アルバムレビュー:Throwing Muses by Throwing Muses (2003)

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:1986年9月

ジャンル:オルタナティヴ・ロック、ポスト・パンク、インディー・ロック、アート・ロック、ノイズ・ポップ

概要

Throwing Musesのセルフタイトル・アルバム『Throwing Muses』は、1980年代後半のアメリカン・インディー/オルタナティヴ・ロックにおいて、極めて重要な位置を占めるデビュー作である。ロードアイランド州ニューポートで結成されたThrowing Musesは、Kristin HershとTanya Donellyという二人の女性ソングライター/ギタリストを中心に、David Narcizoの変則的なドラム、Leslie Langstonのベースによって、当時のポスト・パンクやギター・ロックの語法を大きく揺さぶる音楽を作り上げた。

本作は、イギリスの名門インディー・レーベル4ADからリリースされた。4ADといえば、Cocteau Twins、Dead Can Dance、This Mortal Coil、Pixiesなどを擁し、幽玄で美的な音像、ポスト・パンク以降の実験性、独特のヴィジュアル・デザインで知られるレーベルである。Throwing Musesは、アメリカのバンドでありながら4ADから作品を発表した最初期の重要な存在であり、その後のアメリカン・オルタナティヴと英国インディーの接点を作ったバンドのひとつでもある。

『Throwing Muses』を特別な作品にしているのは、単に女性主体のロック・バンドであったことではない。もちろん、1980年代中盤のロック・シーンにおいて、女性がバンドの創作の中心に立ち、複雑で攻撃的で詩的な音楽を作ること自体が重要だった。しかし本作の革新性は、それ以上に、曲構造、リズム、メロディ、歌詞、声の扱いが従来のロックの文法から大きく逸脱していた点にある。

Kristin Hershのソングライティングは、非常に独特である。曲はしばしば一般的なヴァース/コーラス構造に収まらず、急に拍子やテンポが変わり、メロディは不安定に跳躍し、ギターは美しいアルペジオから鋭い不協和音へ移る。歌詞もまた、明確な物語や説明ではなく、断片的なイメージ、身体感覚、幻覚的な風景、家族や宗教や暴力の影を組み合わせている。彼女の歌は、内面の混乱を整理して提示するのではなく、混乱そのものをそのまま音楽として構成する。

このアルバムを聴くと、Throwing Musesが後のオルタナティヴ・ロックに与えた影響の大きさが分かる。Pixies、Breeders、Belly、PJ HarveySleater-KinneyBikini Kill、Helium、Team Dresch、さらには90年代以降の女性ソングライターを中心とするインディー・ロックに至るまで、感情をきれいに整えず、歪んだまま提示する表現の系譜において、Throwing Musesは非常に重要な存在である。特に、女性の内面を「可憐さ」や「告白的な弱さ」だけに回収せず、怒り、錯乱、欲望、不安、宗教的な恐怖、身体的な違和感を含んだものとして鳴らした点は、後続に大きな意味を持った。

音楽的には、本作はポスト・パンクの緊張感、フォーク的な旋律、ニューウェイヴの鋭さ、ノイズ・ロックのざらつき、そしてアメリカン・インディー特有の乾いた感覚が混ざっている。だが、どのジャンル名も完全には当てはまらない。Throwing Musesの音楽は、形式的にはギター、ベース、ドラム、ヴォーカルによるロック・バンドでありながら、実際には非常に変則的で、精神の不均衡をそのまま構造化したような音楽である。

David Narcizoのドラムも、本作の重要な特徴である。彼のドラムは、一般的なロックのように力強く四拍子を支えるというより、曲の内部を引っかき回し、予測不能なアクセントや跳ね方で緊張を生む。Throwing Musesの曲が不安定に聴こえる理由のひとつは、ドラムが単なる土台ではなく、楽曲の心理的な揺れを作る装置として機能しているからである。

