
発売日:1992年7月20日
ジャンル:Indie Rock / Neo-Psychedelia / Madchester / Alternative Dance
概要
Turns into Stoneは、The Stone Rosesが1992年に発表したコンピレーション・アルバムであり、1987年から1990年にかけて発表されたシングルのA面・B面やアルバム未収録曲をまとめた作品である。したがって、1989年の傑作デビュー作The Stone Rosesに続く正規のスタジオ・アルバムではないが、バンドの最盛期を理解するうえでは極めて重要な位置を占める。特に「Elephant Stone」「Fools Gold」「One Love」「Something’s Burning」など、オリジナル・アルバムに収録されなかった主要曲が一堂に会しており、実質的にはデビュー期の“もう一枚のアルバム”として機能する。
この時期のStone Rosesは、Ian Brownの脱力した歌唱、John Squireの流麗なギター、Maniの旋律的かつファンク的なベース、Reniの卓越したドラムが完全に噛み合っていた。初期のポストパンク色を残す「The Hardest Thing in the World」から、サイケデリック・ポップの「Mersey Paradise」、そしてダンス・カルチャーとギター・ロックを融合した「Fools Gold」「One Love」へ至る流れは、バンドがわずか数年の間にどれほど急速に音楽語法を拡張したかを示す。
また、マンチェスターのクラブ文化とインディー・ロックが接近したMadchesterという現象を考える際にも、本作は重要である。デビュー作が60年代的ギター・ポップとサイケデリアの完成形だとすれば、Turns into Stoneはその外側で、よりファンク、ダブ、ダンス・ミュージックへ踏み込んだ実験を集めた作品である。編集盤でありながら、The Stone Rosesの発展過程をほぼ時系列で追えるため、彼らの創造的ピークを補完する一枚になっている。
全曲レビュー
1. Elephant Stone
1988年発表の重要シングルで、Stone Rosesが初期の陰鬱なポストパンクから、明るいサイケデリック・ギター・ポップへ抜け出す転換点を示す。John Squireのギターは細かなアルペジオと大きなコードを行き来し、Reniのドラムは単なるロックの拍子ではなく、踊れる弾力を作る。
タイトルの「象の石」という奇妙なイメージは、意味を一つに固定しないStone Rosesらしい言葉遣いでもある。Ian Brownの歌唱はすでに後年の脱力感を備え、演奏の激しさと対照を作る。デビュー作直前のバンドが、自分たち固有の音を獲得した瞬間を記録した曲である。
2. The Hardest Thing in the World
「世界で最も難しいこと」という大げさなタイトルに対して、内容は人間関係や感情の処理に関する私的な苦悩へ向かう。初期Stone Rosesらしい硬いギターとややニューウェイヴ的なリズムが残り、後年の滑らかなグルーヴとは異なる感触を持つ。
メロディにはすでにBrownとSquireのポップ志向が明確で、サビのフックも強い。荒削りな演奏と完成度の高い旋律が同居することで、初期の影を残しつつ次の時代へ進もうとする過渡期の魅力がある。
3. Going Down
タイトル通り、下降や沈下を思わせる曲だが、音楽はむしろ軽快で、ギター・ポップとしての親しみやすさが強い。暗い内容を明るいメロディへ乗せるという、Stone Rosesの重要な作曲法が表れている。
Squireのギターは曲の隙間へ細かな装飾を入れ、リズム隊も必要以上に重くならない。B面曲でありながら完成度が高く、当時のStone Rosesがシングルの裏側にも強い楽曲を残していたことを示す。
4. Mersey Paradise
マージー川をタイトルにした、土地への愛着と逃避願望が混ざるポップ・ソング。リヴァプールを思わせる地名を使いながら、実際には理想化された別世界への憧れとして機能する。
演奏は非常に明るく、ギターのきらめきと軽快なリズムが際立つ。Ian Brownの歌唱も柔らかく、デビュー作の「She Bangs the Drums」などに近い青春的な高揚がある。B面曲の中でも特に人気が高いのは、この即効性のあるメロディゆえだろう。
5. Standing Here
