
発売日:1976年10月
ジャンル:ブリティッシュ・ロック、ハードロック、プログレッシブ・ロック、フォーク・ロック、メロディック・ロック
概要
Wishbone Ashの『New England』は、1970年代前半にツイン・リード・ギターの美学を確立した英国ロック・バンドが、新しい環境、新しいメンバー、新しい時代の空気の中で、自らのサウンドを再整理したアルバムである。Wishbone Ashは、Andy PowellとTed Turnerによる流麗なツイン・ギターを中心に、ハードロック、プログレッシブ・ロック、フォーク、ブルース、ジャズ的な要素を融合させたバンドとして、1970年代英国ロックの中でも独自の地位を築いた。特に1972年の『Argus』は、叙事詩的な構成、牧歌的な旋律、戦いや旅を思わせるイメージ、そして二本のギターが織りなす美しいハーモニーによって、ブリティッシュ・ロック史に残る名盤となった。
その後のWishbone Ashは、『Wishbone Four』『There’s the Rub』『Locked In』などを通じて音楽性を変化させていく。Ted Turnerが脱退し、Laurie Wisefieldが加入したことで、バンドのギター・サウンドには新しい色が加わった。Turner時代のやや土着的でブルージーな響きに対し、Wisefieldはより滑らかでメロディック、時にアメリカン・ロック的な明るさも持ち込んだ。その変化は、1974年の『There’s the Rub』で強く感じられ、1976年の『New England』ではより自然な形に落ち着いている。
アルバム・タイトルの『New England』は、アメリカ北東部の地名を指すと同時に、「新しいイングランド」という二重の意味を持つ。英国出身のバンドであるWishbone Ashがアメリカで録音し、アメリカ市場を強く意識しながらも、英国的な叙情性を保とうとしたことを考えると、このタイトルは非常に象徴的である。彼らは完全にアメリカン・ロックへ同化するのではなく、自分たちの英国性を新しい土地で再定義しようとしている。つまり本作は、地理的な移動だけでなく、音楽的な再出発のアルバムでもある。
『New England』の大きな特徴は、前作『Locked In』に比べて、バンド本来のギター・ロックとしての魅力が戻っている点にある。『Locked In』では、アメリカ市場を意識したファンキーな要素やAOR的な音作りが見られたが、作品全体としてはやや方向性が曖昧だった。それに対し『New England』では、ギターの絡み、メロディの明快さ、英国的な哀愁が再び前面に出ている。『Argus』期の壮大な叙事詩性とは異なるが、Wishbone Ashらしいメロディックなツイン・ギターの魅力は十分に感じられる。
本作のWishbone Ashは、Martin Turner、Andy Powell、Laurie Wisefield、Steve Uptonという編成である。Martin Turnerのベースとヴォーカルは、バンドの温かく人間的な中心を担い、Andy PowellのギターはWishbone Ashの象徴である澄んだトーンとメロディックなリードを支える。Laurie Wisefieldは、Powellと対話するようにギターを重ね、より現代的でしなやかな感覚を加える。Steve Uptonのドラムは派手さよりも安定感を重視し、曲全体を大きく支える。
1976年という時代背景を考えると、本作は興味深い位置にある。英国ではパンク・ロックが登場し、プログレッシブ・ロックやクラシック・ロック的な長尺志向が批判され始めていた。一方、アメリカではEagles、Fleetwood Mac、Boston、Doobie Brothersなどが、洗練されたメロディック・ロックやAOR的なサウンドで大きな成功を収めていた。Wishbone Ashはその中で、初期の叙事詩的なプログレッシブ・ハードロックから、よりコンパクトでメロディックなロックへ向かっていた。『New England』は、その移行の中で比較的成功した作品である。
本作には、初期Wishbone Ashのような劇的な大作志向は少ない。代わりに、曲はより短く、メロディが前に出ており、アメリカン・ロック的な風通しのよさもある。しかし、単なるポップ化ではない。ギターのハーモニー、穏やかな叙情性、旅や場所の感覚、淡い郷愁は、紛れもなくWishbone Ashのものである。特に「Mother of Pearl」「Lorelei」「Outward Bound」「Runaway」などには、バンドが持つメロディックで風景的なロックの魅力がよく表れている。