Tanya Donellyの存在も大きい。彼女は後にThe BreedersやBellyでよりポップなメロディ・センスを開花させるが、本作の時点でも、Kristin Hershの激しく断片的な世界に対し、別種の明るさや透明感を与えている。Throwing Muses初期の魅力は、Hershの錯乱したような強度と、Donellyのメロディックな感覚が同じバンド内に共存していたことにある。

『Throwing Muses』は、聴きやすいアルバムではない。後年の『The Real Ramona』や『University』のような比較的整理されたインディー・ロックを期待すると、本作は荒く、奇妙で、時に理解しにくく感じられる。しかし、その分、デビュー作ならではの危うさと強度がある。曲がどこへ向かうのか分からない緊張、声が壊れそうになる瞬間、ギターが美しさと不協和を行き来する感覚。そうした要素が、本作を1980年代インディー・ロックの中でも唯一無二の作品にしている。

全曲レビュー

1. Call Me

オープニングを飾る「Call Me」は、Throwing Musesの世界に聴き手を一気に引き込む楽曲である。タイトルだけを見ると、ポップ・ソングにありがちな「電話して」という親密な呼びかけのように思える。しかし、曲が始まると、その単純な期待はすぐに裏切られる。ここでの「Call Me」は、安心できる恋愛の呼びかけではなく、何かに取り憑かれたような緊張を帯びている。

ギターは鋭く、リズムは落ち着かず、Kristin Hershのヴォーカルは言葉をまっすぐ届けるというより、内側から押し出されるように響く。メロディは美しい瞬間を持ちながらも、すぐに不安定な方向へ折れ曲がる。Throwing Musesの音楽において、ポップなフックは常に不安によって歪められている。本曲はその特徴を冒頭から示している。

歌詞では、誰かに呼びかける行為が、つながりへの願望であると同時に、自己の不安定さを露呈させるものとして描かれる。相手に呼ばれたい、自分を認識してほしいという感覚は、愛情であると同時に、存在確認への切実な欲求でもある。Hershの声は、その欲求を美しく整えることなく、むき出しのまま提示する。

オープニング曲として、「Call Me」は非常に効果的である。Throwing Musesが従来のインディー・ロックやポスト・パンクの形式を借りながらも、まったく別の心理的な領域へ向かっていることが、すぐに理解できる。

2. Green

「Green」は、タイトルが示す色彩のイメージとは裏腹に、単純な自然賛歌や穏やかなポップ・ソングではない。緑は若さ、成長、嫉妬、未熟さ、自然、腐敗など、複数の意味を持つ色である。Throwing Musesの楽曲において、こうした象徴は一つの意味へ固定されず、さまざまな感情の層を生む。

音楽的には、ギターの反復と跳ねるようなリズムが印象的である。曲は一見軽やかに進むが、その裏には常に引っかかりがある。David Narcizoのドラムは、単純なビートを保つのではなく、曲の輪郭を少しずつずらしていく。これにより、聴き手は安心して曲に身を任せることができない。

歌詞では、自然や身体、感情の未成熟さが交錯しているように響く。Hershの言葉は説明的ではなく、イメージの断片が連なっている。そのため、曲を聴く体験は、物語を追うというより、誰かの夢や記憶の中に入り込む感覚に近い。

「Green」は、Throwing Musesが明るさや色彩を扱うときでさえ、それを安定した幸福へ変換しないことを示している。緑はここで、生命力であると同時に不安定な成長の色でもある。

3. Hate My Way

「Hate My Way」は、Throwing Muses初期を代表する重要曲であり、Kristin Hershのソングライティングの異様な強度が最も分かりやすく表れた楽曲のひとつである。タイトルは「自分のやり方を嫌う」とも、「自分の道を憎む」とも取れる。自己嫌悪、運命への抵抗、他者からの拒絶が混ざった言葉である。

