アルバムレビュー:WHO by The Who

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2019年12月6日

ジャンル:ロック、クラシック・ロック、アート・ロック、ハードロック、ブリティッシュ・ロック

概要

The Whoの『WHO』は、2019年に発表された通算12作目のスタジオ・アルバムであり、2006年の『Endless Wire』以来13年ぶりとなる新作である。The Whoというバンドは、1960年代のモッズ文化、ロック・オペラ、破壊的なライブ・パフォーマンス、若者の疎外感、精神的な混乱、社会への反抗を、ロックの言語へ変換した存在である。『My Generation』『The Who Sell Out』『Tommy』『Who’s Next』『Quadrophenia』といった作品によって、彼らはロックが単なるシングル中心の娯楽ではなく、大きな物語、思想、音響的スケールを持ち得ることを証明した。

『WHO』は、そうした巨大な歴史を持つバンドが、老年期に自分たちの名前そのものをタイトルに掲げて作った作品である。タイトルが『WHO』であることは、非常に象徴的だ。これは単にバンド名をそのまま使っただけではない。長いキャリアを経て、いまなお「The Whoとは何者なのか」「この時代にThe Whoが新作を出す意味は何か」という問いを含んでいる。かつて「My Generation」で若者の怒りを叫んだバンドが、半世紀以上を経て、自分たち自身の老い、過去、政治、音楽業界、社会の混乱を見つめ直している。

本作は、Roger DaltreyとPete Townshendを中心に制作された。Keith Moonは1978年に、John Entwistleは2002年に亡くなっており、オリジナル4人編成のThe Whoはすでに存在しない。しかし、Daltreyの強靭なヴォーカルとTownshendの鋭い作曲・ギター・ワークが残る限り、The Whoの核はなお保たれている。『WHO』は、失われたメンバーの不在を完全に埋めようとするアルバムではない。むしろ、その不在を抱えたまま、いまのThe Whoとして鳴ることを選んだ作品である。

音楽的には、本作はThe Whoの過去の要素を広く参照している。鋭いギター・ストローク、シンセサイザーの導入、パワフルなヴォーカル、ロック・オペラ的な劇的展開、アコースティックな内省、英国的な皮肉、社会批評が並ぶ。『Who’s Next』期のシンセとギターの融合、『Quadrophenia』的な壮大さ、Townshendのソロ作品に近い内省、そしてDaltreyの肉体的な歌唱が混ざり合っている。ただし、本作は過去の名盤をそのまま再現する作品ではない。むしろ、過去のThe Whoの語法を使いながら、老いた身体と現代社会の中で何を歌えるのかを問うアルバムである。

歌詞の面では、自己言及が非常に強い。「All This Music Must Fade」では音楽そのものの寿命や評価の変化が歌われ、「I Don’t Wanna Get Wise」では年齢を重ねることへの皮肉がある。「Rockin’ in Rage」では怒りを持ち続けることの意味が問われ、「Street Song」では社会の片隅で生きる人々への視線が示される。The Whoは若い頃から、個人の内面と社会の圧力を結びつけるバンドだったが、本作でもその姿勢は続いている。ただし、ここでの怒りは若者の爆発ではなく、長く生きた者の苦い観察である。

Roger Daltreyの歌唱は、本作の大きな柱である。彼の声は若い頃のような荒々しい叫びだけではないが、年齢を重ねたことで、むしろ説得力を増した部分もある。彼の歌には、肉体の衰えを拒むような強さと、時間の経過を受け入れた重みが同時にある。Townshendの楽曲は時に非常に自己分析的で複雑だが、Daltreyが歌うことで、より直接的で身体的なロック・ソングになる。この二人の関係性こそが、後期The Whoの最大の魅力である。

日本のリスナーにとって『WHO』は、The Whoの長大なキャリアを知ったうえで聴くと非常に興味深い作品である。『Tommy』や『Who’s Next』のような歴史的な革新性を期待すると、本作はもちろん別の種類のアルバムである。しかし、70代を迎えたロック・バンドが、自分たちの過去を利用しながらも単なる懐古に留まらず、現在の社会と自分たちの老いに向き合った作品として聴けば、その価値は大きい。『WHO』は、若さの神話を作ったバンドが、老いの中でなおロックすることの意味を問うアルバムである。