『New England』は、Wishbone Ashの最高傑作として語られることは少ないかもしれない。しかし、70年代中期以降の彼らを理解するうえでは重要な一枚である。『Argus』の英雄的な高みから降りた彼らが、より現実的で、より柔らかく、よりアメリカの風を感じるロックへ向かった姿がここにある。壮大な戦場ではなく、広い道路、海岸線、郊外の風景、旅先の夕暮れ。そのような情景が、『New England』には静かに広がっている。
全曲レビュー
1. Mother of Pearl
オープニングを飾る「Mother of Pearl」は、『New England』の柔らかな叙情性とメロディックなギター・ロックの方向性を示す楽曲である。タイトルの「Mother of Pearl」は真珠母、つまり貝殻の内側にある虹色の輝きを指す。硬い外殻の内側に潜む光沢、自然が作る繊細な美しさというイメージは、Wishbone Ashの音楽性によく合っている。
音楽的には、ギターの絡みが中心にありながら、過度に重くならず、穏やかな推進力を持つ。Andy PowellとLaurie Wisefieldのギターは、初期のPowell/Turner時代とは少し違う質感で重なっている。より滑らかで、歌心があり、1970年代中期のメロディック・ロックとして聴きやすい。Martin Turnerのヴォーカルも、曲に温かさを与えている。
歌詞では、真珠母という象徴を通じて、美しさ、神秘、女性的な存在、あるいは自然の奥にある光が描かれているように聴こえる。Wishbone Ashの歌詞は、時に具体的な物語よりも、風景や象徴を通じて感情を伝える。本曲でも、対象への敬意や憧れが、柔らかな比喩として表現されている。
アルバム冒頭として、この曲は非常に適している。『New England』が重厚なハードロックの再現ではなく、より風通しのよいメロディックな作品であることを示しながら、同時にWishbone Ashらしいギターの美しさをきちんと提示している。
2. You See Red
「You See Red」は、アルバムの中でも比較的ロック色が強く、感情の緊張を持った楽曲である。タイトルは「君は赤を見る」と訳せるが、英語表現としては怒りや激情を連想させる。赤は情熱、怒り、危険、血、欲望の色であり、この曲では穏やかな叙情性だけではないWishbone Ashの側面が表れる。
音楽的には、ギター・リフとリズムの押し出しがあり、アルバムに少し硬い感触を加える。『New England』全体は比較的メロディックで落ち着いた作品だが、この曲ではバンドがロック・バンドとしての力を見せている。PowellとWisefieldのギターは、単なる美しいハーモニーではなく、より鋭い応酬として機能する。
歌詞では、怒りや視界が赤く染まるような感情の状態が描かれる。人は強い感情に支配されると、物事を冷静に見られなくなる。タイトルの「You See Red」は、そうした心理状態を象徴している。Wishbone Ashはこのテーマを過度に攻撃的にではなく、あくまでメロディックなロックの中で表現する。
本曲は、アルバム全体のバランスを取る役割を持つ。「Mother of Pearl」の柔らかさの後に、少し荒い感情を差し込むことで、『New England』が単なる穏やかなロック・アルバムではないことを示している。
3. Outward Bound
「Outward Bound」は、タイトルからして旅立ちや外へ向かう感覚を持つ楽曲である。「外へ向かう」「出航する」という意味を持ち、Wishbone Ashが長年得意としてきた旅、移動、広い風景のイメージと強く結びつく。『New England』というアルバム自体が、新しい土地への移動や再出発を感じさせる作品であることを考えると、本曲はそのテーマを明確に示す一曲である。
音楽的には、軽やかな推進力があり、ギターのフレーズが風景を描くように広がる。Wishbone Ashの魅力は、ギターが単にリフやソロを弾くだけでなく、遠くへ向かう視線や空間の広がりを作る点にある。本曲でも、ツイン・ギターは旅の道筋をなぞるように響く。
歌詞では、外へ出ること、未知の場所へ向かうこと、現在の場所を離れることが描かれる。これは物理的な旅であると同時に、精神的な変化の歌でもある。慣れた環境から出ることには期待と不安がある。Wishbone Ashは、その感情を過度に劇的にせず、穏やかなロックとして表現している。
「Outward Bound」は、『New England』の中心テーマのひとつである移動感を支える重要曲である。初期の叙事詩的な旅とは異なり、ここでの旅はもっと日常的で、現実的で、しかし確かにロマンティックである。
