アルバムレビュー:This Is Not a Safe Place by Ride

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2019年8月16日

ジャンル:シューゲイザー、オルタナティヴ・ロック、ドリーム・ポップ、インディー・ロック、ネオ・サイケデリア

概要

Rideの『This Is Not a Safe Place』は、2019年に発表された6作目のスタジオ・アルバムであり、再結成後のバンドが単なる過去の再現ではなく、現代のオルタナティヴ・ロック・バンドとしての更新を続けていることを示した作品である。Rideは、1990年代初頭のイギリスにおけるシューゲイザー・ムーブメントを代表するバンドのひとつであり、My Bloody Valentine、Slowdive、Chapterhouse、Lushなどと並び、轟音ギター、浮遊するメロディ、陶酔的な音響空間を特徴とする音楽を展開してきた。

1990年のデビュー・アルバム『Nowhere』、1992年の『Going Blank Again』は、Rideの評価を決定づけた作品である。『Nowhere』では、ノイズと透明感、青春の焦燥と夢幻的な音像が結びつき、シューゲイザーの象徴的な一枚となった。『Going Blank Again』では、より明快なソングライティングと疾走感が加わり、ギター・ポップとしての完成度も高められた。その後、バンドはブリットポップ時代の変化やメンバー間の方向性の違いを経て解散したが、2010年代に再結成し、2017年の『Weather Diaries』で本格的な復帰を果たした。

『This Is Not a Safe Place』は、その再結成後2作目にあたるアルバムである。前作『Weather Diaries』は、長い空白を経たRideが再びアルバム単位で活動することを示した作品だった。一方、本作では、再結成の事実そのものよりも、現在のRideが何を鳴らすのかに焦点が移っている。タイトルの「This Is Not a Safe Place」は、「ここは安全な場所ではない」という意味であり、ノスタルジーや安心感への拒否を示しているように響く。再結成バンドにはしばしば、過去の名曲を再演する安全な役割が求められるが、Rideは本作でその期待に安住しない姿勢を見せている。

音楽的には、本作は初期Rideのシューゲイザー的な轟音と、ポストパンク、クラウトロック、ドリーム・ポップ、インディー・ロック、エレクトロニックな質感を柔軟に組み合わせている。プロデュースにはErol Alkanが関わり、前作に続いて現代的な音像の整理と、バンドのライヴ感を両立させている。Rideの核であるAndy BellとMark Gardenerのヴォーカル、きらめくギターの重なり、Steve Queraltのベース、Loz Colbertの力強いドラムは健在でありながら、音は単純な1990年代回帰ではない。むしろ、初期のシューゲイザー的な霧を、より明確な輪郭と現代的なプロダクションで再構成している。

本作の特徴は、タイトルが示すような不安定さと、音楽的な開放感が同居している点である。Rideの音楽はもともと、陶酔と不安、浮遊と疾走、メロディとノイズの間に成立していた。『This Is Not a Safe Place』でも、その二重性が重要である。曲によっては明るく開けたギター・ポップとして響くが、歌詞や音像の奥には、現代社会の不安、孤独、環境への意識、情報過多、自己の居場所の不確かさが感じられる。これは、若者の感情を轟音で包み込んだ初期Rideとは異なり、時間を経たバンドが現代の不安を見つめ直した結果といえる。

また、本作はシューゲイザーというジャンルの現在性を考える上でも重要である。1990年代初頭には、シューゲイザーは一時的なムーブメントとして扱われ、ブリットポップの台頭によって後景に退いた。しかし、2000年代以降、シューゲイザーの音響美学は世界中のインディー・ロック、ドリーム・ポップ、ブラックゲイズ、ポストロック、エレクトロニカに影響を与え続けた。Rideの再始動は、その再評価の流れと深く結びついている。『This Is Not a Safe Place』は、シューゲイザーが単なる過去のスタイルではなく、現在のロックにおいても有効な表現であることを示す作品である。

