アルバムレビュー：Ultramega OK by Soundgarden

発売日: 1988年10月31日
ジャンル: グランジ、オルタナティブ・ロック

Soundgardenのデビューアルバム「Ultramega OK」は、シアトルのグランジシーンがまだ世界的な注目を浴びる前夜にリリースされた作品である。サブポップレーベルで活動を始めたバンドが、より広いフィールドに進出する足掛かりとしてSPVレコードから発売されたこのアルバムは、原石のような荒々しさと創造性が際立つ。Chris Cornellの情熱的で叫ぶようなボーカルと、Kim Thayilのギターリフが交差することで、重厚でありながらもダイナミックな音像を形成している。

アルバムタイトル「Ultramega OK」は、バンドが当初考えていたコンセプトに対する皮肉とも取れるが、むしろこの作品が「完璧ではないがとても特別」なエネルギーを放っていることを象徴している。プロデューサーのDrew Canuletteの手腕には限界があったものの、その荒削りな仕上がりが逆にSoundgardenらしさを引き立てている。アルバム全体を通して、ヘヴィメタルやサイケデリックロック、さらにはパンクの影響を感じさせる実験的な要素が散りばめられており、グランジというジャンルの形成を先駆けた重要な位置づけにある作品だ。

トラック解説

1. Flower
   アルバムの幕開けを飾るこの曲は、歪んだギターリフとCornellの力強いボーカルで、バンドのサウンドの核心を示している。歌詞では、欲望や虚栄心が人を堕落させる様子を暗示しており、「She’s a flower」と繰り返すフレーズが儚さと皮肉を感じさせる。Kim Thayilのギターソロがサイケデリックなエッセンスを加え、曲全体に妖艶さを添えている。
2. All Your Lies
   攻撃的なギターリフと疾走感のあるドラムが印象的なこの曲は、バンドのパンク的な側面を強調している。歌詞は欺瞞や偽善を批判するもので、音楽の激しさと相まってメッセージ性が際立つ。スラッシーなギターリフは、初期のSoundgardenらしい無骨なエネルギーを体現している。
3. 665
   アルバムの中でも実験的なインストゥルメンタル的楽曲。風変わりなギターエフェクトと不穏な雰囲気が漂い、サタン崇拝を皮肉るジョーク的な要素も含まれる。短いながらも異様な空気を作り出しており、バンドのユーモアと奇抜さを感じられる。
4. Beyond the Wheel
   ヘヴィで暗いムードが漂うこの曲では、Cornellのボーカルが圧倒的な存在感を放つ。曲の展開はドラマチックで、宗教的なテーマを取り入れつつ、死や運命に対する恐れを描いている。スローで重厚なリフが耳に残り、アルバムのハイライトの一つと言える。
5. 667
   「665」に続く短いインストゥルメンタル。この曲もまた、風変わりな音響効果が特徴で、バンドの遊び心が垣間見える。奇妙な音使いは、聞き手に不安感を与えると同時に、アルバム全体のフローに独特のリズムを生み出している。
6. Mood for Trouble
   中盤の山場とも言えるこの曲は、ダークでメランコリックなトーンが支配的。恋愛や内面の苦悩がテーマになっており、歌詞と音のコントラストが絶妙だ。特にサビの盛り上がりで見せるCornellのボーカルの感情表現は圧巻で、リスナーを一気に引き込む。
7. Circle of Power
   ベーシストのHiro Yamamotoがリードボーカルを務める異色のトラック。荒々しくパンク寄りのアプローチが強調されており、アルバム全体の中で異彩を放っている。攻撃的なエネルギーが炸裂しており、聴いているうちに無意識に体が動くような勢いがある。
8. He Didn’t
   シンプルな構造ながらも骨太なリフが主軸の楽曲。反復されるコーラスが耳に残り、サイケデリックな雰囲気を作り出している。ここでもSoundgardenの多面的なサウンドの魅力が感じられる。
9. Smokestack Lightning
   Howlin’ Wolfのブルースクラシックのカバー曲で、Soundgardenの解釈により原曲が持つ魂の叫びがさらに深まっている。Cornellの歌声とThayilのギターが有機的に絡み合い、ヘヴィブルースの新たな形を提示している。
10. Nazi Driver
    政治的なテーマを扱ったリリックと攻撃的なサウンドが特徴。シアトルパンクの影響を感じさせつつも、グランジ特有の泥臭さも同居している。音楽的にもメッセージ的にもパンチのある一曲。
11. Head Injury
    勢いのあるギターワークが際立つ、アルバムでも比較的ストレートなロックナンバー。Cornellのボーカルが荒々しく、攻撃的なエネルギーを引き出している。ライブ映えする曲としても人気が高い。
12. Incessant Mace
    壮大なスローサウンドで締めくくられるこの曲は、宗教的なイメージを喚起する歌詞が特徴。終末的なムードを持ちつつも、どこか救いを感じさせるコーラスが印象的だ。アルバムの終わりにふさわしい重量感と深みがある。

アルバム総評

「Ultramega OK」は、荒削りながらもバンドの可能性が随所に感じられるデビュー作である。グランジというジャンルを牽引する存在となるSoundgardenの原点が詰まっており、その多様性とエネルギーは色あせない。Cornellのカリスマ的なボーカルとThayilのギターワークのコンビネーションは、後の作品でさらに洗練されるが、このアルバムで既にその片鱗を感じ取ることができる。Soundgardenが持つサイケデリックな側面やパンク的エッジが際立つ、唯一無二の作品だ。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚

Bleach by Nirvana
荒々しいギターリフとシアトルの泥臭さが詰まった作品で、初期グランジのエネルギーを堪能できる。

Louder Than Love by Soundgarden
より洗練されたSoundgardenの進化が感じられる2作目。ヘヴィさとグランジの融合が見事。

Facelift by Alice in Chains
同時代のシアトルシーンから生まれた名作で、ヘヴィメタルとグランジの境界を押し広げた一枚。

Badmotorfinger by Soundgarden
バンドの成熟を示す代表作で、リフの鋭さとCornellの歌声が絶頂期を迎えたアルバム。

Dirt by Alice in Chains
暗く内省的なテーマを扱った名盤で、Soundgardenのファンにも刺さる深みがある。