タイトルの「ここに立っている」という単純な言葉から、待つこと、動けないこと、誰かとの距離を描く。曲は比較的穏やかで、Stone Rosesの繊細な側面が前に出る。
Squireのギターは主張しすぎず、Brownのヴォーカルの周囲に淡い色を加える。リズム隊もグルーヴを維持しながら抑制されており、バンド全体が余白を作る能力に長けていたことが分かる。派手な代表曲とは異なるが、彼らのアンサンブルの成熟がよく見える一曲である。
6. Where Angels Play
天使が遊ぶ場所という幻想的なタイトルを持つ、サイケデリック色の強い曲。ギターの残響と浮遊するメロディによって、現実の風景から少し離れた夢のような空間を作る。
Brownのヴォーカルはほとんど力を入れず、言葉を空気に漂わせる。Squireのギターもリフを押し出すより、音色と残響で曲を構築する。60年代サイケデリアへの憧れを、80年代末のインディー・ロックとして再解釈した好例である。
7. Simone
短いインストゥルメンタル/実験的な小品として、アルバム前半のギター・ポップから後半のダンス志向へ橋を架ける。明確な歌詞やサビを持たず、音響と反復を中心に進む。
この種の曲が存在することで、Stone Rosesが単にメロディックなギター・バンドではなく、スタジオやリズムの実験にも関心を持っていたことが分かる。後の「Fools Gold」へ向かう感覚を予告するような位置づけである。
8. Fools Gold
The Stone Rosesの音楽史的な重要性を決定づけた曲の一つ。ファンク的なベース、ブレイクビーツを思わせるReniのドラム、ワウを効かせたギターが長時間反復され、従来のインディー・ロックのヴァース/コーラス構成から大胆に離れる。
歌詞は欲望や裏切りを思わせるが、曲の中心は言葉よりグルーヴにある。ManiのベースとReniのドラムが作る循環の上で、Squireはギターを和音楽器ではなくリズムとノイズの装置として使う。ロック・バンドがクラブ・ミュージックの反復原理を本格的に取り込んだ代表例であり、Madchesterの象徴的な録音である。
9. What the World Is Waiting For
「Fools Gold」と対をなすシングル曲で、こちらはより伝統的なギター・ロックの構造を持つ。タイトルには「世界が待っているもの」という誇張された自信があり、当時のStone Rosesが持っていた無敵感がよく表れている。
サビは大きく、ギターも明快なフックを作る。一方で、リズムにはすでにダンス的な柔らかさがあり、初期の硬いポストパンクからは大きく離れている。「Fools Gold」と並べることで、同じ時期の彼らがポップ・ソングと長尺グルーヴを両立していたことが分かる。
10. One Love
1990年発表のシングルで、「Fools Gold」のダンス志向をさらに大規模なアンセムへ発展させた曲。タイトルは普遍的な連帯を思わせるが、歌詞は単純な平和主義の宣言ではなく、曖昧で象徴的な言葉を使って共同体的な高揚を作る。
リズムはファンク的で、ギターは空間的に配置され、サビでは巨大な一体感が生まれる。バンド・サウンドとクラブ文化の接続が最も自然になった時期の録音であり、Stone Rosesが次のアルバムへ向けてどの方向へ進む可能性があったかを示す。
11. Something’s Burning
アルバム最後を飾る長尺曲で、「One Love」と同時期の録音ながら、こちらはより暗く、ダブやファンクの影響が強い。ベースとドラムが低い位置で反復し、ギターは主旋律より音響的な効果を担う。
タイトルの「何かが燃えている」というイメージには、危機、欲望、変化の予感がある。Brownの声も遠く、バンド全体が一つの暗いグルーヴへ沈んでいく。初期の明るいギター・ポップから始まった本作を、最も重く実験的な地点で終えることで、Stone Rosesの短期間の進化を鮮明に印象づける。
総評
Turns into Stoneの最大の価値は、The Stone Rosesが1989年のデビュー・アルバムだけでは説明できないバンドだったことを示す点にある。The Stone Rosesは確かにギター・ポップ、サイケデリア、インディー・ロックの完成度という点で特別な作品だが、その周辺でバンドはさらに多くの実験を行っていた。本作はその“外側”をまとめることで、彼らの創造的な射程を補完する。