曲は、一般的なロックの予測可能な展開を拒む。ギターは切迫し、ドラムは不規則に動き、ヴォーカルはメロディと叫びの間を行き来する。Hershの歌唱は、きれいに感情を表現するというより、感情そのものに身体を支配されているように聴こえる。これは、後のオルタナティヴ・ロックにおける「不安定な女性の声」の重要な原型のひとつである。

歌詞には、宗教的なイメージ、家族的な痛み、罪悪感、身体感覚が混ざっている。明確な告白ではないが、内側で何かが壊れ、同時にそれを歌によって制御しようとしている感覚がある。Hershは自分の苦しみを説明するのではなく、苦しみがどのように言葉を歪めるかをそのまま聴かせる。

「Hate My Way」は、Throwing Musesの音楽が単なるインディー・ロックではなく、精神的な嵐をバンド・アンサンブルに変換する表現であることを決定的に示している。本作の中心的な楽曲であり、1980年代オルタナティヴの重要な瞬間である。

4. Vicky’s Box

「Vicky’s Box」は、タイトルからして非常に不穏で、閉じられた空間や秘密を連想させる楽曲である。「箱」は、記憶、身体、秘密、所有、閉じ込められた感情の象徴として機能する。Throwing Musesの歌詞世界では、日常的な物がしばしば心理的な恐怖の容器になる。

音楽的には、曲の構造が不安定で、ギターとリズムが互いに引っ張り合うように進む。メロディは一瞬親しみやすく感じられるが、すぐに不協和な方向へ傾く。Throwing Musesの楽曲は、安心できるメロディを提示してから、それを壊すように展開することが多い。本曲もその代表例である。

歌詞では、Vickyという人物、あるいはその人物にまつわる秘密が暗示される。箱の中に何が入っているのかは明確に説明されない。だからこそ、不気味さが増す。聴き手は、曲の中にある人物関係や記憶の断片をつなぎ合わせようとするが、完全には理解できない。

この曲は、Throwing Musesの物語性がいかに断片的で、かつ強烈であるかを示している。明確なストーリーを語らないにもかかわらず、強い映像が残る。『Throwing Muses』の中でも、Hershの奇妙な想像力がよく表れた一曲である。

5. Rabbits Dying

「Rabbits Dying」は、タイトルからして強烈なイメージを持つ楽曲である。ウサギは一般的に小さく、無害で、か弱い動物として想像される。そのウサギが死んでいくというイメージは、無垢なものの損傷、弱いものの犠牲、生命の脆さを連想させる。Throwing Musesの音楽では、こうした不穏な身体的・動物的イメージがしばしば現れる。

サウンドは、タイトルの不気味さを反映するように、鋭く落ち着かない。ギターはざらつき、ドラムは不規則に跳ね、ヴォーカルは不安定な感情を帯びる。曲は暴力的に爆発するというより、内側から引きつるように進む。この神経質な緊張が、Throwing Musesらしさである。

歌詞では、死や弱さ、傷つきやすさが断片的に提示される。Hershの歌詞は、直接的な社会批評や恋愛の物語ではなく、身体とイメージの連鎖によって内面を描く。ウサギの死は、具体的な出来事であると同時に、心の中の何かが損なわれることの比喩でもある。

「Rabbits Dying」は、本作の持つ残酷な童話性を象徴する楽曲である。かわいらしいもの、弱いもの、自然のものが、決して安全ではない。Throwing Musesの世界では、無垢は常に傷つく可能性を持っている。

6. America

「America」は、タイトルの大きさが印象的な楽曲である。Throwing Musesはアメリカのバンドだが、その音楽は当時のメインストリーム・アメリカン・ロックとは大きく異なっていた。本曲のタイトルは、国家としてのアメリカ、風景としてのアメリカ、精神的な閉塞としてのアメリカを連想させる。

音楽的には、乾いたギターと不安定なリズムが、広大な国土というより、内部から歪んだアメリカ像を描く。The ReplacementsやR.E.M.のようなアメリカン・インディーの流れとも接点を持ちながら、Throwing Musesの音はより神経質で、より幻覚的である。