日本のリスナーにとっても、Rideは特別な存在である。1990年代のUKロックやシューゲイザーを通じて洋楽に触れた世代にとって、彼らの音楽は青春の記憶と結びついている。一方、後追いのリスナーにとっては、My Bloody ValentineやSlowdiveと並ぶシューゲイザーの重要バンドとして聴かれてきた。本作は、そのどちらのリスナーにも意味を持つ。過去を知る人には、Rideが現在も更新を続けていることを示し、初めて聴く人には、シューゲイザーの美学が現代のオルタナティヴ・ロックと自然につながることを伝える。

全曲レビュー

1. R.I.D.E.

オープニング曲「R.I.D.E.」は、アルバムの幕開けとして非常に象徴的な楽曲である。バンド名を分解したようなタイトルは、自己言及的であり、再結成後のRideが自分たちの存在をあらためて提示するような印象を与える。曲は短く、勢いがあり、アルバム全体への導入として機能する。

音楽的には、ポストパンク的な鋭さとガレージ・ロック的な荒さが前面に出ている。初期Rideの長く広がるシューゲイズ・サウンドというより、より直線的で、即効性のあるロックである。リズムはタイトで、ギターは厚いが過剰に溶けすぎず、輪郭がはっきりしている。この点に、本作の現代的な音像が表れている。

歌詞の面では、バンド自身のアイデンティティを確認するようなニュアンスがある。Rideは、過去の名声に頼るだけではなく、現在のバンドとして前に出る必要がある。その意志が、曲の短さと勢いに込められている。アルバムの最初にこの曲を置くことで、『This Is Not a Safe Place』が回顧的な作品ではなく、現在進行形のロック・アルバムであることが明確になる。

2. Future Love

「Future Love」は、本作の中でも特にメロディアスで、Rideのギター・ポップ的な魅力が前面に出た楽曲である。タイトルは「未来の愛」を意味し、過去への郷愁ではなく、これから先にある関係や希望に目を向ける姿勢を感じさせる。再結成後のRideにとって、この曲は過去の記憶に閉じこもらず、未来へ向かう意思を示す重要曲といえる。

サウンドは、明るくきらめくギター、柔らかなメロディ、心地よいコーラスが中心で、初期Rideの「Vapour Trail」や『Going Blank Again』期の爽快な側面を思わせる。ただし、音像はより整っており、プロダクションには現代的な透明感がある。ギターは厚いが、轟音で全体を覆い尽くすのではなく、メロディを支えるように配置されている。

歌詞では、愛や関係性を未来の可能性として捉える視点がある。ここでの「未来」は、無邪気な楽観ではない。むしろ、過去の失敗や時間の経過を知った上で、それでも新しい関係や希望を見つめる姿勢である。Rideの音楽における青春性は、若さそのものではなく、変化の中で何かを求め続ける感覚にある。「Future Love」は、その感覚を明るいギター・ポップとして表現している。

3. Repetition

「Repetition」は、タイトル通り反復をテーマにした楽曲であり、音楽的にもクラウトロックやポストパンク的な反復感が強い。Rideはもともと、ギターのレイヤーによって音響的な陶酔を作るバンドだったが、この曲ではメロディの広がりよりも、リズムとパターンの持続が重要になっている。

サウンドは、ミニマルなリフと硬質なリズムを軸に進む。ギターは空間を埋めるだけでなく、反復されるフレーズとして機能し、曲全体に緊張感を与える。ドラムも直線的で、シューゲイザーというより、Neu!やCan以降のモータリックな感覚に近い部分がある。Rideが単にドリーミーな音像のバンドではなく、リズムの推進力を持つバンドであることが分かる楽曲である。

歌詞のテーマとしては、繰り返される日常、同じ過ち、情報や行動のループが読み取れる。現代社会では、人々は自由に選択しているように見えながら、実際には同じパターンを反復していることが多い。この曲の反復的な構造は、その状態を音楽的に表現している。陶酔ではなく、閉じ込められたループとしての反復。そこに本作の不安定な空気がよく表れている。