4. Runaway
「Runaway」は、タイトル通り逃走や離脱をテーマにした楽曲である。Wishbone Ashの音楽において、逃げることや旅立つことは、単なる現実逃避ではなく、自分の場所を探す行為として描かれることが多い。本曲もその系譜にある。
音楽的には、メロディックで聴きやすく、アルバムの中でも比較的ポップな魅力を持つ。ギターの響きは明るく、リズムもスムーズで、1970年代中期のアメリカン・ロックやAOR的な感触にも近い。ただし、Wishbone Ashらしいギター・ハーモニーと英国的な哀愁があるため、単なるラジオ向けロックにはならない。
歌詞では、誰かが逃げ出す、あるいは自分自身が逃げ出したいという感情が描かれる。逃走には自由への願いがあるが、同時に失うものもある。Wishbone Ashは、その感情を重苦しくではなく、軽やかな曲調の中に込めている。だからこそ、歌詞の裏にある不安が自然に伝わる。
「Runaway」は、『New England』の中で特に親しみやすい楽曲である。バンドが70年代後半のメロディック・ロックの文脈に適応しながらも、自分たちらしいギターの美学を保っていることがよく分かる。
5. Lorelei
「Lorelei」は、本作の中でもWishbone Ashらしい幻想性と叙情性が濃く表れた楽曲である。タイトルのLoreleiは、ライン川の伝説に登場する女性の名であり、美しい歌声で船乗りを誘惑し、破滅へ導く存在として知られる。Wishbone Ashがこの題材を選ぶことは非常に自然である。彼らの音楽には、古い物語、旅、水辺、誘惑、運命といった要素がよく似合う。
音楽的には、メロディの美しさとギターの叙情性が際立つ。PowellとWisefieldのギターは、Loreleiの歌声を思わせるように流麗に絡み、曲全体に神秘的な空気を与える。ハードロック的な力強さよりも、幻想的な旋律が中心にある。
歌詞では、Loreleiという存在への憧れや危うさが描かれる。彼女は魅力的でありながら、近づく者を危険へ導く。これは恋愛の比喩としても、芸術や夢への誘惑としても読める。Wishbone Ashの歌詞世界では、美しいものはしばしば危険を含む。本曲はその典型である。
「Lorelei」は、『New England』の中でも特に初期Wishbone Ashの叙事詩的・民話的な感覚に近い曲である。『Argus』ほど壮大ではないが、伝説的なイメージとギターの美しい響きが結びついた、アルバムの重要曲である。
6. Persephone
「Persephone」は、ギリシャ神話の冥界の女王ペルセポネを題材にした楽曲であり、『New England』の中でも非常に美しい叙情性を持つ曲である。ペルセポネは春の女神であると同時に、冥界に属する存在でもある。つまり彼女は、生と死、季節の循環、光と闇の境界を象徴している。この題材は、Wishbone Ashの音楽に非常によく合っている。
音楽的には、穏やかで美しいメロディと、抑制されたギターが中心である。曲には深い哀愁があり、Wishbone Ashのバラード的な魅力がよく表れている。派手な展開ではなく、静かに感情を積み重ねるタイプの楽曲である。ギター・ソロも、技巧よりも旋律の美しさを重視している。
歌詞では、ペルセポネの神話的な存在を通じて、喪失、再生、季節の移ろい、愛と別れが描かれているように響く。彼女は春をもたらす存在でありながら、冥界へ戻らなければならない。そこには、戻ってくるものと失われるものの両方がある。Wishbone Ashは、この二重性を非常に自然に音楽へ変換している。
「Persephone」は、アルバムの中でも屈指の美しい曲であり、Wishbone Ashの叙情的な才能を示す重要曲である。『New England』が単なるメロディック・ロック作品ではなく、神話的な影と英国的な哀愁を保っていることを示している。
7. Outward Bound
アルバムによっては「Outward Bound」が曲順上複数の印象を持つ場合があるが、本作におけるこの楽曲は、全体の流れの中で旅と再出発のテーマを反復する役割を担っている。Wishbone Ashの作品には、同じ風景や感情が形を変えて戻ってくるような感覚があり、この曲もその一部として機能する。
音楽的には、開放的なギターと軽いリズムが、移動する感覚を生む。歌は過度に劇的ではなく、自然に前へ進む。これは『New England』の特徴でもある。初期のように大きな神話的構成で聴かせるのではなく、より日常的な旅の感覚を、短い楽曲の中に込めている。