全曲レビュー

1. All This Music Must Fade

オープニング曲「All This Music Must Fade」は、アルバムの自己言及的な性格を端的に示す楽曲である。タイトルは「この音楽もすべて消えていく」という意味を持ち、ポップ・ミュージックの流行、評価、記憶、そしてアーティスト自身の有限性を皮肉に見つめている。The Whoほどの歴史を持つバンドがこの言葉でアルバムを始めることには、大きな意味がある。

サウンドは力強く、ギター・ロックとして非常に明快である。Pete Townshendらしいストローク感のあるギターが曲を引っ張り、Roger Daltreyの声が堂々と入ってくる。曲の勢いは、老いたバンドの消極的な回顧ではなく、むしろ「どうせ消えるなら、いま鳴らす」という開き直りを感じさせる。

歌詞では、どんな音楽もいつかは古くなり、忘れられ、別の世代に置き換えられるという認識が示される。これは自嘲であると同時に、ポップ・ミュージックの本質を突いた言葉でもある。The Whoはかつて若者の代弁者だったが、その音楽もまた時間の中で歴史化された。本曲は、その事実を嘆くのではなく、皮肉とエネルギーをもって受け止めている。

「All This Music Must Fade」は、本作の幕開けとして非常に優れている。過去の偉大さを誇示するのではなく、すべては消えるという認識から始める。そのうえでなお大きな音を鳴らすところに、The Whoらしい反骨がある。

2. Ball and Chain

「Ball and Chain」は、もともとPete Townshendのソロ名義で発表されていた「Guantanamo」をもとにした楽曲であり、政治的なテーマを強く持つ。タイトルの「Ball and Chain」は、囚人の足につけられる鉄球と鎖を意味し、束縛、収監、国家暴力、自由の喪失を連想させる。

サウンドは重く、ブルージーなロックの感触がある。Daltreyの歌唱は非常に力強く、怒りと苦味を持って響く。ギターは粘りがあり、曲全体には抑圧された力が漂う。The Whoの政治性は、若い頃の直接的な反抗とは違い、ここでは国家や制度への長年の不信として表れている。

歌詞では、拘束される人間、見えない場所で行われる権力の暴力、自由を掲げる国家の矛盾が描かれる。The Whoはもともと、個人がシステムに押しつぶされる感覚を歌ってきたバンドである。「Ball and Chain」は、そのテーマを21世紀の政治状況へ接続している。

この曲は、『WHO』の中でも特に社会的な重みを持つ。単なるクラシック・ロックの再演ではなく、現代の権力構造に対する批判を含んだ楽曲であり、The Whoがなお政治的な怒りを失っていないことを示している。

3. I Don’t Wanna Get Wise

「I Don’t Wanna Get Wise」は、老いと知恵をめぐる皮肉な楽曲である。タイトルは「賢くなりたくない」という意味で、年齢を重ねることによって人が本当に賢くなるのか、あるいは単に諦めや疲労を覚えるだけなのかを問うている。

サウンドは明るく、メロディアスで、The Whoらしい軽快さがある。Daltreyの歌唱にはユーモアがあり、Townshendの歌詞の皮肉をうまく身体化している。曲調は深刻になりすぎず、むしろ明るいロック・ソングとして進むため、テーマの苦味がより効果的に響く。

歌詞では、若い頃の無知や無謀さ、年齢を重ねて得たはずの知恵への疑いが描かれる。多くの人は、年を取れば自然に成熟すると考える。しかし、実際には人は同じ失敗を繰り返し、若い頃の衝動を完全には捨てられない。この曲は、老いを美化せず、むしろ「賢くなること」への抵抗として歌っている。

「I Don’t Wanna Get Wise」は、『WHO』の老年期ロック・アルバムとしての核心に近い曲である。若さに戻れないことを知りながら、成熟したふりにも違和感を覚える。その矛盾が、The Whoらしいユーモアと力強さで表現されている。

4. Detour

「Detour」は、The Whoの前身バンド名であるThe Detoursを想起させるタイトルを持つ楽曲であり、バンドの歴史を振り返る自己言及的な曲である。タイトルは「回り道」を意味し、The Whoの長いキャリアそのものを示しているようにも響く。

サウンドは明るく、初期ロックンロールやモッズ期の勢いを思わせる軽快さがある。曲はコンパクトで、過度に大仰にならず、バンドの原点へ戻るような感触を持つ。The Whoが巨大なロック・オペラやスタジアム・ロックの存在である以前に、若いロンドンのバンドだったことを思い出させる。