4. Kill Switch

「Kill Switch」は、本作の中でも特に緊張感のあるタイトルを持つ楽曲である。“Kill switch”とは、機械やシステムを緊急停止させるためのスイッチを意味する。現代社会が複雑なシステムによって動いていることを考えると、この言葉には、制御不能になった状況を止めたいという欲望や、破壊的なリセットへの願望が含まれる。

音楽的には、鋭いギターと強いリズムが中心で、アルバムの中でもロック色が濃い。Rideのシューゲイザー的な浮遊感よりも、オルタナティヴ・ロックとしての攻撃性が前面に出ている。音の壁はあるが、それは夢幻的というより、圧力として機能している。ギターの質感も硬く、曲全体に危機感を与えている。

歌詞では、何かを止める、断ち切る、システムから抜け出すといったテーマが感じられる。これは個人的な関係にも、社会的な構造にも適用できる。SNS、ニュース、政治、消費、仕事、精神的な負荷。現代の生活では、多くのものが常時接続され、止まることが難しい。「Kill Switch」は、その過剰な接続を断ち切りたいという衝動をロック・ソングとして表現している。

5. Clouds of Saint Marie

「Clouds of Saint Marie」は、本作の中でも特にRideらしい浮遊感とメロディアスな美しさを持つ楽曲である。タイトルには雲、聖性、地名や人物名のような響きがあり、具体的でありながら夢の中の情景のようにも感じられる。Rideの音楽において、空や雲のイメージは重要である。ギターの音が水平ではなく上方へ広がる感覚を持つため、曲全体が空中を漂うように響く。

音楽的には、きらめくギターのレイヤーと穏やかなメロディが中心で、シューゲイザー/ドリーム・ポップの美点が強く出ている。轟音というより、柔らかな光の粒が重なっていくようなサウンドである。ヴォーカルも前に出すぎず、ギターの中に溶け込むことで、曲全体に一体感が生まれている。

歌詞のテーマは、記憶、場所、距離、喪失、憧れといったものを想起させる。Rideの歌詞は、必ずしも物語を細かく説明するのではなく、イメージの断片によって感情を浮かび上がらせることが多い。この曲でも、雲という曖昧で移ろいやすいモチーフが、過去や遠い場所への思いを象徴しているように響く。

「Clouds of Saint Marie」は、再結成後のRideが初期の美学を自然に更新できていることを示す楽曲である。懐かしさはあるが、それは過去の模倣ではなく、現在のバンドによる成熟した浮遊感である。

6. Eternal Recurrence

「Eternal Recurrence」は、「永劫回帰」を意味するタイトルを持つ楽曲であり、アルバムの中でも特に哲学的な響きを持つ。永劫回帰とは、同じ出来事が無限に繰り返されるという思想であり、時間、運命、反復、選択の問題と深く関わる。前半の「Repetition」ともテーマ的に響き合い、本作が反復や循環に強い関心を持っていることが分かる。

音楽的には、Rideのサイケデリックな側面が表れている。ギターは空間的に広がり、リズムは曲に持続的な流れを与える。曲は大きなドラマを急激に作るのではなく、ゆるやかに循環しながら進む。この構造自体が、タイトルの永劫回帰と結びついている。聴き手は、時間が直線的に進むというより、同じ感情や音の波の中に何度も戻ってくるような感覚を受ける。

歌詞では、同じ状況を繰り返す人間、抜け出せない思考、過去が現在に戻ってくる感覚が示唆される。これは個人の人生にも、社会にも当てはまる。歴史は進歩しているように見えて、同じ過ちを繰り返す。人間関係もまた、違う相手や場面で似た失敗を繰り返す。「Eternal Recurrence」は、その循環を悲観だけでなく、陶酔的な音響としても表現している。

7. Fifteen Minutes

「Fifteen Minutes」は、現代の名声や注目の短さを想起させるタイトルである。「15分間の名声」という言い回しは、メディア社会における一時的な注目や消費される存在を象徴する言葉として知られる。この曲では、現代人が短い時間だけ注目され、すぐに忘れられていく状況への視点が感じられる。