歌詞では、アメリカという言葉が単純な愛国的イメージとしてではなく、個人の不安や疎外と結びついているように響く。広い国にいるのに閉じ込められている感覚、自由の国でありながら精神が自由ではない感覚がある。Hershの歌唱は、その矛盾を感情的に押し出す。

この曲は、Throwing Musesが個人的な内面だけでなく、アメリカという場所そのものの違和感を音楽に刻んでいたことを示している。大きなタイトルを持ちながら、曲は国家を説明せず、むしろその中で不安定に生きる個人の感覚を描く。

7. Fear

「Fear」は、タイトル通り恐怖を扱った楽曲である。Throwing Musesの音楽には、明確な怪談やホラー的演出があるわけではないが、常に恐怖が流れている。それは外部の敵への恐怖というより、自分の身体、自分の感情、自分の記憶が制御できなくなることへの恐怖である。

音楽的には、ギターとドラムが曲に落ち着かない脈動を与える。リズムは安定しきらず、ヴォーカルはメロディと叫びのあいだを揺れる。恐怖を劇的な効果音で表すのではなく、曲構造そのものを不安定にすることで表現している点が重要である。

歌詞では、恐怖が具体的な対象を持つというより、身体の中に広がる感覚として描かれる。Hershの声は、恐怖を説明するのではなく、恐怖に侵食されている状態をそのまま表す。聴き手は、その感情を外側から観察するのではなく、曲の中に巻き込まれる。

「Fear」は、本作のタイトル群の中でも非常に直接的な言葉を持つが、音楽は単純ではない。恐怖という感情が、いかに複雑で、断片的で、身体的なものであるかを、Throwing Musesは独自のロック・サウンドで描いている。

8. Stand Up

「Stand Up」は、タイトルだけを見ると、立ち上がること、抵抗すること、自己主張を意味する前向きな曲のように思える。しかしThrowing Musesの音楽では、その行為も単純な力強さとしては描かれない。立ち上がることには、身体的な困難、精神的な不安、そして他者からの視線が伴う。

サウンドは、比較的推進力があるが、通常のロック・アンセムのような直線性はない。ドラムは曲を前へ押し出しながらも、どこか落ち着かず、ギターも安定したコード感から逸脱する。これにより、立ち上がることが簡単な勝利ではなく、ぎこちない行為として表現される。

歌詞では、自己を支えること、自分の足で立つことへの切実さが感じられる。だが、その言葉は励ましのスローガンではなく、不安定な身体から出てくる命令のように響く。Hershのヴォーカルは、強さと脆さを同時に持っている。

「Stand Up」は、Throwing Musesの音楽における抵抗の形をよく示している。彼女たちの抵抗は、シンプルな勝利のポーズではなく、壊れそうな身体でなお立ち続けることにある。

9. Soul Soldier

「Soul Soldier」は、精神的な戦士という意味を持つタイトルであり、本作の中でも象徴性の強い楽曲である。戦士という言葉は力強さを連想させるが、「Soul」が付くことで、外部の戦場ではなく、内面の闘争が主題であることが示される。

音楽的には、ギターとリズムが緊張した進行を作り、曲全体に不穏な前進感がある。Throwing Musesの楽曲はしばしば戦いのように聴こえるが、それはロック的な勝利の戦いではなく、内面の混乱と折り合いをつけるための闘いである。

歌詞では、精神や魂が何かと戦っているようなイメージが浮かぶ。敵は外部にいるのか、自分の中にいるのかは分からない。Hershの歌詞では、この境界が曖昧であることが多い。自分を攻撃しているものと、自分自身が攻撃しているものが区別できなくなる。その混乱が曲の核心にある。

「Soul Soldier」は、Throwing Musesの音楽が持つ戦闘的な精神性を示す曲である。ただし、それは政治的な軍歌ではなく、心理的なサバイバルの歌である。アルバム後半において、内面の闘争がより明確になる。