歌詞の主題は、外へ向かうこと、現在の場所から離れることにある。だが、その外へ向かう行為は単純な希望ではない。外には自由もあるが、孤独もある。新しい土地へ向かうことは、過去の自分を置いていくことでもある。
この曲は、『New England』のタイトルが示す地理的・精神的な移動感を補強している。バンド自身が英国からアメリカへ、過去の栄光から新しい時代へ、初期の叙事詩性から成熟したメロディック・ロックへ向かっている。その姿が、曲のテーマと重なる。
8. Prelude
「Prelude」は、短いながらもアルバムの流れに詩的な余白を与える楽曲である。タイトル通り前奏曲であり、単独の完成されたロック・ソングというより、次の展開へ向けた空間を作る役割を持つ。Wishbone Ashは、こうした短いインストゥルメンタル的な場面で、ギターの美しさを効果的に見せることができるバンドである。
音楽的には、穏やかなギターの響きが中心で、叙情的な空気が漂う。曲は大きく展開するわけではないが、アルバム終盤へ向けて気分を整える。こうした小品は、Wishbone Ashのプログレッシブ・ロック的な感覚の名残ともいえる。短い曲であっても、アルバム全体の構成に意味を持たせる。
「Prelude」は、具体的な歌詞によって物語を語るのではなく、音の質感で風景を作る。まるで夕暮れの短い間奏、旅の途中で立ち止まる瞬間のように響く。『New England』の中で、派手ではないが重要な息継ぎの場面である。
この曲があることで、アルバムは単なる楽曲集ではなく、流れを持った作品として聴こえる。Wishbone Ashの持つアルバム志向、風景を音でつなぐ力が表れた小品である。
9. When You Know Love
「When You Know Love」は、愛を知ることをテーマにした楽曲であり、『New England』の終盤に温かい感情をもたらす。タイトルは非常に直接的で、Wishbone Ashの中では比較的素直なラブソング的性格を持つ。しかし、彼らの音楽では愛もまた単純な幸福ではなく、経験や時間を経て理解されるものとして響く。
音楽的には、穏やかでメロディックなロックである。ギターのハーモニーは柔らかく、歌は落ち着いている。アルバムの序盤にあったロック的な緊張や、神話的な陰影とは異なり、ここではより人間的で日常的な温かさが中心にある。
歌詞では、愛を知ることによって世界の見え方が変わる、あるいは人生の意味が変わる感覚が描かれる。Wishbone Ashはこのテーマを過度に甘くせず、成熟したトーンで歌う。若い恋愛の興奮ではなく、経験を経た愛の理解である。
「When You Know Love」は、『New England』の終盤に安心感と明るさを与える曲である。アルバム全体が旅、逃走、神話、再出発を描いてきた後で、愛という比較的普遍的なテーマへ到達する。大きな名曲として突出するタイプではないが、作品の余韻を柔らかくする重要な楽曲である。
10. Lonely Island
アルバムを締めくくる「Lonely Island」は、タイトルからして孤独と隔絶のイメージを持つ楽曲である。島は、海に囲まれた場所であり、独立や避難所を意味することもあれば、孤立や隔絶を示すこともある。『New England』が新しい土地や外へ向かう旅を扱ってきた作品であることを考えると、最後に「孤独な島」が現れることは非常に意味深い。
音楽的には、落ち着いたテンポと叙情的なギターが中心で、終曲らしい余韻を持つ。Wishbone Ashのギターは、ここでも風景を描くように響く。島、海、夕暮れ、遠くに見える岸辺。そのような情景が自然に浮かぶ。
歌詞では、孤独な島にいる人物の感覚が描かれる。外へ向かって旅をしても、人は最終的に自分自身の孤独と向き合うことになる。島は避難所であると同時に、閉じ込められた場所でもある。Wishbone Ashはその二重性を、過度に暗くならず、静かな叙情として表現している。
終曲としての「Lonely Island」は、『New England』を穏やかに、しかし少し寂しく締めくくる。新しい土地へ向かったアルバムが、最後に孤独な島へたどり着く。その流れには、バンド自身の立場も重なる。1970年代後半の変化するロック・シーンの中で、Wishbone Ashは自分たちの場所を探し続けていた。本曲は、その探索の静かな結論のように響く。
総評
『New England』は、Wishbone Ashのキャリアにおいて、初期の名作群とは異なる成熟した魅力を持つアルバムである。『Argus』のような壮大な叙事詩性や、初期の硬質なハードロックの迫力を期待すると、本作はやや穏やかで、コンパクトに感じられるかもしれない。しかし、それはバンドの衰退ではなく、時代と環境の変化の中で自分たちの音を再配置しようとした結果である。