音楽的には、比較的ポップでありながら、どこか皮肉な軽さを持つ。リズムは明快で、ギターも過度に重くならず、曲はコンパクトに進む。その聴きやすさが、タイトルの持つ消費社会的な意味と結びついている。すぐに耳に入り、すぐに流れていく。そうしたポップ・カルチャーの速度を、曲そのものが体現しているようでもある。

歌詞のテーマとしては、注目されること、時間に追われること、価値が瞬間的に判断されることが読み取れる。再結成バンドとしてのRideもまた、現代の音楽環境の中で、かつての名声と現在の注目の間に置かれている。「Fifteen Minutes」は、その状況への皮肉な自己認識を含んでいるように響く。

8. Jump Jet

「Jump Jet」は、タイトルから垂直離着陸機や高速移動、機械的な推進力を連想させる楽曲である。Rideの音楽にはもともと疾走感があり、初期の「Leave Them All Behind」や「Seagull」にも、速度と空間が結びつく感覚があった。この曲では、その疾走感がより機械的でモダンな形で表れている。

サウンドは、鋭いギター、力強いドラム、推進力のあるベースが中心で、アルバム後半にエネルギーを与える。ギターは空間を漂うというより、前方へ突き抜ける。曲全体にスピード感があり、Rideのロック・バンドとしての身体性がよく出ている。

歌詞では、移動、上昇、脱出、加速といったイメージが感じられる。タイトルの「Jump Jet」は、地上から急激に離陸する乗り物であり、現実から一気に抜け出す欲望を象徴しているようにも読める。『This Is Not a Safe Place』というアルバム全体が、不安定な場所からの移動や逃避を含んでいることを考えると、この曲はその動的な側面を担っている。

9. Dial Up

「Dial Up」は、インターネット初期の接続方式を想起させるタイトルを持つ楽曲である。現代の高速通信や常時接続の時代から見ると、ダイヤルアップは遅く、不安定で、ノイズを伴う接続の記憶である。このタイトルは、過去のテクノロジーへの郷愁と、接続というテーマの不確かさを同時に含んでいる。

音楽的には、やや実験的な質感を持つ曲として機能する。ギターや電子的な音の配置に、通信ノイズや接続の揺らぎを連想させる要素がある。Rideは本作で、単にギター・ロックを鳴らすだけでなく、音響的なテクスチャーによって時代感を表現している。この曲はその例である。

歌詞のテーマとしては、誰かとつながろうとすること、しかしその接続が不完全であることが中心にあると考えられる。現代は常時接続の時代であるにもかかわらず、人間同士のつながりは必ずしも深くなっていない。「Dial Up」は、かつての不安定な接続を思わせながら、現在のコミュニケーションの不完全さを浮かび上がらせている。

10. End Game

「End Game」は、終局、最終段階、長期的な計画の結末を意味するタイトルを持つ楽曲である。アルバム終盤に置かれることで、作品全体の緊張感を高めている。ここでの“end game”は、単なる終わりではなく、そこへ至るまでの戦略や選択の結果としての終わりを示している。

音楽的には、重さと広がりが同居している。Rideのギターは、ここで再び厚い層を作り、曲にドラマ性を与える。リズムは安定しているが、どこか終末的な雰囲気が漂う。アルバム全体が「安全ではない場所」を描いているとすれば、「End Game」はその場所で最終的に何を選ぶのかを問う曲として響く。

歌詞では、関係や社会、自己の選択が行き着く先への意識が感じられる。未来への希望を歌う「Future Love」と対照的に、この曲では終わりや限界が強く意識される。ただし、それは完全な絶望ではない。むしろ、終わりを見据えることで、現在の行動や選択の意味が浮かび上がる。Rideはここで、単なる夢幻的な音響ではなく、時間の重みを抱えたロックを鳴らしている。