前半では、まだポストパンクの硬さを残しながら、次第に明るいサイケデリック・ポップへ変化していく。「Elephant Stone」「Mersey Paradise」「Where Angels Play」は、Squireのギターが単なるロックのリフではなく、色彩と空間を作る楽器へ変わっていく過程をよく示している。Brownの歌唱も、初期の力の入った声から、後年の無重力的なスタイルへ移行している。
後半では、変化の中心がリズムへ移る。「Fools Gold」「One Love」「Something’s Burning」において、The Stone Rosesはもはやギター中心のインディー・バンドではない。ManiのベースとReniのドラムが曲の核となり、Squireのギターはその周囲へ断片的に入る。ロックのコード進行を展開させるのではなく、一つのグルーヴを長時間維持する発想は、ハウスやヒップホップ、ファンクの感覚に近い。
特にReniの存在は重要である。彼のドラムは単に正確なのではなく、ハイハット、スネア、キックの間に細かな揺れを作り、機械的なダンス・ビートとは異なる生身のグルーヴを生む。Maniのベースもルート音を支えるだけでなく旋律を持ち、二人だけで曲の大部分を成立させる。Stone Rosesの革新性はSquireのギターだけではなく、このリズム・セクションにあったことが本作では特によく分かる。
編集盤ゆえの弱点もある。制作時期や目的の異なるシングルとB面曲をまとめているため、スタジオ・アルバムのような統一された物語や音響設計はない。前半と後半ではサウンドも大きく異なり、曲によって録音の質感にも差がある。しかし、その不均一さが逆にバンドの進化を時系列で見せる。
歴史的には、本作後のStone Rosesはレーベルとの法的紛争などによって長い停滞期へ入り、次の正規アルバムSecond Comingは1994年まで待たなければならなかった。そのため「Fools Gold」「One Love」期に見えていた、サイケデリック・ギターとダンス・グルーヴの融合がどこまで発展し得たのかは、完全には分からないまま残った。
その意味でTurns into Stoneは、単なるB面集以上に重要である。1987年から1990年の数年間に、荒いポストパンク・バンドがサイケデリック・ポップの完成形へ進み、さらにダンス・ロックの未来まで切り開く。その急速な変化が一枚の中に圧縮されている。The Stone Rosesの黄金期を理解するなら、デビュー作と並べて聴くことで初めて全体像が見えてくる作品である。
おすすめアルバム
The Stone Roses by The Stone Roses
1989年発表の正式なデビュー・アルバム。「I Wanna Be Adored」「She Bangs the Drums」「I Am the Resurrection」などを収録し、ギター・ポップとサイケデリアを完成された形で提示した。Turns into Stoneは事実上、この作品の外側にあるもう一つの黄金期を補完する。
Second Coming by The Stone Roses
1994年発表の2作目。長い空白を経て、ファンクやダンスよりブルース/ハードロックへ大きく傾いた作品。Turns into Stone終盤の方向性と比較すると、バンドが90年代前半にどれほど大きく変化したかが分かる。
Bummed by Happy Mondays
1988年発表。ポストパンクの荒さとファンク、クラブ・カルチャーを結びつけ、Madchester形成の土台となった作品。Fools Gold以降のStone Rosesが参入した「踊れるインディー・ロック」の同時代的背景を理解できる。
Pills ’n’ Thrills and Bellyaches by Happy Mondays
1990年発表。ハウス、ファンク、ロックをさらに自然に統合し、Madchesterを世界的なポップ現象へ押し上げた。One Love期のStone Rosesと並べると、マンチェスター勢がロックとダンスを異なる方法で融合していたことが見える。
Screamadelica by Primal Scream
1991年発表。ロック・バンドの楽曲をハウス、ダブ、ゴスペル、サイケデリアによって再構成した作品。Fools GoldでStone Rosesが示したギター・ロックとクラブ文化の接続を、さらにアルバム全体へ拡張した流れとして位置づけられる。

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