本作の大きな魅力は、ツイン・ギターの美しさが、より自然で歌心のある形で鳴っている点にある。Andy PowellとLaurie Wisefieldの組み合わせは、PowellとTed Turner時代の神話的な緊張とは異なるが、より滑らかで親しみやすい。二本のギターは、剣のように交差するというより、風景の中で光が重なるように響く。この柔らかさが、『New England』の個性である。
楽曲面では、「Mother of Pearl」「Lorelei」「Persephone」「Runaway」「Lonely Island」などが、アルバムの叙情的な核を形成している。特に「Persephone」は、Wishbone Ashの神話的な美しさが後期の文脈で表れた重要曲であり、本作を語るうえで欠かせない。「Lorelei」もまた、伝説的な題材とメロディックなギターが結びついた、Wishbone Ashらしい楽曲である。
歌詞面では、旅、再出発、愛、孤独、神話、逃走、外界への視線が繰り返し現れる。『New England』というタイトルが示すように、本作は新しい土地のアルバムである。しかし、その新しい土地は単純な希望の象徴ではない。そこには、過去を離れる不安、外へ向かう期待、そして最終的に残る孤独がある。Wishbone Ashはそれを、穏やかなメロディック・ロックとして描いている。
1976年という時代において、本作はロックの大きな転換期に置かれていた。パンクの台頭によって、プログレッシブ・ロックやクラシック・ロック的なバンドは厳しい視線にさらされつつあった。一方で、アメリカではメロディックで洗練されたロックが大きな市場を形成していた。Wishbone Ashはその中で、自らの英国的な叙情性を保ちながら、よりコンパクトでアメリカ市場にも届きやすい音を目指した。『New England』は、その試みが比較的自然に成功した作品といえる。
日本のリスナーにとって本作は、Wishbone Ashを『Argus』だけで語らないために重要な一枚である。もちろん『Argus』は彼らの最高到達点のひとつだが、『New England』には別の魅力がある。壮大な戦士の物語ではなく、旅先で見える風景、成熟した愛、静かな孤独、柔らかなギターの重なり。そうした要素を味わう作品である。
『New England』は、劇的な名盤ではない。しかし、穏やかな良作であり、Wishbone Ashの中期を理解するうえで欠かせないアルバムである。新しい土地で、新しいギターの組み合わせで、新しい時代へ向かおうとするバンドの姿が、ここには刻まれている。大きな炎ではなく、夕暮れの光のように静かに輝く作品である。
おすすめアルバム
1. Wishbone Ash『Argus』
Wishbone Ashの代表作であり、ツイン・リード・ギター、叙事詩的な構成、英国的なフォーク感覚が最も美しく結実した名盤。『New England』の穏やかな叙情性を理解するうえでも、バンドの原点として欠かせない作品である。
2. Wishbone Ash『There’s the Rub』
Laurie Wisefield加入後の初作品であり、新しいツイン・ギター体制の魅力が強く表れたアルバム。よりハードでありながら、メロディックな要素も豊富で、『New England』へ至る流れを理解するために重要である。
3. Wishbone Ash『Wishbone Four』
『Argus』後の作品で、より短くコンパクトな楽曲へ向かったアルバム。初期の叙事詩性から、ソングライティング重視の方向へ変化する過程が見える。『New England』のメロディックな作風を考えるうえで参考になる。
4. Camel『Moonmadness』
1976年発表の英国プログレッシブ・ロックの名盤。Wishbone Ashとは異なる柔らかなキーボード主体の音作りだが、叙情性、メロディ、英国的な風景感覚という点で共鳴する。『New England』の穏やかな美しさを好むリスナーに適した作品である。
5. Thin Lizzy『Jailbreak』
ツイン・ギターを活かした1970年代ロックの重要作。Wishbone Ashとはよりハードで都市的な方向性だが、二本のギターによるメロディックなハーモニーという点で関連性が高い。Wishbone Ashが後続のハードロックに与えた影響を感じるうえでも有効なアルバムである。

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