11. Shadows Behind the Sun

「Shadows Behind the Sun」は、非常に詩的なタイトルを持つ楽曲である。太陽の背後に影があるという表現は、光の中にも闇があり、明るさの裏側に不安や喪失が潜んでいることを示している。Rideの音楽は、きらめくギターと明るいメロディを持ちながら、その奥にメランコリーを宿すことが多い。この曲は、その性質を象徴している。

音楽的には、ドリーム・ポップ的な浮遊感と、ゆったりとした広がりが中心である。ギターは柔らかく重なり、ヴォーカルは遠くから響くように配置される。曲全体は、光の中を漂っているようでありながら、どこか影を帯びている。まさにタイトル通りの音響である。

歌詞では、明るさの裏側にあるもの、見えない痛み、表面には現れない不安が描かれているように感じられる。現代社会では、明るさや成功、ポジティヴさが求められる一方で、その背後にある疲労や孤独は隠されがちである。この曲は、その見えない影に耳を澄ませるような楽曲である。

「Shadows Behind the Sun」は、Rideの成熟した叙情性を示す曲であり、本作の終盤に深い余韻を与えている。

12. In This Room

ラスト曲「In This Room」は、アルバムを静かに締めくくる楽曲である。タイトルは「この部屋で」という意味を持ち、広い社会や未来、移動、システムといったテーマを扱ってきたアルバムが、最後にひとつの部屋という親密な空間へ戻る構成になっている。『This Is Not a Safe Place』というタイトルを踏まえると、この部屋もまた完全な安全地帯ではない。しかし、そこには自分自身や他者と向き合うための閉じた空間がある。

音楽的には、穏やかで広がりのあるアレンジが特徴である。ギターは轟音ではなく、余韻を重視して配置され、ヴォーカルも静かに響く。曲は大きなクライマックスで終わるのではなく、ゆっくりと空間に溶けていく。Rideの音楽における美しさは、しばしばこのような消え際に表れる。

歌詞のテーマとしては、孤独、記憶、自己との対話、誰かと同じ空間にいることの意味が読み取れる。部屋という場所は、外の世界から切り離された避難所であると同時に、逃げられない内面の場所でもある。安全ではない世界から帰ってきたとしても、自分自身の中にも不安は残る。その感覚が、曲の静かな響きに込められている。

「In This Room」は、アルバム全体の結論として非常に効果的である。安全ではない場所を通過した後、Rideは巨大な答えを提示しない。ただ、音の余韻の中で、聴き手をひとつの空間に残す。その控えめな終わり方が、本作の成熟を示している。

総評

『This Is Not a Safe Place』は、Rideの再結成後の活動が単なる懐古ではないことを明確に示したアルバムである。1990年代初頭のシューゲイザーを代表するバンドとして、Rideには常に『Nowhere』や『Going Blank Again』のイメージがつきまとう。しかし本作は、その過去を完全に否定するのでも、単純に再演するのでもなく、現在の音楽環境の中でRideらしさをどう機能させるかを探った作品である。

本作の大きな特徴は、音楽的な幅広さである。「Future Love」や「Clouds of Saint Marie」では、Rideらしいメロディアスで浮遊感のあるギター・ポップが展開される。一方で、「Repetition」や「Kill Switch」では、ポストパンクやクラウトロック的な反復性、硬質なリズムが前面に出る。「Dial Up」では通信や接続を想起させる現代的な音響があり、「In This Room」では内省的な余韻がある。つまり本作は、シューゲイザーの美学を軸にしながらも、単一の音像に閉じていない。

歌詞やテーマの面では、不安定な現代を生きる感覚がアルバム全体に通っている。タイトルの「This Is Not a Safe Place」は、単に危険な場所を指しているだけではない。過去へのノスタルジーも安全ではなく、現在の社会も安全ではなく、自分自身の内面も安全ではない。Rideはこの作品で、安全な回顧に留まらず、不確かな場所に身を置きながら音を鳴らしている。