歌詞では、バンドの歩んできた道、予想外の展開、回り道の連続が描かれる。The Whoの歴史は、成功だけでなく、対立、破壊、死、再結成、沈黙、再始動の連続だった。その道は直線ではなかった。「Detour」という言葉は、そのすべてを軽やかに受け止める。

「Detour」は、本作の中で特に過去への視線が明るく表れた楽曲である。懐かしさはあるが、湿っぽくはない。むしろ、自分たちの原点を少し笑いながら振り返るような曲であり、アルバムに親しみやすさを与えている。

5. Beads on One String

「Beads on One String」は、本作の中でも特にメッセージ性の強い楽曲である。タイトルは「一本の糸に通されたビーズ」を意味し、異なる人々が同じ線上につながっているというイメージを持つ。分断や対立が強まる現代社会に対して、共同性や連帯を示す曲として聴ける。

サウンドは比較的穏やかで、祈りにも近い雰囲気がある。The Whoの激しいロックというより、Townshendの精神的・人道的な側面が強く出ている。Daltreyの歌も、ここでは力強さよりも包容力を持つ。

歌詞では、人間がそれぞれ異なる存在でありながら、同じ一本の糸に通されたビーズのように関係しているという感覚が描かれる。これは理想主義的なメッセージだが、The Whoが歌うことで単なるきれいごとにはならない。彼らは長いキャリアの中で、分裂、対立、死を経験してきたバンドだからである。そのバンドがつながりを歌うことには重みがある。

「Beads on One String」は、『WHO』の中で最も静かに希望を示す楽曲である。怒りや皮肉が多い本作の中で、世界をつなぎ直そうとする意志が感じられる重要曲である。

6. Hero Ground Zero

「Hero Ground Zero」は、The Whoらしい劇的なスケールを持つ楽曲である。タイトルには「英雄」と「グラウンド・ゼロ」という言葉が並び、現代の破壊、メディア化された英雄像、災害や戦争の後に作られる物語を連想させる。

サウンドは大きく、ロック・オペラ的な広がりを感じさせる。シンセサイザーやギターの重なりが、The Whoの壮大な側面を呼び起こす。Daltreyの声は、このようなドラマティックな曲で特に強く響く。彼は言葉を単なる情報ではなく、劇的な宣言として届けることができるシンガーである。

歌詞では、英雄とされる人物、破壊の中心、世間が求める物語への疑いが描かれているように響く。現代社会では、危機や惨事の後に、すぐ英雄や悪役が作られる。その物語は人々に分かりやすさを与えるが、現実の複雑さを隠すこともある。この曲は、その構造に対する疑問を含んでいる。

「Hero Ground Zero」は、本作の中で最も大きなThe Whoらしさを感じさせる楽曲のひとつである。ロック・オペラ的なドラマと現代的な不安が結びつき、アルバムの中盤に強い存在感を放っている。

7. Street Song

「Street Song」は、社会の中で声を持たない人々、都市の路上、日常の片隅にいる人間たちへの視線を感じさせる楽曲である。タイトルは非常にシンプルだが、The Whoの歴史を考えると重要である。彼らは常に、中心から外れた人間、若者、疎外された人物を歌ってきたバンドだった。

サウンドはミドルテンポで、歌をしっかり聴かせる構成になっている。ギターとリズムは過度に派手ではなく、Daltreyのヴォーカルが言葉を前に押し出す。曲には、都市の現実を観察するような落ち着きがある。

歌詞では、路上にいる人々、社会の見えない部分で生きる存在が描かれる。The Whoの初期作品では、若者の怒りや混乱が中心だったが、ここではより広い社会的な視線がある。年齢を重ねたTownshendが、社会の片隅にある声を拾い上げようとしている。

「Street Song」は、『WHO』の中で社会的な観察眼を担う楽曲である。大きな政治的主張ではなく、街にいる人々の姿から現代を見つめる。The Whoの人間への関心が、後期の形で表れている。

8. I’ll Be Back

「I’ll Be Back」は、Pete Townshendがリード・ヴォーカルを取る楽曲であり、アルバムの中でも内省的な位置を占める。タイトルは「また戻ってくる」という意味で、帰還、再生、執着、あるいは死後にも残る声のような感覚を含む。

サウンドは穏やかで、アコースティックな質感が強い。Daltreyの力強い歌唱とは異なり、Townshendの声には脆さと個人的な響きがある。The Whoのアルバムにおいて、Townshend自身が歌う曲は、しばしば作者の内面がより直接的に現れる場になる。