10. Delicate Cutters

Delicate Cutters」は、本作の中でも特に重要な楽曲のひとつである。タイトルは「繊細な切断者たち」とも訳せる奇妙な言葉で、美しさと暴力、優雅さと傷が結びついている。Throwing Musesの音楽そのものが、まさにこのタイトルのような性質を持つ。繊細でありながら鋭く、壊れやすいのに攻撃的である。

曲は、静かな緊張と急な展開を繰り返す。ギターは美しい瞬間を作るが、すぐに角度を変え、聴き手を不安にさせる。David Narcizoのドラムは、曲の不規則な呼吸を支え、Hershのヴォーカルは感情の切断面を見せるように響く。

歌詞では、傷つけること、切ること、身体や感情が分断されることが、繊細なイメージとともに描かれる。ここには、女性性を単なる柔らかさや優しさとしてではなく、切断する力、傷を与える力、傷つけられる身体として捉える視点がある。これはThrowing Musesの革新性のひとつである。

「Delicate Cutters」は、後年のオルタナティヴ・ロックにおける複雑な女性表現の先駆的楽曲として聴ける。美しさと暴力が同じ場所にあることを、曲の構造と声が明確に示している。

11. Chains Changed

「Chains Changed」は、鎖が変わった、あるいは束縛の形が変化したことを示すタイトルを持つ楽曲である。自由になったわけではなく、ただ縛るものの形が変わったというニュアンスがある。Throwing Musesの音楽には、こうした救済されきらない感覚が強い。

サウンドは、比較的メロディックでありながら、底には不穏さがある。ギターの流れは一瞬美しく、しかしすぐに不安定な方向へ動く。曲全体が、束縛と変化のあいだを揺れているように聴こえる。

歌詞では、関係や記憶、身体的な制約が変化していく感覚が描かれる。人は何かから解放されたと思っても、別の形でまた縛られることがある。鎖は消えず、ただ形を変える。これは個人的なトラウマや家族関係、社会的な制約にも通じるテーマである。

「Chains Changed」は、Throwing Musesの世界における自由の困難さを表している。解放は単純なものではなく、束縛との関係を変えることに近い。本作の中でも、詩的で深いテーマを持つ楽曲である。

12. And a She-Wolf After the War

「And a She-Wolf After the War」は、非常に印象的なタイトルを持つ楽曲である。戦争の後の雌狼というイメージは、暴力の後に残された女性的な獣性、サバイバル、母性と攻撃性の混在を連想させる。Throwing Musesの音楽において、動物的なイメージは人間の感情や身体性を表す重要な要素である。

音楽的には、曲全体に不穏な余韻がある。戦争の後というタイトルにふさわしく、何か大きな衝突が終わった後の荒れた風景が想像される。ギターは空間を作り、ドラムは緊張を保ち、ヴォーカルは疲労と警戒心を帯びる。

歌詞では、戦いの後に生き残る存在が描かれる。雌狼は、弱い存在ではない。傷つきながらも、生き延び、必要なら噛みつく。ここには、女性の生存のイメージが強く刻まれている。Hershの歌唱は、その獣性をロマンティックに飾るのではなく、切実な身体感覚として表現する。

この曲は、アルバム終盤に神話的なイメージをもたらす。Throwing Musesの個人的な痛みは、ここでより大きな象徴へ広がる。戦争の後に残る雌狼というイメージは、本作全体の傷ついた強さを象徴している。

13. Fish

「Fish」は、短く奇妙なイメージを持つ楽曲である。魚は水の中を生きる存在であり、人間とは違う環境で呼吸するものとして、異質性や沈黙、無意識を象徴することがある。Throwing Musesの歌詞世界では、こうした動物的なモチーフがしばしば心理的な状態を表す。