また、本作には反復と時間のテーマが多く見られる。「Repetition」「Eternal Recurrence」「Fifteen Minutes」「End Game」といったタイトルからも分かるように、同じことが繰り返される感覚、時間が消費される感覚、終わりが近づいている感覚が重要である。これは、再結成バンドとしてのRide自身の時間感覚とも重なる。若い頃に作った音楽が長い年月を経て再評価され、バンドが再び同じ名前で活動することは、一種の反復である。しかし、その反復は単なる再現ではなく、異なる時代における再解釈である。本作はその再解釈に成功している。

音楽的に見ても、Andy BellとMark Gardenerの声とギターの関係は依然としてRideの核である。二人のヴォーカルは、強い個性を押し出すというより、ギターの層の中に溶け込み、バンド全体の音響の一部として機能する。この点はシューゲイザー的でありながら、Rideの場合はメロディの明快さも常に保たれている。轟音の中に歌が埋もれるのではなく、歌と轟音が共存している点が、彼らの大きな魅力である。

『This Is Not a Safe Place』は、初期Rideのような歴史的衝撃を持つアルバムではない。シューゲイザー史を塗り替えるような作品というより、シューゲイザーを生み出した当事者たちが、その美学を現代においてどう鳴らすかを示した成熟作である。過去の名盤と比較して聴くよりも、2010年代末のオルタナティヴ・ロックとして聴くことで、本作の意義はより明確になる。

日本のリスナーにとっては、Rideの入門としては『Nowhere』や『Going Blank Again』が先に挙げられることが多いだろう。しかし、『This Is Not a Safe Place』は、再結成後のRideを理解する上で非常に重要である。シューゲイザーの甘美なノイズを求めるリスナーには「Clouds of Saint Marie」や「In This Room」が響き、ギター・ポップのメロディを求めるリスナーには「Future Love」が届き、より硬質な現代的ロックを求めるリスナーには「Repetition」や「Kill Switch」が有効である。

総合的に見ると、『This Is Not a Safe Place』は、Rideが過去の安全地帯から抜け出し、現在の不安定な世界に向き合ったアルバムである。シューゲイザーの美学、ポストパンクの反復性、ドリーム・ポップの浮遊感、オルタナティヴ・ロックの推進力が、成熟したバンド・サウンドとして結びついている。再結成バンドにありがちな懐古性を避け、過去を抱えながらも現在を鳴らす。その姿勢こそが、本作の最大の価値である。

おすすめアルバム

1. Ride『Nowhere』

1990年発表のデビュー・アルバムで、シューゲイザー史における最重要作のひとつである。轟音ギター、淡いメロディ、青春の焦燥、浮遊感が一体となり、Rideの原点を示している。『This Is Not a Safe Place』の音響的なルーツを理解する上で欠かせない作品である。

2. Ride『Going Blank Again』

1992年発表の2作目。初期の轟音性を保ちながら、より明快なソングライティングと疾走感を打ち出したアルバムである。「Leave Them All Behind」などに代表されるスケールの大きなギター・ロックは、『This Is Not a Safe Place』のメロディアスな側面ともつながっている。

3. Ride『Weather Diaries』

2017年発表の再結成後初のアルバム。長い空白を経たRideが、現代的なプロダクションとバンド本来のギター・サウンドを結びつけた作品である。『This Is Not a Safe Place』は、この復帰作を踏まえた上で、さらに自由度を増したアルバムとして聴くことができる。

4. Slowdive『Slowdive』

2017年発表の再結成後のアルバム。Rideと同じくシューゲイザーを代表するバンドが、長い沈黙を経て現代に復帰した作品である。よりドリーム・ポップ/アンビエント寄りの美しさを持ち、再結成バンドが過去の美学をどう成熟させるかという点で、『This Is Not a Safe Place』と比較しやすい。

5. My Bloody Valentine『mbv』

2013年発表のアルバム。シューゲイザーの中心的存在であるMy Bloody Valentineが、長い時間を経て発表した作品であり、ノイズ、メロディ、リズムの感覚が現代にも通用することを示した。Rideとは異なるより抽象的な音響美学を持つが、シューゲイザーの現在性を考える上で関連性が高い。

PR
アルバムレビュー
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました