナーによって行われたとされ、音楽面ではツイン・リード・ギターの荘厳な旋律、シンコペーションを効かせたドラマティックなリズム構成が、戦いの場面を彷彿とさせる。

そしてこの楽曲は、ライブでも重要な位置を占め続けてきた。とくに「Warrior」から続く「Throw Down the Sword」への流れは、“戦いとその終焉”というアルバム全体の主題を象徴的に表現する名場面として、ファンからも高く評価されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I have fought in the battle
私は戦場で戦ってきた

When all I wanted was peace
ただ、平穏を望んでいたのに

I have held up my banner
それでも私は旗を掲げた

To stand with those who believe
信念を持つ者たちと共に立つために

I have climbed the mountain
私は山を登った

And seen the other side
そしてその向こうを見た

I’ve been a warrior
私は、戦士だったのだ

And I’m not afraid to die
そして私は、死を恐れていない

(参照元:Lyrics.com – Warrior)

戦いとは暴力や征服ではなく、信念を守る行為であり、自己と対峙する儀式であることを、静かに語りかけるようなリリックが胸を打つ。

4. 歌詞の考察

「Warrior」に描かれている“戦士”は、剣や甲冑を身にまとったファンタジーの存在ではなく、**自らの信条のために立ち上がり、苦悩しながらも歩みを止めない“現代の戦士”**である。

冒頭の「I have fought in the battle / when all I wanted was peace」という一節は、理不尽な状況や避けられない対立に巻き込まれながらも、信念を捨てずに生きる人間の姿を象徴している。これは、当時の政治状況や個人主義が問われていた1970年代初頭の文脈にも合致するが、同時に今の時代にも通じる普遍的なテーマでもある。

また、「I’m not afraid to die(死を恐れない)」という一文には、“死”という終わりに対しても恐れず、むしろ己の生の意味を全うしようとする覚悟が滲んでいる。これは敗北を恐れないという意味ではなく、むしろ“生きることそのものがすでに戦いである”という、深い哲学的な覚悟を感じさせる。

Wishbone Ashは、ギターによってこのテーマを音に変換する。繊細なアルペジオから始まり、ドラマティックに展開する中盤、そして雄大に広がるツイン・リードのコール&レスポンスは、精神の高揚と緊張、そして静かな決意を音で描写している。言葉にできない心の動きが、ギターの旋律で語られるのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Throw Down the Sword by Wishbone Ash
     「Warrior」の続編ともいえる楽曲。戦いを終えた者の静かな悟りと再生。

  • The Prophet’s Song by Queen
     神話的世界観の中に現代的な恐怖と希望を織り込んだ、哲学的ロック絵巻。
  • And You and I by Yes
     高次元の意識と宇宙的調和を求めたプログレッシブ・ロックの叙情詩。

  • Thick as a Brick by Jethro Tull
     社会と個人の葛藤を“叙事詩”として描く、風刺と美の交錯点。

  • The Court of the Crimson King by King Crimson
     幻想と支配、精神の高揚と崩壊が同居する、ロック史に残る神話的作品。

6. “信念を生きる者は、誰もが戦士である”

「Warrior」は、Wishbone Ashの音楽的・思想的ヴィジョンが最も鮮やかに具現化された楽曲のひとつである。そしてこの曲が語っているのは、**現実の戦場ではなく、私たち一人ひとりの心の中にある“戦場”**についてだ。

信念を持つこと。孤独と向き合うこと。敗北を受け入れること。そして、誇りを持って死を受け入れる覚悟。

それらすべては、“戦士”であるための条件ではなく、“人として生きること”そのものなのだ。

だからこそ、「Warrior」はロックの歴史の中でただの勇ましい歌としてではなく、“人生の詩”として今なお深い共感を呼び起こす。そのギターは剣のように鋭くもあり、同時に傷を癒す祈りのようでもある。

この曲が、いつの時代にも必要とされる理由は明白である――
私たちは皆、今日もどこかで何かと戦っている。
その魂の中に、戦士の影を持ちながら。

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