音楽的には、曲はコンパクトで、断片的な印象を持つ。大きな展開で聴かせるというより、奇妙なイメージを一瞬で残すタイプの楽曲である。アルバム全体の中で、こうした短い異物のような曲が、作品に不安定なリズムを与えている。

歌詞では、水中的な感覚、言葉にならない感情、身体の違和感が描かれているように響く。魚は声を持たず、水の中で生きる。これは、自分の感情をうまく言葉にできない状態、あるいは他者とは違う環境でしか呼吸できない感覚の比喩として聴ける。

「Fish」は、Throwing Musesの短い楽曲における象徴性を示している。小さなイメージが、アルバム全体の精神的な水位を変える。説明されないまま残る不思議な余韻が重要である。

14. Finished

アルバムの終盤に置かれる「Finished」は、終わりを意味するタイトルを持つ楽曲である。Throwing Musesの世界において、終わりは単純な解決ではない。むしろ、何かが終わった後にも残る痛み、整理されない感情、次の不安の始まりが含まれている。

サウンドは、タイトルの通り締めくくりの気配を持ちながらも、安定した終止感には向かわない。ギターは不安定に鳴り、リズムは完全な着地を拒む。曲が「終わり」を歌いながら、音楽的には完全に終わりきらない。この矛盾がThrowing Musesらしい。

歌詞では、関係や状況の終結が示されるが、それが救済とは限らない。終わったからといって、痛みが消えるわけではない。むしろ終わりによって、自分の中に残ったものがよりはっきり見えることもある。

「Finished」は、アルバム全体の不安定な旅を終盤へ導く曲である。ただし、聴き手に安らかな結論を与えない。Throwing Musesの音楽は、終わりさえも不安定なものとして提示する。

15. Reel

「Reel」は、アルバムの最後を締めくくる楽曲として、非常に象徴的なタイトルを持つ。リールは、フィルムやテープが巻かれたものを意味し、回転、記録、記憶、反復を連想させる。また、アイリッシュ/スコティッシュの舞曲形式としてのリールもあり、身体の動きや反復するリズムを思わせる。

音楽的には、アルバムの断片的な感情を最後にもう一度巻き取るような印象がある。曲は完全な大団円ではなく、むしろ奇妙な余韻を残して終わる。Throwing Musesらしく、最後まで安心できる着地を拒む。

歌詞では、記憶や身体、回転する感覚が暗示される。リールが回るように、思考や感情もまた繰り返される。アルバム全体を通じて描かれてきた恐怖、身体性、動物的イメージ、傷、自己嫌悪、抵抗が、ここで完全に解決されるのではなく、巻き取られて次へ持ち越される。

終曲としての「Reel」は、本作の本質をよく示している。Throwing Musesの音楽は、答えを提示するよりも、感情や記憶が回転し続ける状態を作る。『Throwing Muses』は終わっても、その不安定なリールは聴き手の中で回り続ける。

総評

『Throwing Muses』は、1980年代インディー・ロックの中でも、特に異形の強度を持つデビュー・アルバムである。一般的な意味での完成度や聴きやすさを基準にすれば、本作は荒く、曲構造も不安定で、歌詞も難解である。しかし、その不安定さこそが本作の本質であり、Throwing Musesが最初から普通のギター・ロック・バンドではなかったことを示している。

本作の中心にあるのは、Kristin Hershの圧倒的に独自な表現である。彼女の歌は、感情を整理して伝えるのではなく、感情が言葉や声や曲構造を歪める様子をそのまま音楽にしている。自己嫌悪、恐怖、身体の違和感、宗教的な影、家族的な不安、動物的なイメージが、断片的に噴き出す。これは非常に個人的な音楽であると同時に、女性の内面表現をロックの中で大きく拡張した音楽でもある。