歌詞では、去っても戻ってくるという感覚、存在が完全には消えないという思いが描かれる。これはバンドの歴史にも重なる。The Whoは何度も終わりのように見えながら、戻ってきた。亡くなったメンバーの記憶も、音楽の中で戻ってくる。個人的にも、過去や後悔は何度も自分の中に戻ってくる。

「I’ll Be Back」は、アルバムの中で静かな余白を作る楽曲である。大きなロック・サウンドだけではなく、Townshendの個人的な声があることで、本作の内面性が深まっている。

9. Break the News

「Break the News」は、Simon Townshendが書いた楽曲であり、アルバムの中で少し軽やかでメロディアスなポップ感を持つ。タイトルは「知らせを伝える」という意味で、ニュース、告白、変化の伝達を連想させる。

サウンドは明るく、比較的親しみやすい。The Whoの重厚なロックというより、ブリティッシュ・ポップ的な軽快さがある。アルバムの中で少し空気を変える役割を果たしており、全体の緊張を和らげている。

歌詞では、何かを相手に伝えなければならない状況が描かれる。ニュースを伝えることは、時に関係を変えてしまう行為である。良い知らせであれ悪い知らせであれ、言葉にした瞬間に現実が動く。この曲は、その伝達の瞬間を軽やかに扱っている。

「Break the News」は、『WHO』の中ではやや異色ながら、アルバムに必要な親しみやすさを加える楽曲である。The Whoの作品におけるファミリー的な広がり、そしてバンド周辺の継承感も感じさせる一曲である。

10. Rockin’ in Rage

「Rockin’ in Rage」は、本作の中でも特にThe Whoらしい怒りを正面から扱った楽曲である。タイトルは「怒りの中でロックする」という意味で、若い頃から怒りをエネルギーに変えてきたバンドが、老年期にその怒りをどう扱うのかを問うている。

サウンドは力強く、ギターとリズムが重く鳴る。Daltreyのヴォーカルは非常に説得力があり、年齢を重ねた声だからこそ、怒りの持続がリアルに響く。若者の怒りは瞬間的な爆発だが、老いた者の怒りは、長年の失望や観察の積み重ねである。

歌詞では、怒りを抱え続けることの苦しさと、それでも怒りを失えない感覚が描かれる。The Whoは、かつて「Hope I die before I get old」と歌ったバンドである。そのバンドが実際に老い、なお怒っている。この事実は、本作の中でも非常に重要である。

「Rockin’ in Rage」は、『WHO』の核心的な楽曲のひとつである。老いてもなおロックするとはどういうことか。その答えは、若作りではなく、怒りを手放さないことにある。この曲は、それを力強く示している。

11. She Rocked My World

ラスト曲「She Rocked My World」は、アルバムを比較的穏やかに締めくくる楽曲である。タイトルは「彼女は僕の世界を揺さぶった」という意味で、恋愛や出会いによって人生が変わる感覚を表している。大きな政治や社会批評が多い本作の最後に、個人的な感情の曲が置かれていることは興味深い。

サウンドは落ち着いており、ジャズやラテン的なニュアンスも感じられる。The Whoの激しいロックというより、大人びた余韻を持つ曲である。Daltreyの歌唱も抑えめで、長い旅の終わりに過去の出会いを振り返るような雰囲気がある。

歌詞では、ある女性が語り手の世界を変えたことが歌われる。これは単なる恋愛賛歌としても聴けるが、The Whoの文脈では、人生を揺さぶる存在、価値観を変える出会いとしても読める。長く生きた後に振り返る「世界を揺さぶった人」の記憶には、若い恋愛とは違う重みがある。

「She Rocked My World」は、派手な終曲ではない。しかし、『WHO』というアルバムを人間的な温度で締めくくる役割を果たしている。怒り、政治、老い、音楽への皮肉を経た後、最後に残るのは、誰かに世界を揺さぶられた記憶である。

総評

『WHO』は、The Whoの後期作品として非常に意義深いアルバムである。歴史的名盤群と同じ基準で革新性を測るべき作品ではないが、長いキャリアを持つロック・バンドが、自分たちの過去、老い、社会への怒り、音楽そのものの有限性に向き合った作品として、高く評価できる。

