発売日: 1969年5月23日
ジャンル: ロック、ロックオペラ
The Whoの4作目のアルバムTommyは、音楽史上初の「ロックオペラ」として知られる革新的な作品だ。ピート・タウンゼントの壮大なビジョンに基づき、耳が聞こえず目が見えない少年トミーの物語を描いたコンセプトアルバムで、ロックという枠組みを超えた芸術作品として評価されている。このアルバムは、バンドの演奏力とタウンゼントの作詞・作曲能力が見事に融合し、リスナーを深い音楽的物語へと誘う。
アルバムのテーマは、孤立、救済、宗教、社会批判といった普遍的な問題を扱っており、その大胆な試みにより、1960年代後半のカウンターカルチャーにおける象徴的な作品となった。2枚組の大作ながらも、各曲はメロディとストーリーの両方でリスナーを惹きつける力を持つ。
トラック解説
1. Overture
アルバムのオープニングを飾るインストゥルメンタル曲。トミーのテーマを提示し、アルバム全体の物語の土台を築く。キース・ムーンのドラムとタウンゼントのギターが躍動感を生み出し、壮大な序章となっている。
2. It’s a Boy
物語の導入となる短いトラックで、トミーが誕生する瞬間を描写している。コーラスが物語性を強調し、アルバムのテーマを簡潔に提示する。
3. 1921
親の罪とその影響を描いた楽曲で、暗い歌詞が明るいメロディと対照的に表現されている。タウンゼントのストーリーテリングの才能が光る一曲。
4. Amazing Journey
トミーの内的世界を表現したトラックで、浮遊感のあるギターリフとダルトリーの感情的なボーカルが特徴的。歌詞には精神的な旅路が描かれている。
5. Sparks
インストゥルメンタル曲で、ギターとリズムセクションが織り成すダイナミックな構成が聴きどころ。物語の中でトミーの内的な覚醒を暗示している。
6. Eyesight to the Blind (The Hawker)
ソニー・ボーイ・ウィリアムソンのブルース曲をカバーし、アルバムの物語に組み込んだトラック。バンドのブルースルーツが感じられる。
7. Christmas
トミーの障害とその家族の葛藤を描いた楽曲で、キリスト教的なテーマが取り入れられている。アップテンポのメロディが、暗いテーマと対照的に描かれる。
8. Cousin Kevin
トミーのいじめを描いた曲で、ブラックユーモアが効いた歌詞が印象的。ジョン・エントウィッスルの重厚なベースが楽曲を支えている。
9. The Acid Queen
トミーを「治療」するための異様な試みを描いた楽曲。タウンゼントの歪んだギターサウンドとダルトリーの迫力あるボーカルが特徴。
10. Do You Think It’s Alright?
短いインタールード的な曲で、物語の進行を助ける。親の無責任さがテーマ。
11. Fiddle About
エントウィッスルが作曲した曲で、トミーが叔父に虐待されるシーンを描写。皮肉めいたメロディが不気味さを増幅する。
12. Pinball Wizard
アルバムのハイライトであり、The Whoの代表曲。トミーがピンボールの天才であることが描かれ、タウンゼントの力強いアコースティックギターとエネルギッシュなバンドの演奏が印象的。
13. There’s a Doctor
トミーを治療しようとする両親の希望を描いた短い曲で、物語の転換点となる。
14. Go to the Mirror!
トミーが鏡の中で自分と向き合うシーンを描写。エネルギッシュな演奏と感情的なボーカルが楽曲を際立たせる。
15. Tommy Can You Hear Me?
シンプルなメロディが特徴の短いトラックで、トミーの感情的な孤立が表現されている。
16. Smash the Mirror
トミーの母が怒りに任せて鏡を壊すシーンを描写。緊張感のあるサウンドが展開する。
17. Sensation
トミーが「目覚め」た後の喜びを描いた楽曲で、解放感のあるメロディが印象的。
18. Miracle Cure
短いインタールードで、トミーが治療されたことを祝う。
19. Sally Simpson
トミーがカリスマ的な存在として崇拝される様子を描写した楽曲。歌詞にはアイロニカルな視点が込められている。
20. I’m Free
トミーの解放をテーマにした楽曲で、爽快感のあるギターリフが際立つ。アルバム全体を通して重要なモチーフとなる。
21. Welcome
トミーが「信者たち」を歓迎するシーンを描写。広がりのあるサウンドが印象的。
22. Tommy’s Holiday Camp
エントウィッスルが作曲した曲で、風刺的な歌詞がアルバムにユーモアを加えている。
23. We’re Not Gonna Take It
アルバムのフィナーレを飾る壮大な楽曲。信者たちがトミーに反旗を翻す様子が描かれ、「See Me, Feel Me」のリフレインが感動的な余韻を残す。
アルバム総評
Tommyは、音楽的にも物語的にも、ロックが持つ可能性を広げた画期的な作品である。タウンゼントの卓越したソングライティングと、The Whoのメンバーそれぞれのパフォーマンスが一体となり、壮大なコンセプトアルバムを完成させた。ピンボールを題材とした象徴的な楽曲「Pinball Wizard」を含む多様な楽曲群が、アルバム全体にわたってリスナーを惹きつける。
宗教や社会的問題を扱いながらも、普遍的なテーマである孤独や救済が物語の中心に据えられており、深い感動を与える作品だ。リリースから半世紀以上を経ても、Tommyはロック史に残る傑作として語り継がれている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Pink Floyd – The Wall
コンセプトアルバムの金字塔であり、孤独や疎外感といったテーマがTommyに通じる。
Genesis – The Lamb Lies Down on Broadway
壮大なストーリーテリングと実験的なサウンドがTommyと共鳴するプログレッシブロックの名作。
David Bowie – The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars
キャラクタードリブンのコンセプトアルバムで、物語性の強いロック作品。
The Beatles – Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
ロックアルバムの新しい形を提示した作品で、Tommyの革新性に通じる。
Queen – A Night at the Opera
多様な楽曲と劇的な構成がTommyのドラマチックな要素を彷彿とさせる。
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