音楽的には、ポスト・パンク以降のギター・ロックでありながら、構造は非常に変則的である。拍子やリズムは予測を裏切り、メロディは突然跳躍し、ギターは美しさとノイズの間を行き来する。David Narcizoのドラムは、バンドの不安定な呼吸を支える重要な要素であり、Leslie Langstonのベースは楽曲の底に奇妙な重みを与える。Tanya Donellyの存在は、Hershの激しい表現に別の光を差し込み、バンドの音楽に複数の視点をもたらしている。

本作は、4ADというレーベルの文脈でも重要である。Cocteau TwinsやDead Can Danceのような幻想的な音像とは異なり、Throwing Musesはよりアメリカ的で、荒く、身体的な音を持っていた。しかし、断片的な歌詞、夢のようなイメージ、不安定な美しさという点では、4ADの美学と深く響き合っている。アメリカン・インディーの荒さと、4AD的な異世界感が交差した作品として、本作は非常に特異である。

また、後のオルタナティヴ・ロックに与えた影響も大きい。女性が自分の内面の混乱や怒りを、整理された告白や可愛らしいポップに変換せず、そのまま複雑な音楽構造として提示すること。その可能性をThrowing Musesは早い段階で切り開いた。PJ Harvey、Bikini Kill、Sleater-Kinney、Helium、Belly、The Breedersなど、90年代以降に女性を中心としたオルタナティヴ表現が広がっていく前提として、本作の存在は非常に大きい。

日本のリスナーにとって『Throwing Muses』は、最初は捉えにくい作品かもしれない。メロディはあるが、すぐに崩れる。ロックとしての勢いはあるが、普通のカタルシスには向かわない。歌詞は印象的だが、物語としては掴みにくい。しかし、何度も聴くうちに、このアルバムが感情を単純化しないことの強さを持っていることが分かる。整理されていないからこそ真実味があり、壊れそうだからこそ美しい。

『Throwing Muses』は、デビュー作でありながら、すでにバンドの核心を示している。美しさと不協和、女性性と獣性、恐怖と抵抗、ポップと崩壊。そのすべてが同時に鳴っている。Throwing Musesは本作で、オルタナティヴ・ロックが単なる音楽ジャンルではなく、精神の不安定さを受け止めるための形式になり得ることを示した。これは、1980年代インディー・ロックの中でも、今なお鮮烈に響く重要作である。

おすすめアルバム

1. Throwing Muses『House Tornado』

Throwing Musesの2作目であり、デビュー作の不安定な強度をさらに発展させた作品。曲構造はより複雑になり、Kristin Hershのソングライティングも一段と鋭くなる。初期Throwing Musesの異様な魅力を深く理解するうえで欠かせないアルバムである。

2. Throwing Muses『The Real Ramona』

Throwing Musesの中でも比較的ポップで聴きやすい作品。Tanya Donelly在籍期の最後を飾る重要作であり、メロディの明快さとバンドの変則性が良いバランスで共存している。『Throwing Muses』の混沌が、より開かれたインディー・ロックへ変化した姿を確認できる。

3. Belly『Star』

Tanya DonellyがThrowing Muses脱退後に結成したBellyの代表作。Throwing Musesにあった不思議なメロディ感覚を、よりドリーム・ポップ/オルタナティヴ・ロック寄りに整理した作品である。Donellyのソングライターとしての個性を理解するうえで重要な一枚である。

4. Pixies『Surfer Rosa』

4ADから登場したアメリカン・オルタナティヴの重要作。Throwing Musesとは異なる攻撃性を持つが、変則的な曲構造、突発的な展開、男女ヴォーカルの緊張感、ノイズとポップの融合という点で関連性が高い。80年代末の4AD周辺のアメリカ勢を理解するうえでも重要である。

5. PJ Harvey『Dry』

女性の身体性、怒り、不安、欲望を、ロックの荒々しい形式で表現した重要なデビュー作。Throwing Musesが切り開いた、女性の内面を単純化せずに鳴らすオルタナティヴ・ロックの系譜に連なる作品である。『Throwing Muses』の精神的な強度に惹かれるリスナーには特に相性がよい。

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