本作の中心には、自己認識がある。「All This Music Must Fade」で音楽の消滅可能性を歌い、「I Don’t Wanna Get Wise」で老いと知恵を皮肉り、「Detour」でバンドの歩んだ回り道を振り返り、「Rockin’ in Rage」で怒りを抱えたままロックする姿勢を示す。The Whoはここで、自分たちが何者だったのか、そしていま何者であり得るのかを問い直している。

音楽的には、The Whoらしい要素が随所にある。Townshendのギター・ストローク、シンセサイザーの使い方、ロック・オペラ的なスケール、Daltreyの力強い歌唱、英国的な皮肉と社会批評。過去のThe Whoを知るリスナーであれば、多くの瞬間に彼ららしさを感じるだろう。一方で、Keith MoonとJohn Entwistleがいないことによる音の違いも当然ある。リズムの狂気やベースの奔放さは、黄金期とは異なる。しかし、本作はその欠落を無理に模倣せず、現在のThe Whoとして成立している。

Roger Daltreyの存在は特に大きい。Townshendの複雑な言葉やアイデアは、Daltreyの声を通ることで、より直感的で肉体的なロックになる。彼の声には、若い頃の鋭い爆発力とは違う、経験を経た力がある。特に「Ball and Chain」「Hero Ground Zero」「Rockin’ in Rage」では、年齢を重ねた声だからこその重みが感じられる。

Pete Townshendのソングライティングも、非常に自己批評的である。彼はThe Whoの過去を単純に美化しない。音楽は消える、賢くなりたくない、怒りはまだある、回り道ばかりだった。こうした言葉には、ロックの神話に対する距離感がある。彼は自分たちが築いた神話の中に安住せず、それを疑い続けている。その姿勢が本作を単なる懐古作にしていない。

本作の社会批評も重要である。「Ball and Chain」では国家権力や拘束への批判があり、「Street Song」では都市の人々への視線がある。「Beads on One String」では分断された世界への連帯の願いが示される。The Whoは、若い頃から個人と社会の摩擦を歌ってきたが、本作でもその視点は失われていない。ただし、ここでの批評は若者の怒号ではなく、長く社会を見てきた者の苦い言葉である。

『WHO』は、The Whoの入門盤ではない。初めて聴くなら『Who’s Next』『Tommy』『Quadrophenia』『The Who Sell Out』などを先に聴く方が、バンドの革新性は分かりやすい。しかし、The Whoの歴史を知ったうえで本作を聴くと、非常に感慨深い。若者の怒りを叫んだバンドが、老いの中でなお怒り、なお愛し、なお音楽の消滅を笑いながら歌っている。その姿は、ロックの老年期を考えるうえで重要である。

総じて『WHO』は、The Whoが自らの名を再び掲げるに値する、誠実で力強い後期作品である。過去の栄光を完全に再現することはできない。しかし、過去を背負ったまま現在に向き合うことはできる。本作はその証明である。すべての音楽はいずれ消えていく。それでも、鳴っている間は世界を揺さぶることができる。The Whoはこのアルバムで、その信念を老年期の声で鳴らしている。

おすすめアルバム

1. The Who『Who’s Next』

The Whoの代表作であり、シンセサイザーとハードなロック・サウンドを融合させた名盤。「Baba O’Riley」「Behind Blue Eyes」「Won’t Get Fooled Again」を含み、『WHO』に見られるシンセとギターの組み合わせの原点を理解できる。

2. The Who『Quadrophenia』

The Whoのロック・オペラ的表現の頂点のひとつ。若者のアイデンティティ、モッズ文化、精神的分裂、海のイメージが壮大に描かれる。『WHO』の劇的な楽曲や自己分析的な視点を理解するうえで重要な作品である。

3. The Who『Tommy』

ロック・オペラという形式を広く知らしめた歴史的作品。物語性、精神性、象徴性をロックに持ち込んだThe Whoの野心が刻まれている。後年のTownshendの作曲思想を理解するためにも欠かせない。

4. Pete Townshend『Empty Glass』

Pete Townshendのソロ代表作であり、The Whoとは異なる個人的な内省が強く出た作品。『WHO』におけるTownshendの自己分析的な歌詞や、精神的なテーマに関心があるリスナーに適している。

5. The Rolling Stones『Blue & Lonesome』

同じく長いキャリアを持つ英国ロック・バンドによる後期作品。The Whoの『WHO』とは方向性が異なり、ブルース回帰のアルバムだが、老年期のロック・バンドが自分たちの原点と現在をどう結びつけるかを考えるうえで関連性が高い。

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